38 主人公は勝つから主人公なのだ
アヤカが覚醒してから戦局は一転。
一方的なワンサイドゲームと化していた。
「破アアアア!!」
アヤカが全て破壊する、という意思で上げた掛け声の元、全身全霊で拳を振る度に、鉄大樹の森に凄まじい落雷の音が轟く。敵を殴る拳からは無数の雷鳴が散って美しい光を魅せるが、稲妻で焼かれる青銅竜からすればたまったものではない。
聞く者の耳を破壊する音楽を奏でてアヤカは青銅竜を滅多打ちにしていた。
「ガァァァァァッッッッ!!!」
青銅竜の視点では、反撃の暇など一瞬足りともなかった。
反撃しようかな、と思っても雷霆モードとなったアヤカがそれを許さないのだ。
明らかにキレを増した身体能力と動きで青銅竜の抵抗を見事に防いでいる。
青銅竜の反撃は小回りの効かない竜の身の回りをちょこちょこ動き回って避ける。
そしてがむしゃらに鉛の肉体に拳のシャワーを浴びせる。
どうせ全身金属で通常の生物でいう内臓にあたる器官も、急所だって存在しないのだ。
どこを殴ったって同じことだ、という結論に達したのでとにかく当てることを重視して叩き続けた。
まさに脳筋だ。
「オラオラオラ!! わたしのターン! あんたのターンと見せかけてわたしのターン!! これもわたしのターン!! ずーーっとわたしのターン!!」
『僕の番もちょうだいよぉぉぉ!!!』
青銅竜は追い詰められることに慣れていないのか、大分情けない声を上げる。
もしこれが格ゲーだったらリアルファイト待ったなしのはめ技決められてる状態なのだが、これはリアルファイトだから無問題だ。
しかし、ここまで一方的だと無抵抗のサンドバッグと化した古竜を心優しいエルフの美少女は哀れに思い、少し手加減をする………はずがない。
「まだまだまだまだまだぁ!!」
むしろ、嬉々として楽しそうに、満面の笑顔で殴っている。
なぜなら人生の教訓を暴力!暴力!暴力!と掲げるアヤカにとって、人(強いやつ)を殴り倒すのが至上の生き甲斐なのだから!
商人志望の幼馴染が聞いたら頭痛で三日は寝込みそうな生きざまだ。………実際寝込んだし。
哀れな青銅竜を襲うラッシュの勢いはもう誰にも止められない。
速すぎるスピードで拳は残像を残し、無数に拳に増えている。その一発、一発から雷が放電されており、青銅竜を一度の攻撃で二度攻撃する二段構え。
ドンッッッッ!!!と数十発分のパンチと放電の音が重なっているように聞こえるが、れっきとしたラッシュだ。
背後から蔦や鉄大樹の根で反撃を受けたが、雷霆モードの自動迎撃機能で焼け尽くされて無駄なあがきに終わった。
「終、わ、り、だぁぁぁぁぁぁ!!!」
最後の一発を顎にクリーンヒットさせる。
強制的に噛み締められた口からは、咬筋力に耐えられなかった牙が何本か折れた。
『僕の歯がーーー!!!!』
「牙でしょ!!!」
「大げさな奴じゃ。 古竜の牙は一度抜けてもまた生えてくるのにのう」
「因みに、どれくらいかかるの?」
「まあ、ざっと百年くらいじゃな」
「以外とかかるのね」
アヤカはサメの牙は三日間に一本は抜けるという前世のどうでもいい豆知識を思い出した。
それに比べれば、たった一本の牙を生やすのに百年とかかる古竜の牙の生え代わりは、なんと緩やかなことなんだろうか。
「古竜の牙は造りが頑丈ではあるが、ケイ素型生物である我々はお主らのような通常の生物よりも細胞のサイクルがとてつもなく長いのだ。 だから失った部分が再生するまでの時間も長いのだ」
「解説お疲れ」
『もう怒ったぞ! 許さないからね!!』
牙を折られ、心も折れかけているが、世界で五体しか存在しない原初の生命体としての誇りで立ち上がるが………。
「あ? もう勝負はついたじゃない。 わたしの勝ち、あんたの負け。 それでまだ殺る気なの? それなら今度はあんたの大切な、スッゴク大切な歯ぁ全部へし折るつもりだけど、それでも殺る?」
「アヤカ殿がまた自分のことを棚上げされたぞ」
「黙れ」
「はい」
アヤカは構わず青銅竜に殺気を放つ。
『ヒィッ!』
その躊躇いのない永久凍土よりも冷たい瞳に、青銅竜は怯えてすくむ。
この時を持ってアヤカと青銅竜の生態系番付の格付けは決まったのだった。
「わたしの勝ちで良いわよね? ね? ね?!」
『僕の負けですぅ……』
食物連鎖の頂点を前に、青銅竜の心は屈したのだった。
『強かった………。 怖かった………』
「よしよし、分かるぞその気持ち。 私なんて手も足も出ずにコテンパンにされたかのう」
泣き出しそうなほど弱りきった青銅竜をミステリアが慰める。同じアヤカ・ローレライ被害者の会の仲間同士でシンパシーを感じたのだろう。
『でもやっぱり凄いよね、エルフなのにここまで強いんだもん』
「そうだな。 とんでもない奴じゃよ、アヤカ殿は」
そして本能で強者を好むドラゴンらしく、アヤカの武勇を褒め称える。
一方アヤカは………。
「はあ~疲れた~~!!」
雷霆モードが解けて(恐らく時間切れ)、ハイになっていた体と心に一気にツケが回ってきてその場に座りこむ。
一歩も動けないとてつもない疲労感と、塞がったはずの傷の疼きに勝利の美酒の味を感じて気持ちよかった。
アヤカのこの状態を、まるでシャブ決めた後のようだったと古竜たちに語った。
「(薬決めたことがあるのか………)」
「(この子クズじゃん………)」
ミステリアと青銅竜の中でアヤカの評価がちょっとだけ下がった瞬間だった。
「なにはともあれ、またしてもアヤカ殿の勝利だったな」
「ま~ね~? わたしにかかればこんなもんよ~」
あまりの疲れにいつものハッキリとした口調はなりを潜め、やけに間延びした口調になった。
気を抜くと今にも戦いで荒れた地面をベッドにして寝てしまいそうだ。
『ねえ、僕、アヤカちゃん………アヤカちゃんって呼んでもいいかな?
「いいわよ~?」
遂に地面に横になってゴロゴロしだした。ミステリアが「はしたないぞ」と止めるが聞く耳を持たず。
馬に念仏聞かせる方がまだ有意義だ。
『それと、もう一つ、アヤカちゃんたちに一つだけお願いがあるんだけど………いいかな?』
「な~に~? 内容次第ね~?」
自棄に真剣の声色だったが、アヤカはマイペースに気の抜けた返事をする。
だらだらする。これは勝った者の正当な特権だからだ。
『僕を………アヤカちゃんの』
『お婿さんにしてくださいっっっ!!!!』
「はいっっ?!!???!」
青銅竜くんは尽くすタイプだけど将来お嫁さんにうだつが上がらず、尻に敷かれるタイプの女の子に優しい感じのショタくんとしてイメージしております。




