37 アヤ覚醒
サブタイは誤字にあらず。
地力では相手に一歩譲ることになると、たった今の攻撃で分かった。
戦いは当然のことだが戦闘力の高い方が有利だが、それだけで勝敗が決まるものでもない。現に穂坂彩佳は何度も身体能力で勝る相手を倒してきた。
問題なのは、その差をどう埋めるかだ。
前世のアヤカの百五十年分の戦闘経験から培われた技術、立ち回り、戦術を駆使すればそれは容易なことだ。
「(さーて、どう攻めればいいかな?)」
アヤカは脳内で何十通りものシミュレーションを開始した。
森の地形を駆使した|ヒット&アウェイ《一撃離脱》を考えたが、敵は森の支配者。大樹の森内の全てを知覚し、操る魔法がある。やったところで自分の首を絞めるだけだ。
「(これはないな)」
次、正面からの肉弾戦と見せかけた背後からの奇襲。
相手は鞭のようにしなる鉛の尻尾があるし、たった今、相手は全て知覚できると言ったばかりだ。
「(これもないな)」
正面から殴る。
普通に通じない。
「(絶対ない!)」
高速移動で分身し、実体のある残像で撹乱する。
「(これだ!)」
作戦が決まれば早速実行に移すのがアヤカという女だ。
体重移動を駆使して初速から最高速度を引き出して踏み込む。
背中まで伸びる金髪をたなびかせて閃光が如く速さで地面を蹴って青銅竜の目と鼻の先まで移動し、回転蹴りの要領で放たれた尻尾をくるっとロールして回避。
それを見越して後ろ足での蹴りを尻尾を踏み台にして避ける。
空高く飛んだアヤカに向けて、青銅竜の炎のブレスと魔法で操られた鉄大樹の森の蔦が殺到する。
「今っっっ!!!」
独特のかけ声で雷鳴活性を使い、肉体を強化。
はね上がった脚力で強引に空気を足場にして、脅威の空中移動を行う。
残像が残るほどの速さで動き回るアヤカには古竜の攻撃など掠りもしない。
「なにそれ?!すごい!!」
青銅竜が驚嘆に赤い目を見開く。
「これは」
「雷鳴拳奥義」
「雷光速」
「雷鳴の速さで」
「動けるのよ!」
「あまりの速さに」
「残像が実体を持つほどにね」
残像のアヤカが口を開き、一人一句ずつ説明する。
同じ顔をしたエルフが無数に並んでいる異様な光景に、ミステリアは少し引いた。
「すごいすごい! もっとやってよ!」
「なら、もっとわたしに本気を出させなさい!!」
サーカスを見る子供のように青銅竜は大喜びし、アヤカは青銅竜の力に期待する。
「うん! 僕もっと本気出す!」
そう言った瞬間、青銅竜の体がぶれる。
「な、速っっ!!」
雷速で動けるアヤカの動体視力ですら追うのがやっとのほどの速度で突進してきた青銅竜に体が追いつかず、アヤカはその体当たりをもろに受けてしまう。
アヤカの視界が反転し、肉が鉛に叩きつけられる音が鼓膜を叩く。
青銅竜に轢かれたことに気づいたのは、地面に叩きつけられた後だった。
「!?!? ぐぼぉっ!!」
内蔵が傷ついて盛大に血を吐き出す。
「アヤカ殿!! 中止じゃ! 試合は終わりじゃ!!」
瀕死の重症となったアヤカを気遣い、ミステリアは即座に止めに入る。
この分だと折れた骨が内臓に突き刺さっているかもしれん、と怪我の状態を分析する。
闘気と雷気の鎧で守られていなければ、確実に即死していた。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!! やりすぎたああああ!!!」
あまりの惨状に当人でさえ悲鳴を上げる。
「待っていろアヤカ殿。 すぐにレイナの元に戻って治療を受けねばならん」
ミステリアがアヤカを抱えようとするが、アヤカがその手を振り払って折れた足で立ち上がる。
「待ち、なさいよ!! まだ終わってない! わたしはまだ負けてない!」
「なにを言うか!? すぐ治療しなければ死ぬんだぞ!!」
「わたしを甘く見るな!! 〝雷鳴召喚〟」
拳を突き上げたアヤカの頭上の空に、大量の雨雲が現れる。
アヤカの雷気と闘気で空模様は曇天から雨天へ、雨天から嵐へと次々に変わる。
「なにをする気だ?」
なんの意味があるのかと問いかけるミステリア。
「まあ、見てなさい」
息も絶え絶えな様子で、アヤカは獰猛に犬歯を剥き出しにして笑う。
髪についた血と泥が雨に洗い流されていき、アヤカ本来の金色の美しさを取り戻す。
あまりに鬼気迫る様相に青銅竜も黙って見守る。
「雷鳴吸収!!」
両手を水平に開いて、嵐から技の文字通り雷を吸収する。
遠くにいれば、一ヶ所に複数の雷が落ち続けている異様な光景が見れただろう。
その雷のシャワーを浴びていると、アヤカの体に異変が生じる。
折れた骨は元通り癒着し、ぱっくり割れた額の傷は跡も残らずふさがり、潰れた内臓は再生して元の機能を取り戻す。
そればかりか一度瀕死となったことで、肉体が生存本能から細胞そのものを再生の過程で強化される。
強化はアヤカの容姿にも影響を与えた。
過充電された雷のエネルギーが全身からスパークして発光し、髪の毛が薄い青に変化する。
その名も………。
「アヤカ・雷霆モードってところかしら?」
「なにそれー! かっこいいよそれ!!」
「死にかけたことで体が限界を超えた、ということか? 道理で勝てんわけだ」
「ありがとうね、青銅竜さん。 あなたのおかげでわたしは強くなれたわ」
「いえいえ、僕だって楽しんでるからね!」
「お礼にわたしのこの力、とくと味合わせて上げる。
………さあ、ラウンド2始めましょうか!!」




