36 アヤカの苦戦?
「アッハハハハハ!! これで終わらせてやるっっっ!!」
「これが試合だと忘れておらんか?!」
ミステリアのツッコミも無視してヒーローを追い詰める悪役さながらに高笑いしつつも、アヤカは闘気のコントロールに集中し、黄金の闘気を鉄よりも硬い拳にチャージする。
石の壁も、巨大な岩も、分厚い鉄の盾をも砕く、この世界で最強の鈍器といえるその拳は、神憑り的な身体能力を誇るアヤカが扱えば、どんな文明の利器すら超える強力な武器となる。
その拳に精神エネルギーと肉体エネルギーを混ぜ合わせた〝気〟を戦闘という、ただ一つの目的のために練り上げた〝闘気〟をこめれば、それは小型隕石をも上回る威力を生み出す。
その驚異的な人智を超えた力に挑むは、人智を超えた力の化身、古竜・青銅竜。
彼の心にあるのは、目の前のエルフの少女に対する畏怖、恐怖、戦士としての尊敬だった。
『(エルフっていうか、人ってここまで強くなれるんだね……。 正直なめてた)』
青銅、つまり肉体が鉛で出来ている青銅竜は、それまで人型種族に対し、恐怖を抱いた事がなかった。
竜種として異端と言えるほど慈悲深い青銅竜は、一応は同じ世界に生きる生命として人やモンスターの命と心を尊重していた。
しかしそれは、人間がペットの犬猫、もしくは動物園の動物を大切にするような感覚であり、決して対等な存在だとは思っていなかった。
半ば鉱物と一体化したケイ素型生命体である古竜の肉体には死や寿命という概念がないのが拍車をかけた。
この世界に置いて、古竜以外の全ての命はこの世にいられる時間は限りがある。それはアヤカたちのような老いることがないエルフでも例外じゃない。
エルフには死がある。一度殺されればそれで終わりだ。
だが古竜は違う。肉体が滅んでも魂は消えない。
この世に自分の体を構成する金属がある限りは、何度でも甦れる。そして、蘇生すれば以前よりも大幅に力を上げられる。
それが古竜がこの世の不動の頂点捕食者の地位に立ち続けられる理由だ。
だからこそ、青銅竜はアヤカには最大限の敬意を払おうと決めた。
その人格はあまり尊敬できるものではないが、非力なエルフ、それも辺境の田舎の小さな村の生まれで独力でここまで練り上げた力は素直に尊敬できるものだった。
戦い方を教えてくれる人はいなかっただろう。
鍛え方を教えてくれる人もいなかったはずだ。
拳の握り方一つ探るだけでもかなりの苦労をしただろうに。
それでもアヤカはここまで強くなった。
前世の記憶継承による経験値の上乗せがあったとしても、それは素晴らしき偉業だ。
と、ここまでのことを本人に語っても、アヤカはこう言うだろう。
それがどうした? と。
アヤカは他人の称賛など欲していない。
金も、地位も、愛も、このエルフには必要ない。
この女にとって、大切なのは酒と戦いと冒険だけだ。
敵なら倒す。邪魔しても倒す。裏切り者も倒す。何となく目についたら倒す。
ある意味切った張ったでは無敵のメンタリティーだ。
〝奥義・雷鳴活性〟で全身に纏う稲妻は、アヤカを淡く輝せる。その姿はアヤカの美しさと可愛さもあり、まるで天使のように神々しかった。
「この技は雷鳴拳で最強の威力を持つ奥義、雷鳴竜撃拳よ。 まともに食らえば怪獣だって死んじゃうくらいにね♪」
穂坂の方のアヤカは雷鳴拳を習得したばかりの頃、この奥義で百メートルもの巨大怪獣を一拳の元に殴り殺した経歴がある。
それが、雷鳴拳の不敗神話の始まりでもあった。
『そうだね。 終わらせよう』
青銅竜は数千年かけて蓄えてきた森の魔力が体内で暴れ狂うのを力付くでねじ伏せて全力のブレスを撃つ。
これまでいざという時のために使うことを避けてきた特大の破壊魔法だったが、この相手に出し惜しみは不要だ。
「だから、これが試合であることを忘れておらんか!?」
ミステリアの魂の叫びはまたしても無視された。
二人だけの世界に入ってしまった彼らの耳には、如何なる言葉も届かないのだ。
これが、いつの間にか本気の殺しあいになっていることも。
結局のところ、バトルジャンキーがバトルで手加減など出来るわけがなかったのだ。
「破ぁぁぁぁぁぁ!!!」
『■■■■■■■■ッッッッ!!!』
アヤカの気合いと青銅竜の咆哮が重なる。
一人と一体が同時に放ったその技は、無造作に放てば周囲十数キロ一帯の土地が地盤ごとめくれていた一撃同士のぶつかり合い。
しかし、達人である二人は自らの攻撃のエネルギーの流れを完璧にコントロールし、目の前の相手にのみぶつけた。
いつものような派手な爆発は………起こらなかった。
一切のパワーを無駄にしなかった二人の緻密なコントロールにより、攻撃に使われた闘気、魔力のエネルギーは正しく相手に伝わり、互いの肉体を貫通した。
「グッハァァァァァ!!!」
『ギャァァァァァァア!!』
磁石が反発するような勢いで反対方向に吹っ飛ばされる一人と一体。
「ガッッ!? ゴッ!! 痛っっ!!??」
女の子が出しちゃいけない声を出して受け身を取りつつ地面をバウンドし、鉄大樹の太い幹に背中から叩きつけられる。
一般に超人扱いされている熟練の冒険者でも背骨が砕け、内臓が潰れる勢いで。
対して青銅竜は………。
『ふう、痛かった~~』
鉛の巨体の体重と怪力で踏んばり、ブレスを発射した場所から僅かに後退しただけだった。
「強いわね、あなた」
『そりゃあ僕だって鍛えてきたんだもん! 簡単には負けないよ!』
泥と汗で汚れて肩で息をするアヤカと、まだまだ無傷で余裕を残している青銅竜。
今回の古竜は、黒金竜のようにそう簡単にはいかないようだった。




