24 意外な強敵
「大分進んだけど、なにもないわね」
真っ暗な遺跡の中、アヤカは進む。
目がいいアヤカは暗闇でも昼間のようによく見える。
一片の光も届かない遺跡の中でもその能力は健在だった。
外から見たときはそこまで大きそうでもなかったが、大きな気配を辿ってかれこれ一時間は歩いている。
これだけ広い遺跡ならモンスターの巣くらいはあるかと思っていたが、未だに奥にいる奴を除けばその気配すら感じない。
完全に、なにもいない。
「参ったね。 退屈だわ」
奥にいるラスボスらしき奴には確かに近づいている。
そいつとの血噴き肉踊る戦いを期待してアヤカは進む。
別に、遊び感覚で挑んでいるのではない。
命を懸けるスリルを楽しみたいだけだ。
それこそがアヤカ・ローレライにとって、生きる糧となるのだ。
この遺跡にモンスターがいないのは、ここのボスが全て駆逐したからかも知れない。
そう考えることでモチベーションを保っていた。
「着いた。 この奥ね」
また石造りの扉が道を塞いでいたがまた破壊して進む。
「さてさて、なにが出るかな?」
鬼か蛇か。 強いならどちらでも構わなかった。
扉の奥にはより一層深い闇が広がっていた。
アヤカの視力を持ってしても見透せないほどの暗闇。
警戒のボルテージ最大まで引き上げて慎重に歩を進める
部屋には鳥肌が立つほど強い殺気に包まれた。
「今すぐに立ち去れ」
地の底から這い出るような低い声。
「誰?」
アヤカの返した声が闇に溶けて消える。
声の主がゆっくりと闇から出てくる。
巨大な二足歩行の山羊の姿だ。
「あんた、悪魔なの?」
山羊の怪物といえば悪魔が真っ先に連想できる。
アヤカは思ったことをそのまま口に出した。
「そうだ、俺の名はベルフェゴール。 かつてこの島の人間を食いつくして眠りについていたが、久しぶりにたっぷり油が乗った旨いものが食えそうだ」
昔、この島に住んでいたらしい誰かが魔界か、地獄か、悪魔については詳しくないアヤカにはよく分からないが、誰かが魔法でこいつをどこかから召喚したのだろうか。
だが、召喚者を含めて皆食われたのだろう。
アヤカの鍛えられた肉体は食欲をそそるのか、ベルフェゴールを名乗る悪魔は目を血走らせて涎を垂らしている。
「食えるもんなら食ってみなさいよ!」
売り言葉に買い言葉。
アヤカはベルフェゴールに向けて宣戦布告の言葉を叫ぶ。
「お前の肉体をゆっくり、少しずつ、生きたまま食らう。 足の先から食ってやるぞ」
先制をとったのはベルフェゴール。
魔法による攻撃で闇から生まれた巨大な針がアヤカの細い体を串刺しにしようと殺到する。
暗い場所で黒いものは保護色となって見えづらい。
アヤカの目にも殆ど針は見えていない。
「寝起きに油っこいものはお腹に悪いわよ?」
しかし、静の空気に走る動の流れを肌で感じて針の動きを見破り、アクロバティックな動きで紙一重に回避する。
「雷鳴光!!」
右手を敵に向けて真っ直ぐに構え、左手を手首に添える構え。
雷鳴拳の奥義の一つ、〝雷鳴光〟は強烈な雷気に変換した気の光と音で敵の目と耳を潰す技だ。
有り体に言って、アヤカ版のフラッシュバンだ。
長い間、光も刺さない遺跡の最深部で眠っていたベルフェゴールの目は、寝起きなのもあって光に慣れていなかった。
アヤカは知らないけど、悪魔は光に弱い特性がある。
雷鳴光の威力は絶大だった。
光はベルフェゴールの目を焼き、黒い毛皮の一部を焦がした。
「グアアアア!! 俺の目をやったな!!」
「しばらくはなにも見えないわよ!」
「目で見えなくても匂いで分かるぞ。 旨そうな匂いがしているからな」
自分の位置がバレていようと、アヤカには関係ない。
「はんっ! わたしには追いつけないわよ!」
雷鳴活性で雷気の鎧を纏い、全身を細胞レベルで強化。
雷気の光が闇を照らし、雷の速さと鋭さでベルフェゴールの懐に潜り込んで、人間なら鳩尾がある場所に右ストレート一発。
分厚い腹筋に覆われた肉厚な硬いお腹に肘まで拳が埋まる。
「グボァ!!」
胃液と涎を吐き出して四メートルを超えるベルフェゴールの巨体は強制的に疾風となって吹っ飛ぶ。
冷たい石の壁に体が半分沈む勢いでぶつかってようやく止まる。
内臓まで響くほどの衝撃と、血の巡りが止まるような感覚を覚えるほどのダメージを受ける。
「つ、強い………!!」
今まで散々食ってきた人間やエルフやドワーフとは比べ物にならない強さ。
かつてない戦闘力を目の当たりにし、ベルフェゴールは悪魔としての血が騒いでいた。
「ふははははは!! 面白い! 面白いぞ小娘! お前ならば俺の真の力と姿を見せてやっても良いぞ!」
「なにそれ?! めっちゃ面白そう!!」
真の力と姿と聞いて、アヤカの目が幼い子供のように輝く。
高名な悪魔の本当の力と姿という言葉に、どうしようもない期待と興奮と緊張を覚える。
「変身でもするの? それともすごく強い鎧でも着るの? 待っててあげるから速くして!」
ワクワクしたアヤカはこのまま戦えば圧勝できる勝ち確の勝負を捨てて、より強い状態になったベルフェゴールとの決戦を望んだ。
つまらない圧勝よりも、血と汗と泥にまみれた苦戦がアヤカの好みだった。
汚れた殴り合いにこそ、戦士の美しさがあるとアヤカは思っているからだ。
もしかしたら、古竜以上の力かも。
「見るがいい、俺の真の姿を、本当の力を!!」
ベルフェゴールの変異が始まった。




