23 無人島上陸
飛んで移動すること数日経過。
アヤカとミステリアは海へ出ていた。
見渡す限り、水平線の果てまで海、海、海。
最初は今生で初めて見る海に興奮していたアヤカだが、それは初めだけだ。
二人は食事も休みも必要ないので、何日も地上や海上に降りることなく飛んでいるが、ここまで代わり映えしない景色だと飽きてしまう。
おまけにミステリアの背中にいるので暇を潰す道具だってなにもない。
瞑想だってもう飽きている。
「は~暇ね~! ミステリア! なんかやることない?」
「そう喚くな。 私だってお主がいるから自由に飛べないんじゃぞ!」
ミステリアは、普段はアクロバティックな飛び方に挑戦していた。
空中三回転や錐もみ飛行、急な旋回、急降下からの急上昇。
風を操って加速して音より速く飛んだこともある。
長生きしてる割には、かなり茶目っ気たっぷりなドラゴンだ。
『私はお主に気を使っているんだぞ!』
知っての通り、アヤカはエルフだ。
いくらアヤカがエルフ離れした超人的な肉体の持ち主といっても、金属生命体の古竜の本気はアヤカには耐えがたい負荷がかかる可能性を考えてミステリアは飛行速度を抑えていた。
「ならもっと速く飛んでよ。 海を見るのも飽きちゃったから」
『言ったなお主!? 言ったな?! 後悔するなよ!!』
本人からの言質は得た。
ならば、と魔法で風を操って加速する。
無防備に剥き出しになってるアヤカは、グンッ!と強いGと風を感じたが、それだけだった。
振り落とされないよう、〝気〟の力で手の平と足を吸着してミステリアに捕まる。
衝撃波と強風がアヤカの体を打つ。
雲がみるみるうちに通りすぎていく。
「アハハハハ!! 速い速い!」
「まだまだ加速するぞ! 捕まっていろ!」
宣言通り、グングン加速する。
音速どころか雷速にすら達するほどの勢いだ。
「きゃー!」
アヤカはそれをアトラクションとして楽しむ。
『むっ。 島があるぞ。 立ち寄ってみるか?』
飛ぶこと数時間、人間の気配を感じられない孤島を見つけた。
島全体が断崖絶壁に囲まれていて、船などでは出入りできないだろう大きな島だ。
島の中央に行くほど高い山があり、山脈全体が深い森に被われていて地上の様子は全く見えない。
だが、その島から発せられる強い力の気配はアヤカにも感じ取れた。
間違いなく、この島には強い力を持った〝なにか〟がいる。
それがモンスターか、それとも他のなにかかは分からないが、それを見逃す戦闘狂アヤカではない。
「この島はなかなか面白そうね。 それに独自の生態系とかもありそう」
『確かにな。 強そうな魔力をビンビン感じるぞ』
この世界の生態系ピラミッドの頂点、ドラゴン種の頂点に君臨する古竜の一体、ブラックドラゴンをして『強い』と言わせるほどの気配を持つ〝なにか〟がここにいる。
「決まりね。 この島で寄り道していこう」
どれ程の強さなのか、アヤカは遭遇するのが今から楽しみだった。
◇
「なにも無いわね」
『だが気配はそこらかしこに感じる。 油断するな』
山の中腹に降下した二人。
弱いモンスター避けにミステリアは一応ドラゴンの姿をとったままだ。
こうしておけば力の無いモンスターが向かってくることは避けられる。
「じゃあ、逃げない奴を探すわよ。 ここから東の方角にいるわ」
『西と北にもなにか感じるぞ』
「そいつらは気配が弱いから後回しよ」
アヤカは現在地から真東に数キリの距離に、最も強い気配を感じていた。
それも、ミステリアを上回る程の大きさだ。
「倒しがいありそうね~」
胸の前でぶつけた拳には雷気が充電されている。
鍛えた力を試したくて仕方ないと言った様子でウズウズしている。
我慢できずに重りを外し、そしてその場でジャンプ一回。
一度に何キリも移動できる超人の跳躍力で敵目掛けて跳ぶ。
そして受け身をとってスマートに着地。
「さあ! かかってこい!」
拳を構えるアヤカの前には、大きな石造りの扉とその両脇にある石像があった。
お腹が突き出ていて、フンドシ一丁。
上半身裸で丸太のように太い腕、頭からは二本の角が生えている。
前世の東洋に伝わる鬼のような姿だ。
「あれ? なんもない?」
気配は扉の奥から確かに感じるが、驚くほどなんにも起きない。
ならばやることは一つだ。
「この扉をぶち破ってやる!」
拳を引いて正拳突きの構えをとる。
「はあ!!」
次の瞬間、音速以上に加速した拳が扉を吹っ飛ばすだろうと思われたが、アヤカの拳は思いがけない相手によって受け止められた。
「この石像………動くの!?」
鬼の石像が拳を手の平で包んで止めた。
凄まじい反応速度だった。
生物の気配が感じられないから油断していたが、魔法で動いているらしい鬼の石像は虚空から召喚した棍棒を振り回してアヤカに襲いかかる。
相手がアヤカでなければマッハでミンチにされているほどの速さだが………。
「そんな動きじゃ百年かかったってわたしには追いつけないわよ!!」
ただ機械的に動くだけの石像では、洗練された動きには追いつけない。
風のように素早く、木葉のようにひらりと紙一重に攻撃を避ける。
「壊れちゃえ!」
〝気〟を纏って強化した足で回し蹴り一閃。
その一撃で石像二体をまとめて粉砕する。
今まで、再生するタイプのモンスターとも戦ったことがある。
石像の破片が飛び散るが、倒した気がしないのでそれを逃がすアヤカではなかった。
「まだまだぁ!!」
追撃に秒速百発以上の蹴りの連打。
破片を粉々に粉砕し、砂粒へと変える。
最後は〝気〟と魔力を練り上げた光線をお見舞いして消し飛ばす!
「完全しょーり!」
拳を掲げて勝利宣言。
あいにく酒は持ち合わせてないので美酒は味わえなかったが、勝利の味が色褪せるわけじゃない。
「じゃ、いくか」
今度こそ扉を殴り砕いたアヤカはかつて無い強敵を求めて歩を進めた。




