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伝説の女武術家が美少女エルフに転生したらこうなる  作者: コインチョコ
プロローグ
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プロローグ




エルフと人間が住む国であるハイマンズ王国、その片田舎にあるナモナキ村という村があった。


ナモナキ村にはなにもなかった。


英雄がいない。

偉人がいない。

特産品がない。

名物もない。


あれもない、これもない、ないない尽くしの有り様の村だった。


変わり者の商人一家がこの村と首都ハイマンの物流を細々と繋ぐことでこの村はその辺の普通の田舎村よりも栄えていたが、それは些細なことだ。


この村に暮らしていた一人の女の子が産声を上げた時、英雄の物語が始まるのだから!


その英雄となる女の子の名前はアヤカ・ローレライ。

現在七才の金髪美幼女エルフだ。


まだ幼いまんまるふっくらとした年相応の童顔と、宝石のように澄んだ青い目がかわいい女の子だ。

この村はエルフも人間と同様に数が多かったので、エルフなど大して珍しくもなかったが、かわいいものの宿命と言うべきか。

当然のことながらアヤカはモテた。


村の同年代の幼児の男の子のみならず、旅の芸人や商人の息子たちからのアプローチを受けたことも数知れずの弱冠七才(と六ヶ月)にして歴戦の男たらし。


そのアヤカの趣味は、親友のジル・スタローン(愛称ジル)と共に原っぱや野山や花畑を走り回ることだ。


「今日こそ私が勝つ!」

「ジル、悪いけど今日も勝つのは私だからね!」


よーいドン!


ジルの弟ヴェスターが合図を出す。


今日この日も、普段のようにアヤカはジルと森で風となっていると、大きめな石に躓いてなかなか派手に転んでしまった。


「うわぁ!!」


と、悲鳴を上げて転ぶアヤカ。

その拍子に強く頭を打ち、気を失った。


「ちょっ、ちょっとアヤカ! 大丈夫!?」


慌てて戻ってきたジルがアヤカを介抱し、村へと戻る。


ジルがアヤカの体を村へと運んで、アヤカは数日間の間眠り続けた。


そして、アヤカはその夢の中で前世の自分が歩んだ軌跡と向き合うこととなった。


かつて、自分が地球という星の日本という国で生まれたこと。

そこで自分は穂坂彩佳ほさかあやかという人間だったことを。

その日本は〝拳法〟という拳を武器にした武術が盛んだったこと。

自分は数々の拳法を修めて、生涯を修行に捧げていたこと。

そのなかでも最強の拳法と言われた〝雷鳴拳〟の開祖だったこと。

そして、伝説の女拳法家として壮絶な人生を生き、数々の伝説を残して寿命を迎えてこの世を去ったことを。

最期に、雷鳴拳が完成していなかったことを心残りにしていたことを。


もう一人のアヤカの人生を見守り終えた数日後、アヤカは孤児院のベッドの上で目を覚ました。


お腹がやけに重い。それに暑くて寝苦しい。


隣を見ると、ベッドの脇でジルがアホみたいにうつ伏して眠っていた。


眠っている間、ずっと傍に居ていてくれたらしい。


「……ありがと」


気難しいきらいがあるアヤカは、小さめな声でお礼を言い、ジルの頭を撫でる。

その手の温もりで目を覚ましたジルが、アヤカが起きているのを見て力強く抱きついてくる。


「アヤカ、アヤカ アヤカ アヤカァ!!」

「ジル、痛い、熱い」


ひとしきりアヤカを抱いて落ち着きを取り戻したジルは、アヤカの体調が回復したのを確認した後、慌ただしく部屋を飛び出していく。


「院長先生呼んでくる! あと私のパパとママとヴェスタも!」


小さな嵐が過ぎ去っていくと、ようやく一息つけるとベッドに寝転ぶアヤカ。


「もう一人の私がやってた〝拳法〟っていうの? 私興味湧いたなぁ」


天井を見つめ、自分じゃない自分が人生を捧げてまで追究していた〝拳法〟にアヤカは興味が尽きない。

特に、自分が作ったあの〝雷鳴拳〟とかいうやつ。

なんでも〝気〟という生体エネルギーを増幅して、性質を変化させて属性を持たせ、〝雷気〟というエネルギー?魔力?に変換する技術は素晴らしい。

他にも色々な流派の拳法があったが、雷鳴拳は特別かっこよかった。


一撃でアヤカが見たことも聞いたこともないほど大きな建物(高層ビル)を破壊する。

嵐から稲妻を吸収して自分の〝気〟に変える。

雨雲に力を与え、雷雨に変えて操る。

肉体を活性化させて雷鳴の如く速く、力強く動ける。

その速さと強さは無類のものだった。

光と音を操り、敵の視界と聴力を奪うこともできた。

雷鳴拳の習得者は卓越した〝気〟のコントロール故にどんな病気にもならず、毒も細菌もウイルスも効かず、怪我をしても〝充電〟で治った。


睡眠と食事は必要最低限どころか、自然の〝気〟を取り込めれば必要すらない。

アヤカは、まるで古竜種のようだと思った。

その力は人どころか、生物ですらないと感じた。


これだけの力を修行のみで得られるのであれば、雷鳴拳という拳法が伝説となるのも納得だった。


「でも完成してないらしいじゃない。 究極奥義? っていうのが」


そう、雷鳴拳は未完成だった。


開祖であるもう一人のアヤカにも習得できずに、机上の空論で終わった最後の技が完成されていなかったのだった。


もう一人のアヤカの記憶を辿り、アヤカはその奥義の名前にたどり着く。


「ふむふむ、えーと〝雷鳴転身〟ね」


どんな技なのかは素人のアヤカにはさっぱり分からないが、字面通りに受けとるなら、〝雷鳴〟に〝身〟を〝転〟じる技といったところか。


そこまで考えて、アヤカは一旦思考を打ち切った。

次に考えたことは、『これから自分がなにをするか』だった。

今までの自分ならば、これまで通り、この村で平和に過ごして大人になったらいい人と出会って結婚して子供を生んで普通の幸せを掴むとか、そんな人生を生きたいと願っていた。


だが、今の自分はなにを願っている?


アヤカは知ってしまった。

拳法に身を捧げたもう一人の自分を。

その生きざま、戦い、冒険、刺激を。

もう、今までの生き方じゃ満足できなくなっていた。


今のアヤカはこの村でエルフの長い人生を終えるなど、考えられなかった。


だって、世界はこんなにも刺激的で楽しいだなんてずっと知らなかったのだから!


「私は、私だ。 私はもう一人の私じゃない」


アヤカは口ずさむ。もう一人の自分と、今の自分に向けて。


この世界を旅したい。冒険がしたい。

いろんなものを見て、聞いて、知って、味わって、感じたい。

だって、こんなにも世界は刺激的なのだから。

ここは、前世の自分が憧れた世界だったのだから。


でもそのためには、この世界には危険が大きすぎた。

冒険には力が必要だ。


「だからあなたの拳法、私が完成させてあげる。 私のためにね」


アヤカ・ローレライ、七才。


雷鳴拳の継承者として、英雄としての産声を上げた。







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