卒業
3月に珍しく、雪が降っていた。
薄っすらと、校庭に積もっていた。
梅の花は、すでに散っていた。
雄輝は、制服のボタンを外した。
今日で、もう着ることはなかった。
もっとも、もう着たくもなかった。
ただ、自宅の近くにあった高校だから、進学したにすぎなかった。
どんな、3年間を過ごしてきたんだろう。
いまとなっては、あまり思いだしたくもない。
ときどき、ライプして、曲を作っていた。
そんな、思い出と一緒に、裕子との思いもあふれてきた。
年上の女性を好きになってはいけないのか?
中学生は、恋をしてはいけないのか。
大人たちの思惑と、超えてはいけない一線を越えたことで、裕子は雄輝から離れっていった。
あの時の雄輝に、それを理解しろといっても無理だったろう。
校門を出ると、下級生が待ち構えていた。
手紙をいくつか受け取ったが、読むことはないと思う。
雄輝は、自宅に戻ると、ギターケースを持って外に出た。
今日は、いくつかのバンドと一緒に卒業ライブの予定だった。
会場につくと、佐々木はすでに来ていた。
ヘルプで、ドラムとベースとキイボードの子が来ていた。
YAMAHADX7のシンセの設定している女の子が顔を上げた。
静香だった。
静香は手を上げた。
雄輝は、
「ごめんな、忙しいときに」
といった。
「ううん、私もここを離れるし、たぶん帰ってくることはないと思うから丁度いいわ」
と静香は明るくいって、ドラムのシンバルの位置を調整している男性を向いた。
その男性は、憲幸だった。
憲幸は照れたように下を向いて、スティックを握ってタムタムの叩いた。
佐々木が、
「いくか、そろそろ」
といった。
前座のビートの聞いた、ベースラインが鳴り響ていた。
雄輝は、ギターをケースから出して、軽く調弦した。
今日は、ミディアムの弦を張っていた。
ピックもミディアムだ。
シルバーの弦が光っていた。
舞台のライトが消されて、雄輝たちは楽器のセッティングを素早くした。
会場には、案の定学生たちであふれていた。
何人かは、見知ったやつだ。
設定を終わると、ドラムのステックがカウントを刻んだ。
佐々木のディストーションの聞いた演奏が始まった。
追いかけるように、ストリングス系のシンセがメロディーラインを刻んだ。
雄輝はギターネックでコードを握りなおすと、8ビートのストロークをピックではじいた。
観客から声が上がった。
オープニングには、ふさわして軽快な曲だ。
つかみは上々だった。
続いて、ミディアムテンポのカバー曲で会場は盛り上がっていた。
最近のヒット曲だ。
たぶん、今の雄輝たちしか歌えない曲だ。
曲が終わって、いよいよラストになった。
佐々木が、
「今日は、みんな来てくれてありがとう、最後にオリジナルの曲で終わりたいと思います」
といって、雄輝の肩を叩いた。
雄輝は、ギターカボをはめた。
軽くCのコードをストロークをした。
電子ビアノの柔らかい音がコード進行をしている。
ギターのデレイの効いたメロディーラインが流れていく。
雄輝は、マイクに向かって語り掛けるように声を出した。
一人の人が幸せにできるのが、一人だけだとしたら
僕は、迷わずに君を選ぶ
変わらない気持ちはないと知ってはいるけれども
それでも、信じていたい
誰もが、楽な生き方を選らんで進むのだとしたら
あえて、逆に生きよう
何かをするために生きているのだとしたら、それを探すことが大切だと
僕は信じて生きていきたい。
諦めていくことで、大人になるのだとしたら
したり顔で、語る大人にはなりたくない
たとえ負けても、そこから逃げない人でありたい
間違いを犯したとしても、言い訳はしたくない
誰かのせいにしたくはない
間違ったとしても、きっと答えにたどり着く
そう信じて進むことはただしい
止まらずに進んでいく後に、道ができる
その道は誰かの道ではない
一緒に歩いてくれる人が君だとしたら、僕はどんな困難にでも
笑って立ち向かうことができる
だって、そこに生きる意味があると信じれるから
二人なら乗り越えられる未来がある
過去は変えられないけど、未来は変えられる
僕は誓う、いまこの時の自分の気持ちに正直に生きていたい
そして、純粋に君にそばにいてほしいと願う
雄輝は、初めてEからの曲を書いた。
それは、自分の思いだけでなく、みんなの思いだった。
そして、ただ一人の人のためだけに歌っていた。




