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LOVE SONG (何気ない恋の歌)  作者: 池端竜之介
5/8

憧憬

ソファーの上で、裕子が寝息を立てている。

田口は、毛布を持ってきてかけた。

疲れたのか、ぐっすりと寝ている。


鈍い感覚が心をえぐった。

ただ、田口には、一生忘れられない(ひと)であることは変わりなかった。

誰でもが、憧れる年上の女性だったのかもしれない。


もう裕子とは1年以上あってはいなかった。



田口は、あんなことがあった後でも、受け入れてしまう自分が情けなかったが、あの夜を共有したことで裕子を突き放すことができなかった。


しかし、今は裕子の家はこの街にはない。

裕子の両親は離婚して、両親ともにこの街を離れた。

離婚の理由は、裕子から聞いていたが、大人の都合なんてどうでもよかった。


突然、電話のベルがなった。


 「もしもし」


と田口が答えると、受話器から車の走る音が聞こえた、公衆電話かなと思った。


 「静香か?」

と田口は問いかけた。


「・・・・」

声にならない吐息が聞こえた


「いま、何処?」

と田口は静香と確信して尋ねた。


「海浜公園」


と受話器から声が漏れた。


「そっちに今からいくから、どの辺にいるの」


「・・・、入口の傍」


「わかった」


と田口は言って、受話器を下ろした。


コートを着て、手袋をはめるとソアーに寝ている裕子を見た。

まだ、寝ていた。起きる気配はなかった。


家を出ると、海浜公園までは急いでも20分は徒歩でかかる。

さらに、雪も積もっていて歩きにくかった。


30分以上かかって、海浜公園の入り口に着いた。

入口の電話BOXに人影が見えた。

近づくと静香だった。


「来てくれたの」

と静香は電話BOXを出て声をかけてきた。

田口は無言でうなづいた。


「馬鹿な女だと思ってるでしょ」

静香は吐き捨てるように言った。


田口は答えなかった。


「軽蔑してもいいよ、どうせ私なんかいなくても」


「もう、よせ」

と田口は言葉を遮った。


「とにかく、家に帰れ、送っていく」

田口は言うと傘を静香に差し掛けた。

静香はうなだれたまま傘の中に入った。


田口は静香を促すと歩き始めた。

静香は黙って、田口の横を歩いていた。


静香と田口は、周りから付き合っているのかとうわさされていたが、実際は田口は裕子の件を引きずっていたし、静香は家庭の問題を抱えていた。

よく、二人はバンドの練習の後で帰りながら話していた。

二人とも恋愛の感情はなかった。

実は、静香には好きな人がいた。

それは、世間的には許されない人を好きになってしまっていた。

静香の父親と今の母親は再婚どうしで、それぞれ連れ子同士だった。

静香は、父親で、母親方には、静香の3つ上の兄がいた。

静香の実の母親は、できちゃっ婚らしく父親との仲は最悪で、小さい頃は育児放棄まがいのことをされていたらしく、それが原因で離婚。

今度の母親は、家庭的な人で、連れ子も優して人だった。

本当の兄妹のように過ごしていた。

兄の憲幸は、本当にかわいがっていた。

それには、理由があった。

兄の憲幸には、別れた父親のほうに引き取られた妹がいたが、最悪な父親で妹の世話をせずに、女と遊び歩いているようなやつで、妹はインフルエンザを拗らせて、それがもとで亡くなったらしかった。

兄の憲幸は、異常に静香をかわいがっていた。

いつしか、静香は、兄の憲幸に心を寄せていた。

法律上は許されるかもしれないが、世間的には許されることではない。

兄の憲幸も、静香をいつの間に妹ではなく、女性として認識していた。

だからと言って、兄の憲幸は、下世話なやつではなく、きちんとした青年だった。

田口もあったことはあるが、とても感じいい兄の印象だった。

積極的だったのは、静香の方で、自分の抑えきれない感情を兄の憲幸にぶつけてしまった。


あの日、田口は憲幸と静香がホテルから出で来るのを見てしまっていた。


静香の両親も知ることとなり、兄の憲幸は家を出ることになり、静香は学校に来なくなった。


静香の家の近くまで来ると、静香はそれ以上歩かなくなった。


 「帰らないと、余計にややこしくなるぞ」


と田口は、言った


 「もう十分にややこしくなってる。たぶん、私も転校させられると思う」


 「冗談ゆうな、3年の3学期だぞ、もうすぐ仮卒だぞ」


 「だからよ、単位の認定は終わってるし、推薦で大学も決まっているから、もうここに居る必要もないこと」


 田口はため息を着いた。


 「おまえさ、どうしたいの。」


 「わかんない」


 と足元の雪を静香は小さく蹴った。


 「憲幸さんは、どういってるの」


 と田口は、尋ねた

 

 「連絡がとれないの、手紙の返事もない。わたしどうしたらいいかわかんない。どうして、人を好きになってはいけないの、ただその人が兄だからなの、自分のことを一番思ってくれる人を好きになってはいけないの」


 静香は一気に言葉を吐き出した。


 しばらくの沈黙がっあって


 「いいんじゃない、生物学的には全くの他人だし、そんなことは多々あるよ。」


 と田口はこともなげに言った。


 「他人が言うと無責任だけれども、おれはいいと思う、俺が裕子のことで悩んでいた時に、静香はさ、同じように "わたし、良いと思う"ていってくれたからさ。俺もなんとなく乗り越えられた」


 田口は、そらに言葉を綴った。


 「今の静香の気持ち少しわかると思う。初めて好きになったひとて゜生涯忘れられない人だとしたら、俺たちは、たぶん損得勘定なしで動くと思う。たとえ、その思いが一生続かないとしても。そんな未来のことなんて、くそくらえだ。なんで、今を生きちゃいけないんだ。誰が、決めたんだよ。先だけを見て生きろなんて、俺たちは完全じゃない、間違いもある。でも、人を好きになるのが間違いなのか、違うよな、これだけは、正しいと言える。だから、今度は静香の背中を俺が押すよ」


 そういって、静香に手を差し出した。

 静香も恐る恐る手をだした。

 田口は、がっちりと静香の手を握ると歩き出した。


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