過ち
夏の暑い日だった。
田口は走っていた。
長距離の選手ではないが、10km走ると体が軽くなる、そう脳内麻薬のエンドルフィンを味合うために走っていた。
特に、体を鍛えたいと思っていたわけではなく、イライラする日常からなんとなく走っていた。
毎日、毎日 それも夜中に走っていた。
時々、警察に呼び止められたがトレーニングと称した。いまでは、警察も手を振ってくれている。
最初の1kmは苦痛だが、それを過ぎるとわき腹がいたくなり、それを過ぎると体が軽くなる。
10kmを走り終えると、公園の芝生に倒れこむと、何とも言えない幸福感につつまれた。
日々の中での一番幸せだった。
平凡な中学生活は送っていたが、さしたる目標があるわけではなかった。
ただ、家を出たいと思っていた。
親に不満があるわけではなく、誰にも干渉されない空間と時間が欲しかった。
バンドは、その中でなんとなくやっていた。
勉強よりは夢中になれた。
子供だったと言えば、それだけのことだった。
あの日までは
あの日は、花火大会があり、町は人であふれていた。
田口も友達数人と街に出で、出店や花火を見ていた。
何気ない日常の日々だ。
時折、クラスの女子や学校の先輩と会ことがあったが、それはそれでみんなが安生良くやっていた。
ませたやつは、彼氏彼女となって楽しんでいた。
なんともなごやな風景だ。
目的の花火も終わり、めいめいが帰りだした。
田口も自転車に乗って帰りだした。
目の前空き地に一台の車が止まっていて、その傍に3人の人影があった。
どうやらもめているように見えた。
急に後部席のドアにを開けて、3人のうち一人が押し込まれるのが見えた。
なんとなく気になって、車の傍によると男が浴衣姿の女の子を押し倒していた。
田口は、ガタガタと膝がなってのどが渇いたが、何が行われようとしているのか分かったので、
「何してんだ」
と叫んだ。
車の外にいた男が、吸いかけのたばこを投げ捨てた。
「ガキには関係ないんだ、さっさと行け」
とすごんで近づいてきた。
田口は覚悟を決めた。
右足を半歩さげると軽く右の拳を握った。
男がほんの数歩手前まで、近づいたときに、右足を前に出し相手の左こめかみに横から腕をスイングさせて殴った、そしてすかさず相手の懐に入り左掌で右の顎を突き上げた。
相手は後ろ上方に飛んで倒れた。
田口は倒れた男を起こして背後に回ると両肩の服の襟をつかんで締め上げた男は田口の髪をつかもうとしたが、校則で丸刈りつめつかめずに足をばたばたして抵抗したが暫くすると気絶した。
すると、後部席から男が飛び出してきて、何か叫びながら田口に突進してきた。
田口は、横に飛びのいた。
男は、横で気絶している男を見て、怖くなったのかポケットからバタフライナイフを出した。
田口は、ガクガクと膝が震えていたし、呼吸も荒かったが、不思議と恐怖はなく、漠然といまの感覚が走った後の感覚と似ているとと感じていた。
さっきの男は油断してくれていたので、うまくイメージどおりに攻撃できたが今度はそうはいかなかった。また、相手が刃物を持った場合は、徒手空拳の場合相手が数段有利となる。
機動隊あがりの師匠にやかましく言われていた。
男がナイフを振り回しながら近づいてきた。
田口は横に回りながら間合いを取っていた。
男がまっすぐに突っ込んできて、ナイフを横に振った。
右腕に鋭い痛みが走り、血がしたたり落ちてきた。
それを見て、男は調子に乗ったのか、また直線で突っ込んできてナイフを横に振った。
田口はナイフの手元を左手で受けて、男の懐に入ると思いっきり相手の顔に頭突きをかました。
鼻血が噴出して鼻を抑えてて後ろに下がったところに、田口は足刀を男のみぞおちに蹴りこんだ。
男が後ろに吹っ飛んだ。
倒れて頭を打ったらしく、そのまま気絶したらしかった。
田口は後部座席のドアを開くと、浴衣を着た女性が震えていた。
「大丈夫ですか」
と田口が声をかけると固まったままでいたので、手を引いて車からだした。
それから田口は運転席にまわり車のキイを引き抜くと、空き地の草むらの方に放り投げて、女性の手を引いて、自転車まで戻ると
「後ろに乗ってください」
と促した。
女性は促されように後ろの荷台に腰を下ろした。
田口は女性を乗せると自転車のペダルを漕いだ。
暫く自転車を走らせると、ハンドの練習をしている農業倉庫についた。
もう完全に息が上がっていた。
倉庫の鍵を開けると、電気をつけた。
女性が悲鳴を上げた。
「ケガしてるじゃない」
田口は自分の右手の上腕部にスッと横に切り傷かできているのを確認した。
さほど傷は深くはないが、出血はひどかった。
まだ、出血して指先から血がしたたり落ちていた。
田口は、練習場所の棚からオキシドールの瓶を取り出して腕に振りかけた。
傷口に泡が立って、酷くしみた。
棚からタオルを出して傷口を縛った。
「病院に行ったほうがいいよ」
と女性が心配そうに言った。
「あんたのそのカッコウじゃ何があったかすくにわかるぞ」
と田口はいった。
改めて女性はじぶんの姿を見た。
ブラジャーの片方のバンドはちぎれていたし、下着も履いていなかった。
女性はハッとして、襟元をしめた。
「助けてくれて・・・・ありがとう。傷は大丈夫なの」
「ああ、大丈夫 表面だけみたいだし、血も止まったみたい」
「ごめんね、ケガさせて」
「いいよ、実戦経験にもなったし」
と田口は強がりをいったが、本当は失禁するくらいに震えていた。
不意に田口は正面から、抱きしめられた。
「怖かったよね、ありがとう、ありがとう、助けてくれて」
と女性が何度もいった。
田口はほっとしたのか、そのまま抱きしめられていた。
ほんのりと甘い体臭がした。
やわらかい胸に耳を押し付けられ鼓動が聞こえた。
田口は、女性も震えているのを感じた。
そのまま暫く、抱きしめられていると二人とも震えがとまった。
その女性こそが裕子だった。
田口には、永遠に忘れられない女性だった。




