プロローグ&1話
プロローグ
「…マヤさんは、どこの国の出身ですか?」
少し間を置いて、彼女は答える。
「私は宇宙人です。」
これが僕、冴木醒と宇宙人を名乗る少女、マヤ・ベネットとの話の始まりだった。
3日前
雨、バイト先まで約500メートル。スマホの画面には夜9時50分の表示、後10分で僕のシフトだ。普通に歩けば間に合うが、今僕は道端で立ち止まっている。
拾ってください
段ボールにはそう書かれている。中をのぞくと、青い目をした子猫が、シャワーの後みたいにびしょ濡れになっている。段ボールも触れば崩れそうなくらいのずぶ濡れだ。
僕の家がペット禁止じゃなければ…。バイトの前じゃなければ…。色々な考えが頭をよぎる。
手に握る傘の柄には、僕が目印代わりに付けている小さなチャームが揺れていた。
僕は持っていたビニール傘を段ボールにかぶせて、バイト先まで走り出した。
1話
大手チェーンのコンビニ。ここが僕のバイト先だ。カバンについた雨粒を払って自動ドアをくぐると、レジの中には中年の男性、うちの店長がいた。
「いらっしゃいま…って冴木くん、傘差してこなかったのか…?」
なんて答えよう…。猫に譲ったって言っても変だよな。
「途中で風で壊れて、邪魔なので置いてきました。」
「そりゃ災難だったな、ほれこれ使え。」
備品の紙タオルを渡してくれる。その手の爪はタバコのせいで黄ばんでいる。
「のんびり拭く前にタイムカード打刻しておけよ、帰りはバックヤードに溜まってる忘れ物の傘一本貸すから使ってけ。」
「ありがとうございます。」
僕は打刻と着替えを済ませてレジに入る。
「前の便で入荷した商品は一応全部出しといたから。」
「前の便の商品って結構多かったですよね?休憩取れてますか?」
「全然取れてないから、これ終わったら一服させてもらうよ。」
そう言って店長は持っている発注用タブレット端末をツンツンとつつく。
ここ最近僕と同じシフトだった前田くんが辞めてから店長は、夕方や夜に出勤することが多くなった。深夜ワンオペになる僕の仕事の負担を減らすために。
僕はレジにいながらできるタバコ補充でもしようと棚に手を掛けると、同じ棚においてある電話がなった。夜10時に掛かってくるのは珍しい。
「あ〜俺が出るからいいよ。」
スッと伸びた手に受話器を渡して、店長が1オクターブ高い声で電話に出る。
僕はタバコのカートンのビニールを剥がしながら聞き耳を立てる。どのくらいシフトに入れるか聞いてる。アルバイトの応募の電話だろうなと想像できた。
「はい、それでは明日の午前10時にお待ちしております。当日はレジで面接に来たと伝えてください。はい。失礼いたします。」
電話が終わって早々、店長は嬉しそうに声をかけてきた。
「やったぞ、深夜帯希望の応募者だ!お前の次の相方になるかもな。」
「明日面接とは急ですね、今日は早く帰れそうですか?」
僕は言った後、既に時計は10時を回ってることに気がついた。多分昼から働いていた店長にとってもう遅い時間だ。
「いや、お前の休憩が終わるまでは残るよ。俺の都合よりも労働基準法のほうが上だ。」
僕は8時間勤務だから、休憩中は店を見る人が必要になる。そうなると店長の退勤は、日付が変わったあたりだろうか。
「…よし。送信完了!んじゃ一服行かせてもらうな!」
発注が終わったらしい。店長は楽しそうにバックヤードに傘とタバコを取りに行った。




