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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第二章 惑いと決意

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8.優しい人


 次の日。

 昨日吹いていた風が嘘のようにぴたりとやみ、これから冬を迎えるとは思えないほど陽気な気候となった。


 なるべくいつも通りを心がけ、薬草や薬の管理を行い、料理を開始する。

 一通り下準備ができたところで、魔道具のベルが来訪を知らせた。


 扉の隣にある窓から来訪者を確認すると、すでに笑顔を浮かべているウィルフレッドが立っていた。

 変わらぬ穏やかな様子に、ちくっと胸が痛む。

 自分だけがこんなに沈んでいるのだと思うと虚しくなった。


「ダメよ。顔に出したら」


 そう自分に言い聞かせ、私は扉を開けた。

 取っ手に手をかけながら視線を上げると、愛おしげに見つめる水色の視線とかち合う。


 ――そう、この瞳がいけないの。


 どこまでも澄んだ空の色の瞳は清々しいのに、甘く優しく包み込もうとするかのような色味を乗せている。

 その目に見つめられると、身も心も委ねたくなってしまう。


「ウィル、早かったね」

「少しでも早くシャノンに会いたくて。今日は予定がないと聞いていたから待ちきれなかった。忙しかった?」

「ううん。ちょうど手が空いたところ。どうぞ。入って」


 好意を示され、先ほどちくっとしたところが、さらにちくちくと針で胸が刺されているかのように痛む。

 これまでは、その言葉に浮かれていた。


「これを」


 紙袋にはたくさんの食材が入っており、その一番上にはリンゴがあった。

 私が昨日美味しそうだと思い買った、そして落としてしまった同じ果物に目を見張る。


 目に付いた物が同じ。食べさせたい、一緒に分かち合いたいと思ったことも同じ。

 だけど、その意味がこれまでと違って見えて素直に喜べない。


 昨日からずっと少しずつ張り詰めていったところに、ぼちゃぼちゃとかき乱すように異物が音を立てて落ちてきて、不快さに眉を寄せた。

 私は礼を言い、食事の準備中だと理由をつけてキッチンに逃げ込んだ。




 十数分後、現実逃避もそう長くは続かず、ウィルフレッドとソファに向かい合わせで座っていた。

 身じろぎするたびに、ぎしりと重さで軋む音がやけに耳につく。


 やけに神経が研ぎ澄まされている。

 とん、とウィルフレッドがソファの横を叩いた。


「シャノン、横に来て」

「うん」


 私は呼ばれるまま、ウィルフレッドの横に座った。

 一度改まると自分から甘えにいくタイミングがわからず、いつも呼ばれたら動いていた。そんな不器用な私を面倒がることなく、ウィルフレッドはいつも優しく目を細めくすくすと笑う。


「まだ、慣れない?」

「そういうわけじゃないけど」


 今日もまた笑われ、私は小さく唇を尖らせた。

 いつもの穏やかな空気に、昨日のことを忘れそうになる。それくらい普通だった。


「笑ってごめん。シャノンの可愛い顔を見せて」

「……」


 そっと顔を上げると、首の後ろを引き寄せられる。


「シャノン」


 小さな声とともに顔が近づき、優しく抱擁される。

 ぎこちなくもいつも通りにと身を寄せると、くしゃりと長い指が私の髪に入り込んでいき、ウィルフレッドにじっと顔を見つめられた。


 いつもならここで挨拶のように口づけされる。

 だけど、じっと私を見つめたウィルフレッドは何を思ったのか、唇ではなくそっと私の額にキスを落とした。


「んっ」


 いつもと違う場所。

 これでいいはずなのにどこか寂しくもあり、じっとウィルフレッドを見つめると、こちらを探るような、私の機嫌をうかがうような眼差しで見返される。

 じぃっと穴があきそうなほど見つめられ、この時間はなんなんだと私が笑みを浮かべると、ウィルフレッドはほっと息をついた。


「……これをシャノンと一緒に食べようと思って。さっき渡しそびれたから」


 それからウィルフレッドは持ってきたもう一つの袋を、私の膝の上に置いた。


「これって」


 袋を開けると、カラフルな色の砂糖菓子が入っていた。

 ふわりと甘い香りに、可愛い色味のお菓子の存在に思わず頬が緩むと、ウィルフレッドが一つをつまんで私の口の中に入れた。


「んっ。美味しい」


 歯が当たると、さくっと割れ口の中で溶けていく。


「よかった。シャノンは絶対に好きだと思ったんだ」

「それでわざわざ?」

「わざわざってほどでもないよ。たまたま通りかかったから」

「ありがとう」


 私は再度袋の中を覗き、礼を述べた。

 ウィルフレッドが買ってきたこの砂糖菓子が売っているお店は、通りかかることはあっても人気店なので手に入れるためにはかなり並ばなければならない。

 日に作れる数も限られているため、並んでも買えるとは限らない物だ。


 苦労を隠して、当たり前のように差し出される優しさを前にすると、昨日のことは夢だったのではないだろうかと現実逃避をしそうになる。

 だけど、テーブルの上に置いてある昨日落としたリンゴが現実を知らしめる。


 ――ダメよ。優しさも、私を篭絡し情報を引き出すためなのだから。


 自分で言い聞かせ胸が苦しくなったが、このまま騙されたままでいるのだけは絶対嫌だ。

 彼が好き、好きになったってしまったからこそ、最初から騙していたのだとしたら許せない。

 それ相応の対応をするためには真実を見極める必要があると、袋をテーブルに置き再びウィルフレッドと向き合った。



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