エピローグ もう一度始めよう
両親が眠る墓の前。両親への挨拶を済ませ横を見ると、ウィルフレッドは切なげに目を細めていた。
だが、私の視線に気づくとすかさず私の腰に手を回し笑みを浮かべる。
「報告は終わった?」
「うん。ありがとう。待たせてごめんね」
ウィルフレッドの願いとは、一緒に墓参りに行くこと。
付き合っていた頃の最後の約束。それを果たすことによって、それらが繋がりウィルフレッドの中で整理されるとのことだった。
捨てられたではなく、捨てられそうになっただけとなり気持ちは落ち着くと説明を受けた。
正直その辺の違いは私にはわからないし、とやかく言う権利もないのでウィルフレッドが納得してくれるのならそれでいい。
「俺が来たいと言ったし、俺も参らせてもらいたかったから」
ここ最近いろいろあったので、それらの報告を心の中でしていたら長くなってしまった。
それでも何も言わずに見守ってくれていたウィルフレッドは、そこで片膝をつけて私を見上げた。
「シャノン。もう一度最初から始めたい」
「もう一度やり直すということ?」
「任務もなく、俺のむき出しの気持ちを伝えたい。告白の最初からしてもいいかな?」
嘘偽りのない、背後関係もない、ウィルフレッドの気持ち。
これまでのことは説明され私は納得しているが、最初から仕切り直したいと告げられる。
多分、私の両親が眠っている墓の前というのも理由の一つなのだろう。
それだけウィルフレッドは、私の両親のことも考えてくれている。四年前のこともあり、私の大事なものを大事に思ってくれていることも嬉しかった。
「うん」
改まれると照れくさいけれど、その気持ちは嬉しい。
いろいろすれ違ったり間違ったりしたけれど、忘れたくても忘れられなくて、憎めなくて、好意を捨てきれなかった。
「シャノンのことがずっと好きだった。過ごせば過ごすほど好きになって、シャノンしか目に入らなくなった。俺と付き合ってください」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
ウィルフレッドの気持ちを考えず、付き合っていた事実を一方的に切り捨てるといったひどいことをした。それでも許してくれて、こんなにもまっすぐに私を見てくれる人を今度こそ大事にしたい。
差し出された手を掴むと、ウィルフレッドは立ち上がった。
「四年前、シャノンの両親の活躍や献身的な姿に感銘を受けたのもあって、シャノンと付き合うようになってからずっと挨拶したかった。そのご両親の前でシャノンを大事にすると、安心して預けてもいいと思えるような男になると誓う」
「――ありがとう。私もウィルとの関係を大切にしていきたい」
両親がしてきたこと、私の気持ちを含めて見てきてくれたこと、知っていてくれたこと、こんなに大事に思っていてくれていること、そのすべてが奇跡のように思えた。
「やっと捕まえた」
「……ごめんなさい。いろいろわからなかったり怖かったりしてウィルを傷つけたよね」
「でも、それがあったから今俺のことを前より見てくれるようになった。悪いことだけではなかった」
これまでは大事なものとそれ以外と明確に分けていた。乱されることのない穏やかな生活が居心地よかった。
魔女の末裔が少し特殊であること、父親の出自や魔法が割と使えることはプラスもあるけれど、私にとって前面に押し出したい部分ではない。
下手に目立つと争いに利用される可能性もあり、守ってくれる両親もいなくて、なるべくひっそりと過ごしたかった。
だけど、そうしていても今回のように巻き込まれる時は巻き込まれてしまう。
ならば、もう少し一歩踏み出しても、楽しむほうに動いてもいいかもしれないと思うようになった。
「そうだね。前よりもっと近く感じる。愛おしいという気持ちがわかるようになったよ」
「そっか。愛おしい、か」
未熟なところも受け入れられ、ここまで思われてじわりと涙が滲む。
そう思わせてくれたのは、少し特殊な職業ではあるけれどいたって面白味のない生活をしている私を驚くほど愛してくれているウィルフレッドのおかげだ。
奇しくも、今回のことでウィルフレッドのぶれない想いと重さを知った。
この人は私を裏切らない。見捨てない。
そう思わせてくれる人がいるだけで、視界が広くなり強くなれるような気がした。
この人とならと思える。この気持ちが大事なのだ。
じっと見つめると、ウィルフレッドは水色の瞳が愛おしげに細め、私の赤の髪を優しくすくった。よく私の髪を触るなと思ったところで、ふと疑問が浮かび上がる。
「そういえば、どうやって私の様子がおかしいと気づいたの?」
「ん~。いろいろあるけど、シャノンは落ち込んでいるときや隠したいことがあるときに癖が出る」
「癖? えっ、私どんなことしてるの?」
これまで指摘されて気づいたことはあったけれど、そういったことを言われたことはない。
「それは言わないよ」
「どうして?」
「前も言ったでしょ。シャノンはそのままでいい。シャノンさえ知らないことを知っているのは恋人である俺の特権だからね」
自分のことだ。正直何をしてバレたのかは気になる。
「でも、お客さん相手の仕事だし、そういった癖は治したほうがいいと思うけど」
「大丈夫。シャノンをよく見ている俺だからわかっただけで、少し話したくらいの相手は気づかないから問題ないし、俺だけが知っていたらそれでいい」
「ちょっとしたことでも、全部バレてしまうということ?」
「全部ではないよ。わかっていても今回みたいに薬の中身まではわからなからなかったように、話さないことにはすべて知れることはできない。でも、俺は何があってもシャノンのことを諦めるつもりはなかったし。実際、ちゃんと俺は思い出した」
そうだった。おかしいとわかっていても、薬を飲んでしまうのがウィルフレッドだ。
「もう勝手なことはしない」
先人が簡単に手を出そうとしなかったのには、やはり意味があるのだなと身を持って学んだ。
人と人の付き合い。それを大事にしたいのなら、簡単に薬に頼っては駄目だ。
「そうして。これでシャノンも俺の気持ちがわかったから、もう俺から逃げようなんて思わないよね?」
信じていたのはあったとしてもおかしいとわかっていて薬を飲んだのは、もしかして責任を感じて縛り付けるため?
いや、まさかね、と焼けるような熱い視線を前に小さく首を振る。
「ウィル、ちょっとたまに圧がすごいよ」
「その辺りは俺が一番びっくりしている。でも、これも俺だから」
うるっとした涙の膜が一気に乾くと同時に笑顔で開き直られたらつられて笑ってしまうのは、それでも信頼しているから。好きだから。
「これからは一時も目を離さないから」
近づいてくる顔に目を閉じ、キスを受け入れる。
ちょくちょく重い言葉が出てくるが、慄くほどの執着が垣間見えてもそれでも根底の優しさは変わらない。
秘密と嘘と真実と、任務と恋心。あらゆることが少しずつずれていって遠回りしてしまったけれど、私たちはようやく嘘偽りない恋人になった。
誤解して忘れ薬を飲ませたら、執着心が増した恋人に捕まえられた話。おしまい。
最後までお付き合いありがとうございます!
父親のほうの問題も書きたかったのですが別問題で長くなるので、忘れ薬と嘘としてはここで終わりです。
読んでくださっている方がいる、それが本当に励みになります。リアクションや感想も感謝です!
書きたい物語はたくさんあり常に模索中です。
次作はもう少し書き貯めてから更新する予定ですので、お好みにあえばまたお付き合いいただけたら幸いです。
本当にありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ




