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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
第四章 偽りの元恋人

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23.新たな距離感


 視線を逸らすことを許されない空気に小さく息を呑む。


「――えっと、そうですか」


 先ほどの感覚が拭えないままなんとか応じると、そこでウィルフレッドはようやく視線を緩めた。

 なんだか落ち着かない。

 どこか不安定なウィルフレッドにまた振り回されそうな予感がして、意味もなくテーブルの上に視線を向けた。


 優しすぎて完璧な偽りの恋人も厄介だったが、これはまた違った面倒くささを感じる。

 私はとにかくペースを乱されるのが嫌だ。


 面倒くさくなってもうどうでもいいやと途中から考えるのをやめてしまいそうで、それはウィルフレッドに対しては危険な行為だ。

 本能的にここは深入りしては駄目だと感じ、どうにか距離を取る方法はないかと思考を巡らせた。


 コップが空になっているのが視界に入る。

 これ幸いと片付けと称して時間を稼ごうと手を伸ばすと、その手をぱしっと取られた。


「……えっ?」

「まだ話の途中だよ。それに立っていないでシャノンも座ったら?」


 軽く顎で前方を指示したウィルフレッドは、「ね」と再度促してくる。

 その視線は逃げるなと告げており、ここで断ったらさらに追及の手を緩めない空気を感じて私は言われるがまま腰を下ろした。


「どうしたの? 何も取って食べようなんて思っていないからそんなに緊張しなくても」

「その、ウィルフレッドさんの様子がいつもと違う気がして」


 おずおずと告げると、ウィルフレッドは驚いたと目を丸くした。

 ぽりっと頬をかき、「そうか」と呟きはははっと爽やかに笑う。

 それは見惚れるほどの完璧な笑顔であるが、その笑顔を前にするとどうしようもなく不安になった。


「ああ~、滲み出ちゃってるかな? これでも抑えているつもりなんだけど」

「抑えている……」

「そう。そういうのはわかって肝心なところはわからないの、本当嫌になっちゃうなぁ」


 目元を和らげながらも私から視線が外されない。

 お前に対して言っているのだぞと主張され、それに対してどう答えたらいいのか。


「その……」

「あのさ、さっきの続きだけど、俺はショックだったの」

「――はい」


 ここで何がと問いかけるのはよくないのはさすがにわかる。

 かといって、わかっていないのに謝るのも違うだろうしと、ひとまず話を聞く態勢をと頷いた。


「心配で心配で眠れなかったと言っているのに、それは理解されないまま理由はなんですかって言われて落ち込んだ」

「……」

「正直、へこんだし拗ねた」

「拗ねた……」


 やっぱりあれは拗ねてたんだとわかったところで、もともと嘘をついて付き合っていたのはウィルフレッドだ。

 そういうことがなければ、お客さんとしてだったら、もしかしたら報告していたかもしれないが、長期の旅に出ようと思ったのも、彼とのことがあったからですべての元凶に詰め寄られても困る。


 だが、そういった記憶を私が消してしまった。

 現在のウィルフレッドは任務のこともあるだろうが、多分心配してくれていたのも本当だろう。そう思うから、謝罪を口にした。


「すみません」


 任務のために好きだと嘘をつかれ付き合っていたけれど、傷つけたくないとの言葉もずっと脳裏に残っている。

 偽られていた時点で傷つけているし、十分に傷ついた。


 でも、私に対してひどいことをしたいわけじゃないのだとのその言葉は、日々の態度も込みで結局憎めないまま終わらせることになった理由の一つだ。

 騙して酷いと思うのに、どうしても憎みきれないのはもらった優しさがすべて嘘だと思えないからだろう。


「勝手に心配したのは俺だし、シャノンに謝ってほしいわけじゃない。ただ、心配される義理はないと言われているようで悲しかったんだ」

「…………心配していただきありがとうございます」


 きゅっと内唇を噛み寂しそうに微笑む姿に、私は頭を下げた。

 常に穏やかだったウィルフレッドが、このように感情を露わにする不安定な理由が私の身を案じていたからというのなら、それはそれで受け止めておけばいいことなのだろう。


 ――あまり頑なに拒絶しても仕方がないもの。


 あんなことがあって、顔を見ることなく綺麗さっぱり関係を断てるのならそうしたい。

 だが、すでにウィルフレッド以外との騎士と店を通して関係性ができているため、ここに住む限り全く無縁とはいかない。

 どうしても関わってしまうのなら、当たり障りのない関係を築くしかない。


 ウィルフレッドに私と付き合った過去と彼の知りたい情報の記憶がなければ丸く収まるし、収まらせたい。私さえ割り切ればそれで済む。

 傷つき悩んだ時間を繰り返す気はないので、もう必要以上に気持ちを割きたくなかった。


「シャノンが何も言わずにいなくなって、やっと帰ってきたと思ったら知らない男と一緒だったし」

「ああ~」


 受け止めたら終わりではないようで、まだウィルフレッドの主張は続く。


「この一年でそういった人物はいないと記憶していたから、あまりにも親しげな男の存在に嫉妬した」

「はぁ」


 嫉妬、ねえ。その言葉にまた警戒心が強まる。

 揺れそうだった感情がぴたっと止まり、私は静かにウィルフレッドを見返した。



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