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魔女の末裔と偽りの恋~忘れ薬と嘘~  作者: 橋本彩里
忘れ薬と嘘 プロローグ

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1/7

プロローグ


 それは、秋が深まり少し肌寒くとも心地よい風が吹く、とても天気のいい日だった。

 鼻歌交じりで買い物をしていたが、恋人のウィルフレッドと彼の友人騎士を見かけ、私、シャノンはゆっくりと後退った。

 声をかけるかどうか迷っている間に、聞こえてきた会話に思わず彼らから見えないように身体を隠す。


「あの件はどうなっている?」

「いや。まだだ」


 騎士仲間の問いに、ウィルフレッドが肩を軽く(すく)めて見せる。

 それに対し、相手が心底呆れたと声を上げた。


「あれだけ通って? 彼女を見つけてからもうすぐ一年になるんだぞ。ウィルができるというから任せたが、慎重すぎないか?」

「だが、傷つけたくない」

「まあ、いい子だからなぁ。わかるよ。わかるけど任務も大事だろ」

「……」


 そこでウィルフレッドは黙り込んだ。

 私はその様子をじっと見つめる。


 彼女と任務。

 雲行きの怪しい会話に悪いと思いながらも赤髪を耳にかけ、話をよく聞こうと耳をそばだてた。


 その間も私の目の前を人々が通り過ぎるが、誰も私に視線を向けることはない。

 癖のある赤髪にオレンジの瞳は、街に出るとかなり目立つ。

 今は偏見がなくなったが、魔女の末裔に多く見られる赤髪は非常に目立ち、オレンジの瞳とともに私は人々の目に付きやすい容姿をしていた。


 幼い頃は家族とともに山奥にこもり、しばらくして街に出ることになったが、街に住むようになっても静かな環境を好み、必要最低限の外出しかしない。

 そのため、家兼店(テリトリー)以外では人と会うのは苦手だった。


 苦手といっても人が嫌いなわけでもないし、別に気が弱いわけでもない。

 ただただ、自分の家や店、築き上げた環境での生活が快適で、それ以外で活発に動く必要性を感じていないだけだった。

 ゆっくり話すので落ち着いて穏やかだとよく勘違いされるが、わりと興味がないことにはずぼらで面倒くさがりな性格をしている。


 そのため、外出するときは存在感を消す魔法をかける。

 そのほうが余計な視線に煩わされないし、話しかけたり目が合ったりすると認識してもらえるため、買い物するのに不便はない。


 せっかく使える魔法だ。使って便利なら使おうと今日もいつものように魔法をかけ出かけてきて正解だったなと、今もなお続く彼らの会話を聞きながらそんなことを思う。

 ふっ、と息をついたところで、ずっと続いていた話の内容の不穏さに眉を寄せた。


 こんなどうでもいい余計なことを考えるのは、どこかでやっぱりと思うからか。それともショックを受けすぎて現実を逃避しているからか。

 会話から推測するに、どうやらウィルフレッドは魔女の末裔である私と任務のために付き合っていたようだ。


 そうなるとあれこれ思うことも出てきて、顔が強張っていく。

 虚しさと怒りと、何より悲しみと。そして、嘘であってくれという思い。

 葛藤している間にも二人の会話は続く。


「シャノンから情報を得られるように頑張るよ」

「ああ。少しでも正確な情報が必要な時期なのはわかるだろ? 時間がない。お前が無理なら俺がやるから」

「そんなことにはならない。俺がすべてやるから任せてくれ」


 ウィルフレッドの鋭い声とともに発せられた決定的な言葉に、ひゅっと息を呑む。


 ――動くんだ?


 意気込んだ様子とはっきりと告げられた言葉に、なぜか笑いがこみ上げた。


「ふ、ふふふふふ」


 それは私を騙すための言葉で、これまで騙していたという確信的な台詞で、聞き間違い、勘違いではすまないものだった。

 そっか。最初から騙されていたんだと、情けなさに乾いた笑いが止まらない。


「ふふっ、――あぁ~あ、やっちゃったなぁ」


 次第に声は沈み、それとともに気持ちは塞いでいく。

 ウィルフレッドのことをとても信用していた。なぜ、私なのだろうと思うことはあっても、熱心にアプローチしてくる彼を前にすると、その居心地のよさにほかのことは考えられなかった。

 好かれていると信じられていた。

 そんな相手に騙されていたという事実に、情緒が不安定になる。


「そっ、か……」


 声に出さないとさらに落ち込みそうで。

 意識しないと、呼吸すらままならなくて。


「はぁ……」


 今度は大きな溜め息が出た。

 ウィルフレッドも情報を得るために今後積極的に動いてくるようなので、そのことを考えると途端に面倒になった。


 どのような魔女の知識を知りたいのかはわからないが、大前提として私はそれらを誰にも渡すつもりはない。

 受け継がれてきた知識の財産は、中には取り扱いが難しいものもあった。


 広めるものと守り抜くもの。

 それらの管理は適切に行われるべきで、そうすることが残された私の、魔女の末裔としての矜持でもある。


「ああ~、好きだったのに。好き、になったのにな」


 最初はそこまでではなかったが、付き合っていくうちに好きになっていた。絆されてしまった。

 これもウィルフレッドの思惑通りなのだと思うと、虚しさも増していく。


 ウィルフレッドがいることが当たり前になった今、知ってしまった(事実)は心を抉る。

 正直、今泣いてしまわないのが自分でも驚くほど、じわじわと気分は悲しみに染まっている。


 だが、悲しみに暮れ傷つくだけで何もしないのは考えられない。

 何より、私の魔女の末裔としての知識を知りたい様子だったので、それらは絶対渡すわけにはいかない。


「目的があって近づき騙されていたのなら、このまま付き合う意味はない、じゃない。さっさとこの関係を清算してしまおう」


 そう口にしてもやはり気分は重くなる。

 信頼していた恋人の裏切りの事実に、時間が経つとともにじわじわと気持ちが重くなっていくのを止められない。


「うん。清算……。それがいいわ」


 言葉に出して気持ちを整理する。虚しさが突き抜け、自分でも表情が抜け落ちているのがわかる。

 動揺を通り越し、やけにこの状況を俯瞰して捉えているなと頭のどこかが冷静に判断する。

 私は縫い付けられたようにやけに重たくなった足をなんとか引き剥がし、静かにその場を後にした。



見つけ覗きにきてくださった皆様ありがとうございます!

嘘と真実、勘違いと誤算、すれ違いと暴走など、今作楽しいものにできたらなと思っております。

これから練る箇所もありますが、大枠は決まっておりますのでよろしければお付き合いいただけたら幸いです。

この土日は多めに更新予定です。

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