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第01話: 【新神代世界のFhu-氏】(後編)

前回(前編)の続きです。

第05章:

【Fhu-氏、魔の誘いと死の絶望を乗り越えた先に何を見る?】



「間一髪だったなwww」


「ええ、どうも、助けて頂き、感謝です。

 ……まさか、教授の教え子達が、『怪人』枠の入試を受けた、

 選ばれた学生達だったなんて。」


 いわば、『怪人』大追跡。

 あのブタ……、もとい、クソジジイは無力化されていたが、

彼の手下ですらあるゼミ生どもは、それは恐ろしい追跡者として

彼を追った。 が。


「助けて頂いたところで、申し訳無い。 どちら様で?」


「へえ……、そう尋ねるかね。

 10以上の『悪魔』を従わせる“契約者”様がよお。」


!?


 丸いメガネの甘いマスク、実業家みたいなスーツの青年。

 円形上の塔のようなどこか、西洋風の建築だと思うが……、

そうだ、博物館とかお城の様な場所と言うべきか。


「その話は、あまり好き好みません。」


「へえ、そんなに立派なステータスですらあるのに? 謙虚だなwww」


 客人を下に。

 見上げさせるほどの位置に、玉座でもあるのか、

彼専用の椅子が目線の先にある。

 座っている。


「素敵な椅子ですね。」


「ああ。

 コンピューター制御で、この部屋の中なら自在に動けるんだ。

 良いだろう? “部下”達に作らせた。」


 ウィィィーーーン……。


「ほう……。 彼女達が。」


 彼の話を妨げることの無い様に。

 しずしず、淡々、それぞれの仕事を行っている。

 10と数人のメイドというところか。


「ああ。 良いだろ。」


「羨ましい……。」


「なら、選択肢は無いな。 “我が軍門に下れ”。」


!?


 アレ……? このセリフ、どこかで聞いたこと無い?


「俺の最強軍団:『ブラックコンドル』。 聞いたことはねえか?

 入団を許可する。 ……まさか、イヤとは言わねえよな?」


「命令ですね。 前にも聞きました。

 感謝の心でいっぱいです。」


「ならば……。」


「……しかし、そのありがたい、ありがた過ぎる、

 勿体無いお申し出を断らねばならぬ理由が御座います。」


「ほう、それとも○を選ぶのか。」


松千代マツチヨ様!?」


 マッチョ……?

 いや、マツチヨ、メイドにそう呼ばれる青年の肉体を見ろ。

 皆の憧れ○ーベルヒーローにも見劣りしない胸板、腹筋、

そして腕の逞しい太さを見ろ。

 黒いぴっちりスーツの上にヤングでセクシーなビジネススーツスタイル、

まさに、男の中の男!


(睨まれて尚も、首を横に振れるワケが無い!)


「○は選ぶことはありませぬ。

 この事実は、脅しのタネにもならない……、

 賢明なマツチヨ殿……、でよろしいでしょうか。

 貴殿こそ、ソレをご存じのハズだ。」


「貴様ァ、マツチヨ様の御命令を何と心得る!?」


「待て。 うむ……、どうやら一筋縄には行かぬか。

 まあ、まずは、俺、マツチヨの言葉すらも背き、

 その命を断る理由とやらを聞いてやろうじゃないか。」


 また同じ。 ええ、同じですね。

 イチイチお話しするのも面倒なので、先に言いますか。

 ……しっかし、お宅のメイドさんの制服、セクシーで良いですね。


(ギリギリが楽しめる、ミニスカ、……良いですねえ。)


「先に、単刀直入に聞きますが。

 『ブラックトライアングル』、『ブラックグロウリー』の

 傘下の人でしょうか?」


「貴様……? 何故そのことを……?」


「実は……、先にも、

 ブラックトライアングル総帥閣下と、大佐さんにも、

 同じことを尋ねられました。」


!?


「オイオイオイ……!?

 俺の女達に調査させて、組織の中で一番乗りで、

 Fhu-とかいう男を見つけ出したハズだぞ!?

 オマケに、悪魔を10数体も従わせる契約者で、

 同時に、異教の神々とも契約している奇妙な男だって、

 誰も知らないハズだろおがよおおお!?」


「うわあ、『ブラックコンドル』、恐るべし。

 有能過ぎwww まるで、Fhu-氏の秘密辞典だ!」


「だろ? だろ?

 何で、ウチの上位組織が、先に辿り着いているんだよおおお!?」


「差し出がましい様で恐縮ですが、マツチヨ殿。

 貴殿が入手した情報を、上位組織に報告しませんでしたか?」


「あ、ああ……。

 悪魔と神々の契約者であること以外の情報は……。

 いそうな場所とか、攫った組織とか、移送されると推定される

 ポイントとか……。」


「貴殿は勘違いをしておられる。

 有能な貴殿の組織が得た情報を基に、上位組織の方々が、

 さらに得た情報と照らし合わせて、このFhu-氏の行方に

 素早く辿り着いたというだけですよ。

 つまり、マツチヨ殿がいなければ、彼らももっと遅かった。

 評価されるべきことですな。」


「お……、おう。 褒めてくれて、サンキューな。」


「褒めるなら……。 ついでに、こう申し上げましょう。

 ブラックトライアングル総帥閣下、大佐殿と、

 同じ目を向けて、そして彼らのお姿に重ねております、

 マツチヨ殿、貴殿に。

 かの方々にもまた、助けられてここに至りました。

 感謝の言葉を、どうかお受け取りください。」


「ゴ、ゴブ……。

 まさか……、敬愛するどころか尊敬して止まない、

 総帥閣下と、あの……、大佐とまで……。

 お前ェ……、失礼なヤツだ、失礼だ!

 あんな高いお方と、俺なんかを同列に見ているのか……??

 マジで……!?」


 コクリ。


 そして、彼の素性を聞いた。

 彼の素性なんか、これっぽっちも興味無かったが、

気分を良くした彼は、幼子の愛らしい笑顔にも似た無邪気な表情のまま、

語ってくれた。


(その青年は、『悪魔』と人間との間に生まれた、忌み子だった。)


人間社会のどこでも居場所が無かった親子らは、

縋る様に、『黒の軍勢ストラティア』の傘下の傘下、

ドベの下っ端組織に入団し、保護を求めた。

絶対的忠誠を捧げねばならなかったが、親子が引き裂かれることは

決して無かった。


「親父はよお……、組織の上までに上り詰めたさ。

 『悪魔』契約者さ。 おふくろと共に、頑張ったんだ。

 でも……。」


 ある時。 内部抗争に巻き込まれた。

 有能であると評価されていた父親と、その契約を交わしていた母親、

『悪魔』は、ある派閥に危険と評され、討伐されてしまった。

 そして、その間に生まれた少年にまで、魔の手が伸びる。


「そんな時……、助けてくれたのが、今の総帥だ。

 絶対に、あの人の力になるって、決めたんだ。」


「グス……、やっぱ、総帥閣下だったか。

 男気溢れる御仁とお見受けしたが……、間違ってなかった。」


「ああ。 そうとも。 大佐にも、恩がある。

 1人ぼっちになった俺を、しばらく育ててくれた。

 厳しかったけど、感謝している。」


「チクショー……、カッコ良いなwww

 『黒の軍勢ストラティア』の優しいサイドが、

 ここで全部語られている気分だ!」


「へえ……、分かるのか。

 だったら、ますます欲しくなったぜ、アンタ。

 今、俺の『ブラックコンドル』じゃあ、

 スゲぇヤツを勧誘しているところだったんだ。

 俺の女どももスゲぇが、……もっと仲間が必要だ。」



 青嵐寺財閥御曹司:青嵐寺セイランジ 騎士エクエス

 その親友の漫画家:真華マハナ 松彦マツヒコ

 謎の若き実業家:『織姫』。

 華雅財閥の重鎮:『和バラ』。



「ああ、そうそう……。

 新星の天才『魔導士』ってヤツもいたぜ。

 “ツキカゲ”っての? 名前もイカスぜ!

 仲間に入れてえなあ……。」


「……。」


「さすがに、『黒バラ歌劇団』のイロハさんは……。

 仲間に入ってくれなかったなあ。」


「……こんなところにまで、イロハ嬢。

 あの娘、有名だなあ。」


 一応、言うまでも無く。

 そのイロハ嬢は、Fhu-氏の愛娘。

 そう、7人いる、7色の娘の中の1色。


「何より! 俺には、『悪魔』の力がある!

 もう1度言う! お前、Fhu-! “我が軍門に下れ”。」


「ありがとう、青年。 偉大なる黒き太陽の、若きコンドルよ。

 でも、それは叶わない。 貴殿の親切、忘れない。」


 ドカァンっ!!


「『シスター・ハネコ教団』だよー。

 悪魔崇拝しちゃいけないんだよー。」


「「「そうだそうだ!!」」」


「げェー、『シスター・ハネコ教団』だと!? 何故、ここが知られた!?」


「知るも知らぬも逢坂の関!」


 どうせ、彼女の気まぐれさァ。

 金髪でセクシーな、童顔で優し気に柔らかく笑う彼女、

修道服に身を包むシスターは、超ヤヴァイ!

 彼女が引き連れた聖職者は、頭がアレだけど、

腕だけは確かな一流聖職者だから、『悪魔』には一溜りも無い!


「クソぉ、このアジト気に入ってたのに! Fhu-、逃げるぞ!」


「Fhu-を捕まえたよー!」


「OH! 何て、板挟みwww」


「くぅ、撤退だァ! Fhu-、いつか迎えに行くからなーーー!!」


 こんなゴタゴタ。

 親切な人に惜しまれながら別れるのは、心が痛みます。

 戦場に響け、○ンジェリス。 詠います。



『人の子も 人ならざる子も 祝福を 鐘を鳴らせや いと高らかに』



 聖なる女性に抱かれて。

 白百合の良い香りに包まれながら、遍くのモノの幸福を祈る。


「ただ……、シスター・ハネコは、そういうの無いからなあ。」


 きっと、これから、優しい微笑みのまま。

 男に、世にも恐ろしく理不尽な拷問を見舞うのでしょう。



***



「いけないんだー。」


 闇の中。

 いや、何とか、目を凝らせば道は見える。

 打って変わって、ここは言わば地獄。


「シスター・ハネコの信徒の皆さんが、

 “いけないんだー”なんて叫ぶからです。

 呼び寄せたんだ!」


「悪魔信仰、いけないんだー!

 シスター・ハネコに言い付けてやろー!

 ……ぎゃああああああ!!」


「ホラ、言わんこっちゃない。」


 Fhu-氏は、ここがどこだか知っている。

 いや、知らんけど、知りたくなかったし。

 でも、知ったというか、察した。


「ケイムラー、ケイムラー! ブヒブヒ……。」


 あの精神科医のクソジジイみたいなブタが歩いている。

 四つん這いで。

 でも、彼と違うのは、特有の鳴き声を上げていること。

 同じ『怪人』であるが。


「『悪魔』と人間のハーフ、いけないんだー!

 アジトを見つけ出して、聖水をブっ掛けてやる!

 いけないんだー、いけないんだー!

 ……ぎゃああああああ!!」


「またやられた……。」


 ……ソレは、近いのだろう。


「いけないんだー。

 人の生まれや育ちで差別するの、いけないんだー。

 意味も無く、大義も無く、ただ“いけないんだー”を連呼して、

 正義ぶって人を貶めて押し詰めるの、いけないんだー。」


 ズル……、コツ、ズル……、コツ。


 片足を引き摺った、少女。

 金髪ショートカットの、……顔は見えないが、小さな、少女??

 小学生高学年くらいの。


(ここ……、『(ツー)空間』だ。)


 口を押えながら。 Fhu-氏は思い出す。

 世にも恐ろしい『邪神』の存在を。

 彼女の名こそ、震えも止まらない……。



(ツー)』様。



 どうしてそんな名なのか、知る術も無い。

 ただ、彼女と対面した者は……、永遠の苦痛と恐怖を刻まれると、

実しやかに語られている。

 現在の都市伝説の1つなのかも知れない。


「イヤ……、イヤ……、助けて……!」


「聖水でも効かないのか!

 助けてください、シスター・ハネコ!」


「邪教を信じるなんて、いけないんだー。

 シスター・ハネコを妄信するなんて、いけないんだー。

 自分で自分を助けることができないなんて、いけないんだー。」


(何て、恐ろしい……。)


 あれだけいた、シスター・ハネコの取り巻きの聖職者達が。

 成す術も無く、あの小さな少女に蹂躙されて行く。

 まるで、昨日は魚だったのに、今日はチクワになっているみたいな。


「……そ、そこのお前、Fhu-じゃないか。

 Fhu-……、なのか??」


!?


「お前は……!?」


 見覚えがある。

 闇の中で浮かんで見える、……ええっと、いわゆる、あのアレ。

 『魔法』がどうとか言ってる、あの、おっさん、というかお兄さん。

 彼にも娘がいるとか聞いた気もする。


「『トリマンコンテスト in TOKYO』、……以来だな。」


 思い出した。

 あの大会、時代の救世主を見出すとか宣った、インチキ世界大会、

凶悪なラフプレー上等な、最低のスポーツ祭典で出会った。

 あの、ドイツ人紳士だ!


「OH! え~……。」


「そうだ、O.A.だ。 また会ったな。」


 良かった。 奇跡的に、彼の名を覚えていたことになった。

 そうだ、O.A.と名乗る男だった。


「Youは、どうしてここに??」


「お前こそ、どうしてここに……? くっ……。」


「どうした!? お腹が痛いのか??」


「ああ、脇腹と腰と尻と……、主に全身がな。」


「お腹が痛いのか。」


「まあな。 だが、大丈夫だ。 何とか……、立てるさ。」


「無理するな。 お腹が痛いのか。」


「お腹は痛くない。 だが、ここは危険だ。」


「拾い食いでもしたのか? だから、お腹が痛いのか?」


「お腹は痛くない。 ここは、『2』のテリトリーだ!」


!?


 お腹が痛い紳士が言うには……。

 『2』という『邪神』が支配する、異次元空間なのだそうだ。

 実しやかに語られていた都市伝説の通り、全く同じ話だったが、

彼が曰くには、“知っていなければ辿り着けない秘密の出口”が

存在するらしいのだ。


「このことは、2度以上ここに来た者でなければ、

 決して知ることはできないのだ。」


「なるほど……。

 ということは、

 O.A.氏は、2回以上、ここに来たことがある。

 ならば、トイレの場所もバッチリってワケだ。

 お腹が痛くても、まずは一安心だ。」


「ああ、トイレの場所など、余裕で認知している。

 お腹は痛くない。

 確かに、もし、腹痛に見舞われても、最初みたいに、

 漏らす恐れは無いことだろう。」


「……。」


 こんな所で知り合いに出会えた喜びなのだろう。

 調子に乗って、変な質問を重ね続けたが……。

 これ以上知りたくないことまでも、聞きそうになった。

 だから、おふざけはもう止めよう。


「この空間は、我々の住む次元と異なった、

 ローカルルールとも呼ぶべき論理で現象する。

 なあに、魔法理論と同じさ。

 少々、高等な代物だけどな。」


 パァっ!!


「スゴい! 多重の魔方陣か。

 ウチの娘の誰かが、見せてくれたこともあったかな。」


「ほう……。 見たことがある、か。

 さすが、『トリマン』に選ばれただけある。

 さあ、俺の書き換えたコトワリに従い、脱出するぞ!

 道順は、軌跡を“2”と描くのだ!」


「さながら、銀河鉄道!

 我らに纏わり踊る光の精霊達の導きのままに、

 魔法世界の美しさをその目に焼き付けよ!」


 気の利いたセリフになったかな?

 とにかく、空へとワルツのステップを踏み出す軽やかさ。

 闇の中、フンワリ浮かんで行く視界、きっとこの異次元から

抜け出す道を踏み出しているのだ。


「いけないんだー。

 『2空間』から逃げようとするヤツがいるのは、いけないんだー。

 ……許さない。」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


「ケイムラー! ケイムラー!」


 ピカピカピカ!!


 苦痛を与えられた裸のデブは、その痛みのまま、

神経を掻き乱しながら、その神経電気信号の狂ったパルスに従い、

皮膚の下に埋め込まれたLEDを激しく点滅させる。

 そんな地獄の醜いブタを足蹴にしてタッタカ駆け走らせるは、

あの少女……、その『邪神』の名は、『(ツー)』!


「なっ……!? 少女、何て、卑猥な格好を!?」


「お子様ボンテージだ。 あのファッションに着替えたヤツは、危険だ!

 サディスティックに強い情熱的興奮を迸らせている。

 友よ、先に逃げろ! 俺が食い止める!」


「何!? そんな……、噂が本当なら……。」


 彼女と対面した者は……、永遠の苦痛と恐怖を刻まれると、

実しやかに語られている。

 想像を絶する苦痛が絶望が、首を掻き毟るほどの永遠の恐怖が、

その者を苛み続ける地獄を味わうことになるとも……。


「なあに、俺は何度もこの地獄を乗り越えている。

 今度だってそうさ。 だから、心配するな、友よ。」


「いけないんだー。

 友達見捨てて逃げるチキン、いけないんだー。

 格好付けて強がって自己犠牲に酔う負け犬オットちゃん、

 いけないんだー。」


「惑わされるな! 行け!

 強化魔法:『アクセレレイト』!!」


「足が……、止まらない!? O.A.!」


「また会おう。」


 友の想い、無駄にはさせぬ。 友の魂、無駄にはさせぬ。

 男、Fhu-氏は、涙を点々と零しながら、無理やりシャカリキ、

勝手に天へと走り続ける天馬気取りの足とともに逃げた。


(切ねえよ……、○ぬより辛い選択でもある。)


 だから、詠める。



『二の次は 己と決めた 男の目 守る背中は とうとう見えず』



 闇の中。

 誰も見ていないと願って、オイオイ泣いた。

 どれだけ泣いただろう、赤鬼ほどは泣いていないけど、

絶対、再会しなければ、ウソだと思った。


「○ぬより辛い選択でもある。」


「立派な独り言だな。 なら、○んでみるか。」


 おっ……。

 どうやら、Fhu-氏は、ここで終わりかも知れない。



***



「やあやあ、我は、紅白胡蝶の侘助と申す。

 此度は、さる高貴なる御方のため、

 我が素晴らしき貢献のため、御一緒頂こう。

 何、遠慮は要らない。」


「恐れながら、ご遠慮させて頂きたく。」


 相対したその人の顔は、椿の木みたいだった。

 緑色の山みたいな塊に、紅白、あるいはスポット模様のある

椿の花々が咲いている。

 声からすると……、多分……、女の人??


「我の手か? ああ、すまない。

 ○んだ時からそのままなのだ。

 何千年か何万年か……、ははは、覚えておらぬな。」


 平たく言うなら、“異形”だろう。

 男物の着物の下、灰白色のミイラ化した腕が覗いていて。

 そして、その手は、彼、Fhu-氏の手首を掴んで離さない。

 強い……、力だ、岩の様にビクともしない。


「我らが大神様は、確かに感情的だが寛大な方だ。

 少々の無礼なら、首を斬り飛ばされるだけで許されるだろう。

 心配するな。」


 百の赤い目にも見紛う花。

 1つとして同じ物が無いソレらが見つめているとも思える。

 決して、逃げることはできない。


「何それ、怖い。」


「ははは、それにしても……。

 かの“ナギ”様を捕らえるにも、こう簡単なら良いのだが。

 とりあえず、注意することがあったな。

 ええっと……、タケノコ、モモ、ブドウ??」


「……あっ、察した。」


 そう、彼女の導く、行先。

 あの『2空間』とも変わらぬ闇の中、段々と血生臭く、

そして同時に温泉臭くなって来ていることを吟味すると……。

 呆然とそんな気がしていた恐ろしい想像が、今、現実味を帯びた。

 いや、絶対……、絶対そうだ!


「想像しただけで、ふふふ。 大神様、喜んでくれるかなー。

 ナギ様拘束の任を、いつまでも頂けないから、

 この侘助の名を褒めて頂く機会が待ち遠しい。

 でも、この侘助、大神様にいつか褒めて頂いた通り、

 有能に有能を重ねた優秀だから。

 何か知らんけど、タカマガハラの神々が噂していた

 “変な男”を捕まえてくのだ。

 こっちでも褒めて欲しいなあ。」


「へ~、大神様の元へ行くのですね。 水臭いじゃないですか!

 このFhu-氏、何を隠そう、実は! ……おおっと、内緒でした。」


「えっ、もしかして、例の“秘密”ってヤツかい?

 内緒にしないで教えてくれよー!」


「じゃあ、その手を離してください。 逃げませんから。」


「分かった。 でも、逃げたら首刎ねるから。」


 ゾオ……。


 ミイラ化した手が、腰に提げた朽ちた刀を示す。

 指に欠損がある。 だが、力は強いという。

 成人男性が振り解けないくらいに。


「実は……、このFhu-、大神様のファンです。」


!?


「マジで!? ……おっと、流行言葉出ちゃった。

 いやいや、我、心臓なんてもう無いけど、ドキドキって言うの?

 柄じゃなく興奮しちゃってるよ。 ヨモツシコメなのに。」


「ふふ……、さっきからの会話から。

 ワビスケ殿も、大神様のファン、どころか信奉者?

 いや、貴殿ほどの忠臣なら……、懐刀みたいなお役でしょうか?

 いやはや、お会いできて光栄です。」


「くく……、小気味良いこと抜かしよって……。

 確かに、我ほどの忠臣は、そうそうおらぬと言うべきだ。

 言われなくともやる、やれと言われてやったと答える、

 まさに忠臣か……、気の利いた文句だ。 気に入った!」


「それは良かった。

 しかし、“言われなくともやる、やれと言われてやったと答える”。

 こんな名言を平然自然に口にできるワビスケ殿、

 こんな忠臣、大神様の誇りじゃないですか!

 では、もう1味、誇りを増やしてみては?

 この孔明でなく、Fhu-氏めに、考えが御座います。」


「ほう……、聞こう。 気分が良い。

 この紅白胡蝶の侘助、生者と問わず8千余万の首を刎ねし、

 古き猛きヨモツシコメであるぞ。

 大神様からの命を待ち焦がれて、何もせなんだ時を重ねて、

 退屈を知るに至ったところだ。

 申せ。 褒美も取らせよう。」


「それはそれは、ご丁寧に。 ……では。」


 ジェネレーションギャップでした。

 しかし、ソレは同時に、1つの新鮮な出会いそのもので、

言うなれば、生鮮売り場のスーパーマーケットでのお買い物です。


「おおっ、何という、現世の変わり様!」


 無理を言ってみるものだ。

 暗闇、黄泉平坂の黄泉路を外れて、現世へ行けないものかと相談し、

そして、“大神”様へのお土産を、この男以外にも、

さらに増やしてみたら良いだろうと提案してみた結果だ。

 云わば、遠出したついでの土産選びである。


「ハイ。 タケノコ、モモ、ブドウです。

 あと、お刺身とお醤油も付けておきましたので、

 美味しくお召し上がりください。」


 職場でウケる、絶対喜ばれるチョイス!

 感心したら、マネして良いよ?


「マジでか!? こんなにも新鮮なのか!

 そして、美しい……。 まるで宝玉みたいだ!」


「農家や漁業の皆様も喜びます。」


「素晴らしい……。 素晴らしい……。」


「この男からも、よろしくお伝えください。

 素晴らしいお供物の献上を、お手伝いできましたこと、

 この男の誇りで御座います。

 ならば、次は?

 ……ええ、ワビスケ殿の誇りとなる番に御座います。」


「知っておったわ。」


 きっと笑顔の椿の花を揺らして、闇へと帰って行く。

 それにしても、あの人、庭園の魔女(だっけ?)に似ていたよなー。

 ええ、あの名作の。


(○ルトルートさんだっけ? 似ているよなー。)


 ホッコリした気持ちのまま、春風に似たそよ風に吹かれながら。

 素敵な外国人の老夫婦とかを観光案内した達成感に似ているかも。

 だから、詠める。



百々目鬼(ドドメキ)の 夜道に浮かぶ 幻は 心を掴む 椿なりけり』



 罪深くもある。 だが、この命あっての物種。

 人の子が、かの黄泉の世のモノからお目溢し頂くには、

知恵が必要だという教訓となると良いのだが。


「でも、やった! 自宅近くのスーパーだぜ!

 もうすぐ……、もうすぐ、帰るからね、みんな!」



***



『Fhu-氏は、魑魅魍魎、『悪魔』、『邪神』、

 そして『怪人』の跋扈する世界を生きる現代人である。』



「これまた……、凄まじい誇大妄想ですな。

 それに、『ヒラサカ』からの使者ですか?

 『ブラックトライアングル』と『ブラックグロウリー』に続き、

 『ブラックコンドル』? ブラック多過ぎですねwww

 そこに、『悪魔』の忌み子に、『Say!ハネコ教会』と、

 おおっと、『2』? ソレ、名前として成立するの?

 アナタには、今、治療が必要です。」


 カチカチ……。


 照明の蛍光灯が古い。

 ……またこのノリ!?

 またどうせ、百年以上の歴史ある大学の構内にあると聞く、

大学病院の一室なんだろ、ここ。


「アナタは、悪夢を見ている。

 酷い妄想もそう、現実と夢の区別が付かなくなっている。

 早急に、治療を施さねば。」


「名門、丁大の名誉教授先生のご明察に感謝です。

 しかし、しかし……、ですね、教授?

 何ですタイ、そのトゲトゲしい極太シードリルは?

 平和利用のボーリング掘削用とじゃないですよね?

 軍艦に穴を開けて沈没させて、世界大戦を引き起こすのですか?」


「いいえ、患者。 治療器具です。

 悪夢を見た患者には、いつもコレを使っているのです。」


 病んだ目つきの据わった老紳士、精神科医は。

 直接的な物理的手段を見せつけてきやがった!?

 ……ヤられる!?


「ピッピー、ボク、ゲンキゲンキ、ケンコウダヨ!」


「相当に病んでますよ、先生。」


「うむ……。」


 特殊性癖のお兄さんに突き刺さる、エナメル光沢の眩しい、

セクシーダークナースコスチュームの看護婦さんが傍らにいるのは、

萌えポイントどころか、危険な魅力にドキドキが止まらない。

 但し、彼女は熟に熟した百戦錬磨なお年頃と知っていながら、

それでも色あせないセクシーさが蠱惑的ですらある。

 ただ……、30年前の彼女だったなら、花も恥じらう乙女の姿に、

また別の感情を抱いていたというのに。


(クソっ! 何で……、毎回グレードアップしてんだよ。)


 ついにギリギリに挑戦した、エナメル光沢のラバーミニスカの

限界ラインの行く末が、チラチラと視線に入るソレが、憎らしい。

 見知ったイメージよりも、チョイSで危険な美魔女に見えている。

 何で、チョイスが、エナメルダークナースコスなんだよ!

 診察のためにここにいるのに、目の毒なんだよ!


(年上の魔女様には恐縮至極になるから、あまり得意でないのに。)


 仕方無く、見たくもない老いぼれジジイ……、もとい、

ベテラン医師でもある教授の顔を見なくてはならない。

 今回はガムを噛んでいないが、どこからともなく、クサヤの濃厚で

しつこい臭いがしてきて嫌いだ。


(……って、テメェ、ジジイの口の臭いか!)


「ガムを噛まないのですか、先生?

 もしくは、アスパラ食ってろ!」


「貴様、黙れ。 マナーの無い患者に、ガムは無い。

 ……それで。 何々……、『神話』、だったかな?

 貴様は、何を知っている? 何を語ろうとしている?

 どちらにせよ、転生した大賢者様のつもり?

 それが、アナタ?? 凄まじい妄想ですね。 ○すぞ?」


「脅しには屈さない。」


「前にも、同じことを言ったヤツがいたな。

 クッコロ……、と、言ったっけ?

 あの地球人……、ヤツと同じになりたくなければ、

 早いところ、全て白状しろ。」


「クッコロ!?

 “くっさくない、コロッケ大好き!”の、アイツのことかーーーっ!?

 ヤツに……、クッコロさんに、何をした!」


「わたしの魅力に酔って、洗い浚い吐いたのさァ。

 始終、わたしの胸と尻見て、鼻血ブースケやってた、

 あの○ニス野郎は、全部秘密をバラしたから、

 普通に解放して徒歩で帰ったのよおおお!

 だから、お前、Fhu-も、白状したら?

 今なら、このわたしが直々に調教してやる!

 わたしの子飼いのダサダサブタメン(所有物)に成り果てれば、

 このピチピチラバーロンググローブで、一生、

 お前の射○管理してやるからさァ!」


 ピチ……、ピチ……。


 新宿のその手のお店の、いわゆるあのアレ……、女王様だった。

 ありがたい申し出と理解した高学歴頭脳の持ち主のFhu-氏は、

一方で、帰るべき家に待つ愛娘達の健全な育成のため、

今後も紳士の顔を続けたいためには、グっと堪えるのです。

 男だからこそ……、チョイ悪の、リードできる紳士でありたい。

 ソレが、男の生き様で、美徳なのですよ、淑女。


「美しきヒト

 『運命の女(ファムファタール)』になるには、まだ早い。

 月の夜にだけ咲く花の名前を、まだこの男は知りませんが、

 まさか、その先へと行くべき姿を拝見できるとは……。

 カフェラテの甘さではまだ足りぬ、アナタの、アナタだけの、

 アナタが全ての舞台が整う時、世界が新しい朝を迎える。

 全てが輝いている。

 その中で、アナタの美しさに一際輝く。 瞳に乾杯!」


 ポっ……。


!?


 そっと。 その看護婦のお姉様は、奥に引っ込んで行った。

 目的は果たされたので、これ以上は踏み込まない方が賢明だろう。


「くっ、口から出任せを囁きやがって。

 彼女、ナヲミは思ったより、ロマンチックな甘い囁きに

 弱いんだぞ、ゴルァ!

 私の一世一代、懸命な愛の告白には、“童貞野郎”の一言で

 踏みにじったクセに……。

 それで……、

 それで興奮して1発誤射(事故)した私も私だが……。

 ……クソったれ、許さん!

 この私から全てを奪ったFhu-、貴様だけは許さん!

 こうしてやるのだっ!」


 ギュ……、ギュゥゥゥイイイイイイン……!!


!?


 ガリガリガリガリ、バリバリバリバリ!!


 極悪シードリル、スイッチON!

 だが、ドリルの破壊を食らったのは、Fhu-氏ではなかった!?


「があああああああ!? き、貴様、何をする!!」


「キャハハハハハハwwwwww

 ゴメンネ~、ドリルぶつける方向を間違えちゃったwww

 アハァ……、ジジイったら、無様www」


 今度は、金髪娘のダークナースが出て来た。

 まさか、あのナヲミ女史じゃあるまいな、まさか、若返ったとか、

そんなこと言うまいな!?


「よくやった、弟子!

 お前、もうバイト辞めろ! 今日からわたしの弟子だっ!!」


「クイーン・ナヲミ、イエ~イ!」


 ハイタッチする、……まるで姉妹!?

 クイーン・ナヲミとお揃いセクシーコスの新キャラ少女は、誰!?


「くっ……、この私が『怪人』でなければ○んでいたところだ。

 危うく、『ヒラサカ』のヨモツシコメに見つかるところだった。

 ……それと、三途の川の祖母が蹴飛ばしてくれなかったら、

 危うく渡るところでもあった。

 お祖母ちゃん、ありがとう……。」


「お祖母ちゃん想いだなwww」


 精神科医、変身!

 お約束通りの、パンツ一丁の『怪人』、出現!

 だから、激烈ドリルの圧倒的デタラメ破壊力を受けても、痛くなーい!


「何かもう……。

 このFhu-氏が、一般から逸脱した精神障害を起こした

 哀れな患者として治療を受けているっていう体で、

 いろいろやりたかったんだと思うけど、このパートは。

 でも、もう、キャラ崩壊と現実的描写から逸脱しているから、

 もう要らないでしょ、そう思わないの!?」


「よくも……。 裏切ったのか!?

 だから、JKの青い果実の処女のアルバイトを雇うのは、

 反対だったんだ……。

 身近な危険への知識や注意も足りておらず、

 精神も未熟で、大学も出ていない未成年……、

 だから、熟女こそが最高だと、言ってたわいな!」


「るせェ、ジジイ!

 わたしだって、そろそろ弟子をと考えるお年頃なんだよ!

 世代交代ってのは、自分の仕事を完遂する責任ある行為の中で、

 最も重要な締め括りですらある。

 次世代に伝える、継承する……。

 コレができないから、テメェはいつまで経ってもクソジジイで、

 白ブリーフ一丁のブタブタ野郎なんだ!

 産業を腐敗させる股間の臭いダメダメブタ野郎がっ!!」


「キャハハ、ジジイ、ブザマ~♪

 あと、頭スッカスカwww ブリーフでも被ってろ!

 ソレっ!」


 ずもっ!?


「ぐわあああああああ……!?

 JKのサティーさんに責められるのも、……悪くない。

 ポっ……。」


 何だ、この状況……。

 何、新キャラのドS娘に惚れてんだよwww


「どうも。 ただ、それ以上は聞きたくない知りたくない。

 早く……、愛娘のもとへ帰りたい。

 この男めにも家族がいるので、帰りたいのが本音です。

 先生、どうにかならないでしょうか?」


「とりあえず……。

 まずは、事情を聞きましょう。 治療のためにも。」


 パンツを被った、狂ったブタ野郎に。

 つい、彼を先生と呼んでしまったFhu-氏は、社会不適合者でしょうか?


「そこまでだ、諸君。」


!?


 驚き、桃の木、山椒の木ってなワケで。

 驚きましたねえ……、何がって、い~い質問ですね~?

 ここに来て、怒涛の新キャラですか、なあ、オイ??

 こんな気持ちの整理が付かない、何もかも置いてけぼりにされる

現在だからこそ、詠める。



『音に聞く 心の鐘は 遥かなる 時の人にも 届くものなる』



 知らんがな。 需要があればこそ、供給もある。

 ファンレターと、イラストも、あったら嬉しいなあって。

 そんな現実逃避。


 次に続く!






第06章:

【Fhu-氏、今明かされる世界の秘密!?】



「まずは、自己紹介しておこう。

 世界の秘密を解き明かす者、『モノノカタリテ』とも称される立場でもある。

 カケラを探して、知る人に聞く。

 秘密結社:『ブラックニューワールド』総帥。

 この俺が、“暗黒世界”だ。」


「こ……、これは、ご丁寧に。

 やあやあやあ、Fhu-と申します。

 『モノノカタリテ』という名は、ありがたくも頂戴頂いている

 卑しき立場の者に御座います。

 本日は、如何なご用件で。」


 銀の髪を靡かせる、スペースファンタジースタイルの男が立った。

 確かに、見た目こそ若そうだが……。

 それよりも、彼の後ろに、無数の人影が立った!?


 ザっ!


「暗黒世界様に、栄光あれ!」


 まず、ナヲミ女王様がダブル・敬礼。

 そして、その弟子の若きエナメルダークナースが、その場に拳を突き、

跪いた。

 遅れて、『ブラックダイヤモンド』、『漆黒宝珠』、

『ブラックキングダム』、『ブラックシュヴァリエ』、

『ブラックオパール』、『ブラック(エース)』……。

 とんでもないブラック組織の、それも恐ろしいくらいの面々も。


「この診察室では狭いですね。」


「廊下にまでハミ出て、見っとも無い野次馬みたいだ。」


「場所を変えましょう。

 『黒き天使(ダークナース)』、クイーン・ナヲミ!」


「ハハっ、只今!」


 シュンっ!!


「ここは……!?」


「喜び給え。 組織外の人間では、ここに来たのは、君が初めてだ。」


 ザっ!


 大小の黒い塊、見下ろした人々は悉くが傘下の組織のメンバー。

 その誰もが、片腕、拳をその場に突いて、跪く。

 千、いや二千か、知るには難く、……を優に超える規模だと思い知らされる。

 薄暗く、荘厳で、重く静かな場所……。


「私も初めてだわい! しかし、ナヲミ君、どういうことだ!?」


「るせェ、ブタ!

 ここは、暗黒世界様の暗黒祭儀場。

 地上約4,000km上空の、デモンズUFO内の施設だ!

 我ら、秘密結社:『ブラックニューワールド』の総本山の

 巨大祭壇の前で、頭が高えんだよ、『怪人』風情が!

 わたしの『能力』で、テレポートさせたんだよ、空気読め!」


「キャハハ、無様www」


「話の腰を折られてしまったがね。

 Fhu-、……と、そう言ったかな。

 貴殿の類稀な才能を見込んで、願いたいことがある。」


 その足元に、ブタ。

 白髪の、パンツを頭に被った老紳士が、男に強く踏まれている。

 テカテカの金属光沢ある銀のブーツにだ。


「ぶぎぃぃぃーーー……。」


「うわあ……、そんなセリフ、

 一生に1度で良いから言われたいってヤツぢゃん。

 でも、この男めには、そんな価値は御座いませんよ、閣下?」


「総帥に、ナメたクチ聞くんじゃねえよ、Fhu-!

 総帥が若く見えるからって、ナメんな?

 不老不死の、齢200超の長老で、恐ろしいお人だぜ?

 あと、ブタも黙れ!」


「ピぎぃぃぃーーー……。」


「まあまあ、ナヲミ君。

 君も、欲しいんだろ、“不老不死”。

 ……ああ、そうとも。

 この組織に与すれば、働きによっては、ソレを与えよう。

 不活性化したテロメアを復活させる手段がある。

 どうだ? Fhu-も、そうしないか?」


「あっ、良いですね、不老不死。

 矮小な人類なので、憧れます。 良いなあ。」


「ならば……。」


「ぶぎぃぃぃーーー……。」


「でも、お断ります。」


「ふふ、一筋縄では行かない様だ。

 『ホワイトブリーフ』……、忌々しい『白い家族』どもの

 増して卑しい末端組織の愚者めが、この度、

 貴殿に余計な干渉をしたらしいが。

 精神科医に化け、貴殿、Fhu-の秘密を聴取し、

 それを根こそぎ奪って、貴殿の家族、愛娘ごと奪い去って、

 貴殿に成り代わる気でいたらしい、な。

 そんな賊に、我が組織のスパイとしてのナヲミを傍に置いて、

 混乱に乗じて貴殿をスカウトに来た次第だが。

 ……どうだ? そんな彼らから保護してやろうと、そう言っても?」


「買い被られているなあ。

 重ねて申し上げますが、この男には、そんな価値などありません。

 保護はありがたい申し出で御座いますが。」


「ぴぎぃぃぃーーー……。」


「ふふ……、コレを見ても、そう言えるか?」


 手下の黒いマントのピラミッドヘッドが、何かを持って来る。

 総帥は、それを頭から被る。

 黒い三角頭、全ての辺が金に縁取られたピラミッドヘッドに、

1つ目の紋章が上を向いている。

 ……知らんハズも無い。


「全ては、『黒太陽』の名の下に。

 ……なあ、首を縦に振ってくれないか?

 この星、地球の組織では生温いんだ。

 『ブラックトライアングル』に任せておけないんだよ。

 コトは、実は、宇宙規模の話で、君達の手に負えない。」


「……。」


「それに、君を買い被ってなどいない。

 この暗黒世界は、君が想像できないくらいの、数多くの星を、

 宇宙を、世界を暗黒に染め上げ、征服を果たしたタカ派の王ですらある。

 『黒太陽』様に認められた……。

 どれほど恐ろしい大人物を前にしているか知っているか?」


「Fhu-、いいから頭を縦に振れ!

 暗黒世界様は、総帥は……、恐ろしいお人だ!

 いいか、絶対、断るんじゃねえ!」


「ナヲミ君、静かにしてい給え。 “我が軍門に下れ”。

 ……なんてこと、ブラックトライアングル総統なら、言うかも知れないが。

 地球人贔屓のあの男では、話にならん。

 彼より先に、君の秘密を知りたいものだ。」


「ぶぎぃぃぃーーー……。」


「それよりも先に。

 ……彼を離して頂けませんか? 畏れながら。 彼は、関係ありません。」


 ドカっ!


「やはり、話の腰が折れる。

 このブタ、ナヲミ君、処分してくれ。」


「……!? 総帥、○すまでは……。」


「我々には、時間が無い。

 もう『ブラックトライアングル』が嗅ぎ付けて来ている。

 この小童どもみたいにね。」


!?


「Fhu-、逃げろ! コイツらは、極悪だァ!!」


「マツチヨ殿!? それと、彼のメイドさん達も!?

 『ブラックコンドル』の面々が!?」


「くっ……、コロ。 卑怯な手で捕まっちまった。

 コイツらは、狂ってやがる……。

 宇宙征服を企む、それは恐ろしい宇宙の邪教集団だ!」


「クッコロさん!?」


「「「シスター・ハネコ、お助けを~~~!!」」」


「シスター・ハネコの手下の聖職者さん達!?」


「ここは……? 『2空間』の外か? 何もかも懐かしい……。」


「O.A.まで!?」


 十字架に磔されている!?


「ゴボゴボ……! ゴヒュゥ……!」


「ダゴン教団の魚顔の人まで!? 何で!?

 クソっ、水を掛けてやってくれ! いあいあ! ふたぐん!!」


「ここは、祭壇。

 Fhu-を探す道中、邪魔して来た連中は、皆、磔にした。

 我らが『神』、宇宙最高にして至高の『神』、『黒太陽』をお迎えし、

 『黒の軍勢ストラティア』への忠誠を示すのだ。」


「「「おおおおおおおお!!!!」」」


 ここは、邪悪な狂信者どもが集まった、悪の組織の中枢である。

 そういえば、善悪についていろいろ論じたうんぬんかんぬんが

先にあった気がするけど、ここでは、言ったもん勝ち!


(……でも、どうしよう? 仲間がピンチだぜ!)


「他の連中はともかく、

 『ブラックコンドル』は、仲間じゃないんですか!?」


「実は、組織内でも、派閥があってだな。

 きゃつらは、『ブラックトライアングル』の傘下だから、

 暗黒世界にとっては、敵ですらある。」


「閣下! お願いです。 彼らをお許しください。」


 新しく、十字架に磔にされたクソジジイ。

 粗末なフルチンのまま、ブリーフパンツを頭から被っている。

 メスガキスタイルの元バイト、JK女王様見習いの少女が、

しきりに無様と指差して囃し立てていた。


「ならん!

 これから、きゃつらを処刑する。

 ……それとも、我が組織に協力するか?

 軍門に下るのだ。 忠誠を誓うのだ。」


「くっ……、卑劣な。 とんだ悪党だぜ。

 だが、屈してしまいたくなる。 友のためなら……。」


「さあ、どうする? Fhu-?」


「ズベコベ言ってないで、総帥に忠誠を誓うんだよ、Fhu-!

 そうすれば、命までは取られないから!」


「黙れ、ナヲミ! ……さあ、もう時間がありませんよ?」


「ならば、閣下! 畏れながら申し上げます。

 先から言う通り、この男めには、

 閣下の期待するほどの価値など御座いません。

 なので、1つ、本当にその価値があるかお試しになられてから、

 忠誠などを誓わせるなど自由にされるのは如何でしょう?」


「そんな時間があるか。」


「“世界の秘密を解き明かす者、『モノノカタリテ』とも称される

  立場でもある。

  カケラを探して、知る人に聞く。”

 ……そう、先に総帥閣下は仰せになられました。

 同じ『モノノカタリテ』と出会うことは、希少な機会です。

 一体、閣下は、どれほどの秘密をお知りでしょうか?

 この男も、興味がありますし、コチラからも少し秘密を明かします。

 比べて、不満や不備があるのなら、偽物というレッテルを

 このFhu-は甘んじましょう。」


「面白い。 確かにそうかも知れない。

 その時は、あの連中ごと、君も処刑だ。

 ならば、行くぞ……!

 誰も知らない『神話』を、奏でておくれよ!」



***



 宇宙の創世神話。


「『黒太陽』は仰せになった。

 世界に、暗黒の宇宙に、光あれと。

 しかし、ソレを妨げる邪悪、『白太陽』が現れた。」


「『黒太陽』と『白太陽』があった。

 その2つは、○○、2つで1つの光であった。

 彼らに、善悪も聖邪も存在しない。」


「……貴様、邪教の経典か!?

 いや……、しかし、まさか……。

 邪悪なる邪神、怠惰なる邪悪:『白太陽』が……??

 お前、何を知っている!?」


「続けてください。 質問には、いつか。

 2つは1つ、調和の取れた世界に生まれた『神』。

 “新神代世界”の黎明ともなった、現在に、

 語り継がれる、相反する、太陽の大神様。」


「ああ、そうだとも……(ハァハァ……)。

 究極の『神話』の主役ですらある『黒太陽』は、

 生けとし生けるモノらの真価を求めるため、“進化”を彼らに与えた。

 進化した生命、ソレが、俺達だ。」


「『太陽』は、進化を与えた。 生命に温もりを与えた。

 ソレが時に戦争ともなり平和ともなり、

 善いにせよ悪いにせよ、我らの生きる道筋となっている。

 大いなる方々、偉大なり。

 即ち、2つの『太陽』の導きは、何一つ変わっていないのだ。

 だから、“辿り着ける”と、この男は進言した。

 ここ、舞台は、『地球テッラ』。

 偉大なる中立の『チ』集団が統率者にして、

 『輝きの世代』が1柱:『母なる大地(マザーアース)』の

 正統後継者:『ガイア』様の胸元、……この星で、

 公正なる物語が紐解かれる。」


「な、何だと!? 『マザーアース』!? 『ガイア』!?

 中立の『チ』集団とは何だ!?

 失われた神話について、どこまで知っているのだ!?

 星々が囁く秘話の、幾千を知っているというのだ!?」


「求められた答えは、

 『1つとして成ること(to be as ONE)』。

 だが、それだけでは果たせない。

 求めなくてはならない、『再会(Reunion)』を。」


「い、一体、何だ、何だソレは!? お前、何を知っている?

 じゃ、じゃあ、皇子のことは?

 古代神:『エル』の率いた敗北者については?

 醜く肥え太った、腐ったダゴン教徒どもの罪とは?」


「彼らは……、“イェル”、第8皇子の、『タウロス』の家族です。

 大らかで穏やかな男が生涯愛した、子ども達の子孫です。

 敗北者や罪など、とんでもない。

 第9皇子との戦いに敗れたとはいえ、命を繋ぐ大義を果たした。

 “彼”は、夢の中で、今も待っている。 そして、時はついに来るのです。」


!?


「ピギエエェェェーーーーーー!!」


 ビチビチビチビチ!!


「誰か、半魚人類ダゴンの徒を黙らせろ!

 ……まさか、そこまで知っているとは。

 大当たりじゃないですか。 面白くなって来た。

 『破壊された神話(ロスト・ミソロジー)』の欠片を、確実に秘めている。

 まさか、『神々の王』の話までも知っているのか??」


「……ええ。 ですが、その言葉は選ぶべきではない。

 『黒太陽』様が、お怒りになります。 絶対。」


「えっ、そうなのか? ありがとな、いろいろ教えてくれて。」


「とんでもない。

 『黒太陽』と『白太陽』が、同じ袂を分かった理由です。

 非常にデリケートですので、気を付けてください。」


「ぐはっ! まさか、俺は、今、とんでもないことを聞いている?

 恐ろしくなって来た、恐ろしくなって来たぞ……。

 誰も知らない、禁忌の神話を紐解く感覚……。

 考古学者であった若い頃を思い出す。

 もっと……、もっとだ……。

 では、『皇子』が、黄道十二星座に因んだ12人いることは?

 『王』と呼ばれた『神』の、正統後継者のことだが、

 その遺された王権を巡った、壮絶な争いのことは?

 そして……、神々の戦いにおいては、“必ず”、

 その関連で始まるという事実については?」


「悲しいことですが。 しかし、重要な話です。

 畏れながら、このちっぽけな臣民にもなれぬ矮小な存在から

 申し上げますと……。

 起こるべくして起こった。 されど、じき、終わります。

 悲しみを終わらせる『神話』を、この男は求めているのです。」


「まさか!

 特に、恐ろしく凄惨であった、あの戦いすらもか!?

 第8皇子嫡子と、第9皇子の戦いの意味をも、変えてしまう気か!?

 第10皇子は処刑され、その大いなる名ばかりが広がった。

 第11皇子もまた……。」


「第10皇子については、大きな声では申し上げられません。

 “彼”は、亡くなられた。

 しかし、“彼女”は、○ぬよりも辛い選択をした。

 ならば、報いねばなりません。

 “彼女”の故に、この男は生きているのです。

 ええ、来る、第11皇子、『アクエリアス』もまた……。

 新時代の夜明けを開く!」


 ドサっ……。


「ま、まさか……、

 『創世王(ロード・ゼロ)』が、現れるのか!?」


「分かりませんな。」


 腰砕けになった総帥。 脚もワナワナ震えて、取り乱した。

 顔こそ、ブラックピラミッドで隠されていたが、

彼の動揺が広がって、組織全体が止め処無く狼狽えて、

騒然となった。


「まさか、『秘封神話(イストリア)』の手のものか。

 あの……、底の見えない、奇妙な“女”の……。

 あの、大図書館の女主人の……。」


「最後に。

 幾度と無く、ありがたい申し出を頂いておりましたので、

 お返しとして丁寧に申し上げます。

 『王』のご意向なら、どんな光栄に舞い踊っていたか。

 でも、このFhu-氏、『黒太陽』様にも申し上げた通り、

 “『王妃』”様にお世話になっております者です。」


 ブクブクブク……。


「総統!」


「総統!」


「総統!」


 この日。

 地球外で停泊中の、揺れるデモンズUFO内で。

 秘密結社:『ブラックニューワールド』が壊滅寸前に陥った。


 そして、ソレだけでは終わらなかった。



***



 ドカァン!!


「総統! 『ブラックトライアングル』の襲撃です!」


 ドカァン!!


「総統! 『ダゴン教団』らしき集団からも攻撃を受けています!

 くっ……、恐らく、地上からの精密対空攻撃です!」


 ドカァン!!


「シスター・ハネコが来たよー。」


「キャハハ、何で、お師匠様来てるの~♪」


 大混乱。

 傘下の組織の面々も含めて、戦闘員が行ったり来たり、

あちらこちらで銃撃戦が始まっている。

 その総統閣下が気絶してしまったので、もう最悪な状態!?

 なら、十字架に磔になった皆を助けないと!


 ドカァン! グラグラ……。


「どこだ、暗黒世界ィーーー??

 貴様、地球には不可侵の条約があるだろうがあああ!

 前にも、あの憎き、『ハナミガワ』の蛇男に手酷くやられただろうが!

 余計なことを!

 このブラックトライアングル総帥が、直々に、制裁を下してくれる!」


「『ブラックコンドル』メンバーが捕らえられているハズだ!

 探し出せ!

 そして、喜べ、隊員ども!

 本作戦が成功した暁には、我が『ブラックグロウリー』に

 追加予算が賜れる!

 久々に新しいベッドと個室が与えられるぞ! 勇め!」


「「「おおおおおおっっ!!!!」」」


 ダダダダダダ……!!


「……何か、決戦場になっているんだけど。

 逃げるなら、急がないと。」


「Fhu-! 十字架の連中なら、任せな!」


 シュンっ!


「これが、わたしの『能力』さ。

 いわゆる、超能力の一種だ、驚くなよ。

 『人生の(リーベンス)指針(リヒトリニーエン)』、

 “カルテに情報を記載された人間を操る力”さ。」


「左様。

 ナヲミは、医師試験を合格できなかったが、

 看護婦ナースとなることで、その類稀な能力を活かすことができた。

 “カルテに情報を記載された人間を操る力”、

 自在に並走、回転、振動運動はもちろん、コピー&ペーストで

 位置も瞬間移動させられる、○スメエディットシステムも

 ビックリの超能力。 私の自慢の女王様じゃよ。」


「しゃしゃり出てくんじゃねえ、ブタ!」


「ブヒィ! 三途の川の祖母が見え~る!」


 なるほど、何度も攫われて場所を転々としても、

幾度と無く、あの精神科診察室に引き戻されるワケだ。

 そんなことよりも、クソジジイも元気そうだ。

 そして……。


「助かったぜ。 だが、ここももう安全じゃない。

 この俺、マツチヨ様が、上位組織に危機を知らせた。

 じきに……、ブラックトライアングル総帥の、

 “必殺技”で全てが破壊される。」


「クっ、コロ……。

 何てこった、どんだけ修羅場なんだ!

 脱出するぞ、Fhu-!」


「「「シスター・ハネコ、お助けを~~~!!」」」


「助けるよー。」


 ドカァン!!


「キャハハ、無責任に他人のUFO破壊するの、

 キモチイイ、キモチイイ、ギモ゛ヂイイイイイイ!!!!」


 ドカドカァン!! ドカァン!!


 グラグラグラ……。


「くっ……、ここは?」


「O.A.氏! 大丈夫か? 気は確かか?」


「あ、ああ……。

 また助けられたらしい。 ここは、『2空間』でないな?

 では、どこだ?」


「“黄泉平坂”です。」


!?


 突然現れた、椿の茂み頭。 その腰に刀、手がミイラ!?

 神出鬼没!?


「紅白胡蝶の侘助と申します。

 Fhu-殿には、再びですな。

 先は、ご用意頂いた久々のお供物に夢中で、

 肝心な貴殿を忘れてしまいました。 失敬。

 しかし、今回は、何と……、おお、たくさんおりますな。

 折角ですので、有能な我は、皆様を素敵な国へと

 お導きしましょう。 ここからお連れします。

 何、遠慮は要りません。」


「いえいえ、畏れながら、ご遠慮させて戴きます。」


「どうした、Fhu-!

 誰だか知らんけど、

 折角、逃げ場所に案内してくれるんだろう?

 何で、断るんだよ!」


「黙らっしゃい、若造がァ!

 『ブラックコンドル』のマツチヨ殿とて、

 良い悪いの判断くらい付けなさい。

 この方は、良い大人ですが、悪い誘いです。」


「どっちだ!?」


「いけないんだー、死んでる人がこんな所にいるー!」


「シスター・ハネコ、聖水です!」


「土葬にしますか? 火葬にしますか?

 シスター・ハネコ、いけない人がいます!」


「処刑だよー。」


「キャハハハハハwwwwww」


 シスター・ハネコ組+ダークナースJK、出現!


「今、“いけないんだー”って言いましたぁ?

 ソレって、私のセリフだから、マネするのは、いけないんだー。

 ……あっ、オットちゃん、見っけ。」


 空間を歪ませて、『2』様、出現。


「う、うわああああああ!!」


「逃げるのは、いけないんだー。」


 O.A.氏、取り乱して叫んで逃げた。 見えなくなった。

 ……と、思ったら!?


 ジャキィン!!


「死体がバトルするのはいけないよー。 処刑するよー。」


「「「聖水だ、聖水だ!」」」


 バシャバシャ!!


「今更、乾いた体と心の我に、何を振り掛けるか。

 ははっ、貴様らも歓喜に震えろ、遠慮するな。

 我らが大神様のおわす、『黄泉国ヨモツクニ』へ、招待してやろう。

 大神様もお喜びになる。」


 紅白胡蝶の侘助。 名のある、最強のヨモツシコメが1柱。

 さる高貴なる『神』を捕えるために、特別に誂えられた、

雷電纏う刃を操る、恐るべき最恐の死者……。


 ドカァン!!


「くぅ……、まさか、トップ直々に来るとは。

 ブラックトライアングルゥゥーーーーーー!!」


「貴殿も老いた。 勝負を付けようか、暗黒世界!」


 逞しい男と男の、肉と肉のぶつけ合い。

 その衝撃波ときたら……、まるでさながら総合火力演習で見た

戦車の本物の砲撃、躍動感、そのまさかの応酬、連続的な破壊、

決戦、暴力。

 本物の男の戦いが、ここにある。



***



「まさか、ブラックトライアングル総統が!?

 なら、俺も……。」


「マツチヨ、無理だ。 我々は、撤退するぞ。」


 父親の様な表情を見せた大佐は、まだ安全そうな区画まで

案内してくれた。

 彼の部下は、日頃、古びて臭い個室での共同生活という

苦行に耐え続けていたからか、どこの誰より屈強で

頼り甲斐のある兵士に思えた。


「脱出のチャンスは1度です!」


 マツチヨ青年と配下の女性達も乗った。

 大佐率いるブラック組織のメンバーは、これであとは逃げるだけだ。

 脱出ポッドを前にして。


 ビー! ビー!


「定員オーバーだと!?」


「おうっ、お約束だな。

 レディーファーストする男は、やっぱカッコ良いわ。

 ……貴殿らの、安全と無事な旅を祈りまして!」


 ダブル・敬礼!


 プシュゥ……。


!?


 あの窓の向こうで、叩く腕が見える。 叫んでいる。

 母なる青い地球へ向かって、宇宙空間に射出されるポッド、

その中で泣き叫ぶあの青年がさ……、彼らの未来なんだ。

 ブラックなんて名前が付いているけど、素直じゃないだけで、

皆、凄く良いヤツばかりさ、……『黒太陽』様みたいに。


「後悔は無いさ。」


「つまんねー寸劇は良いから、早く縄を解いてくれる?」


 そうそう。

 さすが、大佐だよなあ……、敵対組織のメンバーだもん、

ナヲミ女王様と白ブリーフハゲは、キッチリ、縛っておくなんて。


「さすが、『黒太陽』様の軍勢の人。

 敵味方もキッチリ区別して、味方に情け、敵に冷遇はお約束。

 非道には、男も女も無いものなwww」


「くっ、応援要請したら、こうじゃぜ?

 “『白の家族』は、『黒の軍勢』の件については、不干渉です。”」


「ハハハ、冷たい組織だなあ、ジジイwww

 さすが、怠惰なる『白』だ!」


「いや、仕方の無いことです。

 怠惰じゃなくて、危機管理が厳格な方々ですから。

 そもそも……、最初から、余計な干渉しないのが、

 彼らの美徳でルールなのに、何故破った、ジジイ!

 手柄欲しさに欲出したバカが悪い!」


「ジジイ、悪くないもんっ!」


 ドカァン! ドカァン!


「このままじゃあ……、船が破壊される。

 さすが、2人の総帥レベルが戦うとなると、タダじゃ済まない。

 一騎当千のド級戦艦が、真っ向からぶつかるパワーでも

 説明が付かないぜ?

 変態ジジイを蹴ってる場合じゃない。」


「しかし、脱出の方法が……。」


 考えてみる。

 今、地上4,000km上空、宇宙空間に浮かぶ、

この壊れ行くUFOから、逃げ出す方法は……?

 永遠の苦痛を受けるリスクのある異次元、『2空間』……。

 ありがたい申し出の行き先であるアソコ、『黄泉国』……。


「……どちらも危険だァ!!」


「へへっ、だが、Fhu-、時間が無いぞ?」


 これまた丁寧に縛られていた、クッコロさん。

 さすが、1流エージェント、冷静な判断が冴えている。


 ドカァン!!


「アレは何だ!?」


「まさか、『ブラックニューワールド』秘蔵の、生物兵器……。

 『チャッパチチュッププス・エイリアン』!!」


「チャッパチチュッププス、チャッパチチュッププス!!」


 地上では聞くこと無い、時計みたいな鳴き声を上げて。

 ハゲた唐辛子みたいな鎌首もたげて、ゾっとする視線で見下ろす。

 バカ・デ・アホ……、ユニークな名前のスペイン料理みたいな

香ばしい香りを振り撒きながら、ダラダラ零す酸性のヨダレが

UFOの床を酷く腐食させる。

 人類をベロベロナメ回す、人懐っこい、恐ろしい『改造宇宙怪獣』でもある。


「くっ……、

 こんなに破壊され尽くしたら、コイツだって脱走するわ。

 ハッキリ言って、チェックメイト、これじゃあ、もう逃げられない。」


「ナヲミがそう言うなら、もうおしまいじゃあああああああ!

 だから、私はできないって言ったんじゃあああああああ!」


「良い歳こいて、情けねえ!

 よっしゃ、だったら、俺がヤツを食い止めるぜ!

 廊下の向こうに、もう1機、脱出ポッドがあるかも知れねえ。

 ソレに賭けろ! 早く! 行けえええええええ!!」


「クッコロさん!?」


「大丈夫だ。

 ここで、最高にクールで、気の利いたBGM流しても良いぜ?

 俺は、運命に屈さねえ、○されねえ。 また会おうぜ!」


 1本の親指が立った。

 だから、Fhu-氏も立たせた。

 皆、人知れず、親指を立たせていた。

 運命のルーレットが、今、回された。


 ドカァン! ドカァン!


「ふふ……、アンタ、Fhu-、運が良いよ。」


 そうナヲミ女王様が声にしたことに、驚いた。

 地上4,000km上空、宇宙空間に浮かぶ破壊されたUFOの中。

 中央の区画は、筋肉ボス同士のバトルフィールドと成り果て、

僅かな欠片を足場に、究極の極限ドッカンバトルを繰り広げている。

 だから、もう後の無い途切れ途切れの道、巨大UFOの破片の中で、

脱出手段なんて無い。


 ドカァン! ドカァン!


「カルテがさ……、まだ残っていた。」


 逃亡中、燃え盛る炎の中で、ほとんどが焼け焦げてしまった。

 しかし、残った数枚に……、Fhu-氏のソレがあった。


「コレで……、

 わたしの『能力』、『人生の(リーベンス)指針(リヒトリニーエン)』で、

 アンタを地球に送ることができる。」


!?


「やった! 良かった! じゃあ、皆で……。」


「生憎、アナタのだけなんじゃよ、Fhu-。

 皆は、ムリじゃ……。 私ら医療関係者のカルテは無い。」


「そういうこと。」


「えっ……、何で??」


「だから、アンタだけ、逃がしてアゲル。」


「冷静になって考えてみたら……。

 私もまた、『白の家族』でいたいものな。

 全ては『白太陽』様のため、『黒太陽』の信奉者に

 Fhu-という『神話論者モノノカタリテ』を

 奪われるくらいなら、私がなりたかった。

 いや、成り代わってしまいたかった。

 羨ましかったんじゃよ……、私にも……、JKの娘がいた。

 私が傲慢であったがために、妻と逃げられてしまったがね。」


「教授……。」


「だが、このブタが醜い嫉妬で、内容を滅茶苦茶に書き換えたから、

 Fhu-は、元にいた国や地域はおろか、家にだって戻せない!

 何てこと! これじゃあ、わたしの『能力』だってムリだ!

 安全な場所にテレポートさせられると限らない。

 火山の火口や深海の底、地層の間ならまだマシ、

 十億年の永久凍土の中に閉じ込められるかも知れない。

 これじゃあ、ここで○ぬと変わらない! クソがァ、このブタ!」


「ブヒィ!」


「このUFOの欠片でしかないこの区画は……、

 残すところ、あと、2時間ってところか。

 空気も漏れている、もしかしたらもっと少ないかも知れない。

 ここで皆オダブツ、ここで終わりか。

 このブタさえ、余計なことしなければ……。」


「万事休すか……。」


 ドカァン! ドカァン!


 一方、宇宙空間では。

 星降る究極決戦場で。

 しばし、2人の男、手と足を止めた。


「何ですか? まさか、『白の家族ファミリア』の巫女!?

 ブラックトライアングル!

 2人で争っている場合ではありません!

 怠惰で邪悪なる『白太陽』の信徒の中でも、最悪の戦士……。」


「ああ……、暗黒世界。

 まさか、アレが噂の……、ヤツら、『ファミリア』の巫女か。

 我らが同胞を、幾千幾万も屠って来たという……、

 正体不明の超絶危険生命体……。

 見ろ、笑っている。 骨のある敵を、久しぶりに見たな……。

 果たして……、総帥レベルの2人で倒せるか??」


「……バトルしてるですか?

 悪いですが、“日楽ヒラク”に滅殺されてくださいです。」


 破壊の限りを尽くされたUFOの上に突如現れた、白い影。

 ソレは、幼い声ながら威圧感の塊でもあり、陽炎の様に揺らめく、

物理現象を一切無視したバケモノ。

 言葉が通じるからと言って人間と思わない方が良い。

 その小さな手には、たった1振りの刀、柄に無表情のドクロがある。


(ソレは、星屑漂う海を超えて無限の敵を切り裂いてやって来た。)


「シンジダイノ、ヨアケヲキリヒラクデス!!」


 ドッカァァァンっっっ!!


 グラグラグラ……。


 船内。 ……と言うには、激しく損傷しているから、カケラの中。


「戦いが激しく……。 ここも、もう限界か?」


「ならば、私のがある! その燃え残った私のカルテを使いなさい。

 私は、『新生・ダゴン教団』の信徒です。

 だから、私のカルテには、私の故郷の記載がある!

 そこに瞬間移動できれば……。」


!?


「そういや、さっきから付いて来ていたな、魚の人。」


「このヌルヌル、マスコット枠のつもりだったが、

 まさか言葉が喋れたのか?」


「貴様……、魚マン、そうやって美味しい所を総取りってか?

 その減らず口から串刺しにして、焼き魚にしてやろうか?

 『神の語り部』を巡る争奪戦が今だってのに、

 そう易々、オマヌケで、敵側に渡すものか!

 コッチだって、命が懸かっているのに!」


「先からの、皆様の“真心”を拝見させて頂きました。

 地上の人間というものは、野蛮で愚劣な連中であるとばかり

 今まで信じておりましたが……。

 他者を思い、他者のために涙を流せることを知りました。

 ならば……、我々と同じです! 私を、信じてください!」


「何を信じるんだ? そもそも、何ができる、テメェ?」


「古代兵器:『機械の(デウス・エクス・)女神(マキナ)』。

 私の故郷にあります。

 もはや『上位存在』と化した総帥同士の究極バトルを、

 アレの力があれば……、止めることができます。

 『黒の軍勢』……、彼らは忌むべき敵と考えていましたが、

 全てが全て、決してそうでなかった。

 皆さんを見て、そう思いました。 そして……。」



『彼らは……、“イェル”、第8皇子の、『タウロス』の家族です。

 大らかで穏やかな男が生涯愛した、子ども達の子孫です。

 敗北者など、とんでもない。

 第9皇子との戦いに敗れたとはいえ、命を繋ぐ大義を果たした。

 “彼”は、夢の中で、今も待っている。

 そして、時はついに来るのです。』



「そんなことを言ってくれた『地上人』は初めてでした。

 我らの『伝承』との相違点、その真偽はどうあれ……、

 いいえ、興味深いので、我らの長の前でも話して頂きたいのですが。

 アナタは、中立的な、我らの友の様だ。

 だから、助けたい。 アナタ達も。」


 パクパクした、どうも緊張感の無い無我な顔なのは事実だが。

 魚の人の覚悟は分かった。


「よっしゃ、“ムニエル”、テメェの言葉、信じるぜ!

 故郷の『ルルイエ=ブルーアンディゴー』へ、

 Fhu-を連れて逃げな! テレポート!」


「えっ、心の準備が……!?」


 そもそも、この魚の人、ムニエルっていうんだ……。

 笑っている場合じゃないけど。

 いや、そもそも、何で、魚の人のカルテがあったんだ?

 魚の人も、メンタル的にいろいろあるのか??


「好きだったよ、Fhu-……。

 また会えたら、良いな。

 お前を今、ここから逃がせることに、誇りを覚えている。」


「ナヲミ女王様……。」


「私は、お前なんか嫌いだ!

 でも、娘さん達と幸せにな。 ……あと、ゴメンネ。」


「くっそ、ジジイ……。」


 こんな時に、乱暴なツンデレ女王様や老紳士から、

突然の告白と不器用な優しさと素直さを見せられたら、

……ホロリと涙腺に来る。

 何もすることもできず、魚の人と共に、薄れて行く。

 こんなテンションだからだろう、やけに遅く感じる。

 瞬間移動の意味とは!?


「Fhu-、お前の愛娘達はっ、妄想じゃないっ!

 現実に……、実在しているっっ!!」


 シュンっ!






第07章:

【Fhu-氏、

 本当に困った時は“神頼み”、ありがとうございます。】



「絶対、助けるぜ。 友よ!」


 傷だらけでも、この手に掴みたい光がある。

 決して、叶うことが許されなくても、助けたい。

 仲間がいるんだ!


「地上4,000km上空?

 どことも知れない宇宙に浮かぶ壊されたUFOから、仲間を救いたい?

 でも、『黒の軍勢』の『地上人』と『宇宙人』だろ?」


「それにしても……。 臭っ、臭っ!

 お前、さては、『ヒラサカ』の者と言葉を交わしたのか!?」


「生臭いヤツに言われたかねー!」


 ここは、『ルルイエ=ブルーアンディゴー』。

 彼が言うには、人間でいうところの、南半球は、

ニュージーランド○〇km南東沖(詳細な場所は伏せる)の、

驚くこと勿れ、秘密の海底都市なのだと言う。


「急がねば。 残り、1時間も持たないでしょう。」


「時間概念がザックリな気がするけど、急がねばならんのは、

 俺も同意見。」


 最初に区役所に行ったけど。

 けんもほろろ、彼らは上層部に取り次いでくれもしなかったし、

古代兵器を使用する許可など夢のまた夢。


(それはそうだ。

 彼らにとって、『地上人』はもちろん、『宇宙人』や、

 特に『黒の軍勢』は、避けるべきトラブルの種だから……。)


「地上の方ですね?

 『ルルイエ=ブルーアンディゴー』は初めてですか?

 昨今訪問する観光客からは、“美し過ぎる海底都市”、

 “○ぬまでに見ておきたい絶景”と称賛されています。」


 『ルルイエ=ブルーアンディゴー』、その意味は、

“遥かなる群青色、美しきルルイエ”。

 空気の泡に包まれた海底都市で、オープンカーに乗って

観光案内を受けている。

 ガイドのお姉さんは、昭和のパーマヘアが似合う、

いわゆる魚顔系ピチピチ美人で、意外にもオリエンタルな雰囲気もあって、

実に魅力的だ。


「お客様は、Japanから来たと聞きましたが。

 アニメで見たんですけど、実際のガイドさんって、

 こういう制服で正しいのですか?」


 くるりん♪


「へー、日本のアニメって、海外でも人気なんだー。

 うん、そうそう、ガイドさんの制服って良いよねー。

 まさか、噂に聞く『ルルイエ』って、こんな明るくて

 良い感じの近代的な観光名所なんだ……。」


「いいえ、客人。

 『ルルイエ』は、古代から続く、由緒ある我らが聖なる地。

 ここは、その『ルルイエ』から派生した、新都市。

 私達だって、進化や進歩もあるんです。」


「なるほど、未来式ニュータウンってところか。

 ガイドさん、可愛ええなあ……。 小魚系?」


「そんな場合じゃないでしょ、Fhu-!

 急がないと……。

 古代兵器の使用許可を得なければ、彼らを救出できない!」


「そうだ! しかし、この都市で最も速い乗り物がコレって。

 こんなの、観光用オープンカーじゃないやい!

 『玉座付きバギー』じゃないか! ムニエル君、どういうこと!?」


「都市内なので、制限スピード以上では走れませんぜ、旦那?

 ヒャァ!」


 モヒカン頭の魚顔のお兄さんが、ハンドルを握ってくれている。

 優秀で真面目な運転手なのだが、モヒカンなのと、

頻繁に口にする“ヒャァ”と“ヒャッハー”が気になる。

 ○帝十字陵で、働いてみないか?


「私達の新都市で、近年、観光の目玉として導入されました。

 安定安心のJapan製、中古車ではありますが、

 海底の泥の上でも、玉座の方の不興は買いません。」


「○帝も安心クオリティーかァ……。 さすが、日本製。」


「Fhu-さん、観光に来たのではありません! もっと、緊張感を!」


「だったら、緊張感のある顔せんか! バカモン!

 呆けた顔で口をパクパクされると、集中できんのが人類なんじゃわい!

 しかも、さっきから、

 安全運転でゆっくりで(悪く言うならモタモタで)、

 緊張感なんか抱けるかってのwww

 あ、アレ……、そういえば、さっきから目にするけど。

 そこら中あちこち、建物にも引っ掛かっている

 緑色のピラピラしてるの、アレ、何?」


「やはり気になりますか。

 アレは、海藻です。

 『ルルイエ』でもそうですが、よく自然に生えて来ます。

 古来より色々な所に引っ掛かったり付着したり、

 そして不気味に垂れ下がって、見た目が悪いのですが、

 除去しても除去しても勝手に生えてくるので、

 誰もが放置しているのが古くからの伝統でしたが。

 実は、近年、お客様と同じく、Japanから来た方が、

 同じことを気にされていました……。」


「海藻か。 じゃあ、食えるのか?」


「ふふ。 ええ、全く同じことを仰られたとのことで。

 今では、その方々の町へ、独占的に輸出させて頂いております。

 そのお陰で、随分と視界がクリアになった上に、

 私達の都市も儲けて社会保障が手厚くなりました。

 『ノーリ』と呼んでいまして、アチラでは食用だとか。」


「『ノリ』? ああ、『海苔』か。 へー、目の付け所が良いよね。

 Fhu-氏も大好物さ、特に寿司とかモチに巻くとかさー。

 それで、どちらもWin-Winってワケかあ。」


「ええ、お陰で、近年、急激に経済的な成長の恩恵を受けています。

 ですが。

 ……『ルルイエ=ブルーアンディゴー』に住む者としては。

 どうしても、外部の地上人が苦手なのです。

 そして……、やはり、複雑なのです……。」



 『ルルイエ=ブルーアンディゴー』に伝わるお話。


 “彼”は、夢を見て待っている。

 しかし、そんな永久にも続くと、不安ばかりを掻き立てるほどに、

永く永く、死とも形容できる深く暗い眠りに就く“彼”の体は、

退廃なる不足による腐敗を伴う衰退に蝕まれていた。


(明日……、いや、そのさらに明日か。

 ……もっと、もっと。 ……もっと先?

 いや、……来ないのかも知れない。)


 希望が失望に変わり、失望が絶望に変わり。

 もはや、生きているかどうかすら、人々は知らない。

 少なくとも、“贄”を貪ることが続く間なら……。

 束の間の、稚拙で矮小で、同時に冒涜的な安堵に満たされるのなら。



「『神官』らは、言います。

 『偉大なる神』は、ご存命であると。

 故に……、選ばれた『生贄』を食らうのであると。」


 ゾクリ……。



 彼ら、人々は、『神官』らは。

“彼”の命が尽きぬ様に、そして、未だ“彼”が健在であると

一時、安心するために。

 “生贄”を差し出した。

 “最も美しい巫女”……、

心からの信仰を捧げる彼らの中で、最も優れるが故に選ばれた彼女の命を、

“最高の供物”として差し出し、“彼”の命を繋ぐ……。


――それは、何千年もの昔から、続けられていたこと。



「……今は、廃れた制度です。

 そう、たった20年くらいまでは、平然と、当然と、

 行われて来たのです。」


「なるほど。

 ソレが、ここの宗教的な社会の営みで。

 そして、信仰の在り方だった。

 陰鬱でありながら悲壮な、しかし、1つの愛のカタチ……。」


「ええ。

 しかし、ソレが変わった。

 ある、異国の、地上の『邪神』の襲撃が切っ掛けでした。」


!?



 その『邪神』は、あろうことか冒涜的にも、……“生贄の巫女”に恋をした。

 彼女の命を救うため信奉者の民草と戦い、またあろうことか、

彼らの偉大なる都市:『ルルイエ』を半壊させた。

 しかし……、全ては、終わってしまった後のことであった。

 異国の『邪神』は、ただ……、彼女との永遠の別れを悲しんだ。



「……語れるのは、ここまでですね。

 ですが、大きな声では言えませんが、そんな『邪神』の

 素直で純真な愛に、ここの人々は心を打たれて。

 眠れる『偉大なる神』様の許可も得て、その生贄制度を

 根絶するに至ったのです。」


「ええ……。

 未だ、『ルルイエ』では、その『邪神』に破壊された街並みは、

 復興途中と聞いています。

 我々が、『地上人』や異国に忌避感がある理由の1つです。

 ですが……、我々にも心があります。

 悲恋……、『邪神』が流した優しい涙の意味。

 『偉大なる神』や『神官』を恨むことなく、

 ただ、ただ……、彼女と出会わせてくれたことを、

 共にいられたひと時を過ごせたことを……、感謝していた、そうです。

 ……って、まだ議事堂に着かないのか?

 運転手君、急がせてくれ! もうっ、緊張感が無い!」


「すまねー、旦那。 今、カタクチイワシが横断してるんでさー。

 もう数分、待ってくれ。 ヒャァ!」


「純愛!? クソ……、涙腺が緩い。

 そんな悲しい話が……。 どこの『邪神』だ! 褒めてやる!」


「旦那ァ、着きましたぜ?

 ペンギンが横切ったから、カタクチイワシが軌道を変えたんだ。

 議事堂から少し離れていますが、お急ぎなら、走って余裕です!」


「でかした!」


「『クソ野郎(FUKI)』。 または、『吹鬼フキ』……。

 そして、その真の名を、『オホカゼフクヒコノカミ』……。

 その異国の『邪神』こそが……、私達の仇敵、邪悪なる白い風。

 生活を一変させた、傲慢なる災厄。 私達、全ての信奉者の、絶対悪。」


!?


 ガイドさんが心境な顔つきで口にした言葉。

 不思議と聞き慣れた言語体系の、『邪神』の名前。

 最後に、“カミ”付いていたよね……。


(……Fhu-氏は、聞かなかったことにしたい。)


「ダメだダメだァ!」


「そんなことに、あの古代兵器の使用は許可できない。」


「いくら、『全権大使』のムニエル君の言葉でも、

 絶対にあってはならない!」


 青色カラーメインの、荘厳で豪華な竜宮城みたいな議事堂の中。

 恐らく、お偉いさんの方々なのだと思う。

 どれも魚な顔で、区別が付かないと言えば、失礼だけど、

申し訳無い、このイエロー猿顔めはそんな感想。


(コイツ、マジで、『全権大使』だったの……??)


「『黒の軍勢』だろ、そいつらは。

 幾度と無く、“軍門に下れ”、“忠誠を誓え”と要求する、

 恐ろしい連中だぞ! 忘れたのか!」


「で、ですが、彼らは違いました!

 私達を助けるために、自らの命の犠牲をも覚悟して……。」


「心ある人類であることは認めよう。

 確かに、助ける価値がある様子だ。

 しかし!

 あの、我が国の地下から引き揚げられた、

 『機械の(デウス・エクス・)女神(マキナ)』は……。

 我らが、『偉大なる神』のために使うべきだ!」


「そ、そこを、どうか、どうか……。」


「あら? お困りですか?

 勝手に聞いてしまって、ごめんなさい。

 でも、私なら、お力になれますと進言致します。」


!?


 曇りガラスの向こう、小さな会議室の中から。

 澄ました態度の、美しい声の人影から。


「助けてください!

 時は、刻一刻と迫っています! もしかしたら、手遅れかも知れない!

 破壊し尽くされたUFOに、仲間がっ! 友がっ!

 取り残されているんです!」


「き、君!?

 しかし、そのUFOが、どこの宇宙空間に、

 そもそも座標はおろか、方向も距離すらも分からないではないか。」


「地上約4,000km上空です!」


「黙れ、『地上人』! その“約”がそもそも曖昧なんだ!

 困難通り越して不可能では、手の打ち様が無い!」


「私達の“力”なら、可能です。」


!?


「……ですが、その願い、叶った暁には、

 私のお願いを1つ、聞いて頂けますか?

 『ルルイエ=ブルーアンディゴー』の皆様?」


「くっ……。

 アナタが如何に尊く気高く、尊敬に値する異国の『神』でも。

 我々の沽券に関わる……。

 あの、忌むべき『邪神』、『オホカゼフクヒコノカミ』の使者。

 かの、『桜見川(ハナミガワ)』の『全権大使』様では……。」


「お願いしまァす!

 このムニエルは、約束したんです!

 命を懸けて、逃がしてくれた新しい友人達に、

 報いたいんです、救いたいんです、笑顔で再会したいんです!

 この私ができることなら、何でもします!

 どうか、どうか、友を……、助けてください。」


「お、俺からも……、どうか!

 アイツらを、助けてやってくださいっ!!」


「聞き届けました。」



***



 本当に困った時は、神頼み。

 心から、感謝を捧げます。 ありがとうございます。


(まさか、新手か!?

 暗黒世界! ○ぬな! 我との決着は着いていないではないか!

 クソ……、『ファミリア』の巫女め……。)


(どちらも、矛をお納めください。 『ハナミガワ』の者です。)


(『白太陽(センセイ)』……、告げ口したのですか。

 なら、ヒラクは引きますです。)


 地上約4,000km上空の、どこか。

 宇宙空間で鉄屑と化したUFOが、まだ辛うじて浮かんでいる

ここに、何が来た!?

 まずは、猛き強者が激しい戦闘を終結させた。


(ほほう……、『ハナミガワ』。

 我も小耳に挟んだことがある。

 どうした? 『黄泉国』に迎え入れよう。)


(尊き方、大神様から帰国せよとの言伝があります。

 どうか、お帰りを。)


(『ハナミガワ』。 いけないんだー。

 地上に、『タカマガハラ』をマネた建国を進める、

 不逞な邪教信奉者ども、いけないんだー。

 オットちゃんを、返してよ!

 オットちゃんは、私のモノなんだよ?)


(畏れながら。

 ご意見は、我らが“小国”にまで、ご足労願いたく。)


 爆発する……、宇宙空間なので、音は無い。

 しかし、悲しくて切ない歌が、BGMに欲しい。

 地球だ……、母なる我らが眼下に星が見える……。

 ソレは、トテモ、美しい。


(まさか……、本当に、助けが来た。

 私と同じ……、『超能力』なのか??)


(ヒィィ、○ぬかと思ったわい!)


 爆発の衝撃に乗って、破片は流星に変わり、地球の空へと降り注ぐ。

 砕けて行く、壊れて行く、あの時皆が過ごした、悪夢の祭壇が、

皆で祈った宇宙征服の野望が……、全て。


(しっかりしろ、助かるぞ、暗黒世界!)


(ゴフ……。

 何故だ……、何故、我を助ける、ブラックトライアングル?

 何故だ……、まさか、これこそが、無償の愛……。)


(クッ、コロ・・・。

 雑に纏めないで! かかじらないで!

 何で、総帥2人と、モンスターと運ばれてんの、俺!?)


(チャッパチチュッププス、チャッパチチュッププス!!)


 皆、地球に還って行く。

 母なる地球、どんなに遠く離れていても、ずっと彼女はそこにいる。

 どんな誰をも、優しく抱いて迎えてくれる……。


(シスター・ハネコは、『2空間』に捕まっちゃったよー。)


(((うわーん、とほほ、お助けをー!)))


(キャハハハハハハwww お師匠様と一緒だから、大丈夫~♪)


(彼らは……、まあ、大丈夫ですね。 『教団』は、タフですものね♪)


 遠い地上に。

 不時着した小さな島に、脱出ポッドの群れがある。

 そこで、人を想い、嘆いて叫ぶ若者がいる。

 彼は、『悪魔』の血の入った忌み子と呼ばれているが、

今そこで、彼ほどに、人の心を動かす者はいなかった。


(ええ、人の心を動かすことに、貴賎も、善悪も、真偽も無いのです。

 『悪魔』の運命を背負った青年にもまた、祝福あれ。)


 若くして、『神』の名を背負うことになった“彼女”もまた。

 己の運命と心に従い。

 小さな奇跡を起こしたのであった。



***



『Fhu-氏は、こうして、謎の『神様』に、

 お願い事を聞いて貰うことに成功したのでした。』



「これまた……、凄まじい誇大妄想ですな。

 それに、『ルルイエ=ブルーアンディゴー』に、

 謎の組織:『ハナミガワ』ですか?

 随分とまあ……、中二病展開を書き連ねたものだわ。

 アナタには、今、治療が必要です。」


カチカチ……。


 照明の蛍光灯は無かったけど。

 ここの文明独特の、光るサンゴか不思議な貝殻みたいなのを

使っているのかね?

 古いと言えば古代都市だけど、このニュータウンの建物は、

どれも真新しくて、居心地は悪くないけど良くもないなんて、

贅沢を言うべきではないんだけどな。

 これから歴史を築き上げて行く新しい大学の構内にあると聞く、

国立大学病院の一室を借りて。


「つまらん天丼ですな、教授? いつまでやるの?

 さて、今度は、コチラが上の目線でお話しできるとは。

 先生、無事で何よりでした。」


「若造が……。 感謝はしないぞ。」


「名門、丁大の名誉教授先生だろうが、ブタ!

 ちゃんと、感謝は言葉でしろ!

 しかし、わたしを庇って負傷したのは、大したものだったぞ。

 ……男らしかったぞ、オイ。 惚れ直すところだっただろうが!」


「えっ……、ナヲミ君!?」


「相当に病んでますよ、先生。

 こいつァ、いけねえ、恋の病だwww」


ドっ!


 『全権大使』のムニエル君も、笑うと出るじゃん、笑顔、表情。

 彼らの人種は、どうやら表情が変わりにくいタイプらしい。

 でも、心ある人であるのは、全く本当の様だ。


「うむ……。 さて、これからどうしたものか。」


 エナメルダークナースコスのナヲミ女王様が呟いた。

 傍らにいるジジイは、包帯男だが心配の必要は無さそうだ。

 女王様が蹴飛ばせばしばらく呻く程度だし。


「『ブラックニューワールド』が、壊滅してしまった。

 組織に貢献して、わたしも不老不死になりたかったのに。

 そして、永久に美しく、美し過ぎる美魔女として、

 世界を征服してやりたかったのに。」


「……それは、面白いけど。 征服は、ちょっと、やだな。」


 彼女は熟に熟した百戦錬磨なので、セクシーさが際立っている。

 ただ……、30年前の彼女だったなら、どんな新宿すらも

もっと支配の楽園への変貌をも欲しい儘にできたのに。


(クソっ! 何で……、応援したくなっているんだよ。)


 チラチラと視線に入るソレが、憎らしい。

 バイタリティーと野望に満ち溢れた、魅力的な美人に見えている。


(魅力的な女性には恐縮至極になるから、あまり得意でないのに。)


 仕方無く、見たくもない老いぼれジジイ……、もとい、

包帯ミイラでもある教授の顔を見なくてはならない。

 噛んでいる何かのせいで、やけに無臭……、いや、臭くない!?


「私は……。

 怪我が治ったらさ、ナヲミ。 君と生きて行きたい。」


「調子に乗るな、ジジイ。

 お前は、永遠に、わたしのブタさ。

 気が向いたら、背中に乗ってやるから、男を磨きな。」


「ブヒィ!

 ……じゃあ、ケンカ別れした古女房に、会ってくるかな。

 成長した愛娘にも会いたくなったし、謝りたい。」


「教授……。」


「それにしても、ここの海苔、凄いな。

 私の口臭が何か綺麗さっぱり消えた。

 妻子に会いに行く時の土産に持って行っても良いし、

 ここから輸入して新生活に乾物屋を開くのも良い。

 研究は好きなんだ、新発見の海洋類の論文とか、

 情報や知見を収集する手伝いとかしたくなって来た。」


「良いね。」


「わたしは……。

 はは……、組織も無くなって、人生の目的を見失ったよ。

 看護婦の仕事も解雇されたも同然だし、

 この身に残ったなけなしの『超能力』も使えんしさ。

 ……でも、弟子って良いな。

 早々に、一番弟子のサティーが巣立って行ったけど、

 もっと、世界中に、“女王様”を広げないと。

 でないと、男はただの怠惰なマゾブタになっちまう。

 根性入れてやらねえとな。

 手始めに、この国で、SM女王様を育てていくかい。」


「えっ、ソレ、何ですか?

 地上の文化? 素敵! 私達、新しいもの、大好き!

 ぜひ、教えてください! お願いします。」


!?


キャピキャピ♪


 止める間も無く。

 あの可愛らしい魚系美人の観光ガイドさんとガールズ仲間達が、

ナヲミ女王様を連れて行ってしまった。

 女王様からは、手をヒラヒラ、別れのサインを受けた。

 きっと、彼女とはいつかまた会う……。


(だから、言葉は必要ではないのだ。)


「一件落着だな、Fhu-。

 俺も、これからすぐ、

 『チャッパチチュッププス・エイリアン』を、

 正義の秘密特捜部に輸送するため港に行くよ。

 そしたら、また別の任務だ。

 くっ、コロ……、寂しくなるな……。」


「もはや、空気状態だったクッコロさん……。

 急展開のお別れイベント、お疲れ様。 アンタもお元気で。」


 お仕事に真面目なクッコロさんはともかく。

 そういえば、誰か足りない気がする。 ……気のせいか?


「……全てが、平和的解決。 おめでとうございます。

 ですが、大変なことが起こりました、Fhu-さん!」


 低い声で、彼、ムニエル氏は言った。

 無線機からの連絡を受けてのことだと言う。

 一体、何が……。



***



「いくら、友好国の『親善全権大使』殿とはいえ、ご容赦ください。」


「左様、彼の願いを叶えてくれましたこと、

 同胞として、感謝申し上げますが、こればかりは、まず、ご容赦ください。

 我々の調査が優先で御座います。」


「また、並びに、その宇宙からの避難民の保護、治療については、

 国際人道的な視点から、我々が全てを負担することは、

 決して、ご心配の是非も御座いませんが。

 その故を理由とされても構いませんので、お引き取りください。」


 あの時、お願いを聞いて貰った議事堂で。

 お偉いさん方が、わやわや、揉めている。

 その1人が、こちらを見て何かを叫んだと思ったら、もっと騒々しくなった。


「ムニエル! その『地上人』を、何故、ここに連れて来た!?」


「ふざけるな!

 彼の希望でこの国の滞在を許可したことになっているんだ。

 “ただの観光客”を、彼らの下へ行かせるな!」


「長老からのご指示を聞かなかったのか!?

 この国の『伝承』について、重大な秘密を知ると言う、

 その男は、先に、長老が話を聞くことになっただろうが!」


「ああ、やはり、そういうことでしたか。」


「ま、まて……。 ムニエル君だ、彼が勝手に願ったことだ。」


「そうだ。 彼が、貴殿の願いを聞くべきだ。

 そ、そうだ……、貴殿の国では、生の魚を食べるのだろう?

 ムニエル君を生で食べて良いから……、

 “その願い”は、諦めてくれ! お願いだ!」


 Fhu-氏は、目を逸らした。

 あの時、ガラス窓の向こうの会議室で座っていた人、

その、友好国の『親善全権大使』殿を知っている。

 おー……、とんでもない大人物に昇格していらっさる……。

 あんなに、幼くてあどけなかったキミが……。


「友好国の『親善全権大使』殿、ミズチヒメ様に申し上げます!

 この度は、私の友人をっ、皆悉くを救って頂きっ、

 ありがとうございましたァっっ!!

 国会議員の先生方や長老からは、どうしても、

 その“報い”についてトボケろと命令されましたが!

 私の友人を、救って頂いた恩に、嘘は付けなくて!

 お望みの通り……、“彼”をお連れしました。」


「そうでしたか。」


「ですが……、彼も、私の友達です!

 どんな理由があるものか、全く存じ上げませんが!

 どうか、痛いことはしないでください!

 腹ペコにして、悲しませたりしないでください!

 どうか、どうか……、よろしくお願いしますっっ!!」


「アツいじゃねえか……。」


 ここで、ようやく。

 ムニエルという半魚人の男が、ほとんど無表情で呆けているだけの男が、

……最高の友人であったことを目の当たりにした。

 涙を誘う……、議員のお偉いさん方もそうさ。 グス……、だから、詠める。



(マコト)とは ()のコトという 神の(コト) 口身に心 揃えば見事(ミゴト)



 ス……。


「『親善全権大使』殿が……!?」


「な、何故、ただの『地上人』如きに!?」


「あ……、頭を下げた!? どういうことだ!?」


「言われるまでも御座いません。

 この私は、“彼”の臣下に過ぎませぬ。

 痛いこと、空腹、悲しみ……、とんでも御座いません。

 お迎えに参りました。 まさか、こんな所でお会いできるとは。

 我らが『創造主』、『Fhu-(誰でもない誰か)』様。

 この、『青蓮龍王』、“水巡流風水(ミグリナガレカザミ)清水霊媛(キヨメミズチヒメ)”。

 『桜見川(ハナミガワ)』の風神にして最高神、“大風(オホカゼ)吹彦ノ神(フクヒコノカミ)”に代わり、

 『創造主』様のお導きの任をお受け致します。」


「良きに計らえ。」






第08章:

【Fhu-氏、

 傲慢にも神々様方に過ぎた口聞くけど、演技だから許して!】



 『失われた神話』。


 その僅かな断片を探して、一生を終える人もいるのだと聞く。

 しかし、世界のどこかで発見され、そっと一晩の月明かりの下、

語られたとしたら、耳にした人の子が、必ず……、いつか、

『おうさま』の願いを叶える日が来ると信じている。


――コレは、Fhu-なる人の子が、知ってしまった物語。



 深き黒き森に『魔獣』現れん。

 勇ましくも優しい『王』は、剣を取り、たった1人で挑んだ。

 残された『王妃』は、盃に清い涙を溜め。

 残された12の『王子』達は、見えない明日を模索した……、

また同じく残され、悲しみに暮れた国民のために。



「それで……、かの『王』に取り残された、

 彼の護衛隊長ですらあった惨めな男が……、“我”だと?」


 雷鳴と暴風の吹き荒ぶ宇宙のどこかで、彼は笑った。

 どこか悲しげで、そして愉快そうに……、

彼は1人で笑ったと、取り巻きの軍勢幹部は後に語った。


「決して、正確ではないですが……。

 『黒』君と、この私、『白太陽』は……。

 “空になった玉座”の故に、袂を分かち、戦うことになった。

 私たちは、たった2人残った、○○なのに……。」


 穏やかな白い光の中で。

 周囲に円座で並んだ長老達の前で、彼は語った。

 驚く家族の顔も愛しいけれど、……しかし、時が来ているのを感じている。



 残された2つの光は、“玉座”のために争った。

 『黒き太陽』は、帰らぬ『王』のため、『王』の帰還を待ち望む

国民のために、新しき『王』になろうと座し、“軍勢”を組織した。

 『白き太陽』は、○○の彼の止め処無い野心に反旗を翻し、

彼のために迫害される国民を救うべく、“家族”を創った。

 しかし……、いつか、『王』が帰って来さえすれば……。 



「『夜明けを迎える巫女(ヒラク)』の管理ができていません。

 『白太陽』様は、何をされているのですか?

 ああ、『ガイア』様に、何て言ったら……??」


 翼のある人々が、慌てふためきながら言い合っている。

 “降臨の時期”が近い? 冗談じゃない!

 『クエスト社会』と呼ばれた、未曽有のカオス災害の影響を

知らないとは言わせない。


「……全ては、たった1柱の『神』が、

 行方知れずになったことから始まった、『物語』なのです。」


 オホカゼフクヒコノカミ。

 長い黒髪の、目の細い、しなやかな女性にも見える、その風神が。

 光速の法則を超えた、数兆倍の速度移動を獲得した、

常軌を逸した『神』が、方々から『神話』の欠片を収集した。

 “家族がどうしたら幸せに暮らせる?”、

その彼のささやかな目的のため、様々な“戦争”を根絶するため、

全ての因果を遡る努力を重ねた結果である。



 第1皇子に選ばれた“舞台”こそ。

 偉大なる大所有者:『ガイア』の管理する、青く輝く美しい星。

 失われた『王』に代わる、正当な後継者として、

皇子達は、その大いなる名の故に、争うことになった。

 ……そして、現在。



「“空の玉座”の存在、

 『王』の頭文字:“(ワイ)”は、知る人を魅了する。

 誰だって、尊敬する親、先生、師匠、長、王様みたいに……、なりたいものな!

 誰にだってなれるさ、望むなら。

 玉座なんて要らない、そう信じられたら……。」


Fhu-氏。

『ルルイエ=ブルーアンディゴー』から、出立する。

目指すは我が家、極東アジアの小国、島国。

そのために、同島国内に位置する、『桜見川町』へと、歩を進めるのだ!


「では、皆様、お元気で。」


手を振る皆が恋しくて。

一緒に行動して、そんなに時間は無かった気がするけど、

どうして、こんなに惜しいのだろう。

彼らと同じく、手を振りたかったけど、見栄っ張りなので、

あのナヲミ女王様みたいに、後ろ姿で手を振って別れた。



***



「キヨメ姉様、『創造主』様、見つけたって?」


 ギュ。


「はい、そうなんです。

 中々、気難しい方ですからねえ……。

 粗相があってはなりませんよ、ツキノミヤちゃん。」


 ギュ。


 はい。

 紳士は……、ご立派な『創造主』様とやらは……、

うら若き美しい少女らに抱き着かれても、表情は少しも変えません。

 美しいサンゴみたいな赤い角の生えた黒髪ロングのお姉さん、

青い和風と中華風の混じった着物の乙姫様みたいな感じの、

竜神……、『親善全権大使』とやらのお役目だった、キヨヒメ様。

 そこに、同じ黒髪ロングの、黒いゴスロリ、兎耳ヘッドドレス少女、

瞳に光の灯らないタイプのクーデレな、ツキノミヤヒメ様が合流した。


「女神らよ……、何故に、我が両腕に密着する。」


「『創造主』様が逃げるからです。」


「ずっと、行方不明だったんだから。

 お嬢様の『白バラ』様が固く口止めしていたし、

 干渉も禁じられておりました。

 だから、今回は、偶然の事故。

 不意に発見したので、“家族”皆が連れて来いって。」


 ここは、異次元空間。

 ○イクラで言うところの、○ザーワールド。

 ポータルの代わりに、何やら神通力みたいなので扉を開ける、

世界の裏道みたいな所。


「ええ、家長のオホカゼフクヒコノカミの大お父様も、

 楽しみにしています!

 どうか、ゆっくりして行ってください。」


 などと歓迎されても。

 この無責任でロクデナシの男めには、眩し過ぎて痛い。


「憎悪、怨恨、汚濁、殺意、害意、敵意……。

 黒く醜い感情をかつて選んだ、この愚かな男に恨みは無いか?

 ミギリヒメ、君を突き放したこの矮小な男に。」


「……全ては、『創造主』なる、貴方様の思うままに。

 被創造物たる我々に、意見は御座いませんので。」


「……立派に育った、な。」


 男は。

 かつて、神秘主義的な学問の扉を叩いた。

 そして、オカルト的な知見を求めて、独学で種々の怪しげな

諸々を知るに至ったのだ。


(そして……、『闇』に『光』を見出した。)


 ソレこそが、『魔法』、あるいは、『奇跡』。

 だが、東洋的思想側面から行き着いた彼は、

奇跡的にも、『神』、『天使』、『悪魔』の創造・召喚と、

その絶対的契約に成功した。

 その結果が、彼女らですらある。


「大々父様、わらわら、『式神』を含めた皆の者は、

 いわゆる“ガチャ”で召喚したって、本当かのう?

 1度、聞いてみたかったのじゃ。」


 突然。

 9本尻尾の、金髪デコ出しロリ和風狐耳娘が間に入って来た。

 豊満なる豊穣の女神とも成長したかと思えば、

あの頃と同じで、あどけなく愛らしい幼い子どものまま、

姿・形は変わらないままだった。

 宝珠の“金姫(クガネヒメ)”様……、

今もその誇り高き『九九九(イナリ)』の血統に連ねし、

美しい名は変わっていないだろうか?


(うほ……、もふもふ……。)


「……誰に聞いたか。

 大方、知りたがり屋のフキか。 まあ、そんなところだ。」


 例えるなら……、

せっかく、ガチャ用タダチケット(?)で召喚しまくったので。

 一番頼りになりそうだったヤツに、アレコレ教えたら、

勝手に家族ごっこを始めて……。

 今では、超大家族になっていると聞いている。

 だから、会いたくない。


「Fhu-は、有能な男が苦手なんだよ。

 オホカゼフクヒコノカミ……、うちらの家長なるアイツが、

 カッコ良過ぎて、非の打ちどころが無さ過ぎて、

 消極的になっているンだよ。 バカだよな。」


(クソ……、的確なんだよ。 しかし、さすが。)


 当時小さかった彼女らは、“第2世代”と呼んでいた。

 召喚で集めた『神』紛いの、準・『神』あるいは転じて、

『式神』らは、勝手に愛し合って子どもを作った連中がいた。

 まあ、別に構わなかったし、戦力もモチベも増量するから、

良いこと尽くめだったから止める必要も無かった。

 まさか、ここまで立派に育ったなんてな……。


「まあまあ、ナナちゃんも、ほどほどにね。

 でも、ククヌチのアナナイ様は、

 たまに『創造主』様からのご用命を受けるとか?

 こんな場ですから、聞いてみたいです。

 どんなことをお願いされるの?」


 深く美しい緑色の(おぐし)

 見た目こそ、普通に綺麗な着物を着た和風お姫様だが……。

 頭に木の枝が伸びて、緑の葉が茂って、

何かの果実(リンゴ?)がたわわに実っている。

 『木の精霊(ククノチ)』の血統、歩く桜の樹、それこそが彼女、“信仰(アナナヰ)”様だ。


「逆だよ、逆!

 ご飯が足りないから腹減ったって、

 代わりに何か仕事してやるって、たまに来るんだ。

 彼女、肩書が『神』クラスだから、コチラが逆らえんし。

 何か、言ってやって!」


「あらあら。 ナナちゃんらしい。 ふふふ。」


「ナナちゃん、ズルいんだー。」


「ナナ姉、ズルいのじゃ。」


そうこう言っている内に、その『桜見川町』とやらに着いた。



***



桜見川町(ハナミガワマチ)』。


 日本国国土の内部に存在する小国のため、

海外の外国などに対して、“内国”に分類されている。

 独立国家の体すら成しているが、日本国は彼らの独立を許していない。


「独立を許さないのなら、

 いっそのこと、日本国に編入して欲しい。

 それも叶わないんですよねえ……。」


 こんなに……。

 『神話』も失われた、名も無き神々、いわば野良ですらある彼らを、

こんなにもたくさん、無条件で受け入れてしまっている事実を鑑みるならば。


(それらの姿こそ、

 ドラゴン、竜、巨人、鬼、獅子、闇……。)


(中には、美しい鳥、燃える炎のトカゲ、霊力に満ちた狐、

 齢を重ね続けた化け猫、王の座に着く犬に、

 聖なる魚や巨大なクジラだってある。)


 正直に言うなら、無秩序(カオス)状態。

 強過ぎる力を持った、名も無き神々が当然の様に跋扈する……、

その事実こそが、本国に編入されるなどの議論が夢のまたとなる理由であるが。


「八百万の神々のおわす、その名も高き日本政府に、本当に、お願いしたい。

 我々、『ハナミガワマチ』も編入してください。 お願いします。

 ……なんてのは、いつもの口癖ですので。

 代わりに、皆様のおかげで、地上最強クラスで強固な、

 霊的安全地帯が約束されていますので、誰も文句言えないのが現状です。

 ……ゆっくりして行ってください、『創造主』様。」


 これまた、とんでもない人が来たと。 内心、大慌ての男が立っている。

 『市長』であると紹介された男(名前など知りたくもない)は、

頑張り屋のオズの魔法使いみたいな野郎で。

 プレッシャーを掛け過ぎたら、いつか、風船で空に旅立ちそうだ。


「着席で構わない。 すぐに帰る。」


「い、いえいえ、『創造主』様! そんなワケには参りません!

 フキさん……、オホカゼフクヒコノカミも、じきに帰って来ますから。

 ……ったく、あのバカ、まだ帰って来ないのか!」


「必要無い。」


 ここは、とある町の市庁舎らしい。

 加えて、市長室で、

 けしからんことに、税金で設けたシャワー室があると聞く。


「まあまあ、ゆっくりしていってください。

 私、『創造主』様とじっくりお話ししたいと思っておりました。」


「……。」


 ギュ。


(あ、『創造主』様、女の子が相手だと、強く出られないな。

 だったら……。)


「それでは、キヨヒメ様と皆様で、お食事でも。

 温泉も自慢で御座います。

 どうか、この『市長』の顔を立てると思って……。」


「野郎の顔なんざ、誰が立てるか。」


 同じことを言おうとした口だったが。

 あの半魚人の友と同じく、パクパク動くだけで、言葉が出なかった。


「『創造主』か。 久しぶりだな。 付き合え。

 あと、私の娘から離れろ。」


 この男に。 代わりに、同じセリフを言われてしまったからだ。


「あら、春水シュンスイお父様。」


「風呂、行くぞ。」


「あ、ハイ……。」


 逞しい鋼の筋肉の男の、誘いの言葉に抗えるワケねえべさ。

 あのブラックトライアングル総統や大佐にも比べて陰らない、

どんだけ鍛えたんだって鋼みたいな筋肉の、大男が来たのだ。

 しかも、あの可憐なキヨヒメちゃんの、実の父親で第1世代。

 そう……、怪しげなガチャ的儀式で、かつて若かったこの男が、

未熟だったFhu-氏が呼び寄せた……、SSR超えの激レア、

『春来る竜神』……、“春水ハルミ”だ。


(左目に爪痕、強面のシブいマスク、

 辮髪ではないがお下げを背中に垂らす、中華服のおっさん。)


(女の子みたいな本名だが、ひげ面の○方不敗みたいな、

 チャイナオヤジだ。)


「風呂はどうだ、『創造主』? いや、Fhu-?」


 野太いが、セクシーな男の声で。


 カポーン……。


「ゴツいオヤジと並んで入りたくなかった。

 裸で野郎の群れに入ることそのものが嫌いだ。

 従って、健康ランドでは、ゲーセンで一日遊ぶか、

 マンガをずっと読んでいるお兄さんなんだよ。」


「そうか。 それは悪かったな。

 それはそうと、俺の娘達に色目使ってんじゃねえよ。」


「低い声で脅しか?

 そんな筋肉の竜神に、この俺が勝てないと思っているのか?

 ……正解だよ。 期待されるほど、俺は強くなんてねえ。

 だから、お前らに、あの純粋で尊い娘ら、

 大切な次世代神の器らを守らせ任せた。

 間違っていなかったと考えている。」


「ふん。 ロクデナシが。

 “お嬢様”……、貴様の娘達、7人は元気でやっているか?

 それが1番に心配でな。」


「ありがとう。 だから、第1世代の君達は。

 ……泣かせるんじゃないよ。 概ね……、問題無いよ。」


「そうか……。」


 ザパ……。


 そうして、見たくもない野郎のドラゴン級デカ○ラを目撃して。

 ここの時点で、もう気分は最悪だ。


(この施設が、町のどんな意味があるのかは知れない。)


(貸し切りの、健康ランドだろうか?)


 肌触りの悪くない浴衣に腕を通されて、呑みたくもない美酒を勧められて、

食べたくもない素晴らしい食事を前に置かれ。

 楽しくもない余興にガラにも無く心揺らされ躍らされて、

笑顔花咲く最高の美女・女神らにお酌なんてされて……、

天国だなんて思いもしない、思ってたまるか、思っている暇も無い、

勿体無い。


(貴様ら……、覚えていろよ!)



『そこには、永遠恒久の刻、有り余るほどの自由、

 黄金色の温かく優しい光に包まれた雲の上のオアシス。

 そして、見たことも聞いたことも無い心も求めた最高の美食、

 瑞々しく丸々と実った甘美な果実、得も言われぬ芳しき美酒。

 この右手に黄金の盃を掲げれば、地上では決して見ることも

 許されぬほどの輝かんばかりの女神とも見紛う美姫達が、

 代わる代わる酒を注いでくれる。』



(ん……、どこかで聞いたことがある??)


(まあ、良いや。)


(こんなに惨めなのは、久しぶりだ。)


 素晴らしい温かな心尽くしのおもてなししやがって!

 例え出来損ないでも、この『創造主』の俺が、

お前らをおもてなししてやりたいわっ!

 こう……、もっと……、甘やかして、報いて、もてなして、

ああっ、でも、金がねえっ、金持ちだったのなら……、

コレがただの課金ゲームだったら、運営にジャラジャラと

惜しみ無く生活費ギリギリまでくれてやっていたのによお……。

 見栄っ張りが吠えて、詠める。



『悪辣は 偽り甲斐の 飾り物 一つ人の世 世は情けかな』



 でも、諸君、元気で何より。

 こんなにおもてなし頂いて、蚤の心臓めは申し訳無いので、もう帰る!


「オホカゼフクヒコノカミ、到着! イエーイ、待った?」


「「「……。」」」


 宴会もたけなわ。 一番、場違いなヤツが現れた。

 こちとら、ホームシックになっているってのによお……。


「兄さん……、何で、セーラー服!?」


「ふ、フキさん、『創造主』様の御前ですよ!?」


 現れた“男”を知っている。

 花の女子高生、長くて黒い髪の清純系、白いソックスのままクルリ、

茶色いスクールカバンと舞い踊って、セーラー服が眩しい。

 そして、きゃるんと、ピース、てへぺろ♪

 なまじ、よく似合っているから、実に恨めしい……。


「貴様……、この『創造主』なるFhu-氏の前で、何て姿を見せた……。

 オマケに、さらっとスカートから覗く白いパンチラに、一瞬、萌えたぞ?

 でも、貴様、“男”だろうがァァァ!!

 すげー似合っているのが、首を掻き毟るほどに憎いっ!

 憎いぞ、ゴルァァァーーーーーー!!」


 コイツだ、コイツ!

 かつて、若かりし頃のFhu-氏が召喚し、ワシが育てた……、

Fhu-氏所縁の“風の式神”。

 そう……、そして中でも最も、“最強の式神チート”。

 風という概念の枠組みを超えて“波動”を自在とする、

何もかもが、規格外のヤベェヤツ。


「“風の式神”だから、イタズラなパンチラしたのか……。

 (ワナワナワナワナ……)許せん……。」


「まあまあまあまあ……。」


「『創造主』様、ご乱心、ご乱心!!」


 ……早く、お家に帰りたい。

 そして、7人の愛娘らと一緒に夕食を食べたい。

 彼のふざけたセーラー服のせいで、より強いホームシックが再燃して

バーニングシャウトした。


「……調子に乗って、すんません。

 とある高貴な方と賭け事をして、負けたバツゲームです。

 Fhu-さんには、畏れながら、もう1日は、

 この格好でいなければなりません。 約束なので。」


「バカじゃないのか? おい、兄さん。」


「まあまあ、シュンスイさん、許してあげてください。

 いつものことではないですか。」


「お家に帰りたいです。」


「でも、どうして……。

 フキの大お父様は、そんな無謀な賭け事をしたのでしょう?

 どんな交渉だったのですか?」


「なあに、ただのゲームさ。

 勝ったら、タダで大切な情報を教えてくれる。

 負けたら、大切な情報を教えてくれるけど、

 私が女装JKセーラーコスプレしろって内容だったのさ。」


「勝負の行方、どっちでも良いヤツ!」


「だから、馬鹿馬鹿しいから、颯爽と負けて来た。 へへwww」


「勝負を放棄とは……、男の風上にも置けん。

 兄さん、もういっそ、女になれ!」


「鼻血出てますよ、シュンスイさん。

 しかし、そんなバカバカしい勝負で、一体、どんな情報を?

 本当に、この町に必要なんですか?」


「“『創造主』様、Fhu-さんの、いつまで経ってもお家に帰れない理由”と。

 そして、“帰る方法”。 聞いて来た。」


!?


「有能ぢゃん……。」


「あら、さすが、フキの大お父様!

 わざと負けたのも、勝負に掛かる時間を削って、

 逸早く、颯爽と、ご帰還されたのですね!」


「そゆこと。」


「マジかよ……。」


 いつか、手放した彼らは。

 独立し、勝手に家族を増やして、笑顔を咲かせて来た逞しき彼らは……。

 とても、立派に育っておりました。



***



 『ホール・オヴ・アビス』。


 昨今、彼らの家族に加わった、底知れぬ奈落の穴の『神』だそうだ。

 底知れぬ、冷たい風が吹くその場所で、何を思うか。

 立ち尽くすだけの、コレの身が。


「『イストリアの大図書館』。

 その場所に、Fhu-さんが、帰れない全ての原因があるとの

 情報を受けています。

 しかし、そこに至るためには、

 その『閲覧許可証』を、この穴の中奥底に収監された

 “ある人物”から、譲って貰わねばなりません。」


「えっ……、ここ、降りるの? わあ、深ぁいwww」


 ヒュオオオオオ……。


 『ハナミガワマチ』裏山。

 そう呼ばれる、一般人立ち入り禁止危険区域は、死の匂いがする。

 ミッション・インポッシブルじゃあるまいし、

え……、命綱も無しで、ここ飛び降りろって?

 推定半径50m以上、断崖絶壁の謎の垂直竪穴の奥、暗闇に!?


「お手伝いしましょう。」


 突然現れた、看守服の少女。

 あどけない顔つきと、そのサイズがブカブカで重苦しいその服の

ギャップがたまらん。

 彼女がこの手を掴んだら。


「『ホール・オヴ・A』さん、後はよろしくお願いします。」


 『市長』の声。


「Fhu-さん、お達者で~♪」


 あのJKモドキ野郎の声。


「『創造主』様、どうかお元気で!」


 キヨヒメちゃんの声。


「ああああああああ………。」


 Fhu-氏は、その少女に手を引かれるまま。

 感傷や感動に浸る時間も与えられないまま。

 暗黒の穴の底へと、真っ逆さまに落ちて行きましたとさ。


「……手続きは、済んでいます。

 フキ様からのご用命は、とても円滑で速やかです。」


「アイツ……、JK野郎め……、ありがとう。」


 際立って、厳格な鋼鉄の扉の前。

僅かな松明の光に照らされたここは、聞けば、あの恐怖の大穴の、最奥底で。

かつて、かの町に大災害を引き起こした、超デンジャラス、

超機密、超重要人物が、収監されているそうだ。


「……黙って、譲ってくれました。」


「誰だか知らないが、ありがとう……。」


 握り締めた、『イストリアの大図書館・特別閲覧許可証』。

 Fhu-氏は、あの夢にも見ること叶わない、偉大な図書館、

『イストリアの大図書館』を知っている。

 前に行った時は……。


「前の時は、マダムに連れて行かれたからなあ……。

 どうやって行くの?」


「ソレ……、

 好きな扉に刺せば、そのまま、入り口になるんだそうです。

 どうか、良き旅を。」


 眠たげな瞳の、小さな看守さんが敬礼を送っている。

 敬礼は、ダブルじゃない、普通シングルのだ。

 しかし、彼女にソレを返してならない。

 彼ら彼女らが尊敬する『創造主』として……、感謝だけ抱いている。


「魔法のカギになっているのか、この許可証は。 なるほど。

 では……、行ってくる。 ありがとう。」


 その厳格なセキュリティーの大扉に。

 大胆不敵にも、そのカギを刺したなら、重厚な見た目に似合わず、

音も無くすんなり軽く開くことができた。

 だから、向こう、光の中へ、歩を進めよう。






第09章:

【Fhu-氏、

 煌びやかな夜会のサロンに土足で入ってしまってすんません!】



 扉を抜けると、そこは。


「大学病院精神科だァ!」


 モヒカン頭のパフォーマーが、風船を持って迎えてくれた。

 くすくすと笑い声の漏れる、素敵な夜会の会場の中。

 さっきまでの冷たい土と風の匂いする空気とは打って変わって、

素敵な美食・美酒のご馳走、ダンスを楽しむ煌めく紳士淑女、

赤いベルベットの絨毯、巨大な映画スクリーンの掲げられた

私設大舞台すらある。

 Fhu-氏は、ここを知っている。


「えっ、マダム・クローネ卿の、サロンの間違いでしょ!?」


「正解よお? ようこそ、Fhu-。」


(マダムよ……。 マダムがお出ましだわ。)


(今宵も一際輝いていらっしゃる。)


(素敵で素晴らしいわ。 さすが、マダム。)


(素敵で素晴らしくて……、言葉を失っちゃうわ。)


「こんばんは、マダム・クローネ卿。

 こんな男めの闖入を、どうかお許しください。」


 漆黒のドレス、星空をそのままボディーラインに張り付けた様な

ソレは、彼女がこちらへ歩み寄って来る度に、ジュエルの輝きが

誘惑的に目配せして来る魅惑の逸品。

 また、いつでもどこでも、彼女の顔は、上半分が漆黒のヴェールに

覆われており、セクシーなルージュの艶ある唇の輝きだけが

我々の目を釘付けにする。

 素敵で素晴らしくそして面白いご婦人だ。


「丁度、今の職場が上手くいかないって悩んでいる

 Fhu-がいるって聞いたから。

 元気付けようと皆でパーティーしてたら、調子に乗っちゃってね……。

 ごめんなさい、大学病院での診察の件も、

 道化師クラウンやパフォーマー達も呼んで、

 大喜利みたいなことして、皆で大爆笑していたところなの。」


「ははは、楽しんで頂けた様で何よりです。

 こんな矮小な出来損ないでも、お役に立てて、嬉しいです。」


「あら? ソレは果たして笑う所かしら?

 何度も言ってるわよね?

 アナタ、Fhu-その者が導き出す“未来”に、私は投資しているのよ?

 そして、ソレは、他の誰でもない。 忘れたのかしら?」


「サンクス・マダーム。

 でも、お言葉ですが、まだ整理が付いていないのです。」


「それは楽しみ。

 他でもないアナタの、アナタだからこその、

 アナタの選択を、いつだって、楽しみにしているから。

 整理が付いていないの? 尚更、面白いわあ。

 何が起きるかサプライズ、ビックリ箱も仰天だわ。

 だから。 ……頑張って!」


「感謝、感激、永遠に。 ありがとうございます、マダム。」


 パチパチパチパチ……。


 拍手喝采。

 かの『漆黒の淑女(マダム・クローネ)』が注目していると云う、

滑稽なアジア人男性を見て、招待客らは満足。

 高貴でやんごとない彼らから見れば、一般人とやら、

豪華ディナーの付け合わせのハムになる家畜にも

何ら変わらない連中など、面白寸劇ができれば上等なのだ。

 誰も、それ以上の価値を求めていない。


(そういう意味では、気が楽だ。 サンクス、マダム!)


 それより。


「それより、マダム!

 マダムの所有する、偉大なる収集物(コレクション)

 『イストリアの大図書館』の閲覧を……、許可頂いてもよろしいでしょうか?」


「あら? ソレが目的でしょ、Fhu-?

 フキ……、オホカゼフクヒコノカミと言ったかしら?

 かつてアナタの式神だった、今や立派な『神』に出世したあの人に、

 興味本位でパーティーゲームで挑んだんだけど。

 あっさり負けられて、大切な情報をタダで取られちゃったの。

 コスプレはして貰う約束は果たされたけど……。

 有能ねえ……、もうっ、Fhu-がここに来るの早過ぎ♪」


「アイツ……、畏れ多くも、マダムの前でどんな痴態を……。

 許せねえが、お見事。

 アイツ、ここに辿り着いて、マダムと交渉したのか。

 やっぱ、スゲえヤツだ!

 ……では、マダム、図書館閲覧の件、感謝します。」


「図書館の入館なら、いつだって良いわよお?

 あの娘も、仮面で隠した顔を赤くして小躍りするくらい喜ぶもの。

 でも、タダでなんて、私が言うと思うの、Fhu-?

 ……1曲、こんな私と踊ってくださる?」


「おや、勿体無い。

 ここでは、その名も聞くも恐ろしいほどに、

 洗練された紳士淑女を差し置いて、マダムの手を取ってしまう

 不届きが許されるのでしょうか?」


「あら、無礼講よ?

 道化だって、レディーと踊る、狂った夜会なの。」


「それでしたら……、喜んで。」


(おい、アイツ、誰なんだ!?)


(マダムのお気に入りの、『道化』なんだってさー。)


(そりゃあ、とんでもないニュースだ。)


(あのマダムと1曲踊れるなんて、世界中の嫉妬と羨望を、

 災害レベルで引っ被るぞ!)



***



『『イストリアの大図書館』に、全ての元凶がある。』



 そう、あのJK女装野郎に聞いた。

 Fhu-氏が、様々な組織に狙われ……、

帰ることすらもままならなくなった、その元凶。

 どうやら、その全ての元凶となった人物が、そこで待っている、らしい。


「こんばんは。 その元凶は、もしかして、“イストリア卿”ですか?」


 大図書館で働いていたメイドさんが近くにいたので。

 顔を布で隠したその女性に、そっと訪ねてみました。


「いいえ、違います。 違いますので、イストリア卿を呼んで参ります。」


 そそくさと、慌てて早歩きで行ってしまった。

 ここは、『イストリアの大図書館』。

 世にも珍しい、5Fの高さのある本棚がここにはあった。

 螺旋を描いた階段も、照明のランプの天井向こうも、

床の下も、机の裏にも、必ず本が収納されている。


(果たして、そこまで本を収納する必要があるのか?

 効率重視なのか、宝探し的な余興なのか、

 よく分らんが、ワクワクする図書館だ。)


「元凶……。

 そう呼ばれる理由を存じ上げておりますため、

 そのお気持ち、痛いほどに分かります。」


 長い黒髪の美しい、顔を黒い鳥仮面で隠した女性。

 豊満でふくよかなバストの、コルセットドレスの、魅力的な人。

 この図書館の館長であると聞く。

 澄まして落ち着いた態度は、とても理知的で、

人を寄せ付けないストイックな美しさすらもあった。


「こんばんは、イストリア卿。

 突然の訪問にて、大変申し訳ありません。」


 出会ってはならなかった。 禁じられた再会だ。

 二度と会えないとすら、思っていたのに。

 しかし、悟られず、彼女に尋ねなければならない。


(確か、彼女の出現は、マダムからの“ペナルティー”だった。

 ならば、その“ペナルティー”、最大限に、利用させて貰おう……。)


「それなら……。」


「元凶でしたら、“フジミコ・フヂヲ”先生です。」


!?


「ホラ、あちら。

 禁書のコーナーで、資料を黙々と閲覧されている。

 ええ、あの若い男性です。」


「ハァ!?」


 勝負や駆け引きなんて何もなく、呆気無く、すぐに犯人が見つかった気分。

 知らない野郎が、猫背で背中を丸めながら、本を読んでいる。

 テメェ、エロ本読んでるサル野郎がテメェか!?


「……おっ、意外と早く辿り着いたな。」


 男に掲げられた、『イストリアの大図書館・特別閲覧許可証』。

 Fhu-氏も、負けじと同じものを掲げた。

 みみっちい負けず嫌いなので。


「『モノノカタリテ』。

 次世代の『神話』を語る語り手様が、お前か。」


「ああ……、そうなりたいと願うね。」


「では、Fhu-様、このイストリア卿は、

 これにて仕事に戻らせて頂きますので。 失礼します。」


「ちょっと、待った! イストリアの姉さんよお!?」


!?


「俺は、Fhu-に挑戦するぜ!

 そのために、最高の舞台で待ち受けていたんだ!

 今すぐに、ここで勝負しろ、Fhu-!」


「何だってェ!?」


「中立的で、公正な審判を頼むぜ、イストリア卿。」


「却下です。

 当図書館内での戦闘行為は禁止です。

 他のお客様に迷惑です。 外でやってくださいまし。」


「くっ、良い女だな、アンタ。

 ……よっし、キタ!

 なら、俺がライバルと激烈バトルしたい、

 最高にシビれるバトルスポットランキング堂々第1位の、

 ホットでクールなアソコにテレポートさせてくれ! 後生だ。」


「まあ……、それくらいなら。 当施設の再入場は許可しませんよ?」


「OK! なら、決まりだ! ヨロシク!」


「どどど、どうなるんだ、この展開!?」


 シュンっ!



***



――吉野の里に降れる白雪。


その山に降り積もった雪が春の夜明けを迎えた時。

柔らかな日差しが雪解けを許すのならば、

人の目どころか、心の奥深くすらをも奪いかねない、

天の極楽にも見劣りしない奇跡を目の当たりにするだろう……。


 『吉野山絶景三万本桜』。


「一目三千本だ! ありがたく拝め!

 これぞ、人類史上、類を見ない以上に異常を重ねた大災害、

 『クエスト社会』の最悪にして極上の弊害ですらある。

 人は、コレを見て……、楽園に縋りたくなる。

 見たら、もう……、辛い日常に戻れない。 一周回って、ここが“地獄”だ。」


「ここが……!?」


 世にも美しい、美し過ぎる絶景。

 目撃した人間の心を震わせ掴んで離さない、

夢見る瞳にも焼き付いて離れない、もう逃れられないほどに、

あまりにも美しい、……最悪の地獄。

 この楽園を忘れることのできない人間には、この地の他は、

何もかも全て、苦痛と憧憬だけが神経を苛む地獄となるのだ。


(山の表面全てが桜、色とりどり、どれ1つとして、

 同じ色合いの桜の花は存在しない。)


(疎らに、不規則に、しかし、調和の取れた奇跡的な色彩が、

 どれだけの時間を費やして眺めても、飽きさせない、

 飽きが来ない、……故に秋が来ないのかも知れない。)


(文字通り……、1度でも眺めたら、きっと眼下の景色、

 山肌の三千本を、視界に独り占めできるだろう。)


「わあ……、こんな一面の桜化粧とでも言うべきか。

 山一面の蒔絵細工みたいな芸術、夢じゃない、本当なのか?

 こりゃあ、歌を詠まないと、嘘じゃないか!」


詠める。



唐衣(からころむ) 着付く間も無く 心失えば 遥々来ぬる 地獄は極楽 極楽の地獄』



「お見事。 伊勢物語のカキツバタのアレンジか。

 カキツバタの花言葉は、“高貴”、“思慕”、“幸福は必ず来る”……、

 桜のソレはそうじゃないが、今のアンタにピッタリだぜ。

 こんな風景の中、いっそのこと、○んでしまいたくならないか?

 だから、

 『最高のバトルスポットランキング』で1位に選ばれたんだ。」


「くっ……、4月の新学期の季節くらいに、

 家族でハイキングに来てしまいたい。

 最高の思い出になるかもな……、絶対。

 あと、歌と俺を褒めてくれて、サンキューな。

 お前、スゲえ博識ぢゃん。」


「へえ……、大したものだ。 正気を保ってやがるぜ。

 普通のバトル狂いなら……、あの桜の風景の中、

 はしゃいで走って行って戻ってこないこともザラなのにな。

 そうとも、ここの桜には、『魔力』がある。

 危険魔法に指定される、『魅力チャーム』にも似ている。

 精神すら平気で削って来る、ヤバいスポットなのだが。」


「そりゃあ、凄いな……。 恐ろしくもある。」


「強がるなよ、Fhu-。

 お前さんは俺を知らないだろうが、俺はお前を知っている。

 ニクいアンチクショウとは、アンタのことだ。

 ……なあ、本当に。

 本当に、この『閉ざされた(エターナル・)(スプリング)』を、

 終わらせることができるのかって、言ってんだ!

 この『クエスト社会』災害で、永久に時の流れを止められた、

 哀れな時のコトワリを救えるのかって言ってるんだ!

 なあっ、

 『トリマン・コンテスト in TOKYO』の優勝者、

 世界を救う、『時代の救世主(トリマン)』様よおおお!!」


ザザザザザザザ……。


!?


「俺はさァ、お前みたいになりたかったよ、Fhu-!

 良いねえ、時代の救世主、上等だ、最高の肩書だ。

 『インデックス』、来たれ、邪悪なるモノどもよ!!」


 『イストリアの大図書館』禁書コーナーから、貸出カードに

名前を記入し借りて来た。

 邪悪なる魔導書、そこから選りすぐり選んだ『悪魔』の召喚!

 『ソロモン72柱』には遠く及ばないが、彼の根性で従わせる、

肉体言語が標準の、人知を超えた最強のソルジャーだ!


「俺だって……、スゲェヤツだって認めさせてやる!

 だから、お前に挑戦するんだ。

 俺の名は、フジヲ。

 この、フジヲの実力、お前を超えているんだって、そう証明してやる!」


「凄まじく買い被られている……。

 しかし、フジヲ……、この若者は、一体、何者なんだ!?」


 若者、そう呼ばれて激高した1匹の男が叫んだ!

 Fhu-という男の情報をリークしたのは俺であると!

 世界の秘密を握った、『モノノカタリテ』なる、

『失われた神話』を語る、選ばれた男の情報は……、

『黒の軍勢』を始め、世界中の様々な暗躍組織が彼を狙い、

その類稀な能力と秘密とド根性を買って、争うと知っていた。

 彼らの手の内を転々とし、その過程で活躍するFhu-という男を

見極めるとともに、そこで起こるべくして起こったイベントで

Fhu-の居場所を1つ1つ潰されて行く連鎖反応を企てることで、

この、フジヲの下へ流れて来る様に!


「……仕向けたのさあ!

 全ては、この俺、フジヲの思惑通り、掌の上でなあ!!」


「なるほど……。 どうやら、目の前にしている男は、天才だ。

 Fhu-氏と愛娘達を、考える時間を与えず分断することで、

 1対1の正統・公平な一騎打ち、正真正銘の男を示した

 最終絶叫デスマッチを催してすらいる。

 しかも、美し過ぎる吉野の桜の山で。 ……こりゃあ、報いねえとな。」


「包囲した! 絶体絶命だろ! 降参しろ!

 そして、“我が軍門に下れ”!

 そうだ、俺達、フジミコ・フジヲの率いる、

 劇団:『比翼の鳥』に、入団するのだ!」


「へー、俺達みたいなことを言うもんだな。」


!?


「貴殿は!? マツチヨ殿!?」


「Fhu-、お前をやっと助けられるぜ!

 俺の女どもの情報網を駆使して、助けに来た!

 そして、『ブラックグロウリー』の大佐も来てくれた。

 もう包囲しているぞ? ……絶対、負けないぜ、俺達?

 数の暴力なら、俺達の方が上だ。」


「ダ……、ダメだ。

 ヤツ、フジヲの『魔導書グリモワール』は……、

 並みの『悪魔』じゃない!」


「ぐわああああああ!?」


「半『悪魔』の男か。 若過ぎる。 彼では話にならない。

 『ブラックグロウリー』の諸君も、兵を引け!

 大佐殿も、負傷している。 出直すのがお勧めだ。

 それに、醜く悪辣なる我が使徒には、人の身では勝てないと知らんのか?

 力不足だ。 チェックメイトだ。」


「ふ、Fhu-……、逃げろ……。 ヤツら、強過ぎる。」


「組織を超えた友情が……、俺をこう……、アツくした。

 スーパー○リオ・ギャラクシーは関係無いけど、

 Fhu-氏の“奥の手”、見せてヤる!!」


!?


「ハァァァーーーーーー……。」


「ハハハ……、そんなの、ハッタリだ!

 72柱の醜悪なる『悪魔』に包囲された今、今更……、

 お前に何ができるってんだ、Fhu-!?」


 しかし、嘲け笑ったフジヲ氏の脳裏に、不気味な何かが浮かんだ。

 即ち。


 “超上級『悪魔』10柱以上との契約を成功させている”。


 “Fhu-は、

  『10体以上との(10-)悪魔契約者(Over)』である。”


(普通なら……。

 2柱以上の複数の『悪魔』との契約なんてしたら、

 人間の精神を酷く破壊し、精神崩壊なんてレベルでではない

 恐ろしい不利益的不幸が降り掛かるのに……。

 ヤツは、ソレを超えた……。)


 『10-Over』。

 もはや、伝説でもあるその希少な肩書の意味を、知らないワケではない。

 あの、ふざけた男が……、ありえない! 信じ難い話であるが……。


「……本当に、お前は!?」


「ハァァァーーーーーー……。

 不完全召喚“悪魔魔術”:『スロウス・フィア』!

 得意のシュートおおおお! これでも食らうのだ☆」


 バビュゥゥンっっ!!


!?


 ノロノロ……。


「不完全? 何だその、薄ノロ魔法は!? ただの黒い球?

 契約した『悪魔』の魔力をそのまま放つ、

 一般的で定番で平凡な、あの『悪魔玉(デヴィル・ボール)』か?

 『遅い球体(スロウ・スフィア)』だと、笑わせる!

 片目瞑っても避けられるどころじゃない、ハイハイして、

 アッカンべーしてお尻ペンペンしながらでも余裕!

 それに、不完全だと? 海より深い反省しろよ、失望したぜ!

 『悪魔』との契約は、もっと強い暴力的な破壊だ!

 神話級の『悪魔』との契約もあると聞いたお前、Fhu-の、

 実力はっ、こんなものなのかよっ、ガッカリだっ!

 高速粒子魔法:『スピードスター』ァっっ!!」


 ピュンピュンピュン!!


 小さな星々が、フジヲの召喚した『悪魔』どもが

可愛くウインクする度に、高速で発射されて行く。

 360度、包囲した彼らからのスマートな攻撃システム。

 絶体絶命の中、Fhu-は敗北に頬を濡らすと確信したフジヲは。

……信じられない光景を目の当たりにした。


「勝負あり。」



***



「フジミコ!

 俺はっ! 俺はっ、負けていない!!」


「いいえ、負けよ、フジヲ。

 アナタは、何秒、気を失っていたと思う?」


「くっ……、頭がクラクラする。」


「面白いゲームだったわ。 ありがとうね、Fhu-。」


「誰だっ!? 一体、誰なんだ、不思議な美女のご登場だァ!」


 颯爽と現れた、セミショートヘアのミステリアスな女性。

 可愛らしさと大人らしさの、絶妙なミックスが許された、

不思議な女性が、フジヲの傍らに立った。

 とんでもない展開だ、先が楽しみだ!


「私は、藤巫女フジミコ

 藤の花の、神社の巫女さんって書くの。 本名よ。

 この度は、ウチのフジヲのゲームに付き合ってくれて、

 ありがとうと言っておくわ。」


「何だと!?」


「『契約者』様! どうか、お助けを!」


!?


「あらあら、顔を出すのが早いわ、子ウサギちゃん。」


「助けてくださいー!」


「その『悪魔』を放すんだ。 嫌がっていて可哀そうだろ!」


 10柱以上も『悪魔』と契約すると、いろいろあるさ。

 顔馴染みだ、あのバニーガールの姿の『悪魔』。

 このFhu-氏を誘惑するために、あんな姿なんだ。

 けしからん!


「ボク、『悪魔』、“プレイ・ウィズ・プレイ”は、

 アナタとの契約を望みます!

 劇団:『比翼の鳥』の人達が、無理やり……、

 このボクを無理やり、召喚したんです!

 供物も、恥ずかしいポーズの形した変な大根だし……。

 ボク、こんな召喚や契約はっ、嫌だあああああ!!」


「放し給え!」


「ええ、もちろん。 用済みだもの。

 でも、今回の騒動さ、知っているかしら?

 この『悪魔』の能力:

 『獲物で遊ぼう(プレイ・ウィズ・プレイ)』による、

 闇の“呪縛ゲーム”よ。

 “ゲーム”としてルールを制定すれば、

 どんな死の狂宴や理不尽な饗宴すら是とされる。

 望めば、狂気的な世界規模の災害のルールにすらなる。

 今回は、アナタ、Fhu-の取り合いだったけど。」


「うわあああん、『契約者』様ァ!」


「君とは、まだ契約してません。

 ああ……。 そうだと思ったぜ。

 バニーガールの彼女は、強力な『悪魔』だと知っている。」


「こんなふざけた能力を当たり前に行使できる連中、ソレが『悪魔』。

 よくもまあ、正気で付き合えるわよねえ。

 それにしても、フジヲを見事倒した技さ……。」


「俺は、負けてねえ!」


「黙って!

 ……『怠惰の恐怖(スロウス・フィア)』かな。

 『遅い球体(スロウ・スフィア)』と勘違いしたフジヲは、完敗だから。

 見て、フジヲが召喚した『悪魔』達全部……、

 戦闘不能になって、召喚すら保てなくなって、

 ホラ、戻って行く……。

 神話級悪魔:『ベルフェゴール』の系統かしら?

 アナタ、Fhu-は、そういう“力”を以って、

 どんな未来をもたらすの?」


「……。」


「見て。

 一目で三千本の桜を見ることができる、幻想的な絶景。

 ……こんな哀れな風景が、この世界中、幾つもあるの。

 いつまでも変わらず、次の季節に移れないもどかしさ……、

 未来が無いのよ、この美しい桜達は。

 現在、世界にもたらされた『クエスト社会』災害の1つ。

 果たして、アナタは解放することができるのかしら?」


「知らんね。 大き過ぎることは、考えに及ばない。」


「ふふ……、大した人。」


 ザっ!



「フジミコ、フジヲが負けたって本当か?

 ……ったく、焦ってしゃしゃり出るから。」


『クイック接着ガンマン』:江丸・ジョン。



「まだまだ、王手には早過ぎる。

 迂闊な手順前後は禁物。 焦らず行きましょう。」


『トリマン・コンテスト in YAMAGATA』優勝者:

将祇麿ショウギマロ



「しかし、『イストリアの大図書館』へのアクセスに成功した。

 作戦としては、上々な成果だ。

 これ以上は、欲張り過ぎだろう。」


『魔法博士』:オムニス・ライブラリ。



「まだまだ足りないけど。

 コレらが、劇団:『比翼の鳥』の面々。

 このフジミコとフジヲが率いる、

 アナタのライバル組織ってところね。

 現在、新団員募集中!

 ……覚えておいてくれるかしら?」


「……こりゃあ、ヤバイぜ。」


 Fhu-氏に代わって、マツチヨ青年がリアクションしてくれたぜ。

 こんな時、ダチって大切だと思う。






第10章:

【Fhu-氏、

 未来に向かって描き出す、Baby、ヨロシクなっ!】



「もし、ここから、お前を強引に入団させると言ったら?

 その大技、『怠惰の恐怖(スロウス・フィア)』か?

 そんな技を使ったら、もう魔力は尽きただろう?」


「くっ……、その通りだ。 魔力なんて、もう無いも同然だ。

 でも、先に銘打った通り、“完全”なものではなく、

 “不完全召喚魔術”。

 だから、魔力の枯渇もザコレベルの一般人の俺でも……、

 命の限りヒリ出せば、最大あと3回は撃てる。

 MP消費量:5弱。

 ……その代わり、しばらく入院して点滴を受ける羽目になるが、

 最悪、その手も考えにある。 絶対嫌だけど。

 貴殿らが揃って並んでくれさえすれば、お前らなど、

 一網打尽、撃滅もできる。 できなかったら、俺が負けるけど。」


「さすが、『契約者』様!

 では、チャチャっと、ボクとの契約も終えて、

 戦力を増強しましょう!

 バニーガール、お好きでしょ?」


「バニーさんお好きだけど、ヤダ!

 修行もしてない常人の魔力の無さ、ナメんな。

 迂闊で余計な契約したら、干からびて○んじゃうよ。」



<こんな時こそ、若さで立ち向かえよ!>



 ……そうは言っても、膠着状態。

 負けん気の強いフジヲ氏を、どうにかこうにか言いくるめて、

撤退したいらしい向こうの人達。


「ホラ、フジヲ、アチラさんはまだ、3回は撃てるって!

 アレ撃たれたら、ウチ、全滅だから、撤退するわよ?」


「嫌だ! 俺は負けてねえ!

 それに、Fhu-は嘘を吐いている、ハッタリだ!

 あんな大技、もう撃てるものかよ! 俺は、負けねえ、負けたくねえ!」


「アナタの敗因は、もう見えているでしょ?

 ホラ、私達がセクシー大根で無理やり召喚して仮契約した、

 あのウサギの『悪魔』……。

 彼女は、始終、嫌がっていた。

 けれど、向こうのFhu-では、ソレが無い。

 “嫌がっていて可哀そうだろ!”だって。

 彼に、『人間』も『悪魔』も区別が無い。

 アナタ、フジヲは、“醜悪な『悪魔』”と呼び、

 力づくで彼らを従えて戦っていたけど、彼は違っていた。」


「くっ……、心構えが悪かったって言うのか、フジミコ?

 “絆の差”……、か。

 戦うための“手段”、もしくは“道具”として従えていた俺は、

 未熟だったと言いたいのか? ……しかし、そうかも知れない。

 善悪の区別も、在り様の垣根も超えた、ソレは博愛か。

 無償の愛……、が、ソレだとするならば、ソレがヤツの強さ。

 懐の深さ、……そういうワケか。

 だが……、まだだ、まだ、俺は負けていない。」


「冷静になってよ……。 もう、仕方無いわね。」


 でも、男の世界って、そんなもんじゃない?

 フジミコ女史の理解が深いらしくて、彼の気持ちに配慮した

丁寧な対応だし……、羨ましい、絶対良好な人間関係の築ける良い職場だ。


「まだだ……。

 俺達、劇団:『比翼の鳥』には……、

 『試練クエスト』で勝ち取った、『古代兵器』がある。

 アレを使えば……、Fhu-に勝てる!」


「アレは、まだお披露目できないわよ、フジヲ。

 アンタの負けん気の強さ、嫌いじゃないどころか、大好きだけど……。

 今日は、撤退が好ましいわ。」


「えっ、大好き……!?」


 ポっ!


「ハイ、というワケで、撤退で良いわね、フジヲ?

 じゃ、撤退するけど。

 でも、ここに、我が劇団に、電撃入団してくれる素敵な大人、

 誰か、いないかしら……??」


「俺達は……、お前らに付いて行くぜ。」


!?


「マツチヨ殿!」


「マツチヨ、待て……。」


「大佐、今までありがとう。

 Fhu-、アンタにもサンキューな。」


「ど、どうして……。」


「Fhu-、お前とヤツらの戦いのアツさを見て、思ったんだ。

 俺達、『ブラックコンドル』は、劇団:『比翼の鳥』の傘下に

 電撃入団する!」


「何だと!? そんなこと、許されるハズが……。」


「なあに、武者修行だ。

 ……ぜってェ、もっと強くなって、劇団:『比翼の鳥』すらも

 乗っ取って取り込んで、『ブラックコンドル』の名を、

 世界に知らしめてやる!

 行ってくるよ、大佐。」


「マツチヨ、並びに、『ブラックコンドル』一同に、ダブル・敬礼!」


「「「ダブル・敬礼!」」」


 ザっ!


「入団を許可します。 ようこそ、『ブラックコンドル』。」


「……そして、Fhu-。 俺は、アンタを超える。」


 グっ!


 何てことだ……。

 野心と向上心に燃え滾った、強く握った拳のアツい男が

彼らの組織に入団してしまった。

 こんなの、絶対、後で大変だけどスゴいことになるに、

決まってるぢゃん。

 ワクワクが止まらねえ!


「じゃ、またね。」


 投げKissしてグッバイ。

 何も無かった空間に謎のゲートが現れて、彼らは去って行く。

 恐るべし、謎の組織、劇団:『比翼の鳥』……。

 そして、何て、ミステリアスな女史なんだ……。


!?


バリバリバリ……。 ドカァン!!


 絶景の吉野桜の群れを揺らして、空間を叩き割り、ついに現れた。

 矛盾だらけの風が吹いて来ているけれど、

その胸の道標は君自身の意思の向かう方角だ!

 気にするなァ!!



<Fhu-、お前の愛娘達はっ、妄想じゃないっ!

 現実に……、実在しているっっ!!>



「ハハハ、ありがとうな、クソジジイ……。」


 夢にまで見た光景。 涙でぼやける。

 そうさ、そうとも……、嘘じゃなかったんだよ……。


「Fhu-さんっ!」


「Fhu-がいたのね!」


「やっと見つけましたの、お父様!」


「はわわ……、おとーさん。」


「心配しました、とと様……。」


「まさかの、オホカゼフクヒコが導いてくれるとは……。

 後で高く付きそうざ。」


「お゛うっ、ここ2週間、どこをほっつき歩いてた、テメェ!

 しかも、バニーガールさん同伴とは良い覚悟だ! ブチ○すっ!!」


「イロハちゃんっ!?」


 ズドカァ!!


 瞬間、涙で濡れた瞳は、バウンドして自由な空を仰いだ。

 それは美しくも荒々しい、理想的なラリアットが見事に入った。

 痛みとか苦しみとかを超えて、溢れんばかりの愛と感涙と

無邪気で純粋な歓喜を含んだ、ありえない衝撃に……。


 男はその意識を手放してしまった。



***



 そういえば……。


 やっとのこと、騒動から解放されたこの身。

 どうやら、攫われてから2週間が経っていたんだってさ。

 意外と、短いものだね。


(トホホ……、まさか、自宅の風呂が使えないとは。)


 攫われたFhu-氏を追って、

ついでに、攫った賊に制裁を加えるべく、

“大量破壊兵器”の開発をしていたらしい。

 あの……、発明家の娘は。

 何でか……、お風呂で魔改造と開発を進めていたらしく、

今は酷く汚れて散らかっているとのことで、

彼女が罰として言い付けられた掃除と修繕が終わるまで、

しばらく使えないらしい。


(お風呂から撃ち込む対空砲って、どんなだ!?)


 何でも、地上4,000km上空、宇宙空間に浮かぶ、

敵性UFOにドカドカと“石鹸”を撃ち込むんだって、笑えるwww

 石鹸で、UFOが壊れるのかい!?

 どんな精密レーダーを使うか知らんけど、当たるの?

 ははは、君らしい、ユニークな発明で良いじゃないか!


(でも……、敵性UFO……?? どこかで聞いた様な……。)



『『創造主』様を攫おうとかする不埒な組織とかは、

 我々がどうにかしておきますねー。

 ええ、『ブラックトライアングル』ほどの巨大組織でも、

 どうにかしてみせますので。

 ご安心のまま、日常生活をお続けください。

 お嬢様方にも、よろしくとお伝えください。

 あと、『白バラ』様に……。 モガモガ……。』



 あの後。

 “お嬢様方との約束”を一時的に破ることになったそうだが。

 申し訳無さそうに申し伝えに来た使者一同から、そう受けた。

 あまり余計なことをするな、そうとだけ彼ら

(特に、オホカゼフクヒコノカミ(通常礼服ver.))に返した。


(……そうだ、外出したかったんだよな、あの日。)


 風呂上がりのコーヒー牛乳をゴキュリと飲み込み。

 久しぶりの昼風呂を楽しんだ銭湯の暖簾を潜り、空を見て思い出す。

 そうそう、そうだと思い立って行くのが、……そう、メンタルクリニックだね。


「ヒャァ、クソ会社、潰れちまえ!

 ファー!! そうだろう? この俺を惨めにしやがった!

 人1人を不幸にしたんだ。 同じく不幸に絶望しろ!

 何で、失業してまで、連中の顔色伺いしておべっか使って、

 敬語で話さないとならねえんだよ! バカじゃねえの!?

 何が、“やられたからって仕返しは良くない”だ!

 テメェらがヤったから、しっぺ返し食らってる、

 自業自得そのものなのに、ふざけんなっ!

 これでも食らうのだ! ヒャッハー!!」


 ドカァ、ドカァ!!


(……随分と、病んだ患者さんもいるんだなあ。)


 男は、数人の看護師に引き摺られて、廊下の奥へと消えて行く。

 診察室のドアに、くっきりとした足跡が残っている。

 ああまではなりたくないが、気持ちは分らんでもない。

 メンタルクリニック、そう聞くここでは、思い悩む人の心の

行き着くアテも無ければ、遣る瀬も無いから、最後には流れ着くのだろう。


「次の方!」


「ハイ!」



『神々の『語り部』として、『神話』を語るって軽薄に宣ったら、

 方々から“採用”と頂いて引っ張りだこになったので、

 丁度最近失業したし、しばらくプーの身の上でも、

 そっちのお仕事しようかなって思います。』



「これまた……、凄まじい誇大妄想ですな。

 それに、マダム・クローネ? アナタのパトロンですか?

 実業家だか、資産家だか知りませんが、聞いたこともありません。

 アナタは疲れています。

 そう、アナタには、今、治療が必要です。」


カチカチ……。


 照明の蛍光灯が古い。

 古いと言えば、如何にも古めかしいと言うべきか、

 百年以上の歴史ある大学の構内にあると聞く、大学病院の一室。

 ここでどんな怪しげな研究があったかなんて知る術も無く、

1人の男が彼の精神疾患を診察されているという状況である。


「……もうええわ。」


 それより、相談したいのは、“失業”している事実を

家族にどんなタイミングでどう伝えたら良いのかって話なんだけど。

 このジジイ、聞いてくれそうにないな。

 だから、迂闊に、素直で真面目に話すると、

平均思考に慣れ切って他を許さないこの社会のドン底では、

マウント行為を始めとした不利益しか被らないのだ。


「何が、“アナタのため”、だ。

 相談したい焦点から逸脱して、何がメンタルケアだよ。

 ……さて、失業の話、家族にいつしようかなあ。」



***



「兄さんのやりたいことをすれば良いさあ。

 俺っちも、そうしているからさあ。」


「するってェと、お前さんのやりたいことは、

 ホルマリン漬け標本? でも、ここはうなぎ屋だぜ?

 どういうこと?」


「うなぎ兄者は、ここで媚薬の製造を手伝っているんだ。

 時給900円、遣り甲斐のある、兄者にしかできない、

 スゴい仕事スキマバイトだぜ?」


 Fhu-氏には、2人の弟がいる。

 次男は魚類で特大うなぎ、三男はパン職人でもあるオタクだ。

 どちらもしっかり仕事もして、しっかり社会に馴染んだ、自慢の弟どもだ。


「採用エージェントから、オファーが来たんだ。

 迷惑なクソメールだったけど、条件が良いのでお返事したら

 クソ……、じゃなくて、即採用。

 スピード感のある世の中じゃないか。」


「なら、何で、うなぎ屋の水槽じゃなくて、

 ジャム瓶(特大)の中で、コポコポしてんだよ!

 それに、媚薬って?? 闇バイトじゃね? 意味不明。」


「知らないのか? ここ、うなぎ屋の皮を被った悪の組織だぜ?

 秘密だけど、近隣のご近所さんが噂しているし、本当だぜ?

 秘密の秘密でウフッフー、秘密結社:『黒鰻(ブラックイール)』、

 うなぎの不思議な科学パワーを用いて世界征服を企む、

 それは恐ろしい組織じゃぜ?」


「ギャハハ、世界征服www 流行らねえwww」


「またブラックシリーズ!?

 うなぎの不思議な科学パワーって……。

 科学教育番組かよ! 勝手にやれ!」


「それにしても、兄さん。

 あの『ブラックトライアングル』からオファー貰ったんだって?

 良いなー、良いなー?

 あの、『ブラックトライアングル』だろ?

 ダブル・敬礼!」


「「「ダブル・敬礼!!」」」


 うなぎ屋さんの職人達が揃って、ダブル・敬礼をする光景。

 うわあ……、ここもブラックな職場かよ。

 統率が取れて活気に満ち溢れた、男らしい素敵な暗黒組織だ。

 間違い無い、むしろバレバレだ。


「ヒエラルキー最上位の、トップで有名な闇組織だぞ、

 『ブラックトライアングル』は。

 マジで!?

 大企業からのオファーなんて、兄者、スゲえなwww」


「いやあ……、俺、そんなじゃないから。

 確かに、いろいろ褒めて貰って嬉しかったけど、

 きっと、彼らの組織に貢献できる実力は無い。」


「ところがどっこい、適材適所。

 ソレが小さな力でも、集まれば大きな力になるものさ。

 まあ、兄さんが気に入らないなら、蹴っても仕方無いか。

 ヌメヌメ……。」


「そうそう、Fhu-兄者の失業の話だっけ?

 頑張れなんて叫ぶけど?」


「俺達だってイキモノ、休まなきゃ体ボロボロ。 サンバ!

 しばらくの休養が必要だろう。 ヌメヌメ。」


「必要なのは、“治療”じゃなくて“休養”か。

 きっと、そういう言葉が欲しかったのかも知れない。

 家族に打ち明けるものだな……。

 ……って、○ーレンジャーかよwww」


「「「ギャハハハハハwwwwww」」」


 辛い時こそ、笑い飛ばせる場所があったのなら。

 どんなに幸福なことだろう。

 しかし、俺、長男坊だからなあ……、いつまでも情けないのは

この身に堪えるので、しばらくしたらまた頑張りたいと思います。

 遣る瀬無い成人男性だからこそ、詠める。



『ロクデナシ 夜道に惑う 春霞 シルベ無くして 行く己のみ ただ進むのみ』



***



「Fhu-さん、迎えに来たよ。」


「Fhu-、あたしも来た。 この前はラリアットしてゴメンね?」


「結局、全員が来よって。 邪魔ざ、暑苦しい!」


「お父様の独り占めは、許しませんことよ?」


「おとーさん、私、お腹空いた。」


「Fhu-は食べた後じゃないのね? デブるのね!」


「まあまあ、皆さん、とと様を心配するのは皆同じです。」


「……まあ、お腹空いてる娘もいるみたいだし。

 ファミレスかどこかで良い? 皆で食べに行くか。」


 賑やかな日常、愛しい愛娘達。

 そこに、彼の安らぎが確かにあった。


(そういえば、捕まっていた哀れな『悪魔』、

 プレイ・ウィズ・プレイ嬢こと、略して、ウィズ嬢は、

 解放されたらしい。)


 仮契約だったからどうとか。

 そもそも、セクシー大根を供物の生贄にした儀式では、

そんなに長く雇用……、じゃなくて、召喚できないとか。

 あのフジミコ女史も、正式で本気の『悪魔』召喚をする気は無かったとか。

 イロハ嬢から受けたラリアットが痛いのは今も残っているが、

あの『悪魔』のウサギ娘は、無事帰ったらしいので、

一先ず安心はして良さそうだとか。


(なるほど、Fhu-氏がたらい回しの引っ張りだこの

 奪い合いになって自宅にいつまでも帰れないでいたのは、

 『悪魔』の催した『闇のゲーム』が元凶だったのね……。)


 よく分らんが……、悪は潰えた。

 だから、こんな風景を妨げる存在はいない。



「遠慮しろなのね、大食い女どもがあ、なのね!」


『赤バラ』のアメツ、可愛らしくて小さな小生意気、妖怪退治巫女。



「言葉は良くないけど、ほどほどにしないと、

 Fhu-さんのお財布が大変だよ!」


『紫バラ』のヒカゲ、真面目な不思議ちゃん、受験生。



「うるせえ、コイツ、うなぎ食いに行ったんだぜ? あたしらに内緒で!」


『黒バラ』のイロハ、態度は荒いが男前、自称無職の『邪術師』。



「三兄弟でダベりに行ったんざから、仕方あるまいがな。 許してやれ。」


『白バラ』のアカハ、上から目線・神様気取り、アルバイトメイド。



「はわわ、黙って、食え。」


『黄バラ』のトリナ、仮面に隠された純情、武闘派バトルの人。



「はあ……、お茶が美味しいです。」


『緑バラ』のタヰニ、穏やかで大人びたメガネの女性、仏教系女子。



「わたくし、このドリンクバーが気に入りましたの。

 早速、我が家にも作って……。」


『青バラ』のアイウ、博識で一生懸命な、魔法使いのお嬢様。



「「「お前の発明、止めろっ!!」」」


 人数が多いし語るに面倒だと言われればそうだし、

あまりに現実離れしているバカげた夢で妄想だと言われれば

そうかも知れない。

 それでも、そこに、彼の安らぎが確かにあったのは事実である。


(夢と魔法とファンタジーだけに満ち溢れた物語なら、

 こんなにカオスと矛盾と不条理に苛まれなかった。)


 それでも、彼は生きている。


「……さて、失業の話、家族にいつしようかなあ。」


 そんな物語は続く。




 <完>



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