第01話: 【新神代世界のFhu-氏】(前編)
「畏れながら、お初にお目に掛かります。」
Fhu-氏と申します。
読み方は、本作にありますので、
同作とともに覚えて頂ければ幸いです。
「この度、古巣にて起きました小トラブルにつき、
お引越しをと思い立ち、稚拙ながら、
新作として心機一転、物書きをすることを
考えました。」
やあやあやあ。 その結果がコレです。
お楽しみ頂けますと幸いです。
2026/04/13
新神代世界の人の子道化こと、Fhu-氏
【新神代世界のFhu-氏】シリーズ
第01話:
【新神代世界のFhu-氏】
【目次】
序章:
【人は死後、楽園に至れるのか?】
第01章:
【Fhu-氏とは?】
第02章:
【Fhu-氏、比較的軽微な精神疾患を持つ一般市民】
第03章:
【Fhu-氏、我らが太陽の秘密の何を知っている?】
第04章:
【Fhu-氏、三千世界を巡るなら不足があれど已む無し】
第05章:
【Fhu-氏、魔の誘いと死の絶望を乗り越えた先に何を見る?】
第06章:
【Fhu-氏、今明かされる世界の秘密!?】
第07章:
【Fhu-氏、
本当に困った時は“神頼み”、ありがとうございます。】
第08章:
【Fhu-氏、
傲慢にも神々様方に過ぎた口聞くけど、演技だから許して!】
第09章:
【Fhu-氏、
煌びやかな夜会のサロンに土足で入ってしまってすんません!】
第10章:
【Fhu-氏、
未来に向かって描き出す、Baby、ヨロシクなっ!】
******************************
序章:
【人は死後、楽園に至れるのか?】
「人は死後、楽園に至れるのか?」
答えは、是。
聞かば、八重咲の桜を迎える春の日、ハレの日。
歓喜のある答えと受け止めるべし。
「ある者は曰く、蜜溢るる地に導かれると。」
そこには、永遠恒久の刻、有り余るほどの自由、
黄金色の温かく優しい光に包まれた雲の上のオアシス。
そして、見たことも聞いたことも無い心も求めた最高の美食、
瑞々しく丸々と実った甘美な果実、得も言われぬ芳しき美酒。
この右手に黄金の盃を掲げれば、地上では決して見ることも
許されぬほどの輝かんばかりの女神とも見紛う美姫達が、
代わる代わる酒を注いでくれる。
(神が愛し、神のために懸命に尽くした人の子は、
やがて天に導かれその全てを報われた暁には。
金の衣を纏いて、永遠の命のまま、
悠久の時を微笑み謳歌するのであろう……。)
美しきものだけを見続け、悦びだけを甘受する。
ただの1つも、苦しみの欠片の微塵も無い。
ソレこそが、夢見た楽園。 神に約束された。
「ンなワケっ、あるかァっっ!!」
***
「皆さん、『神様』と聞いて、どんなお姿を想像しますか?」
いろいろ取り込んでいて、どんな状況なのか説明できませんが。
とりあえず言うなら、今宵の月は魅力的な満月で、
仰ぎ見た柔らかな光がとても綺麗なのが印象的です。
「おっと、申し遅れました。
この男、人の子めは、Fhu-氏と申します。」
ええ。
日本語表記で言うなら、発音は、“フーシ”で構いません。
「白い髭の長い老人、天馬に跨る勇ましき武人、
金の冠を被った賢き王様、流れる雲に乗った超常的な超人。
国境や宗教を選ばなければ。
一言、『神様』と聞くなら、様々なお姿が想像されると
聞き及んでおります。」
しかし。 おっと。
「または、一方で、中には先述の様に、男性の姿でなく、
見目麗しく美しい女神様のお姿のイメージもあるでしょう。
ええ、この男めもまた、そんなイメージも持っています。
そして……。」
ズルズル……、ズルズル。
そして、人の姿でない『神様』。
その姿こそ、ドラゴン、竜、巨人、鬼、獅子、輝く太陽、闇……。
人の姿という一種の枠を超えれば、なんと多様なこと。
中には、美しい鳥、燃える炎のトカゲ、霊力に満ちた狐、
齢を重ね続けた化け猫、王の座に着く犬に、聖なる魚や巨大なクジラ……、
それらならある程度容易く想像できるでしょうが。
頭がタコで巨大な人型とドラゴンを組み合わせたなんて、
摩訶不思議なそんな姿を想像する人もあると聞きます。
「それらの中に、正解があるかどうかなど野暮な問答です。
あくまで、少し聞いたばかりの広義の解釈に過ぎません。
それに……、何せ、誰も、会ったことはおろか、
見たことすらも無いなんてそんな人から聞いたところで、
信憑性など言うまでも無く無いのです。」
ズルズル……、ズルズル。
(それにしても……、今宵の月は美しい。)
(今度は、どこまで、“連れて行かれる”やら。)
それより、話の続きですが。
上述のこと、だからと言って、彼ら何某からの神話の世界や物語に、
1つ1つに否定を挟むことは無いスタンス。
だって、コチラも実際にお会いしたことも無いのですから。
信じるも信じないも自由の範疇としておきましょう。
「だから、どこぞで聞いた教義と同じく、
人の子が死後にどうだかなんて、知る術もねえ。
ヨソ様の神話や教えに批判的な意思は無いけどもと、付け加えて。
だが、ウチの神は、違うぜ!」
ズルズル……、ズルズル。
呼吸を荒く、男が叫ぶ。
着ていたワイシャツ――もはやボロですらある――とともに
正気すら投げ捨てて。
そうとも、ウチのボスは、半端じゃねえ!
「あっ、待てっ!?」
「待ちに待ったチャンスっ!
目的地近くに来て油断したなァ、お前らァ……!
ヒャッハァーーーっ! 逃亡だァっっ!!」
走る。
神と呼ぶと恐れ多過ぎて、この心臓が持たないから、
“ボス”と、半裸裸足で駆ける男がそう呼ぶ。
このFhu-氏、もはや正気でいることを手放している。
だって、あの御方……、もはや、“魔神”、
いや、“邪神”って、そんな感じだから!
「ヒャァ!
ボスは、実際に、俺が、このFhu-氏が出会った、
紛れも無く、人知を超えた存在……。
日本語で言う『神』の定義に含まれる超常の上位どころか、究極存在!
その怒りに触れ、この身が消滅させられる前に申し上げるぜ!
ボス曰く……。」
現実なんてクソ食らえ!
もう、彼は後に戻れない。
『何を勘違いしているのだ、矮小な虫ケラどもが。
神が、人を楽園に導くものか。
人が、神に尽くしコレを喜ばせるのだ。
ソレは、当然至極不変の条理であり、
神が人に返礼や報いを与えるなど、議にもならぬ。
……そして、Fhu-、お前は吾の巫女ではない。』
泣き笑いながら、踊り狂いながら、氷の上を行く。
その踏み出した足が冷たいことも忘れて、
いつ奈落の底へと踏み外すとも知らず、走ることを止めない。
Fhu-氏なる人の子は、そんな世界で生きている。
第01章:
【Fhu-氏とは?】
「この男が……、Fhu-?」
大学の調査隊、だったか、ボンスレー教授と名のある冒険家らの率いた
合同調査隊が発見した事実は、確かに驚くものであった。
1885年に起きたあの凄惨で奇妙な事件についてのファイルを
先に目を通したが、その真実は信じ難いほどに、繋がっていた!?
即ち……、ダゴン、いや、狂信的な邪教集団か。
あの……、インス……、やめておこう、恐ろしい。
「ああ。 報告書の通りだ。
南極調査団が、あるクレバスの中約20フィート奥の断層から
発見した“生存者”だ。
だが、彼は狂っている。 いつ逃げ出すかも知れない。」
「分かっている。
報告書には、裸で逃げ出して行方不明になったと思ったら、
ペンギンの群れの中に混じって潜り込んで、
歯を鳴らしながら暖を取っていたとあったからな。
……どういうことだ??」
ここは、さる大学に管理された、ある地方の廃墟とも言える地下室。
人払いをするにも人どころか野良犬もいないここ、
何十年も前の蜘蛛の巣すらも風に揺られる、闇の奥の奥の部屋、
その間に合わせに掃除されただけの小汚い部屋の隅、
朽ち掛けてはいるが何とか使える椅子に座っているだけの男は。
この得体の知れないアジア人らしい……、身なりも見窄らしい、
上半身裸、いや、半裸裸足の、今は毛布に包まったその奇妙な男は。
かの調査団の面々が入手して来た数々の重要な物品などよりも、
よほど重要で奇妙なナニカを知っているに違い無かった。
「まるで、オオカミに育てられた子どもの様だ。」
「おや……、オオカミに育てられた子どもですか。
有名な話ですがね旦那ァ、
このFhu-氏めには関係が御座んせんな。」
!?
「お前、喋れたのか!? しかも、流暢な英語だ!
クイーンズ・イングリッシュ、ではない様だが。
英語が喋れるのか!?」
「ここに来て突然、何故……? どうして話す気が出たんだ?」
「精神科の先生、で、お間違い無い?
ええ、神父様、もしくは、ミスカ……、いえ、貴大学御自慢の、
名誉ある教授ですらある。
彼の前で話してこそ、このFhu-氏は“狂ってなどいない”と、
証明してくれると期待できるからです。
故に、この身に起きたキミュ……、ゴホっ、いけね、舌噛んだ、
奇妙な出来事をお話ししましょう。」
ゾクリ……。
言うには難がある、まさに言葉にできない。
白骨の姿した暗闇が背中に這い寄って――いや、滲み出してと言った方が
この纏わり付く心ざわつかせる奇妙に仄暗い不気味さを
形容できるか――、この柔らかな首元に鎌を突き立てる感覚。
当然、その刃は冷たく、時間感覚すらも凍らせて止めてしまう。
この世界から秘匿された、知れば人の正気を失わせる狂気的な事実、
まさか紙一重のこの瞬間、この場所に居合わせたのは、
どんな冒涜的禁忌的な罰を受けるに等しいことか!
***
「英語なら、幼少の時から教育テレビで遊び親しんださ。
楕円形は、オーボーって言うんだろ?」
「何を言っている? Ovalのことか?
確かに、発音は近いかも知れない。」
「雑談は良い! 良いから話せ!
お前は一体……、何なんだ? そして、何を知っている??」
南極の楕円形状の不思議なクレバス奥の、名状し難い色彩の断層に
挟まっていた(?)理由。
調査隊が発見した邪悪な光に包まれた古代遺跡、
発見者の精神と視界を歪ませる奇妙な緑色の物体に覆われた建造物、
光り輝く頂に辿り着けない理由、禁忌の『魔導書』。
……他にも聞きたいことがある。
「何から話すものかね。
まずは、証明しよう。 このFhu-氏は、熟考できる。
もちろん、落ち着いて、冷静にね。 だから、正気だ。
狂ってなどいない。」
「どうだかね。」
「まずは、狂っていない前提で話を聞こうじゃないか。
だから、語ってくれないか?」
「OK。
それなら、とっておきにしても話が進まないから、
結論をまず言おう。」
『神々の『語り部』の取り合いに巻き込まれた。』
!?
「ソレが真実ですな、全く……。」
「どういうことだ!? 貴様、神の名を冒涜するのか!?
狂っている!」
「待て、冷静に話を聞こう。」
「冒涜? とんでもない。
貴殿らの『神様』については、いつもお世話になっております。
特に、クリスマス。
赤いイチゴと白いクリームで着飾った、
美しき貴婦人をも思わせるケーキが美味い。
だから、決して、批判的否定的な意思は持ち合わせていないのが、
このFhu-氏に御座います。
しかし、意固地に、その御方、貴殿らの『神様』についてだけ
議論していては、ところが話が全く進まない話なのです。」
この地球上、遍くの世界を言うなら。
様々な場所に様々な人々がいて、それぞれの生活習慣がある。
住む土地の気候、風の吹き方、川の流れる方向、山の有無、
気温・寒暖、多少の違いや意識の差で、物の考え方や在り方が
異なることは必然のこと。
「例えば、水が豊富な場所なら意識の向く主な方向・事柄は、
水の関連が多いでしょう。
同じく、砂なら砂が、氷なら氷、火山なら火山だし、
樹木が多い地域なら樹木や植物関連の言葉が主で多く、
職業や生活にもソレらに密接に根差したモノが多いでしょう。
そういうモノなのです。」
「意外に学術的だ。」
「分からなくはないが……。」
「神話や宗教・信仰なんてものもそうでしょう、
民俗学的に論じるなら。
何を優先して、どう生活して生きて行くのか、そして、
それぞれが何を大切にして守りたいのか。
各立場の視点から、それぞれの異なった在り様が存在する。
故に、ちっぽけな我々人類の善悪なの何なのすらもまた、
言うに難くなしというべきでしょう。
要するに、全ては、我々人類の個々の主観からの派生。
神々にとっては、取るに足らぬって話なのですよ、つまり。」
「しかし、一体、どういう関係があるのだ?
お前が南極で発見された経緯は聞いている。
あそこは、ただの人間がブラつく観光地でなければ、
探検家の調査コースからも外れている。
あそこは……。」
邪悪で奇妙で得体の知れない不気味な姿の狂信者どもが、
邪悪な聖地として崇める、世にも恐ろしく悍ましい古代都市跡の
すぐ傍の地点。
南極点にもほど近い、極限の極寒に閉ざされた凍て付いた廃墟。
しかし、その穢らわしくとも冒涜的に美しく魅了する許されざる祭壇は、
今尚も虹色に輝き、人の正気を奪い続けている。
誰が近付くことも許さない、あの……。
「前提の話から始めたかったのですがね……。
単刀直入の精神は、この男めが美徳とすべきと思いますれば、
語らせて頂きますが、まずは。
しかし、このFhu-氏めに言わせて頂ければ……、
あの場所は、“○ぬまでに見ておきたい美し過ぎる絶景”の
1つ程度にしか思えませんでしたので、素直に感動しました。
そもそも……、遥か天空に輝き座す星々から見れば、
銀河系太陽系の1惑星の底、たかがごく表層の地上に立つだけの
人の子如きの善悪なんて、ミクロのチリカスの1つの意味なども
満たせず、無いも同然ですな。」
「……。」
「貴様……、やはり狂っているのか??」
「如何せん。
貴殿らには、こんな薄暗闇に拘束され尋問すらされているのだが。
しかし、あの極寒の地から救出頂いた上に、一宿一飯と、
暖かいブランケットを恵んで頂いた恩義も
また受けましたのために話している次第です。
とはいえ、途中まですら話を聞いて頂いてはいないのに、
勝手に分かった気になられては、何でもかんでも口を挟んでは、
邪悪なの狂信なの穢れなの、……言わん方が良い。
先の前提で断ったばかりでしょうに。」
「ええいっ、狂った狂信者め!
人の意識をも狂わせる魔力があると言うのか!」
「恐ろしくもあるが、まだ待て!
この男には聞かなくてはならないことがある。
調査のためだ、耐えろ。」
「一方回って、アチラ側の立場から見たら。
ええ、タラレバの仮定の話となり恐縮ですがね……、
貴殿らだって、“彼ら”からすれば邪教ですらある。」
「失敬な! なあ、本当に、彼は重要情報を持っているのか?
宇宙から来た邪悪な侵略者なのかも知れない!
それにしても、うっ、うあ゛ああああああああ!!」
「ああ、落ち着け!
確かに、頭がおかしくなりそうだ。
『神』は1人しかおわさぬのが事実だろうが!」
「定義の問題です(今流行りのAIのモノマネ)。
どうやら、彼らは落ち着いて聞いてくれないらしい。
……それで、ここは、西暦のいつなんだ??」
一応、補足ですが。
Fhu-氏の生まれ故郷の『神様』は、英語で、
“Noble Spirits”、または、“Kami”と
訳されております。
そして、ソレは、世界中どこの誰が信仰しているどんなどなた様でも、
その範疇に適用できる定義ですらありました。
「だから、最初から、“GOD”1柱様のことを混同せずに
話していたのですがねえ・・・。」
何だ、この状況。
大の大人が、それも学識高い先生どもが悶えてなさる。
こんな理不尽と勝手が渦巻くここに居合わせたからこそ、詠める。
『イアイアの 眠れる瞳に 臨むなら 裸足のままに 躓き祀らん』
礼儀は必要。 どこのどんな時だって。
しかし、今ある力を出し切った満足感があるが、
もう少しヒネりたい。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
カチカチ……。
「照明が点滅……??
おかしいな……、まだバッテリーが切れるなんてこと……。」
「くっ、頭痛がする。 私がチェックしよう。
代わりに、“秘密教団”のこと、尋問を続けてくれ。」
「いいえ。 お別れの時が、やって来ました。
また縁がありましたら、お会いしましょう、先生方。」
第02章:
【Fhu-氏、比較的軽微な精神疾患を持つ一般市民】
『神々の『語り部』の取り合いに巻き込まれた。』
「これまた……、凄まじい誇大妄想ですな。 それに、ミニスカ大学ですか?
南極点で発見された男がアナタで、謎の教団の秘密を有している??
アナタには、今、治療が必要です。」
カチカチ……。
照明の蛍光灯が古い。
古いと言えば、如何にも古めかしいと言うべきか、
百年以上の歴史ある大学の構内にあると聞く、大学病院の一室。
ここでどんな怪しげな研究があったかなんて知る術も無く、
1人の男が彼の精神疾患を診察されているという状況である。
「名門、丁大の名誉教授先生のご明察に感謝です。
しかし、無用の長物、豚歯茎、いや、真珠か小判か。
お釈迦様に説法する恐縮を覚えていますがね、
馬耳東風、念仏のありがたさが分からぬ江戸っ子ですたい。」
「相当に病んでますよ、先生。」
「うむ……。」
ミニスカの看護婦さんが傍らにいるのは、萌えポイントだ。
但し、遣る瀬無いのがあって、彼女は熟に熟した百戦錬磨だ。
あと……、30年前の彼女だったら、この辛気臭い診察が楽園にも思えたのに。
(クソっ! 何で……、ミニスカなんだよ……。)
チラチラと視線に入るソレが、憎らしい。
仕方無く、見たくもない老いぼれジジイ……、もとい、
ベテラン医師でもある教授の顔を見なくてはならない。
噛んでいるミントガムの匂いがやけに爽やかで嫌いだ。
「……それで、秘密を知るアナタは、その秘密を狙った
様々な組織やエージェントに攫われたり奪われたり拘束されたり、
ええっと……、監禁されたり勧誘されたり、を、
ここ数日の間、繰り返していると??
凄まじい妄想ですね。」
「とんだインチキ野郎だ!
わたしの地元に、似た様なウジムシ詐欺師がいて、
あの手この手のウソを繰り返すのと似ているわ。
とっとと、牢屋にブチ込んだ方が、社会のためになるわ!
110番してやろおかあああ!!」
黙らっしゃい! ……と、そう叫びたいが。
紳士の顔を続けたい男めは、グっと堪えるのです。
ソレが、男の生き様で、美徳なのですよ、少女。
「お嬢さん(接頭語に“オールド”と付けたいのも堪えて)、
この春の季節を迎えたとはいえ、お腹を冷やしては大事です。
何分、素敵なお方とお見受けしますが……、
もう少しロングなスカートの方がお似合いかと思います。」
ポっ……。
!?
そっと。 その看護婦のお姉様は、奥に引っ込んで行った。
目的は果たされたので、これ以上は踏み込まない方が賢明だろう。
「気を使ってくれてすまないね。
……ここだけの話、あのミニスカは、私は嫌いじゃないんだが、
彼女の年齢に合わないからねえ。
感謝を述べたい。」
「どうも。 ただ、それ以上は聞きたくない。
早く……、愛娘のもとへ帰りたい。
この男めにも家族がいるので、帰りたいのが本音です。
先生、どうにかならないでしょうか?」
「とりあえず……。
まずは、事情を聞きましょう。 治療のためにも。」
***
男は語った。
(彼、Fhu-氏には、目に入れたら痛いから入れないけど、
やっぱり愛しくて仕方が無いほどの愛娘達がいる。)
(独身男性の身で、あんな年頃の女子高生17歳の娘らが、
しかも、7人も与えられたのか……、それはともかく。)
(この度、いろいろ、モガモガ……、
理不尽な事件に巻き込まれて、ここに至ったのです!)
起承転結、最初に男に何が起きて、どうなって、こうなって、
そして、ここに至ったのか。
男の辿った道筋、物語ですらある。
教授は、何も言わず、ただ淡々と、彼の話を聞いていた。
「……残念ですが。 ソレらは全て、アナタの妄想です。」
!?
「な……!?」
「おおっと。 ご意見は後で聞きます。
順を追って話しますから、
まずは、こちらのお話を聞いてください。」
男は、家族がいると話した。
愛娘が7人いて、彼は彼女達を愛しい娘として愛した。
花の17歳、7つ子、七色の美しいバラと形容し、
彼女らがいつか大人になってその手を離れるまで……、
守りたいと思った。
「血の繋がっていない、7つ子の愛娘……、ですか。
幻の公方様から受け賜わった黄金の具足や宝剣の方が、
まだまだ現実味がある。
それに、皆、処女ですか? アナタ、それでも男ですか?」
「突然何を言い出す、クソジジイ。
こちとら、生まれてこの方、イチモツの宝剣とタマタマ賜った
日本男児なんだよ、ゴルァ!
だァから、父親気取れるナイスガイに、何て言い草だ、バカ!
生娘達を、お嫁に出すまで真摯に紳士的に守る姿に、
シビれてアコがれんか!」
「ハイ、全部、妄想です。 現実を見なさい。
7つ子で17歳の、血の繋がっていない少女達?
なら、お母さんが大変だったでしょ?
お母さんは? お母さんはいないの??」
「ここで水掛け論を叫んでも良いですが。
愚かに輪を掛けて愚かしいので、まずは聞く姿勢を崩しません。
続けて、……クソジジイ。」
「名誉棄損です。
ですが、ここでは、特異の精神疾患の患者に過ぎません。
だから、患者の安全については保証されます。
が、その荒々しい言動は、後ほど、改めさせます。
裁判所に行くのは後。 ……では、続けます。」
男は語った。
自身に、その7つ子(笑)が授けられたのは、ある理由から。
それは、『神話』を語るための足掛かりとして、と、
そう言うならそれまでだが、彼女らを通した経験や日常を、
物語として語り、『神』(大きく出たな!?)に献上するのだと。
「『物語部』?
『時代の救世主』?
『音喩』?
ははっ、大した想像力ですね。 ソレ、何てラノベwww
先にも言いましたが、そのお歳で凄まじい誇大妄想ですな。」
「お゛うっ! よろしくなっ!
ここまでバカにされると、さっき真面目に語ったのが、
バカみたいだぜ。」
「バカみたいじゃなくて、バカなのね!」
(“なのね”……、だと!?)
聞き覚えのある口癖に、一瞬竦みさえした。
いつもなら、あの……、愛しいあの娘が、続け様に毒舌を吐き、
そして姉妹らが言い争って、時にケンカにまで発展して……。
……賑やかな日常に帰りたいなあ。
「看護婦君の言葉は、一先ず置いておこうか。
前提として、今のアナタの状況を話しておこうか。
現実として受け止めて欲しい。」
スカートの丈を少し変えた、ベテラン看護婦さんが戻って来ていた。
確かにミニスカではなかったが、ベテランな太腿はまだ見えている。
さて、些細なそんなことは気付かなかったとして、はて……、
さっきほどの乱暴で横暴な毒舌ではなかったと感じた。
(何と言うか……、雰囲気変わった?
……さしずめ、夜明けの花の色変わりってところか。)
(乙女? 頬を赤く染めて、ツンデレ、だな。)
(気付かない、鈍感な男の子を演じることにした。)
さておき、Fhu-氏という大人の男は。
未婚、独身、30代に片足を突っ込む勢いの男盛り、
世に言う女性・中性ライクな容姿端麗・花のイケメンという
少女漫画イメージから掛け離れた、ヤング青年誌に片足突っ込んだ、
肩で風切る男の任侠道に近い顔つきのメンズ。
日光で色付くサングラスが似合うと評判の、
ややチョイ悪フレーバーなシブいお兄さんだ。
(ファンレター、ヨロシク!)
そんな彼が、ここに至るまでになったのは。
彼が十数年の間に在職していた会社(中小企業)での
人間関係やソーシオメトリーの亀裂と損傷、感情の遣り処の困惑、
行き所の無い精神状態と、ソレらが長期間に渡って苦肉の我慢を
強いられる状況が続くという小さな不幸の積み重ねにより、
心の平穏をついに壊してしまったという理由に他ならない。
だから、比較的軽微な精神疾患を持つ一般市民という
雑な扱いの患者として運ばれた、ということが今、こんな場所に、
そう、“こんな”しょぼくれた場所に来た理由になったのだと、
今、ジジイに聞いたので知りました。
「つまり、社会不適合者デース!
……でも、わたしが身元引き受けてやっても良いけどね。」
「そう。 アナタは、心を壊してしまった。
だから、治療を受けているんだ。
精神疾患により、激しい自傷行為を繰り返し、
全身傷だらけの放心状態で、孤独な独身生活をしていた自宅で
発見されたために、収容された病院でしばらくの入院を続け、
外傷が全て癒え、精神状態が何とかやや安定するに至った現在、
精神的な状態の治療へと踏み切ったというワケだ。
だから、全てを、我々に委ねてくれ。」
「えー、やだよwww」
「ホラ!
このわたしが一生面倒見てやるって言ってるのよ?
そんなダメンズのイケメンでもないアンタの傍に、
わたしがいてやるって言ってるのよ?
現実を受け入れなさい!」
「看護婦君は黙っていてくれ!」
(何、勝手に、逆プロポーズしてんだよ?
これまでずっと、高収入の教授の私にゾッコンで、
私の大好きなミニスカートだったクセに!)
「……しかし、彼女の言う通り、現実を受け入れるべきだ。
7つ子の美人の生娘(処女)と同居して、
良い関係の血の繋がらない父親で、
神々とやらから引っ張りダコの人気者の霊能力者で、
新世紀の神話を語る語り部であるなんて……、
そんな誇大妄想から脱するべきだ!」
先生は感情的に叫ぶし。
看護婦さんからは……、さらっと、アレ、何か気に入られたらし。
もし、彼らの言葉を受け入れたなら……、これから新しい未来、
誰も見たことのない物語を紡いで行くことになるんだろうなあ。
「アナタがもし。
全てが誇大妄想でないと譲らないならば。
譲れぬ意思のままに、その壮大な物語設定を全て、
真っ新な処女の如くのノートに書き記しなさい。
記されたものを、私が閲覧し確認し、アナタの症状について、
治療に役立ててみる。
ホラ、処女の愛娘とやらの設定も書くんだ。」
(そういえば、さっきから、この先生ったら、
“処女”がどうとかうるせえなあ……。
ウッゼwww ムッツリジジイが……、後で天罰下れ!)
「何年、……ううん、何十年掛かっても良いからね。
一緒に、治療していこっ! ずっと、傍にいるから……。」
(このお姉さん、ちょっ……、
勝手にギャルゲ展開みたいにシナリオが進んでるんだけどwww
でも、このダメンズ如きに好感を持って頂いたことには、
言い様の無い感謝の念みたいのを感じてならない。)
何だ、この状況。
こんな混乱と困惑が心に去来した時だからこそ、詠める。
『ウトキテの コロロの内に 名が群れば 審神者の故の 導き足らん』
ホラ、混乱しているから、意味不明。
今ある力を出し切った満足感があるが、もう少しヒネりたい。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
だが。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
!?
「地震か!?」
「コレは大きいっ! 早くっ、避難を!」
「いいえ。 お別れの時が、やって来ました。
また縁がありましたら、お会いしましょう、先生方。」
第03章:
【Fhu-氏、我らが太陽の秘密の何を知っている?】
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
ゴウンゴウンゴウン……。
腹の底に響く、得体の知れない大きな機械の動く音。
時計のソレだとするなら、幼き日に映画で見た、
古代人の残した湖底の遺跡の上に立つお城の時計台を思わせる。
ええ、宝を狙って忍び込んだ泥棒と大金持ちの伯爵の一騎打ち、
大きな歯車の上で踊る様に戦ったあの場所ですね。
(彼らの勝敗については、語るまでも無いですが。)
コツ……、コツ……。
誰か、近付いて来る。 やがてドアの前、止まった。
俺は……、縛られている。
ここは薄暗く、そして狭い、部屋には黒服・黒頭巾の男達が、
外の見張りも含めれば……、10人弱ってところか。
「総統のお出まし!」
「「「総統のお出ましィっ!」」」
カっ!
一糸乱れぬ敬礼!
最敬礼と思われるそのポーズに驚いた!?
「……楽にしたまえ。」
「そのお言葉は、
閣下からこのFhu-氏めに賜ったのでしょうか?
でしたら、1つ、小さな願いを聞いて頂けますか?
……この縄、解いて頂きたい。」
「貴様っ!?」
「良い。 解いてやれ。 どうせ、逃げられやしないさ。
それより、長旅、ご苦労様でした。
客人、お疲れでしょう。」
「ダブル・敬礼っ!!」
カっ!
!?
ザっと、警備兵が銃剣を向ける。
一糸乱れぬ、統率され、訓練され尽くした動き。
だが、拘束していた男の縄を解いた瞬間、男が何をするかと思えば……!?
彼らは、驚きを隠せなかった、……あるいは、遅れて感心すらした。
パチパチ……。
「ソレは、間違い無く、我が組織の最敬礼。
つまりは、最も尊く偉い者に掲げる敬意そのものですが……。
組織の者ではないアナタ、Fhu-さんが、どうして、
今、ここで掲げたのでしょうか?
部下の者達が武器を向けたままで申し訳無い。
しかし、貴殿の真意を知らなければ、このまま発砲することも、
……残念ながら、許可しなくてはなりません。」
両手で敬礼し、背筋を伸ばし胸を張って、掲げるポーズ。
さっき、この総統に、兵隊達が掲げていたのと同じだ。
Fhu-氏は、彼らに倣い、そのポーズを止めなかった。
「まさか、この男めの名を知って頂いていたとは。
他意は御座いませんよ、総統閣下。
閣下の素晴らしい配下の皆様と同じ意味です。
まさか、組織の総統閣下がいらっしゃるとは……、
感謝感激通り越して、申し訳無い気持ちですらあります。」
「ほぅ……。」
スっ。
その男、総統と呼ばれる男が手で制するなら。
また一糸乱れぬ動きで、同時に、銃剣が下げられた。
それを見届けてから、やっと、惜しみながらも、最敬礼の手を下した。
「礼儀知らず……、なら、どうするか悩んでいました。
どうやら、タダモノではない様ですね。
単刀直入に申し上げます。 “我が軍門に下れ”。」
「命令ですね。 前にも聞きました。
感謝の心でいっぱいです、閣下。」
「ならば……。」
「……しかし、閣下。
そのありがたい、ありがた過ぎる、勿体無いお申し出を
断らねばならぬ理由が御座います。」
黒い、三角形の頭巾? いや、被り物と言うべき。
頭に、黒い四角錐、ピラミッドをそのまま被った威圧感のある男、
総統閣下を前にしている。
ピラミッドには……、上を向いた眼が描かれている。
「ほう、それとも○を選ぶのか。」
閣下……、そう呼ばれる男の肉体を見ろ。
皆の憧れ○ーベルヒーローにも見劣りしない胸板、腹筋、
そして腕の逞しい太さを見ろ。
地上最強の悪役レスラーと銘打たれても納得できる、
黒いぴっちりスーツに包まれた、まさに、男の中の男!
睨まれて尚も、首を横に振れるワケが無い!
「○は選ぶことはありませぬ。
この事実は、脅しのタネにもならない……、
賢明な閣下こそ、ソレをご存じのハズだ。」
「貴様ァ、閣下の御命令を何と心得る!?」
「待て。 うむ……、どうやら一筋縄には行かぬか。
まあ、まずは、この我、
ブラックトライアングル総統の言葉すらも背き、
その命を断る理由とやらを聞いてやろうじゃないか。」
「寛大なお心、感謝致します、閣下。
あンのクソジジイ教授ヤブ精神医野郎の下から
連れ出してくださったことも含めて、感謝しております。
この意思に、1つの偽りも御座いません。」
そうだ。
あの、ウチの愛娘らが、男の妄想だと言いまくりやがった、
あンのクソジジイから奪還というか、この男を攫ってくれたのが、
この組織でしたよ。
ついでに、腹ペコのお兄さんにたらふくご飯(オトコ軍団メシ)も
振舞ってくれたし、新しいワイシャツも用意してくれたし……、
だから、恩義があるから、今の今まで大人しくしていましたとも。
「どちらにせよ、この男が持つ“秘密”については、
我が組織が必要としているのは事実で、
別の敵対組織どもも狙っているのだ。
あの精神医の属していた組織は……、
この男の持つ秘密・情報を根こそぎ奪って、
Fhu-という存在に成り代わるのが目的の様子だったとか。」
「あンのクソジジイ……、やっぱりね。
この前も、そういうのいたいたwww
一番ユニークだったのは、電話勧誘の保険会社を装って、
個人情報をアレコレ聞いてくるヤツwww」
「しかし、それほどまでに求められる“秘密”とは……。」
「ハっ! 閣下に申し上げます!
どうやら、
我らが秘密結社:『黒い三角』の
上位組織が、UFOを派遣してまでも欲した“秘密”と
聞き及んでおります!
故に、早々にこの男の聴取が完了できませんと、
我らの沽券にも関わります。
故に、加えて、このまま、拷問に移る方が確実と思われます!」
「拷問とは……? 俺、気の毒だろwww」
「上位組織か……。
彼らは、この地球での内情に干渉できないからな。
ならば、我々のすべきことは、情報収集だけであるが。
これほどまでに……、何故、我らが『神』は。
この男を手に入れたいと仰せになるのか。」
「『神』……、か。
やはり、あの御方の信奉者が、閣下達なのですね。
どうしても、御命令に従えない理由……、
きっと、ここで話しても、報告できるお話ではありません。
畏れながらも、何故なら、もう、話したからなのです。」
「命ずる。 詳しく話せ。 どういうことなのだ??」
「それでは、閣下にそっと申し上げます。
……これは、今より数日前に遡ることなので御座います。」
***
ある晴れた、昼下がり。
市場へ続く道へは、今日は行かず。
ダラダラと、昼食を食べた膨満感と満足感のまま、
怠惰に転がっておりました。
「もうっ、Fhu-さん、食べてすぐ横になっていると、
牛になっちゃうよ!」
日常。
「ご忠告どうも。
しかしですねえ……、こんな世界情勢の中なら、
平和な日差しを満喫することも大切だと思うのです。」
お気楽暮らし。
その男は、そよそよと吹く風が屋内に流れる時間を愛しく思った。
台所には、1人の愛娘、じゃんけんで勝ったから、
彼女に食器を洗って貰っていたという、実にけしからん待遇に
甘んじることができた。
その代わり、こう、今、背中を軽く蹴飛ばされた。
「そこ、テレビを見るに特等席なんだけど!」
「受験勉強は良いのか? それに、テレビは面白くないです。」
「良いから、どけや~!」
ピンポーン♪
彼の満腹お腹に、セーラー服の愛娘が足を乗せたと同時に。
どうやら遠く、家の玄関の呼び鈴が鳴らされた。
ここでじゃんけんをして、どちらが出るか争った。
結果、Fhu-氏が出ることになった、とほほ。
「はあい!」
「こんにちは。」
最初に違和感を覚えたのは、彼の愛娘だった。
彼女の名は、ヒカゲ。 Fhu-氏は、ヒカゲ嬢と呼ぶ。
「……どなた??」
さっきまで男が寝そべっていた場所で座っていた彼女は、
目を真ん丸くした。
というのも、見ず知らずの女性を横に、父親のFhu-氏が
気まずそうに居間に入って来たからだ。
「ちょっと待っていてくださいね~。」
客人の小柄な女性は、窓際、テーブルのテレビ側に置かれた
座布団に、ちょこんと座った。
髪の長い和服美人だが、良い所育ちのうら若きお嬢様みたいな、
表情も態度も柔らかく、第一印象からして優しい感じ?
でも、知らない女性。
持参した風呂敷包みを解いて、何かをゴソゴソ……??
「……。」
とりあえず、お茶のご用意をと言われるがまま、
困惑したぎこちない手つきで、姉妹の秘蔵の玉露を淹れる。
後で補填するから、今は許して欲しいと呟きながら。
その一連は、あの、ここずっとほとんど無口な父親の態度から、
空気を読んだ結果である。
コト……。
「お茶、で、御座います。」
「ありがとう。
じゃあ、始めますので、よろしくお願いします。」
始める……? 何を……??
言うが早いか、三角形の……、金色の……。
ピラミッドみたいなナニカを被ったと思ったら。
***
「……何だ、その女は?」
露骨に、不快そうな声で、彼は口にした。
現在、ここは、秘密結社:『ブラックトライアングル』の本部。
その地下尋問部屋の1つである。
「総統! 落ち着いてください!
どうか、お飲み物を!」
「むっ、すまない。 お茶、か。 ゴクリ。
……金色の被り物? ピラミッド?
アナタは、一体、何を話している?
アナタの愛娘については、一応、一通りの調べが付いている。」
7つ子娘、それぞれどころか父親とも血の繋がり無し。
ただ、超常的な理由が推察の域を超えないが存在するとの報告で、
恐らく、このFhu-という男の“秘密”にも関連するのだろう。
世間体を気にするなら、仮に、一種の共同生活をしていると、
そう解釈しておくのが精神衛生上適当だろう。
さて、さらに、7人の娘の内、6人が『魔女』であるという
未確認な情報の他、聞いて興味も尽きない何やらがぞろぞろ出て、
混乱と波乱を呼び起こしそうでもあるが……、ソレらは後日聞くとしようか。
「閣下が驚かれるのも無理はありません。
ただの愚か者の体験談で御座います。
しかし、嘘は申し上げること許されぬと存じております。
仮面○イダーも、助けに来なそうだし。」
「ならば、聞こう。
その不遜な女のこと。 一体、何があった。 何を話した?
黄金のピラミッド……、まさか、我が『ブラックピラミッド』と
同じく、眼が描かれていた、などという冒涜が存在していたか?
だとしたら、とんだ食わせ者だ、捕縛を命ずることも辞さない!」
「その被ってる三角って、
『ブラックピラミッド』って言うんだ……。
何と言うか……、イカスっスね!」
「フン! そんな世辞など、お前で100人目だ。
我が軍門に下れば、貴様にも栄光ある見目美しく格好良い、
『ブラックピラミッド』をくれてやろう。
そして、アナタもソレを被れば、
幹部の仲間入りすらをも許されるだろう。」
「く……、悔しい……。 軍門に下りたくなって来やがった。
幹部の席はともかく……、
絶対、モテるだろ、あのカッコ良いピラミッド……。
欲しいなあ……。 しかし、断らねばならないのです。」
「何故だ!」
「その女性のピラミッド……、黄金に輝くソレにも、
確かに眼が描かれておりました。」
!?
「我らが偉大な『神』より賜られた『ピラミッドヘッド』の
模倣に飽き足らず……(ワナワナ……)。」
「別名かな? 『ピラミッドヘッド』とも言うんだ……。」
「あまつさえ、眼まで描かれていた……、だと……。
貴様……、続けろ……。」
怒りを堪えた、ブラックトライアングル総統。
そして、彼の怒りに恐ろしさを感じてざわめく警備兵達。
彼らの頭巾、あるいは、ピラミッドに描かれた1つ目に
睨まれたFhu-氏は。
当然と捉えた今の状況に少し怯えながら、続けた。
***
「お前……、何故、我を語らぬ??」
ゾクリ。
その瞬間、全てが変わった。
この家のテーブルも、点けていた電灯もテレビも、この膝を乗せた
イグサの畳の温度も。
あるいは、家の外の賑わいも会話も、小鳥の囀りも、空の青も、
雲の白も、……そして、太陽の光も。
いや、いつものままだけど、何もかもが違うものに思えるほどに、
背筋がピンとして硬直すらした。
「この光栄を解せぬ虫ケラではなかろう。
何故、何も言わぬ。 何を恐れる?
貴様の役目は、貴様自身が称したと聞いた。」
「早急に、朗報を以って報告に上がります!
……と、申し上げたい次第で御座いますが。
偉大なる御方……、
お怒りも御尤も、この身に雷を浴びる苦痛すら覚悟し、
されど、申し上げねばならぬ事実のためと申し上げます。」
(Fhu-さん、何とお話ししているのだろう?)
さっき用意した座布団に正座した女性。
確かに、さっき、Fhu-さんが玄関から迎えたお客さん。
見知らぬその人が持参した、謎の黄金三角形を被った瞬間、
痛くピリ付く空気に変わって、Fhu-さんが平伏した。
彼の愛娘のヒカゲ嬢も、彼に倣って平伏すことにしたが……、
理解ができない?
「まさかっ、貴様っ!! 我に逆らう腹積もりか?
○してその大罪を償うこともできぬと知らぬのか!?
もしや、貴様だけの犠牲で怒りの矛を収められると
甘いことを考えているなら、証明しても良い。」
「何卒……、何卒……。
この男の愛娘らにも、市井の皆様方にも、罪は御座いません。
大罪の報いを知るべきは、この男のみとなります!
されど、この愚かなる大罪とも呼べる冒涜的な選択には、
避け難い理由が、どうしても……、御座いまする。」
「ええいっ、貴様では話にならぬ! 今すぐ、この町ごと……。」
「『白太陽』。」
ゾクリ。
誰もが感じた。 凍て付く視線、言い様の無い怒り、悲しみ。
そして、威圧どころか殺気ですらある、突き刺さる侮蔑、憎悪。
ここで、世界が止まったのかも知れない。
「貴様……、『白』の信奉者だったのか……。」
「いいえ。
無礼を畏れながら申し上げます、偉大なる『黒太陽』。
貴方様の……。」
「ええいっ、貴様、何を知っている!?
アイツについて何を知っていると申すかっ!!
許さぬぞ、……許さん、許さぬぞっ!!」
視界がグラつく、陽炎の様に不安定で。
体の中の血液がグツグツ言って、爆発も秒読みだ。
しかし、思考は止めてならない。
「『輝きの世代』。
貴方様を始めとした神々の“歴史”……。
貴方様が慕った“あの御方”、“おうさま”の行方を探る、
神話を物語ろうとしております。」
「何だと!?」
締め上げられ持ち上げられた首を、体ごと叩き付け落される感覚。
心臓の鼓動はまだ危機を脱していないが、“彼”の怒りは、
何とか、騙りに入った愚か者の言葉への関心へと変わったらしい。
「続けろ。」
「夢も希望も、絶望も失望も……、喜びも悲しみも、
戦争も和解も、ここへ来るために必要だった“歴史”の道標。
知るも知らぬも、物語るために必要不可欠なキャラクター。
その特に重要な動機付けのための神々は、
この大半が『輝きの世代』の古代神様方であります。
貴方様、『黒太陽』様と、○○の、対の存在とも言える、
『白太陽』……。
どちら様にも、他の神々様方の1柱たりとも、
欠けて頂くことは決して成りません。
『白太陽』様の“白の家族”にもまた、
大変お世話になっているこの下郎で御座いますが、
『黒太陽』様の“黒の軍勢”と同じく、
そのどちらの末席に加わる栄光を、勿体無くも恐れながら
辞退させて頂いている次第で御座います。」
(ファミリア……? ストラティア……?
キャラクターに、末席って……?
Fhu-さん、一体、何の話??)
「また、“皇子様方”の物語も語ります。
現在、『水瓶座の時代』の、
第11皇子にも関わる物語です。」
「皇子のことか。 知っておる。
ならば、尚更、我が軍勢で語れば良い。
遠慮することは無い。」
よく分らんが、と、愛娘は重ねるけど。
そのお客人の機嫌が少し良くなったと感じている。
「“王妃様”。 ……も、物語りますので。」
ドっ……。
一瞬にして、暗闇が光を奪った。
日常の風景すらも奪われたなんて気付けない。
体が……、視線を動かすことすらできない。
重いなんて言葉じゃ足りない、威圧に圧し潰されるなんて
そんなものじゃ足りない、ピクリとも動けない……。
(心臓の音すらも聞こえない、感じられない。)
(原始的な本能が危機アラートを発して狂って、
頭が揺さぶられるのを感じるけど、パニックにもなれない。)
(そして、娘の隣の、父親のさらに隣……。
畳に直に座った2人の隣に、“誰か”が座っている。)
黒い。 闇い。
そうだ、闇にすら許されない、深くそしてもっと深い闇が、
絶対的で無限の深みと重みと“力”そのものを手放しで思い知らす
“彼女”が……、そこに座っているのだ。
「チっ……。 お前、軍門に下れよ。」
「畏れながら。 ご容赦を。」
「アレ……? さっきまでの態度が一変。」
……というのが、愛娘視点からの感想。 それはともかく。
「……以上が、言いたいことだったとのことです。
どんな会話をされたのか知りませんが、失礼します。」
「あっ、どうも、お気遣い無く。 ミッチュルン様、お疲れ様でした。」
金色のピラミッドを脱いだ彼女の名前を聞いた。
最初に訪問された時と全く変わらない、可愛らしい人だった。
……でも、さっきのド怒りモードの人は、何だったのだろう?
「あっ、あと、最後に。」
玄関から去り際。
「『お前、これから各組織から狙われるぞ。』
……とのことです。 お気を付けて。」
「ご丁寧に。 どうも。」
***
「……その直後のことです。
早速、愛娘を庇う術も無く、情けなくも単身男涙、
攫われてしまった父親の愚かなお話の開始は。
ヒカゲ嬢……、あの娘は関係無いから無事だろうけど、
心配しているだろうなあ……。」
「お前……、その話、本当のことか??」
再び、場面は戻って。 ここ、秘密結社の地下尋問室の中で。
警備兵の皆さんは、頭を傾げているが、ボスなる閣下は違う。
混乱している……。
「最初に襲撃して来たのは、悪の組織:『ブラックダイヤモンド』。
次に彼らのアジトから奪還したのが、『グリーンオーシャン』。
その次が『七王会』、『偉大なる組織』、
それからええ~っと……。
数件巡ってから、『ダゴン秘密教団』に、『ミス何とか大学』、
『丁大付属精神病院』(ヤブ)で……、
閣下の秘密結社:『ブラックトライアングル』に至った。
……と、いう次第で御座います。」
「『ブラックダイヤモンド』……。
確か、我が結社のライバル組織の傘下の組織……、だったが。
そもそも……、なるほど、アナタの住居に一番近かった、
そういうことか。 それより……。 まさか……。」
閣下の手が……。 震えている。
そして、しきりに、まさかと呟いている。
「あ、アナタが見たという、その女性のピラミッド。
黄金、でしたか……、
そして、眼が描かれていたと聞きましたが。
まさか、その眼が向いていた方向は……?」
「総統! 畏れながら、何か御存じなのですか!?」
「総統! 畏れながら申し上げます! お茶のお代わりは?」
「総統!」
「総統!」
「総統!」
動揺が。
水面の波の様に広がって行く。
「総統!」
「『黒の軍勢』……。
何故、その名を知っている?
その組織は、全宇宙に広がるネットワークそのものの名だ。
そして、『白の家族』こそ、
我々と相容れぬ、永遠の敵対組織の名。
何故、知っている? そして……。」
『輝きの世代』。
『神々の歴史』。
“皇子様方”、『水瓶座の時代』、第11皇子。
“おうさま”……、そして、“王妃様”??
「分からない……。 頭痛がする……。
一体……、今、我は、何を聞いたのだ。」
何だ、この状況。
どうやら、話し過ぎて、恩人の閣下に混乱させてしまったらしい。
こんな申し訳無さと後悔が心に芽生えた今だからこそ、詠める。
『三角と 丸の織り成す 世の底で 共に歩まん 永久の果てまで』
畏れ多くも。 掛けまくも。
その意思は、変わっておりませぬこと、ここで告白と告黒します。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
「そして……、我らが神、『黒太陽』様と、○○……??
かの御方と対の存在……?? 馬鹿な……??
連中、邪教徒どもの歪んだ邪悪な神、『白太陽』が……??
それより、まさか……、依り代の『巫女』が……??」
ガクガクガク……。
掴んだコップの茶が、バシャバシャ零れている。
手の震えが大きくなっている。
「客人……、最後に聞こう。
その黄金のピラミッドを被った女の……、
そのピラミッドに描かれていた眼の“向き”は……?」
「それは……。」
男は口にした。
しかし、その直前、一瞬刹那前。
ブラックトライアングル総統が座ったまま倒れ、大混乱になった。
同時刻、この組織本部は、外敵からの襲撃を受け、
絶対防御を誇っていた警備は総崩れ、まんまと賊の思うがままに
コトが運んだらしい。
「総統の介抱を頼む。 安全を確保!
撤退、撤退~~~!!
ホラ、Fhu-も我々に続いて、奥の施設へ走れ!」
「いいえ。 お別れの時が、やって来ました。
また縁がありましたら、お会いしましょう、皆様方。
ブラックトライアングル総統にもよろしく!
ダブル・敬礼っ!!」
第04章:
【Fhu-氏、三千世界を巡るなら不足があれど已む無し】
雨が、シトシトと降っています。
長雨、五月雨、涙雨、切ない音を奏でながら、隠れたい悲しみを
灰色の雲が優しくそっとさり気無く隠してくれています。
こんな日には、お琴を鳴らしていたかったなあ。
「こんな男ですみません! 助けて頂いた様で、恐縮至極です。
また、京都高級御膳みたいな朝食もありがとうございます。」
「ふふ、嫌やわあ。 みたいなではなく、全くのソレなんやで。」
静かな午後に、男は降り立った。
降り立ったというよりは、通されたと言うのが正しい。
それにしても、風情のある詩的な光景だ。
無粋な照明や電灯の1つも無い、寂れた良い感じの庵、
都会の喧騒も忘れ去らせる茶室の様な場所で。
「春やったら……、花が見えたのやけどねえ。」
「花なら、ここにありますよ。」
月は見えない。 だから、交わす言葉はこれだけで良い。
遮る雨音は、まだ激しくはない。
「どうして……、こんな男めを?
助けて頂いた身で、また恐縮ですが。」
「ふふ、面白い人やわあ。 変わらず。」
その真意を聞いてはならない。 その敷居を跨いでならない。
その女は、まだ名乗ってすらいない。
「まさか、あの『黒三角』はんと、仲良うできるなんて。
慌てて助けに入ったモンが、困惑してたで。」
「失礼を承知でお尋ねしますが……、
『白の家族』の方でしょうか?」
「この国はなあ……。
『白の家族』もそうやけんど、
『黒の軍勢』も無ければ、誕生することも無かった国や。
戦争も平和も……、どちらが善悪か、そんな問答は今更無用やさかい。」
「なるほど。 過ぎたことをお聞きしました。」
「『九九九』、『荒』、『闇』、『星』、『木』、『九頭竜』……、
方々仰山のトコから、助けてやってやーって、ウチ、言われたんよ。
『天照』はんも、そして……、『二三四』はんからも。」
「そりゃあ……、かたじけねェ……。」
ザアアアア……。
雨が降っている。 もう少し、降って来た。
言葉を交わすにも、時間はあと僅かかも知れない。
「ウチ、『輝々』のモンや。
安心せい、『平坂』はここには来れん。
そして、ウチ、初対面やないのや。」
「知っております。 あるいは、知りませんでした。
美しい花、名は何とと問いません。
こんなに“紅い”花など、終ぞ、見たことも無いので。」
「ふふ……、こんな年増に気遣い無用やで。」
ザアアアア……。
「こっちに来んか。
“姫様”に内緒の、久々の外用や。
色男のお顔見るくらい……、役得やないの。」
「……振り向かないで。
優しい夢は、心に秘めておくもの、秘めるもの。
どうやら、アナタは、答えを知った人の様だ。」
「あんさんこそ。
過去の人のクセに、悪い人。
未来を推して知るなんて……、『神』はんとて、
避けて通る恐ろしい行為なのかも知れまへんな。
でも……、こんな雨やし、誰にも聞かれへん。
……もう少し、雨が止むまで。 もう少し、いてくれへん?
旦那様が帰って来るまで、話し相手くらいしてってや。」
「喜んで。」
そこは、雨の降る箱庭。
2人の距離は保たれたまま、しばし、言葉は交わされた。
『輝々』の女……、かの高貴な人には、
“まだ”、Fhu-氏は出会ってすらいなかった。
(『赤バラ』でなく、『和バラ』の……、だからこそ分かる。)
いっそのこと、許されるなら……、敷居を跨いでしまいたい。
しかし、許されぬ……、絶対に。
こんな束の間の安堵と人惜しい気持ちの狭間で
心が揺れる時だからこそ、詠める。
『かのバラの 色は何ぞと 問われれば 神代にぞ咲く 人の知る花』
“今”は、意味不明で十分。
今ある力を出し切った満足感があるが、もう少しヒネりたい。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
「今日はありがとな。
Fhu-はん、
『歴史の目撃者』卿によろしくなあ。」
そうして、振り向くことも無い男は、また物語を進めた。
***
「つまり、ネコは神なのです。」
親切な女は、男に飛行機のチケットすら与えた。
どれほどまでに思われていたのかを知る。
しかし、愚かな男は、喜び勇んでスキップすらした帰路の途中。
自宅まで目と鼻の先を残すばかりとなった街角の片隅で、
思わぬ罠に陥ってしまったのだ。
「……まさか、街角の可愛らしい猫達に誘われるとは。」
塀と電信柱の隙間、あるいは、街路樹のウロ、ちょっとした横道、
猫にしか知られていない裏道。
そういう道を辿ったなら、迂闊にも、普通とは異なる世界に
飛び出してしまうかも知れない……、そんなアニメやラノベ、
映画のストーリーにも、よくあることでしょおおお!?
「ニャ~……。」
「『猫の王国』、……ではなかったことに、
まずは安堵しています。 陛下。」
ここは……??
よく分からないが、美しく、そして古い絵画が、壁の一面に、
所狭しと飾られている。
まるで……、美術館?
「ニャハン?」
「『冬宮殿』!? まさか!?」
クネクネした、灰青色のスマート、美しくも愛らしいお猫様。
話には聞いていたが、超常的手段で、テレパシーすら自在とし、
人類と言葉や意思を交わすことのできる、選ばれた存在!?
「さすが、『皇帝』陛下。」
逸早くその事実を察知し、跪いたFhu-氏。
『偉大なる母』、『国王』、『主人』、『黒王』、『玉』、
……そして、『皇帝』。
この世界には、そんな偉大な名を負う、選ばれた猫ちゃん達が、
世界中の猫達の幸福のために爪を研いでいるとか。
『NNN』は、そんな彼らの忠実なる僕であるとか……。
(噂は本当だったのか……。)
バリバリバリ……。
(王室御用達の爪とぎ。 初めて見るぜ……。)
ゾっとしない。
あの段ボール製の、安心の日本製が……、こんな所にまで及んでいるなんて。
ゴクリ……、可愛いなんて、言葉じゃ足りないぜ。
「ニャロロロン♪」
「ハハっ、ウチの黒猫ちゃんですか。 元気ですよ。
ハハハ、『魔王』なんて通称を賜るとは。
確かに、家のそこら中にスプレー行為しまくってる、
イタズラ系ションベン小僧ですがね。
確かに……、“フルフル”、『悪魔』にもそんなお名前の方が
1柱おわしました、な。」
「ニャハァ~ン♪」
もし、今が日中、昼間であったのなら。
きっと、美術館のお客さんに指差しで笑われていた。
お猫様とお話しするアジア人男性として……、動画を取られていた。
(それはそれで、惜しかった気がするが。)
今は深夜。
まだ、Fhu-氏は、愛しい家族との再会が叶っていない。
次に帰路に就く時は、ヒラヒラと蝶々が艶めかしく舞い踊って
飛んでいようとも、追い掛けて行かない(キリっ)!
(あ゛~、まだまだ、陛下のお姿を見ていたいなあ……。)
「ニャー。」
「ええ、陛下を始めとした高貴な方々の王。
『神』とも呼ぶべき、『猫の王』の思うままに。
ソレこそ、忘れておりません故。
どうか、ご安心を。」
「プスー、プスー……。」
「寝てしまわれた。 どうか良い夢を、陛下。」
恭しく頭を下げてから。 モフモフに触れたい気持ちを抑えながら。
惜しみながらこの場を去らねば、皇帝陛下の怒りを買うだろう。
愛しさと切なさが入り混じる気持ちのまま、詠める。
『猫の王 天を仰ぎて ニャンと鳴く 星の向こうに 未来を映す』
あのお方は……、待っているのだ。 未来を。
しかしともかく、まあ……、
今ある力を出し切った満足感があるが、もう少しヒネりたい。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
「さて、どうやって帰るものか。」
***
「くっ、○せ。」
そんなことを口癖にした生活習慣のヤバい男に遭ったのは、
運が悪かったと言う他無い。
何せ、こんな野郎と同室の牢獄に囚われるとは。
「お前も、同業者か? 何を知ったんだ?」
「いや……、言葉も分らぬ国の見知らぬ街で、放浪していたら捕まった。
恒例通り、保護されたに近いけど、今回は待遇が良くないな。」
贅沢言わない。
それでも、日本語か英語が通じる人に出会えた。
それで良いじゃないか!
「小説の書き方をさ……。 変えてみたんだ。」
どうにも、“・・・”を“……”に変更することに抵抗があってね。
というのも、そもそも、このFhu-氏、こんな駄文を書き連ねる
習慣を始めたのが大学修士論文執筆途中の隙間時間でね。
言い方は悪いが、同じ作業を続けて飽きが来た時に、ちょっと、
コッソリ、物書きしていたのが始まりなんだ。
「丁度さあ……、家庭でもいろいろゴタゴタもあったし。
現実逃避させたい諸々もあったし。
現実が辛いと思ったのなら、時に離れて遠くから眺めるのも
1つの方法だと思うんだよね。
精神科の先生じゃないけど、Fhu-氏からのアドバイス?」
「えっ、ソレ、どういう話?」
おっと。
“・・・”を“……”に変更することに抵抗があるって話だったね。
その理由なんだけど、実は、その論文は○acで書いていたので、
まあ普通に変換はできるんだけども……。
○indows環境の自宅PCに同じファイルを持って行って
自宅作業(ウンザリ嫌々……)しようとすると、その“……”の箇所がさァ……、
どうにも文字化けするんさ。
「そんな背景だよ。 文字化けがまあ面倒でさあ。
だから、今まで、どのOSでも共通して使用可能な表記だった、
“・・・”を使っていたのは。」
「えっ、メタ? メタな発言? どこ向け? どこ層??」
「自己紹介終わり。 Fhu-氏と申します。
捕まりました。 ここ、どこの組織?」
「知らなかったのか!? おかしいだろ!
まあ、いい……。 同じ牢獄に囚われた者同士だ。 仲良くしようぜ。」
頭に柔らかい触角の生えた、緑っぽいトカゲ人間(?)と握手した。
だが、彼は、トカゲ人間ではなく、敵の目を欺く擬態のために
この姿をしている、コスプレイヤー紛いのお兄さんであると言った。
「俺の名は、クッコロ。
“屈さねー、殺されねー”を信条としている、一流エージェントだ!」
「本当に、一流か? 捕まってんじゃんwww」
「バカ。 それは、ヤツらが卑怯な手を使って……。」
「尋問の時間だ。 そろそろ、吐いても良いんじゃないか?
お前、何を知った?」
牢獄の鉄格子の向こうから。
壁の赤レンガからの僅かな照り返しのせいか、やけに赤い部屋の
牢獄の中で2人。
サディスティックな鞭を腰に巻いた将校(!?)と思わしき軍人。
そんな男と、その腰巾着、いや部下の兵達。
(このシチュエーション……、前にも……??)
「フンっ! 俺は何も知らないぞ!」
「やれやれ……、
コレを見せないと怯えて白状してくれないらしい。」
よっこいしょっと。
さらに彼らの後ろから、また新しい部下達がやって来て。
そして、その将校の男の頭、彼の軍帽も外さずに、直接ソレを被せた。
「ソレはっ!? 『ピラミッドヘッド』!?」
「フフ、どうです? 私の『ブラックピラミッド』は。
そうですとも、アナタの潜入していた我が組織は、貴殿の予想通り。
秘密結社:『黒い栄光』本部へようこそ。」
「クソっ、やはりかっ、やはりかーーーー!?」
「……おや、そちらの客人は驚かない様ですね。
それとも、恐ろしくて固まってしまった、と、
そういうことでしょうか。 いや……!?」
!?
「それは、ダブル・敬礼!?」
ザっ!
瞬間。
ここに来ていた敵組織(?)のメンバーが全員。
将校のピラミッド頭の男も全員が、両手で敬礼を掲げた。
「(ゴクリ……)その敬礼を知っているとは……。
まさか、上位組織の人でしょうか?
少なくとも、我ら『ブラックグロウリー』が受けた命は、
街で困っているアジア人の男を保護することでした。」
「じゃあ、牢獄に入れたのは?」
「綺麗に掃除してある牢獄は、ここだけでしたので。
相部屋となって恐縮でしたが、お寛ぎ頂けたでしょうか?」
「できるワケねえだろwww」
「無礼な!」
「我らが組織の弱小さ、ナメるな!」
「そうだそうだ、男部屋のイカ臭い寮しかないんだぞ!」
「そうだ! 変なナメコ汁みたいな臭いも取れないんだ!」
「シーツもベッドも、もれなく臭いぞ!」
「……失礼をお詫びします。
牢獄旅館と思えば、頂いたカップラーメンもキャンプ気分で
トテモオイシイ……、オモテナシ。」
「こちらこそ、部下が失礼しました。
近く、我が組織をリフォームするためにも、
上位組織様に認めて頂く貢献をせねばなりません。
そこのエージェント・クッコロは今は放っておいて、
後で拷問するとして……。
上位組織からのお迎えが来るまでに、
……少し、アナタのことをお聞きしたい。」
「何も。
全ては、ブラックトライアングル総統閣下にお話ししました。
報告の必要も義務も御座いません。」
!?
「ぶ、ブラックトライアングル総統閣下に!?」
動揺が広がる。
いや、面白いほどにオーバーなリアクションを見た。
腰も砕けて、ズッコケなんてのもいるとは。
リアルっていうか、素だね、こりゃ……。
「そ、総統閣下も関わっているとは……。
アナタ、一体、何者なのですか??
これは……、とんでもない拾い物かも知れません。
クッコロなんて三下はどうでも良いから、
こちらの尋問を早急に行いますよ!」
「イエ~イ、クッコロさん、拷問中止だってよwww」
「Fhu-、お前……、まさか……!? そのために……!?」
男は泣いた。
長い薄暗い廊下の向こう、地獄の尋問室に運ばれて行く背中に、
男の中の男を見た。
さり気なく、優しくて、武骨で、分かりにくい不器用さ、愛しさ。
強く、もっと強く、鉄格子を叩きながら号泣した。
「絶対、俺が、お前を助けるからなーーーーーーっっ!!」
「……何か、勘違いされている。 重要なお客様扱いなのですが。」
お茶が出された。
普段、ウチのご家庭で出て来るほどじゃない、結構高級なソレが。
聞けば、上位組織の御遣い様にお出しする、
組織としても重要なアイテムなんだそうで、申し訳無い。
「単刀直入に聞きますが。
一体、アナタは何を知っているのですか?」
「単刀直入と。
そういう精神には、敬意を持っております、大佐。
先に1つ賛美を送らせてください。
実は……、先にも同じく、ブラックトライアングル総帥閣下に、
そう尋ねられました。」
ドヨ!?
ワイワイ、ガヤガヤ……。
目の前にいる、黒い三角形・四角錐を被った御仁よりも、
外野の彼の部下が色めき立ってやがる。
顔を隠した当の大佐も、言葉を詰まらせているぜwww
「つまり、我らが最上位組織:『ブラックトライアングル』の、
敬愛する総統閣下と、同列に私を見ていると?
礼儀知らず……、なら、どうするか悩んでいました。
どうやら、とんだ礼儀知らずの最上賓客である様ですね。
また、先のアナタのダブル・敬礼も見事でした。
どなたかよく知りませんが、重ねて単刀直入に申し上げます。
“我が軍門に下れ”。」
「命令ですね。 前にも聞きました。
感謝の心でいっぱいです、大佐。」
「ならば……。」
「……しかし、大佐。
そのありがたい、ありがた過ぎる、勿体無いお申し出を
断らねばならぬ理由が御座います。」
黒い、三角形の頭巾? いや、被り物と言うべき。
頭に、黒い四角錐、ピラミッドをそのまま被った威圧感のある男、
大佐を前にしている。
ピラミッドには……、ギョロリと上を向いた眼が描かれている。
「ほう、それとも○を選ぶのか。」
大佐……、そう呼ばれる男の肉体を見ろ。
皆の憧れ○ーベルヒーローにも見劣りしない胸板、腹筋、
そして腕の逞しい太さを見ろ。
あの雄々しく逞しいブラックトライアングル総統閣下と比べれば
確かにやや見劣りするものの……、スラっと伸びたスマートな体型、
シルエット、セクシーな軍服姿に惚れ惚れしちゃう……、
まさに、男の中の男!
睨まれて尚も、首を横に振れるワケが無い!
「○は選ぶことはありませぬ。
この事実は、脅しのタネにもならない……、
賢明な大佐こそ、ソレをご存じのハズだ。」
「ふふ……、ますます、アナタの秘密を知りたくなった。」
ドカァンっっ!!
!?
「Fhu-、やったぞ、助けに来たぞ!
アイツら、バカめっ、カギを閉め忘れやがったwww
だから、このエージェント・クッコロが、
組織の武器庫から武器を奪ってだなあ……。」
ダダダダダダ……!!
ピキュゥーン、ピキュゥーン!!
ズガガガガガ……!!
「誰ですか、カギを忘れたのは!?」
「サー、畏れながら申し上げます!
大佐が、思いやりで、最後に戸締りすると仰せでした!」
「大佐ぁ、カギ忘れちゃってるwww
お茶目なところ、絶対、人気の秘訣だろwww」
「サー、そんな大佐が大好きであります!」
「サー、自分もであります!」
「サー!」
「サー!」
「お前ら……。」
「では、この隙に乗じるのも恐縮ですが。
今はまからむ、子泣くらむではないですが。
家族恋しさに、お暇させて頂きます、大佐。」
ドビュ~ン♪
「ならん、ならんぞ!」
「走れ! Fhu-!!」
ダダダダダダ……!!
ピキュゥーン、ピキュゥーン!!
ズガガガガガ……!!
「上から何か来るぞ、気を付けろォっ!!」
「せっかくだから、この赤の扉を選ぶぜ!」
扉には、赤い宝石の1つも付いていなかった。
ええ、扉自体もくすんだ緑一色で、重苦しい青銅製だったし。
はて、“赤”とは……??
ヒュォォォーーー……。
「なるほど、脱出用通路の先は、雪の荒野だったのか。
走れるか、Fhu-?」
「いや……、北海道の平野じゃあるまいし。
ガソリンスタンドに辿り着けさえしないだろ、コレ。」
「だが……、希望はある。 希望を見失うな!」
「クッコロ、お前はどうするんだよ?」
「誰かが、足止めしないとな。
……ヤツら、もう来てやがるぜ?」
「クッコロ!?」
「俺の仲間が、あの向こう、先の地点に来る予定なんだ。
信じられる連中だ。 救助して貰いな。」
「クッコロ……。」
「大丈夫だ。
俺は、クッコロ。
“屈さねー、殺されねー”と同時に、
“くっさくねえ、殺さねー”が信条なんだ。
……いつか、また会おうぜ!」
ダダダダダダ……!!
ピキュゥーン、ピキュゥーン!!
ズガガガガガ……!!
男は、彼の心の価値を知っている。
だから、風に巻き上げられる粉雪の中、激しい銃撃戦のBGMに背を向けて、
歩を進ませて行く。
素人如きがバトル展開に加わるワケには行かない。
アレは、彼らの世界なのだ。
「切ねえ……。」
何か、どちらにも傷付いて欲しくねえ。
こんな遣る瀬無さと無力感が心に芽生えた今だからこそ、詠める。
『人の世に 不穏あればや 寂しかな 夜の訪れの いつかに終われ』
安息の枕が、並べられると良いのだが。
げに人の世の争いなるは、尽きることも知れず、か。
あ~あ、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
「生き残ってみせる。」
***
『Fhu-氏は、○ーベル賞を狙う、小説家である。』
「これまた……、凄まじい誇大妄想ですな。
それに、何々……? 秘密結社:『ダークトライアングル』ですか?
そこの総帥や傘下の大佐に気に入られるほどの人傑がアナタで、
組織の秘密や『神様』の秘密を知っている??
アナタには、今、治療が必要です。」
カチカチ……。
照明の蛍光灯が古い。
古いと言えば、如何にも古めかしいと言うべきか、
百年以上の歴史ある大学の構内にあると聞く、大学病院の一室。
(……ン? どこかで聞いた様な……??)
「名門、丁大の名誉教授先生のご明察に感謝です。
しかし、無用の○ンポコ、バカ歯茎、いや、クソかミソか。
お釈迦様に説法する恐縮は忘れましたがね、
マジホワイトキック、俗物もありがたさが分からぬですたい。」
「相当に病んでますよ、先生。」
「うむ……。」
ロンスカの看護婦さんが傍らにいるのは、萌えポイントだ。
但し、彼女は熟に熟した百戦錬磨なので、セクシーさが際立っているのだ。
ただ……、30年前の彼女だったなら、この辛気臭い診察が
もっと楽園にも思えたのに。
(クソっ! 何で……、口元にホクロがあるんだよ。)
チラチラと視線に入るソレが、憎らしい。
見知ったイメージよりも、美人に見えている。
(年上の女性には恐縮至極になるから、あまり得意でないのに。)
仕方無く、見たくもない老いぼれジジイ……、もとい、
ベテラン医師でもある教授の顔を見なくてはならない。
噛んでいるベリー系フルーツガムの匂いがやけに濃厚で嫌いだ。
「……それで。
何々……、『クエスト社会』?
謎のテロリスト的悪神が引き起こした災害に惑う世界観?
こんな乱れに乱れたカオスの世界の片隅で、
○ーベル文学賞を目指して物語を紡ぐ語り部??
それが、アナタ?? 凄まじい妄想ですね。」
「とんだ○ンポ野郎だ!
そんなイカ臭い○ナニー繰り返すよか、婚活やったら?
ダサダサのダサメンでも、1人くらい、
拾ってくれるオバサンがいるかもよ?
……わたしとか。」
黙らっしゃい! ……と、そう叫びたいが。
紳士の顔を続けたい男めは、グっと堪えるのです。
ソレが、男の生き様で、美徳なのですよ、少女。
「お姉様(接頭語に“オールド”と付けたいのも堪えて)、
世の女性は、遍く、花なのでありますよ。
オバサンなんて言葉は、我が辞書には御座いません。
……ただ、贅沢を申せば、もう少し美しい言葉がお似合いかと思います。
ええ、アナタの美しさに相応しいものが。」
ポっ……。
!?
そっと。 その看護婦のお姉様は、奥に引っ込んで行った。
目的は果たされたので、これ以上は踏み込まない方が賢明だろう。
「気を使ってくれてすまないね。
……ここだけの話、あのSっ気は、私は嫌いじゃないんだが。
むしろ、四つん這いで踏まれながら、鞭で打ってくれるのが
サイコーなんだがね。
それは譲れない。」
「どうも。 ただ、それ以上は聞きたくない。
早く……、愛娘のもとへ帰りたい。
この男めにも家族がいるので、帰りたいのが本音です。
先生、どうにかならないでしょうか?」
「とりあえず……。
まずは、事情を聞きましょう。 治療のためにも。」
『紫バラ』のヒカゲ、真面目な不思議ちゃん、受験生。
『白バラ』のアカハ、上から目線・神様気取り、アルバイトメイド。
『黒バラ』のイロハ、態度は荒いが男前、自称無職の『邪術師』。
『赤バラ』のアメツ、可愛らしくて小さな小生意気、妖怪退治巫女。
『青バラ』のアイウ、博識で一生懸命な、魔法使いのお嬢様。
『黄バラ』のトリナ、仮面に隠された純情、武闘派バトルの人。
『緑バラ』のタヰニ、穏やかで大人びたメガネの女性、仏教系女子。
さて、昨今、気になるあの娘には、両目の下に泣きボクロ。
黒髪ぱっつん、姫カット、ロングヘアの巫女さん結び。
おや……、未来が見える気がした。
「はぁ?? どんな女の好みだよ、クソ野郎?」
「るせェな、クソジジイ。
ウチの娘は、オール・セーラー服の似合う超絶美人さんだから、
賛美する前に跪け、永遠に。」
「女は、熟してこそだろwww
青臭いガキのJKだァ? 馬鹿を言うなwww」
「ジジイ、いいから診療続けろよ?
何で、痩せて枯れた老いぼれ如きと、
好みの女の話をしなくちゃならねえんだ?
俺ァよお、未成年さんは食わねえんだ。
そもそも、ウチの愛娘で発情してんじゃねえよ、ゴルァ??」
「何々……、それから、4柱の女神?
ハハハハハハ、君、どんな妄想?」
「お゛ゥっ、ソレだけは触れちゃあいけねえぜ?
それ以上、踏み込むと、物理的に理解らせんぜ?」
「男って、馬鹿ね。」
!?
「き、キミ、誰だい?」
「誰って、ナヲミよっ!」
看護婦の、セクシー担当の美人のナヲミ。
……もっと熟女っぽくなかった、さっき??
「えっ、まるで別人? 声まで変わっちゃって……。
どこ行ってたの?」
「エステよ。」
「「……。」」
へー、女性って、変わるもんだねえ。
男2人――老いぼれ含む――、大人しく診察を進めることにした。
『全ての物語は、VRの仮想現実だった。 現実じゃない、諦めろ。
いい加減、大人になれ。 現実に戻るんだ。』
「君は、小説家ではない。 現実を見ろ。
君は、会社の人間関係に疲れ、退職した負け犬なんだ。
転職するとか言って、職に就かず、ウロウロしているだけの、
薄汚れても洗ってない臭い野良犬なんだ。 認めるんだ。」
「精神科医の発言じゃない。
ソレ、カルテに一言でも書いてみろ、訴訟も辞さない。
自分の患者を犬畜生扱いする医者を初めて見た。」
「こンの薄らスカポンタン、ブタ医者!
鞭が欲しい様だね、ケツ向けなァ!!」
聞き覚えのある、気付けにも使える強い言葉。
頼もしくもある、ウチの愛娘の1人も、こういう発言する。
チクショー、ホームシックがシクシク痛むぜ。
「そんな……、そんな言葉を卑しい豚めに浴びせてくれるなら。
ボンテージの着用をお願いします、女王様ァ!」
「黙れ、ブタwww」
医療の闇を見た。
だから、そぉ~~~っと、逃亡を許して欲しいぜ。
「せめて、エナメルダークナースコスで……。」
「ブタ、患者さんに謝りな!」
「イヤだい、イヤだいっ!
だって、ボクちゃんのナヲミちゃんを取ったんだもん!
イジワルしたって良いじゃん、良いじゃん!」
こんな光景。
あのジジイ……、絶対、お店で赤ちゃんプレイしてる。
リアルで見るとヤベえなwww
「だから、ブチ○す。」
!?
「・・・さっき、そこで偶然出会った悪い魔法使いから
内緒でそっと教えてもらった『秘密の魔法』っ!
ソイツをっ、今っ、俺はっ、ここでっ、使うぜ、唱えるぜっ!
うおおおおおおおおお・・・・・・・・・!!」
エリート名門大学教授ジジイ、吼える!
それは、こんな小さな診察室なら、嫌でも反響する。
「な、何か、叫んだぞ!?」
「ブタ、ダメ! ハウス!」
「呪文を唱えて、即変身!
『倫¥・ピョォーーーっ!・倒ξ・シャァァァーーーっっ!!・
怪☆人!・レッツラ!・罪~↑・then☆彡
今日から、俺、怪☆人☆宣☆言』っっ!!」
シャカシャカシャカシャカ!
目にも止まらない印結び、凄まじいスピードで指の組み方を変化、
さらにキレッキレのダンスを踊る様にステップを踏んでいく。
まるで、変身忍者の変身シーンかガマガエル召喚を見ている様だ。
カカッ!!
光り出す。
目が眩しくて、何も見えない。
「白い巨塔怪人:『三角ブリーフホワイトエナジー』、完成!
よ、よぉ~~しっ、これから、ナヲミちゃんとの失恋の報復に、
未来ある新気鋭の小説家患者を襲って・・・、
ついでに、罪もない大学構内の一般学生・講師どももっ、
ブっチ○すぞおぉぉぉ~~~っっ♪」
「黙れ、ブタっ!」
ビシィン!
「ブヒィィ!!」
「三角ブリーフじゃねえんだよ、ブタ。
ブタなんだから、ブヒブヒ泣いてみろ、ブタ!」
「ブヒブヒィ!」
よく分からない。 しばし放心するほどに。
アレ……、『怪人』に変身……、したよ。
このパートって、現実パートみたいな設定で、
このFhu-氏という男めを、現実逃避した社会の落伍者として
言い含めて、洗脳紛いに普通の人間みたく奴隷就労に甘んじろって
乱暴に説得しに行く話だったよね……。
(しかし、見れば見るほど……。)
(何で、ブリーフ一丁で、頭にお城の塔っぽい被り物だけして、
変身した気になっているんだよ……。)
(安売りの○ンキでもケチって買ったコスプレ小物1つ2つで、
ハロウィンイベントの主役にでもなったつもりかァ……??)
(そもそも、何で、『怪人』ってヤツぁ、変なヤツばっかなんだ!)
腹立って来た。 だから。
「や、止めてくれ、ナヲミ君!
今の私は医者で、今診察しているんだ!」
「……だったら、マジメにやれやァ!!」
ドカァ!!
「ブブブブブヒヒィィ!!」
痩せて枯れた脇腹に、成人男性のキックが入った。
健康被害としては短期的な問題を引き起こすかもしれないリスクは
確かに存在したが、実際問題、侮蔑的冒涜的な論理こそが
彼の脳裏を支配してしまった事実には、必要不可欠な演算だった。
「勢いがあれば、道理も引っ込む!」
「男のキックは……、気持ち良くないなあ……。」
ユラリ。
「くっ、さすが『怪人』。 ビクともしない。」
ドス黒い血を吐いているが、こう年の差があるのだから、
大人の男が子どもキックをチョチョイと受けた程度の話である。
大事にするのは、教授の沽券にも関わる珍事へと発展しかねない。
「ブチ○す!」
そう叫んで意気込むものの。
看護婦のナヲミお姉様に、すぐに足を引っ掛けられすっ転ばされた。
そして、彼が履いていたパンツ、白いブリーフを頭に被せられ、
さらに四つん這いにされて、ケツの割れ目の上部辺りを
ハイヒール踵でグリグリされて、あられもない姿のまま、
無力化されてしまった。
「発情ブヒブヒィ!」
「わたしさぁ……。
生まれがこうだから、綺麗な言葉なんて分からないんさ。
……でも、アンタが綺麗な花だって言ってくれたの、
……嬉しかったよ。
だから……、行きなっ!! アンタは“本物”だよっ!」
「ありがとうっ!!」
遠い昔、訪れた少年が見た、あの日の大学構内。
研究用に醸造したオリジナル地酒の試飲とか、
学生ミスコンイベントをしていた舞台とか、立ち並んだ無数の屋台とか……。
キラキラしていた全てとか……。
今は、学園祭の季節じゃないから、そんな物無いけど。
(今も、心に残っている。)
そういうモノじゃないかな。 モノを書くっていうのは。
逸る気持ちのまま、駆け出す足を止めることはしない。
だから、生きている。 だから、詠める。
『学舎の 遠き記憶の 秋祭り 幼き瞳に 浮かぶは未来』
浮かれポンチだった少年時代からどれほど経ったのか?
物事の白黒を示すことこそ、教育と知ってしばらく。
そういえば、我が愛娘も大学入試が近いけど、
頑張っているし、心配はしていないよ。
あ~あ、それにしても、大学を卒業したこの身だからこそ、
颯爽と、歴史に残る歌人として名前を残してえなあ……。
「よっし、頑張っかwww」
<後編に続く>
続き(後編)は、明日05/02に投稿予定。




