恩返しする弟子とされる師匠
弟子が師匠に勝つことは恩返しと言われたりするが私はどうだっただろうか。
私はとある格闘技の道場で師匠に恩返しした後、他の弟子を引き連れ割って出た。
恩返しとはいえ、師匠は20も年上であり、負けるはずがない。
金は人の心を変える。
私は次のオリンピックに出場する可能性が高く。優勝も視野にはいる。
名声から門下生が増えれば割って出た者達は幹部となり金を受け取る側になれるのだ。
また表向きには師匠は正式に私の独立をみとめたことになっている。
認めなければ試合を何度も行う。
年齢差を考えれば師匠が勝つ可能性は皆無に近い。
例え年齢的にしょうがなくとも無様に負け続ければ誰もいうことは聞かなくなる。
けれど私はオリンピック出場を逃した。
稽古中の軽い怪我、それが始まりであり、少しの差だが勝てる相手に勝てなくなった。
またオリンピックの選考が近づき、私は無理をした事で怪我は悪化していく。結局重要な試合を全て落とした私はオリンピック出場を勝ち取る事は出来なかった。師匠なら止めてくれたのだろうか。
私は更に無理をし4年後の、恐らく最後のチャンスであろうオリンピックにも出場出来なかった。
思うように門下生は増えずともに師匠の元を割って出た仲間との関係も悪化していく。
そんな私の元に師匠が訪ねて来る。
試合をしようというのだ。
師匠には鍛え直した跡が見える。年齢を感じさせない引き締まった身体。指導者でなく戦士の身体つきをしている。
一方私は怪我がもう隠せない所まで来た。あのときは私に体力があったが、酒に溺れ怪我も完治せず、生活の心配も必要になり始め、精神も不安定となった。
皆の見守る中それでも私は勝った。
若さとはそういう武器だった。
「師匠、今までの事は謝ります。もう一度弟子にしてください。」
そういって道場の床に頭をこすりつけた。
師匠が私の元にやってきて、私に頭を上げさせる。
「お前は私より強くなった、それでもお前はずっと私の弟子だと思っている」
師匠は優しい顔でそう語りかける。
師匠は分かっていた。私はずっと師匠の弟子であり、独立したのは弟子の立場ではあったとそう言っている。つまり今と変わらない。それを優しく伝えた。
私の道場の経営は上手く行かず、立ち上げメンバーともギクシャクしたまま、道場を続けろと言われている。
私は「そこをなんとかお願いします」
と言ったがそもそも師匠は弟子と認めてくれているのだ。これ以上頼める事はないのだ。
けれど師匠は振り返り
「師匠のやり方なら教えてやろう」
といった。
その後道場は縮小し、かつての仲間もほとんどがさったが、ようやく私にも師匠の自覚が芽生え始めていた。




