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婚約破棄された実務令嬢は、監査院で王国を再設計する  作者: ヲワ・おわり


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30/45

法務補佐が売った抜け道

 法務補佐関与の照合は、静かに進んだ。


 LAW-30。承認修正文の作成履歴。


 表向きは合法助言。だが時刻を重ねると、偽請求投入の直前に“抜け道”だけが追記されている。


 私は証拠束を閉じた。


「関与は立ちました。次は個別摘発じゃ足りない」


 ユリウスが頷く。


「制度化だ。告発者保護を常設しない限り、同じ穴が再生する」


 BRG-30に次局面メモを記す。


 告発者保護法案、審議前倒し決定。


 王都の時計は進む。

 私たちの戦いも、個人の逆転から制度の固定へ進んだ。


 Arc2の本番は、ここからだ。


 法務補佐の机は整っていた。整いすぎている、と言ったほうが近いかもしれない。書類は縦横ぴたりと揃えられ、余白の癖まで統一されている。そういう整い方をする机は、だいたい二種類しかない。几帳面な人間の机か、痕跡を残したくない人間の机だ。


 私はLAW-30の時刻欄をなぞる。修正案が入ったのは、偽請求再投入の直前。条文解釈を“補う”のではなく、抜け道だけを狙って書き換えた時間帯だ。


「助言じゃないですね」


 私が言うと、ユリウスも頷いた。


「通すための設計だ」


 そこが重要だった。違反を実行したのは別の人間でも、通る形を作った者がいる限り、同じ違反は何度でも再生する。王都中枢の怖さは、個人が倒れても“通り方”だけが制度として残ることだ。


 だから個別摘発だけでは足りない。


 私はふと、自分が最初に欲しかったものを思い出す。婚約破棄をひっくり返したかった。自分の名誉を戻したかった。もちろん今もそれは大事だ。


 でも三十話まで来て、もうそれだけでは足りなくなっている。


 Kiteのように消されかけた人。

 薬が足りない病院。

 保全先を先回りで抜かれる現場。


 そういうものを見たあとでは、“私一人が助かればいい”という終わり方は、たぶん選べない。


 ミラがBRG-30を覗き込み、言った。


「次局面移行メモ、これでいいですか」


「はい」


 私は目を通す。


 告発者保護法案、審議前倒し決定。

 つまり、ここから先は一人の違反者を追うより、“黙らせない仕組み”を常設化できるかどうかの戦いになる。


 王都の時計は進む。

 私たちの戦いも、個人の逆転から制度の固定へ進んだ。


 Arc2の本番は、ここからだ。


 窓の外では、まだ王都の灯りが消えていない。眠らない街だと思う。けれど本当は、眠れない人間を上に積み上げて回っている街なのかもしれない。


 だから私は、せめて次の制度では“告げた者が先に消える”順番だけでも変えたい。


 紙は冷たい。

 でも、その冷たさを人を守る方角へ固定できるなら、冷たいままでいい。


 今の私は、そう思えるところまで来ていた。


 ユリウスが机上の証拠束を整えながら言う。


「法案審議に入れば、次は正面から『制度が乱用される』で来る」


「分かっています」


 私は答える。


「だから次は、守る価値だけじゃなく、守らない時の損失も並べます」


 王都で制度を通すには、正しさだけでは弱い。通さなかった時に、誰がどれだけ困るかまで見せなければいけない。


 それは少し嫌な現実だ。

 でも、嫌な現実を見たうえでなお前へ進むのが、ここまで来た私たちのやり方でもある。


 私はBRG-30の余白へ、法案審議で先に出すべき論点を三つだけ書いた。


 一、告発が潰された場合の現場損失。

 二、保護制度不在で消えた証言数。

 三、保護導入後に抑止できる再発コスト。


 法案は理念だけでは通らない。

 守るべき人だけでなく、守らなかった時に発生する損失まで並べて、ようやく王都では審議の机に乗る。


 私はその現実を、もう逃げずに見ることにした。


 きれいじゃない。

 でも、きれいじゃないことを理由に手を止めたら、また誰かが先に消される。

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