法務補佐が売った抜け道
法務補佐関与の照合は、静かに進んだ。
LAW-30。承認修正文の作成履歴。
表向きは合法助言。だが時刻を重ねると、偽請求投入の直前に“抜け道”だけが追記されている。
私は証拠束を閉じた。
「関与は立ちました。次は個別摘発じゃ足りない」
ユリウスが頷く。
「制度化だ。告発者保護を常設しない限り、同じ穴が再生する」
BRG-30に次局面メモを記す。
告発者保護法案、審議前倒し決定。
王都の時計は進む。
私たちの戦いも、個人の逆転から制度の固定へ進んだ。
Arc2の本番は、ここからだ。
法務補佐の机は整っていた。整いすぎている、と言ったほうが近いかもしれない。書類は縦横ぴたりと揃えられ、余白の癖まで統一されている。そういう整い方をする机は、だいたい二種類しかない。几帳面な人間の机か、痕跡を残したくない人間の机だ。
私はLAW-30の時刻欄をなぞる。修正案が入ったのは、偽請求再投入の直前。条文解釈を“補う”のではなく、抜け道だけを狙って書き換えた時間帯だ。
「助言じゃないですね」
私が言うと、ユリウスも頷いた。
「通すための設計だ」
そこが重要だった。違反を実行したのは別の人間でも、通る形を作った者がいる限り、同じ違反は何度でも再生する。王都中枢の怖さは、個人が倒れても“通り方”だけが制度として残ることだ。
だから個別摘発だけでは足りない。
私はふと、自分が最初に欲しかったものを思い出す。婚約破棄をひっくり返したかった。自分の名誉を戻したかった。もちろん今もそれは大事だ。
でも三十話まで来て、もうそれだけでは足りなくなっている。
Kiteのように消されかけた人。
薬が足りない病院。
保全先を先回りで抜かれる現場。
そういうものを見たあとでは、“私一人が助かればいい”という終わり方は、たぶん選べない。
ミラがBRG-30を覗き込み、言った。
「次局面移行メモ、これでいいですか」
「はい」
私は目を通す。
告発者保護法案、審議前倒し決定。
つまり、ここから先は一人の違反者を追うより、“黙らせない仕組み”を常設化できるかどうかの戦いになる。
王都の時計は進む。
私たちの戦いも、個人の逆転から制度の固定へ進んだ。
Arc2の本番は、ここからだ。
窓の外では、まだ王都の灯りが消えていない。眠らない街だと思う。けれど本当は、眠れない人間を上に積み上げて回っている街なのかもしれない。
だから私は、せめて次の制度では“告げた者が先に消える”順番だけでも変えたい。
紙は冷たい。
でも、その冷たさを人を守る方角へ固定できるなら、冷たいままでいい。
今の私は、そう思えるところまで来ていた。
ユリウスが机上の証拠束を整えながら言う。
「法案審議に入れば、次は正面から『制度が乱用される』で来る」
「分かっています」
私は答える。
「だから次は、守る価値だけじゃなく、守らない時の損失も並べます」
王都で制度を通すには、正しさだけでは弱い。通さなかった時に、誰がどれだけ困るかまで見せなければいけない。
それは少し嫌な現実だ。
でも、嫌な現実を見たうえでなお前へ進むのが、ここまで来た私たちのやり方でもある。
私はBRG-30の余白へ、法案審議で先に出すべき論点を三つだけ書いた。
一、告発が潰された場合の現場損失。
二、保護制度不在で消えた証言数。
三、保護導入後に抑止できる再発コスト。
法案は理念だけでは通らない。
守るべき人だけでなく、守らなかった時に発生する損失まで並べて、ようやく王都では審議の机に乗る。
私はその現実を、もう逃げずに見ることにした。
きれいじゃない。
でも、きれいじゃないことを理由に手を止めたら、また誰かが先に消される。




