表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された実務令嬢は、監査院で王国を再設計する  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/45

逆告発は棄却する

 王太子派の逆告発は、予想より早く届いた。


『監査院は私怨で王家を攻撃している』


 文面は短い。だがこういう短い紙ほど、人の印象へ先に刺さる。全部を読む前に、“私怨”という言葉だけを残すために作られているからだ。


 私はDEF-25を作り、事実だけを並べる。


 逆告発反証票。つまり、監査着手の根拠、案件ID、保全手続き、第三者確認記録をまとめ、「これは感情ではなく手続きで動いている」と示すための票だ。


 ユリウスがLEG-25を添えた。


 法務意見書。手続きは適法、私怨要件を満たさない。法務の言葉で感情論を閉じる紙だ。


 審査官は短く頷く。


「逆告発、棄却」


 息を吐いた瞬間、伝令が駆け込んできた。


「医療予算ルート主担当、今夜に王都離脱準備です」


 私は立ち上がる。


 逃げるのは、数字が嘘をつけなくなった証拠だ。


 Arc2の火種は、もう十分に燃えている。


 だが立ち上がった拍子に、机上の逆告発文書が目に入った。ほんの数行の紙なのに、卒業式の日の空気を思い出させる。人を先に“感情的な側”へ押し込めてから、説明を封じる手口だ。


 だから私はもう一度座り、DEF-25の末尾に補足行を加えた。


『監査着手時点で公開監査・第三者確認・保全命令が存在しているため、私怨による単独追及構成は不成立』


 ミラが小さく言う。


「一文足すだけで、ずいぶん硬くなりますね」


「硬くしないと、印象論に負けるので」


 私は答える。


 王都では、柔らかい嘘が硬い事実を飲み込むことがある。だからこちらは、必要なところだけちゃんと硬くする必要がある。


 ユリウスが封筒を閉じながら言う。


「次は逃亡阻止だ。法務で勝っても、実行者を逃がせば穴が残る」


「はい」


 私は頷く。


 ただ勝つだけでは足りない。次の損失を防いで初めて、制度戦は意味を持つ。


 窓の外では、王都の灯りが一つずつ増え始めていた。どの窓にも、それぞれの日常がある。その日常の上に、王家だの威信だのが乗っているのだとしたら、私はその順番を認めたくなかった。


 先にあるべきなのは、現場で人が生きるための金と、口を塞がれないための手続きだ。


 だからこの逆告発を潰せたことは、単なる一勝ではない。

 私怨ではなく制度で動いていると、また一つ公に示せたということだ。


 私は封筒を抱え直す。


 次は追う番だ。

 逃げる主担当の背中に、今度は正式な手続きで追いつく。


 伝令が去ったあと、私は数秒だけ目を閉じた。ここで逃げられれば、また同じだ。証拠は残っていても、肝心の実行者がいないという理由で時間を稼がれる。


 でも今は、時間を稼がせないための紙がある。

 逆告発を棄却した。監査の正当性を固定した。だから次は、追跡をためらう理由がない。


 私は立ち上がり、窓の外の王都を見た。


 灯りは綺麗だ。

 でも綺麗な街ほど、暗いところを“見なかったこと”にするのが上手い。


 だからこそ、こちらが見たと言い続ける必要がある。


 追うのは主担当一人じゃない。

 その背中を押してきた運用と法務と政治の連なりだ。


 ミラが控え紙を抱えたまま、小さく尋ねる。


「私怨って言葉、便利ですね。何でも雑に包める」


「ええ」


 私は答える。


「だからこそ、包ませないための記録がいるんです」


 逆告発文書は短い。短いから強い。読む前に印象だけ残せるからだ。

 ならこちらは逆に、短い印象を長い手順で潰すしかない。


 着手根拠。

 保全命令。

 第三者確認。

 案件ID。

 公開監査への接続。


 一つずつ並べれば地味だ。

 でも地味なものほど、あとで反論しにくい。


 ユリウスが扉の前で振り返る。


「行けるか」


「行けます」


 私は即答した。


 卒業式の日の私は、紙で止められた。

 今の私は、紙で追える。


 同じ道具でも、向きが違えば意味は変わる。


 だから今回は、追う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ