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母の抱擁、銀のネックレス

 高らかにファンファーレが鳴り響き、祝宴の始まりを告げた。


「静粛に。エルドラント王国の至宝、フランソワ王ならびにシャルル王太子のご入城なり」


 エレノアは、家庭教師から叩き込まれた完璧な所作で、深々とカーテシーを捧げた。


 国王の口上が終わり、華やかな宴が始まると、エレノアは両親に伴われて王家の席へと向かった。グウィネス公爵家は、謁見の筆頭である。


「おめでとうございます、シャルル殿下」


 エレノアは淡々と祝辞を述べながら、冷静に王太子を観察した。


 陽光を溶かしたような金髪に、深く底知れない群青の瞳。その美貌の奥には、いかなる感情も読み取ることができない。


 祝宴がたけなわを過ぎ、貴族たちが一人、また一人と会場を後にし始めた頃。


「エレノア、こちらへおいでなさい」


「はい、お母様」


 両親に促され、エレノアは城の奥へと足を踏み入れた。案内されたのは、重厚な扉に守られた王家の控え室であった。


「……この度、エレノア・グウィネス公爵令嬢とシャルル王太子は、縁を結ぶこととなった。婚約式は二年後。それまでに王妃教育を完了させるように。来月から城に部屋を用意させる。住まいを移し、精進せよ」


 王の厳かな宣言に、エレノアは静かに頭を垂れた。


「かしこまりました。至極恐悦に存じます」


 エレノアはちらりと横の母親の顔をうかがった。

(よかったわ、お母様が喜んでくださっている)





「かわいい私のエレノア。これまで教えてきたことは、必ず王太子妃教育の助けになるわ。…これを持っていきなさい」


 別れの日。アナスタシアは、エレノアの首に古めかしい銀のネックレスをかけた。


「私が子供の頃から大切にしてきた、幸運を運ぶお守りよ。お母様の代わりと思って、肌身離さず着けておいてちょうだいね、必ずよ」


 精巧とは言い難い古風なデザインに、赤いくず宝石を取り付けただけの簡素な品だったが、エレノアはそれが母にとって何よりも大切な宝物であることを知っていた。


「……ありがとうございます、お母様」


 エレノアは母の胸に飛び込み、その温もりを刻みつけるように、いつまでも別れを惜しんだ。



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