エレノア
好きな感じを詰め込んでみました。完結まで、読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
エレノア・グウィネス公爵令嬢の数奇な人生は、生まれた瞬間から、すでに定められていたのかもしれない。
エルドラント王国が誇る三大公爵家の一つ、グウィネス公爵家。その広大な領地から産出される葡萄で作られたワインは、芳醇な赤色を湛え、王国の特産品として名を馳せている。王家との繋がりは古く、歴史の転換点にグウィネスの名があることも多々見受けられる。
その長女として生まれたエレノアは、母アナスタシアの狂おしいまでの溺愛を受け、蝶よ花よと育てられた。
十五歳になった今日まで、エレノアが人生に不満を抱いたことはほとんどない。なぜなら、母が常に先回りして道筋を整えてくれるからだ。選ばれる服、化粧、髪型、果ては友人関係に至るまで。エレノアはただ、母が指し示す方へ歩いていればよかった。
母アナスタシアは、かつて王妃になることを夢見ていたという。だが、当時は年の近い王子がおらず、さらにグウィネスの一人娘として婿を取る必要があったため、その野望は潰えた。その未練のすべてが、今、エレノアを完璧な王妃に仕立て上げる情熱へと注がれている。エレノアを王妃にするため、グウィネス公爵家を継ぐ養子を迎え入れるほどに。
幸いにして、エレノアは家庭教師が舌を巻くほど聡明だった。あまり賢明とは言い難い母よりも、父方の血を色濃く継いだのかもしれない。
しかしエレノアは、そんな母が大好きだった。
貴族の子弟が乳母や教育係に預けられるのが常識とされる中で、アナスタシアは一刻も娘の側を離れなかった。
「あなたを完璧に育てることが私の使命なの」――その言葉通り、母は親友のように寄り添い、エレノアのすべてを把握していた。
友人と交わす手紙を当然のように検閲し、日記を勝手に読み耽る母の執着に、時折、息が詰まるような辟易を覚えることはあっても。
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今、宮廷の関心はエレノアより二歳年上のシャルル王太子の婚約者選定に注がれている。
情勢から見ても、グウィネス公爵家の令嬢であるエレノアが筆頭候補であることは、もはや確定事項と囁かれていた。
「可愛いエレノア。あなたは完璧よ。あの方……王太子殿下も、きっとあなたに釘付けになるわ」
鏡の前で、母がうっとりとエレノアの肩を抱く。
「お母様ったら、わたくしもう何度も聞いたわ」
夕日のような赤いグラデーションを施したドレスに、散りばめられたダイヤモンドが、エレノアの白磁の肌と白銀の髪に冷たい輝きを添えている。
今日は、シャルル王太子の十七歳の成年を祝う叙任式。その後に、婚約の内定が告げられる手はずとなっている。
エレノアの胸にあるのは、未来の夫への憧れよりも、母を喜ばせたいという純粋な願いだった。
もし選ばれなかったら、母はどれほど絶望するだろう。その失望の深さを想像するだけで、エレノアの指先は微かに震えた。
「さあ、行きましょう。あなたの輝かしい未来へ」
母に促され、エレノアは華やかな祝祭の渦へと足を踏み出した。




