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アズサ  作者: 月野 嘘
本編
2/7

そして、少年は少女を失う。

少年は少女を失った。

だから、また、得ようと欲する。

【現在、五月二日】

膜のような静けさ、冷たい印象を与える灰色のコンクリートの壁、書棚に詰め込まれた古びた本の独特な匂い、点けた蛍光灯の白々しい無機質な灯り。

完全に背後の扉を閉めてから、常和はほぅと溜息を吐いた。

やはり書庫は校内で一番心安らぐ気がする場所である。常和はうっとりと瞳を閉じた。あぁ、我が癒しの空間。書庫、最高。

そんなことを友達に漏らした時には『――まぁ、いろんな奴がいるよな(苦笑)』という反応を受けたものだが。

しばしの間恍惚の表情で入り口に佇んでいた常和は、ようやく本来の用事を思い出したように持っていた大量の本の背ラベルを見た。……分類番号の部分は皆、紅いマーカーが塗られている。書庫の本という印だった。

常和は持っていた半分ほどを、傍らに置いてあった小さな椅子の上に置き、背ラベルが上に向くように残りの本を持ち替えた。

ものの見事に分類番号はばらけている。図書委員としてこのことはかなり嬉しいことではあったが、本音を言うと返却は大変だった。

「えっと……一分類の本はと……」

狭い書棚と書棚の隙間を縫うようにして、一冊一冊本をあるべき位置へと戻していく。毎日の流れ作業になっているのであまり苦にはならない。


「これは……三分類か……面倒だな」

配架も半分以上終わった頃、常和は手にした本の分類番号を見て顔を顰めた。三分類は書庫の中でも最も入り組んだ場所にある書棚に置かれている。しかもその本はやたらと大きく、厚かった。当然ながら重量はある。

「書庫の三分類借りるとか……珍しい利用者もいたもんだな」

本を抱えながら書棚の隙間を縫い進む。たいした面積のない書庫のはずなのに、まるで迷路を歩いているような気分に陥った。

借りた人もこの経路をたどったのかと考えると、妙に感心してしまう。

「あっと……ここか」

ようやく棚を見つけ、本が犇めき合っている中で小さく空いている空間に、持ってきた本を差し込む。周りの本の小口を触ったせいか、手には埃が付着した。

「どんだけ利用者いないんだよ……」

人に忘れられたかのように歳月を過ごしてきただろう本のことを想うと涙が禁じえなかった。可哀想に。かといって読んであげられる時間はないのだけれど。

その場でパンパンと手を叩いて埃を払ったあと、常和は身体を捻って書庫の隙間縫いに戻ろうとした。その時。


ぱさっ。


軽い、けれどちゃんとした紙の束が落下した音が、常和の耳に入った。小冊子か何かだろうか。即座に身体を捻りなおして、落ちたなにかを書棚に戻そうと拾い上げる。

「……大学ノート?」

ものを拾い上げた状態で、常和は怪訝そうな声を上げた。

落ちたものは小冊子ではなかった。そもそも所謂書籍と言われるものですらない。何処からどう見てもただの大学ノートだった。

一体何年前からここに放置されていたのだろうか。くすんだ色になった表紙には、几帳面そうな文字で《『怪異』について》と題名が記されている。幸いマジックで書いてあったおかげか、それともただ単に時間があまり経っていないせいか、目立った劣化はないようだった。

「……一体誰のだよ」

溜息を吐きながら裏返すと、紅いマジックで《これを発見した者へ》と書かれている。その下には、おそらく持ち主の名前か何かが記されていたようだったが、黒いマジックで乱暴に塗りつぶされて読み取ることは不可能だった。

「発見した者へって……どうしろと」

表、裏、表、裏と困ったように何度かノートを弄んでいた常和は観念したように唇を引き締めると、最初の一頁を開いた。


《これを発見した者へ このノートは君の好きにすると良い。ただ、君が『怪異』の関係者であることを切に願うのみだ。……もし『怪異』を止めたいのならこれに頼ると良い。因果という言葉が正しいのなら、君はこれを必要とする者のはずだから》


紅い……むしろ紅すぎる、といっていいようなおどろおどろしい紅さのペンで書かれた文字が、几帳面に並べられている。

不可解な文言に常和は首を捻った。

「――――中二病?」

所謂、そういう『イタい人』だった生徒の置き土産かなんかだろうか。

生ぬるい半眼で頁を眺めつつ、好奇心半分でもう一頁捲ってみた。


《これは『僕』が遺す最後の人間としての良心だろう。明日、僕は『怪異』に取り込まれることになっている。以後、きっと僕を筆頭に『怪異』に取り込まれる者が出てくるはずだ。……僕の仮定が、『怪異』の核に僕がなるという仮定が正しければの話だが》


『遺す』という文字を見つけて、常和は眉を顰めた。

ちらちらと、記憶の残滓が目の前にちらつくような気がして酷く不快な気分になる。

それでも半ば意地の境地で常和は頁を捲った。


《これを読んでいる君はきっと僕が書き記すことを虚偽、行き過ぎた妄想の類かなにかと思うかもしれない。――だが、君が鈴椎高校の者なら『怪異』の存在は否定出来ないはずだ。故にこれはれっきとした事実を述べているのである。君が聡いことを祈る》


紅い文字で書かれた注意書きはそこで終わり、そこから後ろには鉛筆の意外と濃いままの文字が並んでいるだけだった。

常和は無言のまま、大学ノートを閉じた。

「『怪異』か」

ぽつりと呟く。

科学が大手を振って活躍する現代にはそぐわないオカルトチックな『怪異』という言葉。常和はあまり幽霊の類などは信じない性質なのだが、これが存在することだけは認めざるをえない。

……なにせ入学当初から二、三度と実際に目で見てきたことなのだ。完全に閉まった校舎の内側から各教室一枚づつ窓に一筆描かれる、しかもその証拠写真を繋ぎ合わせてみると大きな円になるなど、生徒の悪戯、の度を越すような超現象は『怪異』と呼び表すのに相応しい。

だが、それとこれとは話が別だった。

常和は生ぬるい視線を大学ノートに送る。

どう足掻いても、このノートは記述者本人が言ったとおりの妄想記録ノートにしか見えない。あとは精々趣向を凝らした小説もどきといったところか。……どちらにせよ、注意書きを真面目に受け取るほどのものはない。

ふっ、と息を吐くと常和はとりあえずノートをさっき差し込んだ本の横に差し込み……思い直して抜きなおした。

退屈なカウンター業務の間に読むぐらいなら、丁度よさそうな代物である。おまけにこれを書き記した者は《発見者の好きにすると良い》と書いてあるのだし、少しぐらい持ち出してしまっても構わないだろう。

書棚の迷路から脱出した常和は、残りの本を全て手に取り、代わりに椅子の上にノートをそっと置いた。

「……えっと、これは、九番台だな」


†♀♂


【三年前、?】

彼女が悪い、彼女が悪い、僕は何も悪くない、そう、彼女が全部……悪いのだ。

トイレに籠もって呪文のようにぶつぶつと呟きながら、込み上げる嘔吐感を必死に堪えていた。

彼女が悪いのだ。彼女が悪いのだ。僕は悪くないのだ。

顔を蒼白にしながら何十分と呟いているが、吐き気と、脳裏に焼きついた彼女の涙は一向に薄れることはなかった。

どれだけ酷いことをされても決して泣かなかった彼女。臆病で卑怯者の僕とは正反対な彼女。……まさか泣くとは思わなかった、というのは僕の言い訳に過ぎないのだろう。

いつの間にか、呟いている言葉が変化していた。

ごめんなさい、悪いのは僕だ。僕達だ。彼女はなにも悪くはない。悪いのは……。

じっとりとした汗が背中を伝う。出てこない僕を心配したのか、外から呼びかける妹の舌足らずな声が聞こえた。

「おにーちゃん、だいじょうぶなの?」

「……腹壊しただけだから、大丈夫。ちょっとあっち行ってろ」

「はーい」

素直な返事と共に妹の声が遠ざかる。普段は生意気盛りなのだが、こういうときは従順で助かる。

彼女の真っ黒な瞳を思い出した。言葉は発されなかったがその瞳が代わりに伝えていた。

『……信じてたのに』


†♀♂


【現在、五月二日】

……いつのまにか寝てしまっていたらしい。

常和が目を醒ますと、館内の壁に掛けてある時計は四時五十分過ぎを示していた。何か嫌な夢でも見ていたらしく、掌にはじっとりとした嫌な汗が滲んでいた。だが内容は思い出せない。

夢の内容を思い出そうとぼんやりと時計を見上げていた常和は、しばらくしてから今日は司書の先生方が不在だったのを思い出し、立ち上がって館内へと呼びかけた。

「あと五分ほどで閉館になるので、本を借りる人は早めにお願いしまーす」

……いつもどおり、見える範囲には利用客の姿はない。

虚しくなった常和は、椅子に深く腰掛けなおした。

その拍子にカウンターにおいてあったノートを肘で落としてしまったらしく、ぱさりと乾いた音がした。

屈んでノートに手を伸ばす。

「……ふぅん、君が見つけたんだ」

突然、頭上から飛んできた声に反射的に顔を上げた。

いつの間にそこに居たのか、銀縁眼鏡を掛けた男子生徒が常和を見下ろしていた。その妙に褪めたような視線と視線がかち合った瞬間、レンズの奥の瞳が細められる。

「君さ、もう、過去のことは調べた?」

「え?」

唐突な質問に目を点にさせる常和を見て、男子生徒は薄っすらと嫌な笑みを頬に貼り付けた。

「その感じたと、まだのようだね。……十一年前から今年までの、この高校に纏わる事件、事故を調べてみるといいよ」

それも参考にするといい、と男子生徒は大学ノートを指差す。わざとやっているのか、元からなのか、はっきり言って癇に障る仕草だ。

常和は拾い上げたノートと男子生徒の顔を訝しげに交互に見やった。

ふ、と鼻から息を吐く音が聞こえた。

「信じる、信じない、は君の勝手だけどね。……小鳥遊 常和。君がもう一度喪失感を味わうことにならないことだけ祈ってるよ」

「! ……お前、なんで、俺の名前」

「じゃあ」

目を丸くして言葉を募らせようとする常和を気にした風もなく、言いたいことを言い終えたらしき男子生徒はひらりと手を振った。

そのままくるりと背を向ける。

慌てて常和は立ち上がり、その背に手を伸ばした。

「待てよっ、――お前の名前っ」

掠りもせずに、左手は虚しく空を掻く。

「……名前、ねぇ」

振り返らないまま男子生徒は笑いを堪えたような声で呟き、扉を勢いよく開けた。

――ぞくり、と得体の知れない悪寒が常和の背筋を震わせる。

物事の道理として正しいことを言っているはずなのに、どうしてこんなにも気味が悪いような……してはいけないことをしてしまったような気がするのだろうか。

常和の心中を見透かしたかのように、男子生徒はさも可笑しそうに喉を鳴らした。

「聞かなきゃ、良かったのにね。……まぁ、教えてあげるけど」

やっぱりいい、という言葉が喉の奥で粘ついて出てこなかった。魅入られたかのように相手を凝視することしか出来ない。

息を潜めたままの常和に向かって、男子生徒はゆっくりと顔だけを振り向かせた。にぃ、と嗜虐的に吊りあがった口端と、細められた漆黒の瞳が網膜にきつく焼きつく。

「僕の名前はね」

これと酷似した表情を、常和は何所かで見たことがあるような――気がした。


「関守アズサ。二年四組十七番、写真部所属」


「っ」

息を詰まらせる常和の目の前で、大きな音を立てて扉が閉められた。


†♀♂


【三年前、?】

一度涙を見せた後の彼女が壊れていくのは時間の問題だった。

泣かないこと……引いては僕を信じることが彼女の心を辛うじて繋ぎ止めていたのかも知れないと考えると、僕の方もなかなか寝付けない日々を送っていた。ようやく寝付けても、彼女の真っ黒な瞳が夢の中でじぃっと静かに見据えてきて飛び起きる、その繰り返し。

睡眠不足で僕が目の下に隈を作っていたとき、彼女はだんだんとおかしな行動をとるようになっていた。

長かった綺麗な髪をばっさりと切り落とし、不揃いなショートカットにしてしまった。

包帯を巻いて登校する日が多くなった。奇妙なことに腕に巻くことはなく、いつも足に巻きつけていた。

もともと乏しかった表情が完全に消失した。学校にいる間中人形みたいな顔で微動だにせず座っているか、からくり人形みたいに移動するようになった。あれだけ好きだった本も手に取らなくなった。

そしてもちろん……僕の方をちらりとも見なくなった。

ただ、授業だけは相変わらずしっかりと受けている。

流石に気味が悪いので同級生達は、彼女を遠巻きにするようになった。

――そんな日が二週間ぐらい続いた。


†♀♂


【現在、五月二日】

「……う、そ、だろ?」

掠れた声の呟きをかき消すように、閉館時間を知らせる時計のチャイムが鳴り響く。

「冗談……」

だよな、と口が動くよりも先に常和の脳裏に幼馴染の少女の虚ろな笑顔が閃いた。


形だけ持ち上げられた紅い唇。血の気が引いた肌。風に靡く短い髪。世界の裏側を覗き込んだように澱んだ瞳が、大きく一度瞬きをする。唇が動いて『常和『小鳥遊君『信じてた『嘘だ『私なんて』』』』』ちがう違う、彼女が言ったのは――。


顔を覆って、常和は呻き声を押し殺す。足がふらつく。世界がぐるぐると廻っているような感じだった。

「はっ、はー、はっ」

浅くなる呼吸をどうにか整えようと深呼吸をする。

――男子生徒が言った『もう一度喪失感を味わう』の意味がなんとなく分かったような気がした。


窓の外では雨が降り始めている。


†♀♂


【三年前、七月十五日】

「良かった、来てくれたんだ」

扉のすぐそこで立ち竦んだ僕に、彼女はにっこりと笑いかけた。

傍から見てもそれとわかる作られた笑顔。形だけ吊り上げられた口の端が酷く虚ろな紅さを保っている。

「心配してたんだ」

来てくれないんじゃないかって、と彼女は言葉を続ける。

真っ蒼な空を背後に、彼女は映画のワンシーンのように違和感なくそこに佇んでいる。

「でも、やっぱり、流石、常和」

強い南風が吹いて彼女の髪とスカートと包帯を翻らせた。

黒、黒、白――はためく二つの対照的な色が非現実めいていて。そう、まるで錯覚か悪夢かのように。

「ねぇ、小鳥遊君。何で私が呼んだかわかる?」

意味のなさそうな問い掛けに、僕はピクリと肩を震わせた。

……酷く喉が渇いていた。

その様子を眺めていた彼女がくすくす、と心のそこから楽しそうに笑う。そして内緒話でもするようにそっと囁いた。


「信じてたんだよ? 私」


「……っ」

罪悪感と恐怖が一息に背筋を駆け上る。視界がぐるぐると歪む。彼女の顔を直視出来なくて、僕は咄嗟に俯いた。

震える声で、考えるよりも先に出る薄っぺらな言葉を並べ立てる。

「傷つける気は、なかったんだ。本当に。君なら、君でならそれくらい耐えられるだろうって考えてた。君は強いから、……大丈夫だろうって。僕が言うことなんて君にとっては何ともないだろうって。君ならきっと受け流せるって……。だって、まさか…………いや、僕が悪かったよ。君の気持ちなんて少しも考えてなかった。……本当にごめ「――嘘だね」」

――氷のナイフをぴったりと当てられたような気分だった。

顔を上げて彼女に焦点を合わせると、ここ最近で見慣れてしまった表情で彼女は僕を見つめていた。

「嘘だ。私にごめんなんて思ってないくせに。……自分が可愛かったんでしょ? 利己主義と責める気はないけど、いい子ぶるのに私を利用しないで」

拒絶という言葉でできた冷たい声。世界の裏側を覗き込んだように澱んだ瞳が、じっと僕を映し出している。瞳孔が怖いほどに大きく開ききっていた。

「……そんなつもりじゃ」

掠れた声が喉を震わせる。……身体がかっと熱くなり、彼女の言うことが図星だということを示している。しかし、そのことを認めたくはなかった。

「嘘、」

彼女の紅い唇が動く。

「嘘嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘――っ」

恐怖に縮こまる僕を、開いたままの瞳孔で見据えながら、彼女は呪詛を撒き散らし続ける。能面のような表情がなんとも形容しがたい形に歪む。

「わかってたくせに、僕が守るって約束したくせに、あぁそれも小さい頃の口約束だからで誤魔化す気なんでしょ? 常和なんて大嫌い。やっぱり自分さえ安全ならいいんでしょ? 私なんてどうなろうとどうでもいい、だって関係ない。今更甘い言葉を吐いてどうしようというの? 心正しき主人公のつもり? 確かにお似合いでしょうね」

明確な害意をもった言葉が僕に容赦なく突き立てられる。そのことがただ怖くて怖くて、僕は怯えた目で彼女を見つめ返すことしか出来なかった。

――狂ったように絶叫していた彼女は、やがて我に返ったかのように虚ろな笑顔を浮べた。

「……ごめんね。あんなこと言っておいてなんだけど、常和は悪くない」


――あ、と思った。屋上に入った瞬間には予想出来たことが今現実になろうとしている。止めろ、行くんじゃない。早まらないでくれ。ほとんど反射的に叫ぶ。


「止めろ、」

慌てて彼女の元に駆け寄った。

、フ、ェ、ン、ス、の、向、こ、う、側で彼女は虚ろに笑っている。間に合わないのは誰の目にも明らかだった。

彼女が一歩下がる。校舎内なのにも関わらず履いてある革靴が、かつと小さく音を立てた。

世界の裏側を覗き込んだように澱んだ瞳が、大きく一度瞬きをする。

「――悪いのは」

「待てっ」

碧色の金網のフェンスをよじ登る。

手を、彼女へと、伸ばす。

「全部」

……遅かった。

手は虚しく空を掻く。掠ることすら出来なかった。

絶叫する僕の目の前で、彼女が空中に身体を傾ける。


「私」


風を孕んだ冬服が悪夢のように広がる。

解けた包帯の下には紅い線が見えた。

スローモーションのように彼女の細い身体が酷くゆっくりと遠ざかっていく。

漆黒の瞳は虚ろに開けられたままで。見せ付けるように紅い唇は持ち上げられたままで。

――現実感は全く湧かなかった。

「梓――――っ」

僕は声の限りに彼女の名前を叫んだ。


†♀♂


【現在、?】

昔の新聞記事を探せば、簡単にそのことは調べがついた。

これで見つからないというほうがどうかしているとも言えるが。


――「消えた×体?」とまるで推理小説のような言葉の見出し。

当時高校二年生だった少年の不可解な飛び降り自殺についての記事だ。一面にでかでかと見慣れた校舎の写真が載っている。


あぁ、よりにもよって。

とった行動が全く一緒だとは。



二話目です。

この小説と呼ぶのもおこがましい小さな噺が誰かの目に触れますように。

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