終話・騒乱への序幕
…非常に短いです。章自体も…。
秋が深まり、すっかり紅葉に彩られた十一月。
王女領シュヴスに行っていたルービンス、ファルドスとキャロライン、アデーラが王宮へと戻ってきた。
その一行に、行きにはいたはずの少女がいないことに、気づく者はいなかった。
帰る間際、現れたアロルドと共にローサは帰って行った。どこにかはルービンス達は誰も聞かなかった。
今、知る必要はないと思ったからだ。
※※※
十二月になれば、官吏登用試験(国試や地方試)が始まる。そのため、十一月に入れば官吏達はあわただしくなる。
年始年末を挟んで、一月の終わりに最終試験と面接もあるのでその事前準備と仕事の調整も必要になってくる。試験官は官吏なので、その分の仕事が他の官吏に振り分けられることになるのだ。
「どうでした?」
「人手不足である感が否めません。ですが、それは早々に解決するでしょう」
「でしょうね。そのことは心配していません」
離宮のテラスで、互いに無表情のまま向き合うナティーシャとルービンスは傍で聞いている者にとっては意味不明な会話を続ける。
「それではなく」
「少し、諍いはありましたがエリーサですから」
「…悪意ある者以外には、驚くほどに寛大ですからね」
「最大の加害者である母親ですら愛情ゆえに許し、その後の安寧を願うほどですから」
二人そろってため息をつくのは、エリーサのお人よし具合とその無自覚さゆえだろう。
「…あの子は、どのような様子でしたか?」
「何か、考えていたようです。何らかの変化があったように思えますが、そこまでは読めません」
「そうですか」
さっきよりも深いため息をつくナティーシャは、視線を空へと向ける。
青く澄んだ高い空には雲がちらほらとしか浮いていない。
心ここにあらずのような状態のナティーシャに、ルービンスはただ沈黙する。
元々、口数の多い親子ではないため、静かな空間は苦にならない。
それを知っているからか、アデーラもマイクも気にしないのだが、今は二人で庭園を探検に行っている。騒ぎたい年頃だからだろう。
「ルービンス」
「はい」
ふいの呼びかけに、ルービンスは動じることなく応じる。
「…フォーラ様が動きました。おそらく、王宮と国が揺れる事態となります」
「それは…」
「陛下に、進言してあります。指示があればその通りに動きなさい」
「…はい」
「あと…」
言葉を切り、まっすぐにルービンスを見つめる瞳が深い慈愛と覚悟を宿していることに気付き、ルービンスは直感してしまった。
「いざあらば、この母を見殺しにしてでも進みなさい」
異論を、拒絶を許さないゆるぎない声音に、ルービンスは何も返さない。
まっすぐに母を見つめたまま、ただ、ゆっくりと瞑目した。
行事がひと段落した一月の寒い日。
第一妾妃フォーラ=セナ=ラフェダ、懐妊。
五十を間近にした懐妊は、珍しく普通ならありえないが不可能というわけではない。だが、普段の行状からロナードの子であるかを疑われたが、現状、次王に最も近い王子の生母であるため面と向かって言う者はいなかった。
さらに数年後、訪れる騒乱を予見していたのはナティーシャのみだった。




