終話・いつかへの一段目
城下警備隊を領軍に昇格。
兵士になるのに、試験はない。
健康診断で規定ラインを超えることと成人しているかどうか。それだけが条件だ。
だが、士官(部隊を率いる地位にある軍人)は、試験がある。
筆記・実技・教養・健康診断・成人か否か。それなりに水準が高い。
現在、警備隊で試験を受けて士官の地位を持っているのは、ベレニセを含めた十数人。
ベレニセを将軍にすることには、誰も異議を唱えなかった。
士官とはいえ底辺にいたので、かなりの飛び級になるが、領主の一存がまかり通る。
部隊の隊長にする人数としては、間に合ったのは幸いだった。
軍にしては、規模が小さく、千にも満たない。
地方領なら、最低でも千二百、最大で二千八百の規模だ。
過去、王族の領地で、軍勢が千以下であったことはない。これから増強する必要がある。
課題はあるが、ひとまず、軍の整備は滞りなく行われた。
紋章を刻んだ旗、制服、武具もそろった。
それに尽力したチェスティア商店……プリシラは、しばらく書類は見たくないとこぼしていた。かなりの激務と多忙を極めたらしい。
自警団の設立。
まだ訓練段階ではあるが、確定され、法も整い、紋章と制服、装備もそろった。
来春には、自警団の拠点となる事務所が建設される。
建設作業は公共事業なので、一時的な雇用が生まれる。
一応、色々と考えられてはいる。
さらに、その後は街道の整備という公共事業も控えているので、雇用問題は今のところ先送りされる予定だ。
秋の人事。
これはすでにエリーサの中では決まっている。
発表した時のことが怖いが。
エリーサにとっての最大難関だ。
※※※
じとっと睨まれながら、ロイは笑みを崩さない。
それにさらに胡散臭そうにするエリーサの頭を、イウリアとベレニセが左右から軽くはたいた。
「…たっ!!」
「これが一番なんだよ。納得しろ」
「あたしはこれから軍の指揮をしなきゃいけないからね」
「……リュトでも…」
「あれは見習いだ。護衛官にはできない。随伴にはできるけどな」
「うぅ……」
「観念なさいませ、殿下。イウリア殿の言葉は理にかなっておりますし、ロイ殿は確かな腕をお持ちです」
マリファにも諭されて、エリーサはがっくりとうなだれる。
秋の人事で、ロイは令外官として領主護衛の官職につくことが決まっている。
推薦したのはイウリアで、その言い分に納得したベレニセとマリファが頷いたことで確定した。
将軍となったことでベレニセは護衛につけなくなった。
リュトは正式な軍人ではなく、他の者も接触が少なく、城の中で遭遇するだけで緊張の強張るのだから、お忍びの護衛としては不適格だ。
一時的な措置とはいえ、護衛だったロイは実力も能力も申し分ない。
身分から考えれば、不敬にもほどがあるが。告白騒動のことなど色々と厄介だが。
結論的に、最適な人物は、今のところ、ロイ以外いない。
ということになり、エリーサは反論できずに唸っている。そして、悪あがき。
実際、エリーサが心底嫌がったなら、イウリアも推薦しないし、ロイも引き下がる。多分。
エリーサが利害を考えて言えない可能性を考慮して、イウリアは注意深く観察していた。
結果、エリーサは本気で嫌がっているわけではないと判断したから、推薦した。
拒否しきれない自分に、エリーサは気付いていない。
それが分かっているから、ロイは嬉しくて楽しくて笑みが消えない。
イウリアとベレニセは呆れるしかないし、マリファは完全に傍観姿勢だ。
ライアンは我関せずというように視線を合わせることすら拒絶し、ダニエルは微笑みを崩さない。
積極的な味方がいないことに、エリーサは諦めた。
心の底では嫌ではないから、頷いてしまった。
この時、将来のエリーサに深く関わる者が、そろった瞬間だった。
令外官…法律で定められていない官職・官位のこと。
有名どころなら、征夷大将軍(徳川家康など)もこれです。




