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第17話 最終兵器 そしてあらわにされた虚ろなる真実!

リリィ・アンダーソン その7


ちょっと長め。




「ねぇ、倉橋さん。」


 私はゆっくりと声を掛けた。

 口に笑みを浮かべて余裕のポーズを見せる。

 静まり返っていた周りの生徒が私を見つめた。

 そして様子の変わった私に気付き、警戒を強めたかの様な倉橋。

……でも、それは無駄な事だ。


 更に私は倉橋の不快感を煽る為、芝居がかった口調と立ち振る舞いで話す。


「そうだよね。翔太ならキスすれば例え貴女の事が『好きじゃなくても』付き合ってくれるよね。」


「ぐっ!」


 唇を噛み締める倉橋。


 おやおや、これは唯の挨拶みたいなものよ。いうなればジャブ。この程度でその様子じゃ先が思いやられるわね。


「だからね。そんな貴女に翔太の『親友』として、言っておかなければいけない事があるの」


「何......を?」


 やはり食いついたか。さあ、ここからが勝負よ。


「私ね......。毎週日曜日に翔太の家に遊びに行くんだけどね。」


 私はそこで一旦言葉を切る。倉橋の様子を見るためだ。

 勿論、毎週翔太の家に遊びに行っているなんてのは嘘。彼が私の家に来るのと半々くらいだ。でも、ここではそんな事言わない。言う必要が無いからだ。彼のプライベートにいつも存在する「私」リリィ・アンダーソンをアピールする為の嘘。まあ、あながち間違いって程では無いんだけど、念の為。


 案の定、倉橋は悔しそうだ。

 それはそうだろう。愛しい人の部屋に入り込んでいる存在なんて普通は許せない。

 私だってそうだ。そもそも翔太の「幼馴染」という倉橋よりこの存在だけで嫌な気分になってしまう。


 悔しそうにしていた倉橋だが、ハッとした様な顔をした。


「まさかっ! 翔ちゃんの部屋に落ちていたあの髪の毛って......お前の物だったのかっ!?」


 ふっ。

 良く見ているな、倉橋よりこ。いつ翔太の家で発見したかはわからないが......やるっ!

 そうだ。正しくその髪の毛は私の物だ。

 だが......。


「いいえ。違うわ。きっとそれは私の物じゃ無い。」


「じゃあ、一体誰のだっていうの!? いい加減な嘘吐かないでっ!」


 良い嗅覚だ、倉橋よりこ。偶然とは言え、私の嘘を見破るとはね。

 でも、ここじゃない。


「本当よ......って、ああ、もしかしたら、私のだったのかも......。ごめんなさいね。そうじゃ無いの。そんなつもりで言ったんじゃ無いのよ。」


「?」


「それはそうと、翔太ってアニメオタクでしょ? 知ってた?」


「……知ってるに決まってるでしょっ! それに翔ちゃんの事、オタクだなんて酷い事言わないで、アニメが好きなだけなんだからっ!」


 私の急な話題転換に、一瞬キョトンとするも、聞き捨てならないとばかりにがなる。

 そして、昨日の鷹の目の様な眼差しでこちらを睨む倉橋。


 おお、怖い怖い。

……やはり翔太がオタクだって事を教えるのは効果無いか、知っているようだし、それどころかこちらを睨む程......。

 まあ、わかってはいたけどね。その程度じゃ折れないって......。


 それにしても、翔太が何であれ別にいいのにね。呼び方だってどうでもいいわ。ただ私は翔太との未来が欲しいだけ、翔太の愛が、優しさが欲しいだけなんだから......。


「あら、ごめんなさいね。それでね。翔太って『魔法少女リリなになんとか』っていうアニメのファンでね。コスプレ衣装も持っている程大好きなの。」


「え?魔法少女リリ......ああっ、あれね。知ってるわ。翔ちゃんが好きだって知ってからもうDVD買って、全話通しで20回くらい観たわ。それに知ってるよ。翔ちゃんがその衣装持ってるの、可愛いもんねっ。」


「ぐっ……!」


 嘘っ!? 20回も観たの!?

 私だって翔太に借りて2~3回くらいしか観れて無いってのに......これだから金持ってる奴は......!

 私はあのアニメの登場キャラクターの、金髪の子の台詞とか覚える為に借りたんだけど。その時はいくら大好きな人の為とはいえ、好きでも無いアニメをそんなに観るのはやり過ぎかなって思っていた。でも......上には上が居たようね。

……考えを改めなければいけないようだ。


 まあいいわ。

――ここからが本番。


「そうね。そのアニメの主人公ヒロインの親友の子、知ってる?」


「ああ、あの金髪で黒いレオタードみたいなの着てる子よね? 主人公ヒロインに全力全壊でやられる子。確か翔ちゃん、その子の衣装持ってるよね。」


……さっきから思ってたんだけど、この子何でそんな事知ってるの? 何でそんなに詳しいの? それって確かクローゼットの奥深くに仕舞われているはずなんだけど......。でも......そのくらいはやってくれるか倉橋よりこ。でないと最終兵器リーサルウェポンを出すまでも無かったしね。


「そう、翔太はその子の衣装持ってるの。そしてその衣装は使われている。」


「うん......。それがどうしたの......ってまさか、貴女がっ!?」


 生徒達は皆、頭にクエスチョンマークを掲げているかの様、まるで理解していない感じだ。


 そして流石は倉橋。わかってきたか。

 でもそうじゃない。そっちじゃない。


「そしてさっきの髪の毛の話に戻るけど、あれは私の髪の毛じゃ無いって言ったわよね。」


「えっ!? うん......そうだけど、でも貴女のかもしれないんでしょ?」


「ええ、実際私が見たわけじゃないから、その髪の毛は誰のかはわからないけど……私、そう言われて初めに思い浮かんだ物があるの......それはウィッグ(かつら)よ。金髪のウィッグ。」


「ウィッグ? どうしてそんな物、翔ちゃんが持ってるの? ……でも、そんなのあったかな?」


 生徒達がざわめきだした、これから私が言わんとしている事がわかってきたのだろう。


「あるのよそれが、きっとわからない様に部屋の秘密の場所にでもあるんじゃない? それはそうよね、だって......。それでね。そのウィッグは私が使う物でも無い、同じ金髪だし意味無いからね。 ……そして、実は、そのウィッグは翔太が使う物......ここまで言えばわかるかしら?」


 より一層。騒がしくなる周囲。

 倉橋も驚きの表情を見せ始めている。

――でも、もう遅いっ!




「――つまり。」


 さあ、食らうがいいっ! 倉橋よりこ




「――そのコスプレ衣装は、」


 これが私の全力全壊




「――翔太が着る為の物だったの!」


 最終兵器リーサルウェポンだっ!



…………。


 一瞬の静寂の後。




「うそー!?」「マジかよ!?」「うえ~」「レオタードの脇からはみ出ちゃうよっ!」「変態って本当にいるんだな」「あわわわ、あわわわ」「人として終わってるだろ常識的に考えて」「ないわー」「いや、ありだろ?」


 ドーンと音がした様に周囲の声が爆発した。


 さあどうだっ!

 自分の恋人が女装癖のある変態だって知った気分は!?


 喧騒の中、更に私は畳み掛ける様に続ける。


「翔太ってコスプレ女装が好きだから、それで持ってたのよ。ウィッグもその時に使うの、変わってるわよね翔太って......だから彼女である貴女に伝えておかないといけないなって思ってね。」


 伝え終わった私は、自身の言葉の持つ意味に耐え切れず、目を背ける様に俯いた。


 これが私の最終兵器リーサルウェポン……本当に、本当に最後の手段。翔太にとって、いいえ、私にとっても諸刃の剣。



――勿論、これは嘘。大嘘。


 あのコスプレ衣装は翔太が着るのでは無い、あれは私用、私が翔太の為に着てあげる物。それに翔太はウィッグだって持ってなんかいない、あれも嘘。翔太はオタクで変態だけど、女装をするような男の子では無い。

……因みに私はどっちでもOK、翔太ならば問題無い。女装しようが、ロリコンだろうが、ババコンだろうが何でも良い。彼が私を愛してくれるのならば、そんな事小さな事だ......。


 あのコスプレ衣装は、翔太があのアニメが好きなのを知って、私が彼に喜んで貰う為に、着てあげるから買ってって、私がお願いして翔太に買って貰った奴。

 あのアニメのキャラが持ってる、光る死神の大鎌みたいな奴は、私がアルミホイルで自作した。出来上がりは全然下手糞だけど......。

 でも着てあげて台詞を言いながら、その鎌を振ってポーズを決めると、翔太凄く喜んでくれるの。それで「凄く可愛いね」って言ってくれるから、私、凄く凄く嬉しくて......頼まれなくてもいつも着てあげちゃう。きっと翔太にはコスプレ好きな女の子って思われてるかも......別に翔太に見せるだけっていうんなら、間違いじゃないし......。


……でも、ごめんね。翔太。

 私とんでも無い嘘吐いちゃった。

 もう、絶対皆から変態だって思われたよ。それにその彼女になる私も、変態の彼女だって思われるだろうし。

 だから絶対に使いたくなかった手段。

 そもそも使うわけないと思って、冗談半分で考え出した方法だったんだ......。


 だって翔太に、こんな綺麗でこんなに想ってくれる幼馴染が居るなんて知らなかったんだから......。


 だから、ごめんね。でも、許してとは言わないよ。

 その代わり私が何でもしてあげるから、何でもいう事聞いてあげるから、一生、生涯掛けて愛するから......それが私の償いだから――!






……それにしても、周囲は未だに騒がしいけど、肝心の倉橋が何も言ってこない。

 まあ、大方、余りの事に絶句してしまっているんだろう。


 そう思って私は顔を上げた。

 すると、そこには一層鋭くした瞳でこちらを射抜く倉橋の姿が見えた。


……どういう事? ああ、なるほどね。

 きっと私が嘘を吐いているとでも思っているのだろう。


……嘘だけどね。

 でも、ここは念押しをしないとね。


「何? 私が嘘を言ってるとでも思ってるの? 嘘じゃないわよ、だって実際、私がこの目で見たんだから......。」


 言うと、倉橋は両腕を下ろした状態でこぶしを握り、そして俯いた。


……ヨシッ! 信じたか!?


「何で......。」


 そうね。何でだろうね。


 俯きながら搾り出すように呟く倉橋。


「何でなの......?」


 悔しそうに呟く倉橋に、ほくそえむ私。


――ヨシッ! 信じたなっ!


 私は今度こそ確信が持てた。


 やはり恋人が女装趣味だったのがショックだったのか......。

 仕方無いわよね。ワカルワカルー。

 それにしても、これで勝ったな。

 ふっ、悪いわね倉橋よりこ。

 そういうわけだから、翔太の事は私に任せてね。


「酷いよ......何で私の居ない所で、そんな事してるの翔ちゃん......。」


 そうだよねぇー。自分の好きな人がそんな事してたら嫌だよねぇ~。ワカルワー。

……私は翔太なら問題無しだけどねぇ~、これって愛の差かなぁ~? 仕方無いわよね~。愛し過ぎちゃってるからねぇ~。


 言いながら、徐々に顔を上げる倉橋。

 見えた顔はとても悔しそう。


「私だって......私だって......。」


 うんうん。私だって、何?

 言ってみ? リリィちゃんが聞いてしんぜよう。


「私だってっ! そんな翔ちゃん見たかったのにっ!」


 ん?


「リリィちゃんっ! 酷いよっ! 一人だけでそんな翔ちゃん見てっ! 私だって、そんな『可愛い』翔ちゃん見たかったのにっ!」


 えっ!?


 そして倉橋はコロッと表情を笑顔に変えて。


「でもそうなんだぁ~、翔ちゃん可愛いっ! 私も今度見せて貰おうっ! んふふ~楽しみ~。」


 えええええぇっ!?


「いやいやいやいやっ! え? 嘘でしょっ!? 翔太だよっ!? あのデブの翔太だよっ!? あんな小さい服なんか着たらはみ出ちゃうよっ!?  主に股間ら辺がはみ出ちゃうよっ!?」


 しまったっ、思わず口に出してしまったか。

 でも嘘でしょ? 可愛い? 女装した翔太が!?

 な......んだと!? マジでか!? こいつ! 頭おかしいんじゃないっ!?


「デブとか言わないでっ! ちょっとぽっちゃりしてるだけだよっ! って......『あんな』? え? リリィちゃんは、翔ちゃんがコスプレしてるとこ見たんでしょ?」


 ヤバイッ! 聞き漏らさなかったか。っていうか、ぽっちゃりって......翔太って私の三倍くらいあるんですけど?


「そ、そうよっ! 言ったでしょ? 見たわよ。翔太がコスプレしてるとこ。」


「そうだよねっ。ごめんね? 私ちょっと今日寝不足で頭がボーっとしてるから、聞き間違えちゃったかと思ったよ。 ……それで? どうなの?」


 近寄ってくる倉橋。


「どうなの? って? 何が?」


 そして私の真ん前まで来た。


「だから可愛かったかって聞いてるの。」


 ええ~。マジですか~? あのデブの翔太のコスプレ女装に可愛いとかあるんですか~? 勘弁してくださいよ~。


 もうウザいくらい「私興味津々です」って顔で倉橋に詰め寄られる私。顔が近いよ。


「まあ、可愛かった......ん、じゃ、ない? ……多分。」


 この子怖いよ......。


 後ずさり、距離を取る私。


「多分? ……まいっか。やっぱり可愛かったのかぁ~、私も見てみたいな~。」


 そう言って右手のひらを頬に当て胸を強調させるように腕を組む、そして熱にうなされたように目を潤ませる倉橋。


「でも私......我慢......出来るかな......?」 


 何?


「我慢?」


「うん、だってぇ~、可愛過ぎる翔ちゃんを前に、我慢出来るか自信無いよ~。女装姿の翔ちゃん......はぁ......食べちゃいたい......んっ。」


 女装している翔太を妄想しているのか、どこか遠い所を見る様な倉橋の目が虚ろに潤んでいる。

 桜色の唇を舐めずる真っ赤な舌は、私には淫靡に映る。


 こいつ!? マジで頭おかしいっ! こんなとこで何想像してんの!?

 それに翔太は食べ物じゃありません。ていうか、あんなの食べたらお腹壊しちゃうよっ!


「はぁ......翔ちゃん......んっ、んっ、あぁ......。」


 上気した頬。虚ろに潤んだ瞳。組んだ腕で強調された胸。

 唇を舐めずる真っ赤な舌は、まるで厭らしく蠢く軟体動物の様に思えてしまう。

 そして時折、ビクッビクッと小刻みに震える腰はあまりにも官能的だ。


 エロいです......倉橋さん。

 モザイク物です。同じ年の女の子とは思えないくらい卑猥です。

 そう思っているのは私だけでは無いようだ。その証拠に、その倉橋の姿を見たほとんどの男子は、前屈みになってしまっている。何人かの女子ですら顔を真っ赤にして、両手で顔を覆っている......指の間から見ているけど......。


 そんな倉橋を尻目に、私は理解した。

 私の最終兵器リーサルウェポンは倉橋に通用しなかった事を......。


 そして、私の敗北を......。



――敗北。


……敗北?


 敗北って、つまり、翔太と、もう、付き合えないって事?


 嘘? 嘘でしょ? だってそんなのありえないよ。


 私は翔太が好き。翔太は私が好き。


 それでいいじゃない? それだけじゃ駄目なの?


 悪い夢なら覚めて欲しい。 ……でもこれは夢じゃないんだよね。知ってるよ。


 でも、どうしてこんな事に? ……いや、それもわかってる。知ってるよ。


 この目の前でヨガッてるイカレ女が、翔太にキスしちゃったからだもんね。


――悔しいっ!

 そんなの絶対許せないっ!


 何か。何か手は無いの? 方法は? この絶望的な状況を覆せるような方法は......?




……っ!?


 そうだっ! あるじゃないか。


 この絶望的な状況をいっぺんに覆させる事が出来る方法が......!


 私って馬鹿だ。何で今までこんな簡単な方法を思い付かなかったんだろう?


 もうっ! この方法しかないっ!




「倉橋っ!!!」



――そして私は倉橋の方へ、全速力で駆け出した――。





 翔太はちょっとぽっちゃりではありませんよ。

 正しくデブというに相応しい体格の持ち主です。


 後、私、魔法少女リリなになんとかについて全く詳しくありませんので、委細言われてもわかりません。そこの突っ込みは無しでお願いします。あくまで架空のアニメとお考え下さい。

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知らないうちに変質者としての地位を確固たるものにされてる………
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