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両想いの二人 ~エリー編~

お待たせしました。おまけ編、第二段です。お読み頂き、ありがとうございました。

最初はエリオット視点となります。途中から視点が変わります。宰相…惚気てます。


暖かい日差しが、規則正しく並ぶ窓から降り注いでいる。外は相変わらず雪が降り積もっているけれど、珍しく暖かい日になりそうだ。


「ラグアス宰相、おはようございます。」


「おはよう。」


まだ人通りが少ない廊下を歩いていれば、早起きで働き者の大臣達に声をかけられる。


「おや、宰相閣下。どちらへ?」


挨拶を交わしながら角を曲がった時、後ろから声を掛けられた。振り向けば、目の前さえ見えない書類を持つ若い大臣が一人、不思議そうにこちらを見ていた。


「陛下が、また殿下の所だから迎えに。」


苦笑を漏らしてそう言えば、納得したように、若い彼は書類の山を揺らして笑った。


「陛下には困ったものですね。」


しょうがない人だと言う口調は柔らかく、自分も彼と同じように笑って言った。


「全く。…書類、一人で無理なら誰か人を呼ぼうか?」


重そうな書類を見て言うと、彼は大丈夫ですと首を振った。


「そうかい?」


「えぇ、ありがとうございます。あっ、そうだ。宰相閣下、東の廃屋が脆くなっているそうで、東の方にはお近づきにはならなりませんようにと団長から報告がありました。」


「そうか、あそこは古くからあるからね。わかった、早く補強修理するよう伝えておくよ。ありがとう。」


若い大臣と別れて階段を駆け下り、渡り廊下に出ると思った通り少し寒さが和らいでいる。


「エリオットさまぁ~。」


そんな事を考えていたら、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて足を止めた。顔を向ければ、朝日に輝いて手を振る愛しい人がいた。

片手で光を遮り、空いている手で手を振り返した。


「おはようございます。」


「おはよう、ソフィア。」


ぱたぱたと走り寄って来た彼女は、まるで天使のように思える。


「エリオット様、どちらに行かれるんですか?」


「いや、陛下を迎えに。」


本日二度目の問いに、笑いながら答えた。彼女もまた、笑いながら納得してくれた。


「ソフィアは?…早起きですね。」


「今日は、父とお弟子さん達に手伝ってもらいながら、城の外門まで行って花壇の手入れをするんです。」


にこやかに言う彼女は、距離がある背後で台車を押す男性達を振り返った。数人いる男性の中に彼女の父親、アズウェルの姿があった。こちらに気が付いたアズウェルに、同じように会釈を返す。


「外門までですか、遠い所まで行かれるんですね。…そうだ、外門でしたら距離がありますが、東の廃屋には近づかないように。脆くなっていると報告がありましたから。」


「わかりました。みんなに伝えておきます。…それで、あの。エリオット様。」


「はい?」


「…今日はお会い出来ますか?」


もじもじと照れながら言うソフィアに、自分の頬も熱を持ってきたことに照れながら、残念そうに言葉を返した。


「今日も残念ながら、仕事が終わりそうにありません。」


「そうですか…。」


「…申し訳ありません。」


肩を落としてうなだれるソフィアだったが、気を取り直したように顔を上げた。


「いいえ、エリオット様が悪いのではないのですから。…私、エリオット様の為にお夜食を作ります!楽しみにしていてください。」


きらきらと瞳を輝かせる彼女に、今度は笑顔を向けた。


「えぇ、では楽しみに待っていますね。」


「はい。お仕事頑張って下さいね。」


「ソフィアも気をつけて。」


頬にキスを一つ送って、再び歩き出した。

最近は仕事が溜まり、ソフィアと過ごす時間をとれてはいないが、後1ヶ月もすれば毎日一緒に過ごせる。そう、1ヶ月後には彼女と夫婦になるのだ。そのことを思えば自然と笑みが零れるのは、仕方がないというもの。

式の準備は、ほとんど国王夫妻がしてくれた。のんびりといつまで経っても結婚式の準備を始めない事に業を煮やしたのか、日取りから披露宴まで当人達を置いて決めてしまった。


相変わらず世話好きで、過保護な人達だ。


そんなことを思いながら、足取りは軽く後宮に到着した。

しかし、何やらいつもと様子が違う。侍女や騎士達が、慌ただしく走り回っている。

何かあったのだろうか。

足早に王妃の部屋へと向かい、足を踏み入れると顔を真っ青にさせた姉の姿が目に飛び込んできた。


「あぁ、エリー…。ルークがっ。」


尋常ではないその様子に、足早に駆け寄った。


「どうされたのですか?…ルーク殿下に何か!?」


「…さっきから姿が見えないの。今日は暖かいから、馬の遠乗りにでも一緒に行こうと部屋に行ったのだけれど、部屋にはいなくて。」


うぅっと言葉を詰まらせる実姉に、また何時もの放浪癖かとため息を零した。

今年、三歳になる一人息子のルーク殿下は、美しい王妃の容姿を受け継いだ元気な王子だ。双方の性格を確実に受け継いだ彼は、少しでも目を離せば好奇心に負けてふらりと姿を消す。そのため大騒ぎとなり、たびたびこうして、城の者達総出で探し出さなければいけないのだから、迷惑以外の何物でもない。


「…わかりました。私が探してきます。陛下へ、殿下の元にお戻りになられるよう、お伝えして下さい。」


近くにいた騎士に伝言を頼み、部屋を後にした。

毎度の事ではあるが、ルーク殿下は次期国王になる大切な跡取りだ。何かある前に連れ戻さねばと、気持ちが焦る。

彼は大抵、庭を散歩するか、屋根に登って屋上にいるか、なのだが…。


「…いない。」


小さな子供が入れそうなところは、城の者達が隈無く探したと言い、残るは庭を含めた敷地内となった。


「騎士団は外と中に別れ、壁に沿って殿下を探すよう。警備兵を含めた残りの者は、敷地内を隈無く探せ!」


各々に指示をし、玄関へと向かおうと足を向けた。すると、そのとき不意に吹いてきた風に足を止めた。


「…?」


隙間風にしては酷いとそちらに足を向ければ、使用人専用の裏口がきちんと閉まっていなかったからだとわかった。閉めようとしていた手を止めて、少し考えた。

もしかしたら、殿下はここから外に?

半信半疑になりながら、そっと扉を押し開けた。少し押しただけて簡単に大きく開く扉の向こう側には、小さな階段を数段降りた先、子供の靴跡が僅かながらにして残っていた。

小さなその靴跡は、身長からして殿下の物だった。

外に出たのかとため息をつきたいのを来られ、今にも消えそうな足跡を追う。

警備兵達を呼ぶよりも、自分が行った方が早いだろう。

滑って転んだ跡を見ながら、そう考えた。

時折休憩したのか、くっきりとお尻の跡を残す小さな王子の道筋は、あまり容易に勧める道ではなかった。時には溝を飛び越え、鉄格子をよじ登って越え…。

ようやく元の道らしき道に出たときには、息は切れて額に汗が浮かんでいた。


「…東の廃屋?」


帰ったらこっぴどく叱ってやるなどと呟いていた時、道の先に見える廃屋に眉をしかめた。

この国が出来た頃からある廃屋で、寒い冬に見回る警備兵達のためにと休憩所を兼ねて王が作った場所で、今では使われなくなった。

あまりに古く、取り壊す予定も視野に入れている最中だが、冬の間は修復作業だけしている。まさかあそこに行ったのではと慌てて、溶け始めた雪を蹴った。


「…こんこん、雪がつもりますぅ。きょ~うも白くて、つめたい…。」


「殿下!ルーク殿下!」


小さな歌声が聞こえてくることに安堵して、名を呼んだ。


「殿下、どこにいらっしゃるのですか?」


「…えりー?」


ひょっこりと、屋根の上から小さな金髪の男の子が、月色の瞳を丸くさせてこちらを見下ろしてきた。


「あっ!そんなところに…っ。」


お転婆な王子様は、今にも崩れ落ちそうな屋根の上、雪だるまを作って遊んでいた。


「えりー、見て!ぼくひとりでのぼったんだよ。」


すごいでしょーと威張る彼に呆れて、声を上げた。


「殿下、危ないですから降りてきて下さい!」


すると、しゅんと頭をもたげた小さな王子は、ポツリと呟いて言った。


「…ぼく、きらいだな。その言い方。」


「え?」


「…るーくって呼んでよ、えりー!」


また始まったとため息をつき、相手にせずに説得を試みる。


「わがままを仰らないで、城に戻りましょう。王妃殿下も心配しておいででしたよ?」


「いやだ!えりーが名前を呼んでくれるまで、ここからおりない!」


駄々をこね出した甥に、どうしたもんかと頭を悩ます。その時、ミシリミシリと不気味な音がルークのいる廃屋から聞こえてくる。


「…殿下、崩れます!早く」


「るーくだよ!」


雪の重さもあるだろうが、子供一人上るだけで崩れ落ちそうになるなど、思ったより腐敗が酷い廃屋に焦りながら、声を張り上げた。


「ルーク、わかったから早く降りなさい!」


屋根の上にいる小さな王子が、降りようと立ち上がったのと脆くなった廃屋が、派手な音が崩れるのはほぼ同時で。

落ちてくる甥を腕に受け止めようと、崩れてくる廃屋の中へと走った。


******


「なんの音?」


馬で駆け回っていた夫が、宰相の伝言で部屋へと戻ってしばらくしてから、遠くからなにやら大きな音がリザの耳に聞こえた。そばにいたライアンが口を開くより早く、慌ただしく部屋へとやってきた警備兵に、嫌な胸騒ぎがした。


「一体何があったのさ!?」


「ひ、東の廃屋が崩れたと!」


「…なんだって?」


「お、恐らく…、今日は気候が暖かいため、雪が溶け出したのも影響があったのかと。」


慌てる警備兵に、ライアンも焦ったように問い返した。


「近くに人は?」


「…現在、人を向かわせているところです。殿下の捜索中で、連絡が上手く取れなくて。人員がなかなか集まらないのです。」


「…エリーは?ラグアス宰相に伝えたかい?」


オロオロとする警備兵に焦りながら、近くに歩み寄った。


「そっそれが…。」


「なに!言いたいことがあるなら、はっきり言いなよ!」


「…宰相の姿が見当たらないんです!最後に見た者の話だと、東の方に向かわれていたと。」


その言葉に、目の前が真っ暗になった。


「…リザはここにいるんだ。」


静かに言い捨てたライアンは、愛馬をすぐに用意するよう指示して、呆然とするリザを残して部屋を後にした。


その頃、甥を助けようと飛び込んでいったエリオットは、倒れてきた雪と屋根の下敷きになっていた。腕の中には、わんわんと泣くルーク。

こんなに元気に泣けるなら、怪我はしていないだろうと安堵を漏らした。


「…泣くんじゃない。」


泣けば体力を消耗し、助かる確率も減ってしまう。必死にルークを慰めるが、 寒さで上手く言葉が出ない。溶け出した雪が水となり、二人の衣服に染み渡って体温を奪っていく。

頭から流れる血が邪魔で、右側はよく見えないが、左側の先から光が漏れているのがわかった。


「る、るぅく、あそこか、ら、そとに…。」


「えりーは…?」


ほんの数歩行けばいい距離、そこを指差しながらルークを右手で引っ張り出した。


「あとから、いく」


涙目でこちらを向く甥を押しやって、入り口へと行くのを後押しした。


「えりー、えりー!でたよ、はやく。」


小さな手を差し出しながら言う甥に、僅かに身を動かした。が、どうやら右足の膝から下が、倒れてきた物の下敷きになったようで、這い出すことは無理そうだった。


「…えりー?」


体力が貧弱な自分には、この瓦礫を退かすことも出来ない。甥の声を耳に挟みながら、溜め息をついた。


「ルーク!?」


「ちちうえっ、えりーが。」


その時、親しい声が遠くから聞こえ、陛下が来たのだと、薄れゆく意識の中で理解した。


「エリーっ?エリオット!」


「陛下、危のう御座います!お下がり下さい。」


半狂乱になる国王を騎士達が必死に抑え、兵士達が救出作業にあたった。

その頃、城の外門では庭師達が花壇に積もる雪掻きの真っ最中で、時たまふざけて雪投げをする者達のはしゃぎ声が響いていた。


「こらー!真面目にやらんかぁ!」


庭師のアズウェルが弟子達に怒鳴る声が、静かな外門の前に響いている。


「父さんったら!」


弟子に雪を投げつけられ、仕舞いには一緒に雪合戦を始めた父を笑いながら、ソフィアも自然と笑顔が零れた、そんな時。


「きゃっ!」


城の方から掛けてきた馬が、ソフィアの間近で止まり、ソフィアは雪を頭から被った。


「ソフィア様!ソフィア・ナトリー様はいらっしゃいませぬか!」


「ソフィア・ナトリーは私ですが…。」


息を切らす馬を宥めながら、大きな声で叫ぶ男に、嫌な予感がしながら馬の上に乗る男に近づいた。


「あぁ、ソフィア様で?私、城の伝言番の者です。王妃殿下より、すぐに城にお戻りになられよとの伝言です。なにやら、ラグアス宰相が王太子殿下を庇って、廃屋の下敷きになったとかで…。」


「エリオット様が!?」


悲鳴に近い声を上げたソフィアに、父のアズウェルが気づいて近いてきた。


「どうした、ソフィア?」


「あぁ、父さん。…エリオット様がっ。」


泣きながら事情を話す娘に、アズウェルもさっと血の気を失った。


「本当なのか!?」


「あぁ、アズウェルさん。私もさっき伝言を頼まれて知ったんですよ。」


伝言を受け持つよく見知った男に、聞くと顔をしかめて娘を見やった。


「ソフィア、とにかく城に向かいなさい。父さんも後から行くから。」


「ソフィア様、馬には乗れますね?この馬は国一番の早馬です、賢くて初めて乗る人にも怯えませんから、思いっ切り急かしてやって大丈夫ですよ。」


男は馬から降りて、まだ泣き止まないソフィアが鞍へ登るのを手伝った。


「良いですか?あそこに城の騎士と鎧を着た兵が居りますでしょう。騎士の者が先を走って安全な道へと誘導します。後ろからは護衛の兵がついてきますが、気にせず走って下さい。さぁ!」


外門付近に待つ騎士と兵を指し示しながら、ソフィアにしっかりと手綱を持たせて急かした。


頬に伝う涙を拭い、思いっ切り馬の横腹を蹴り上げた。早馬は、真っ直ぐに外門付近にいる騎士と兵の元へと向かい、騎士はソフィアが外門に辿り着く寸での所で馬を走らせた。前を走る騎士の馬を見ながら、愛しい人が無事であることを願った。


騎士の安全で近道を通る案内で、城にはすぐに付き、借りた馬を騎士達に託して後宮の中へと駆け出した。

また止めどなく溢れる涙を拭いながら、後宮奥にある医局に向かって走った。


「…あの!エリオット様は!?」


「おや、ソフィア様。ラグアス宰相でしたら、奥の病室に…。」


普段はしない、乱暴な扉の開閉に、助手と話をしていた医師、ソフィアが風邪を引いた時に見てくれた彼は、ソフィアの気迫びっくりしながら奥の部屋を指差した。


「ありがとうございますっ。」


礼もそこそこに、その扉を開け放つと叫んだ。


「エリオット様!!」


「っ!ソフィア!?」


入り口に背を向けていたエリオットは、何も着ない背中を慌てて隠した。


「きゃっ、ごめんなさい!」


背中の傷口を消毒している最中だったようで、ソフィアはさっと背を向けた。慌てて寝着を身につける宰相と顔を真っ赤にさせるソフィアを眺めていた看護師は、苦笑を密かに漏らして部屋を出て行った。


「…あの、怪我をされたと聞いて。」


「あぁ、姉上が伝番を走らせたのでしょう?大した怪我でないのに。」


全くと呆れる宰相を振り返ると、ちゃんと寝着を身に付けていてホッとした。


「…良かった。」


かすり程度だという彼に、ソフィアはふらふらと近づいて、寝台に上半身だけ起こすエリオットに抱きついた。


「心配し過ぎて、どうにかなりそうでした。」


「…心配かけましたね。」


胸元に顔をうずめるソフィアの髪をゆっくりと撫でながら、エリオットもそっと身を預けた。


「うぉほんっ!」


「「!!!」」


二人の穏やかなその雰囲気を破ったのは、いつの間にか戸口に佇んで居た国王だった。不機嫌そうな彼は、じとっと二人を見ながら、背後でにこにこと微笑んでいた医師を引っ張り出しながら言った。


「ラブラブの所申し訳ないんだけど、怪我の説明をしたいって侍医が言ってるよ。」


「…いつから居たんですか。」


「ついさっきから。」


「居るんだったら、言って下さいよ。」


バツが悪そうなエリオットは、「今じゃなくても構いませんよ」という医師も見ながら言った。


「…だって。ねぇ?」


「私に振られましても。」


「今っ!今、説明してあげて!これ以上、いい雰囲気になる前にっ。」


すっかり巻き込まれた気の毒な医師は、少々困り気味に言い返していた。


「ラグアス宰相、お加減はいかがですかな?」


にこにこと近づいてきた医師は、右足首と頭の包帯を確認してエリオットとソフィア、二人に怪我の説明を始めた。


曰わく、頭の傷は家材で切ったが、出血は既に止まり、大した怪我ではないと。右足は、ひびが入っているため、しばらく安静をすること。背中の傷は、こまめに消毒をするようにとのことだった。


「来月の結婚式は、残念ながら延期にされた方がよろしでしょうな。」


無理をしないようにという医師の診断に、二人は顔を見合わせて口を開いた。


「…お医者様がそうおっしゃるなら、式は少し延期にしましょうか。エリオット様。」


エリオットから身を離し、寂しそうに笑うソフィアに仕方がないが。とエリオットも頷いた。


「すいません、ソフィア。私の不注意で。」


うなだれるエリオットに、いいえとソフィアは首を振って答えた。


「エリオット様は、ルーク殿下をお助けになられたんです。素晴らしいことです!だから、謝らないで下さい。」


にっこり笑うソフィアに安堵して、エリオットも自然と笑みが零れた。


「あの、そういえばルーク殿下は?」


「あぁ、あのちっちゃなわんぱく坊主なら、泣き疲れてリィの膝の上だよ。」


ムスッと答えた国王の顔には、不機嫌さが浮かんでいる。


どうやら、エリオットが自分ん庇って怪我をしたことで、大泣きしていたそうで、ようやくついさっき泣き止んだらしい。


「リィの膝は僕のものなのに!さっきからずっと独り占めしてるんだよ!どう思う、エリー!?」


「どう思うと言われましても…。姉上の膝に執着する前に、机の上で仕事をなさるという、集中力を見せて頂きたいものです。あのルーク殿下は、確実に兄上と姉上の性格を受け継いでらっしゃいますから、きちんと教育をなさるべきたと私は思います。…最後にひとつ申し上げるならば、式が長引くことになった私たちに、父親として詫びて欲しいものですが。」


ピシャリと怒られたライアンは、シュンとうなだれ小さな声で詫びた。


「…ごめんなさい。ソフィーちゃんもごめんね。」



その姿があまりに可愛いものだから、エリオットもソフィアも笑って許すしかなかった。


「じゃあ、ソフィーちゃん。エリーのこと、よろしくね!」


「…陛下、私の仕事もよろしくお願いします。」


けろりとして再び顔を上げたライアンに、エリオットは二度目の打撃を与えて笑った。

どうやら、式が延期されたことに対して、彼なりに怒っているようだった。


「それは無理だよ~。」


半泣きになって部屋を飛び出していった国王を見ながら、エリオットとソフィアはクスクスと楽しそうに笑いあっていた。


両想いになった二人が、その後仲を深めたのは言わずもがなで。

わんぱくなルーク殿下は、エリオットに怪我をさせたことを随分気に病んでいたようで、しばらくの間は放浪癖がマシになったようだった。

大好きなエリオットからのちに説教を食らった後は、出掛ける時は必ず共をつけるようになったという。

父親よりもエリオットの言うことを聞く息子にショックを受け、ライアンは妻に泣きながら話していたという。


ラグアス宰相と庭師の娘が式を上げる、1ヶ月前ほどにあった、この小さなおまけの物語。その時のソフィアの慌て振りと騎乗の上手さは、式を上げたその後も話し継がれ、二人の仲の良さをさらに周りに知らしめることになった。



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