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凍槍のエルザ  作者: ETOUMA
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2/2

2.洞窟にて

吹雪は夜が近づくにつれて勢いを増していった。

もはや街道など見えない。吹雪は視界を白く塗り潰し、数歩先すら判別できなかった。


後ろでは男の子が何度も雪に足を取られている。


転んでは立ち上がり、転んではまた追いかけてくる。


何度目かも分からない転倒の末、とうとう男の子は雪の中に膝をついたまま動かなくなった。


「……」


エルザは数歩進んでから立ち止まる。


振り返れば、男の子は雪に埋もれかけながらも必死に顔を上げていた。


その姿をしばらく見つめたあと、エルザは視線を逸らす。


周囲を見回す。


吹雪の向こうに、岩肌へぽっかりと口を開けた小さな洞穴が見えた。


ーーーーーーー


パチパチと爆ぜる焚き火の前で、エルザは腰を下ろす。


タバコを咥えると、焚き火の向こうへ目を向ける。


そこには、ぺたんと地面に座り、うとうとと頭を揺らしている男の子の姿があった。


今にも意識を失いそうであったが、エルザに置いていかれないようにするためか、必死に頭を振って意識を保とうとしている。


ふと、男の子がエルザの視線に気がついた。


男の子は眠気眼のまま、エルザを見返すと、嬉しそうにふにゃりと微笑んだ。


「………」


エルザは視線を逸らすと、荷物から革袋を取り出した。中から出てきたのは、携帯食用の干しパンだ。長期保存だけを目的とした代物のため、とてつもなく硬く、味も悪い。


エルザがそれを小さくちぎり、口の中でふやかしながら咀嚼していると、静かな洞窟に音が響いた。


きゅ~。


エルザが音の発生源に目を向けると、男の子が慌てて両手で口とお腹を押さえた。その目は、エルザの手にあるパンを物欲しそうに見つめている。


再び、お腹が小さく、可愛らしい音を立てて鳴った。


エルザは無言のまま、手元に残っていたパンを半分に叩き割り、男の子の足元へ投げ寄越した。


「……!」


男の子は目は目を輝かせると、両手でパンを抱え込み夢中で齧りついた。


エルザは残りのパンを無造作に齧ると、必死に顎を動かす男の子の姿を尻目に、洞窟の壁にもたれかかった。そうして深くフードを被ると、すぐに意識を闇に落とした。


翌朝、エルザは洞窟の奥まで響く風の咆哮で目を覚ました。


入り口に目をやると、荒れ狂う風が白い雪を激しく巻き上げている。視界は昨日以上に最悪だった。


(今日は動けそうにないな……)


エルザがぼんやりとそんなことを考えていると、すぐ近くでモゾモゾと動く気配があった。


見れば、男の子がエルザの纏う大きなマントの端に、包まるようにして眠っていた。小さな手はマントをぎゅっと握りしめており、ちょっとやそっとでは引き剥がせそうにない。


エルザは無言でその寝顔を見つめていたが、やがて面倒そうにマントの留め具を外すとするりと抜け出し、焚き火の跡へと移動した。



ギィン、ギィィン。

金属を冷たく削るような音で、男の子は目を覚ました。


ハッと目を開けると、隣にいるはずのエルザがいない。男の子は慌てて飛び起き、辺りを見回した。


少し離れた焚き火の傍らで、エルザが槍を研いでいた。


男の子はほっとしたように息をつくと、トコトコと近づいてエルザの横にちょこんと座り込んだ。だが、エルザは男の子を一瞥もしない。


男の子は少し退屈そうにしていたが、おそるおそる、エルザの服の袖に指先でちょっとだけ触れてみた。


――反応はない。


今度はマントのないエルザの衣服を、ぐいぐいと軽く引っ張ってみる。


――やはり、反応はない。


調子に乗った男の子が、今度はエルザが磨いている槍の刃に手を伸ばそうとした。


その指先が冷たい鉄に触れる直前――パンッ!と鋭い音が響き、男の子の手がはたき落とされた。


「……はぁ」


エルザは深い、心底鬱陶しいため息をつくと、男の子の襟首を掴んで洞窟の奥へと放り投げた。


衣服のクッションのおかげで怪我こそないものの、男の子は床をごろごろと転がり、最初は驚いた顔で目を丸くする。


しかし男の子はすぐに起き上がると、再び槍を研ぎ始めたエルザの元へとトコトコ駆け寄る。そして、今度は弾かれたようにエルザの腕にギュッと抱きついた。


「チッ!」


エルザは苛立ち交じりに舌打ちすると、再び男の子を持ち上げ、今度は先ほどよりも雑に放り投げた。床を二、三回転がった男の子は、しかし、痛がるどころか楽しんでいるような雰囲気だ。


「………」


エルザが構ってくれたことが、男の子にとっては最高に楽しい遊びになってしまったらしい。起き上がった男の子は、目を輝かせながら、今度は足元にタックルするかのようにちょっかいをかけてくる。


エルザはそのたびに、煩わしい虫を払うように男の子を足で転がしたり、放り投げたりした。


だが、どれだけ投げ飛ばしても、男の子は犬のように嬉しそうに尻尾を振っているかのような幻覚が見えるほどの笑顔で戻ってくる。


キリがない。


そう判断したエルザは、槍を置くと、男の子が寝ていたマントを拾い上げた。


そして、向かってきた男の子をひょいと捕まえると、マントでその体を蓑虫のようにぐるぐる巻きにする。両腕も両足も完全に布の中に封じ込めると、床に転がす。


さすがに身動きが取れなくなった男の子は、床で芋虫のように蠢いている。


しかし、その顔はちっとも堪えておらず、エルザに構ってもらえることが嬉しくてたまらないといった様子で、満足そうに笑みを浮かべていた。


エルザは男の子から意識を逸らすと再び槍を手に取る。洞窟の外では、相変わらず冷たい吹雪が吹き荒れていた。

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