↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十二章 雌雄一対の剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/143

第八十六話 闇が浄化された街

第八十六話 闇が浄化された街


 教会の礼拝堂に降りた僕とミレーヌを、みんなが出迎えてくれた。


 ハードロックの魔法はすでに解けていた。

 教会の扉は開け放たれ、礼拝堂には激しい戦闘の跡が残っている。


 砕けた石。

 倒れた椅子。

 床に散らばる矢。

 ストーンゴーレムも、今はただの石ころに戻っていた。


 それでも、みんな無事だった。


 礼拝堂の中には、気絶した街の人達が横たわっている。

 シグレさんとセシルさんはみねうちを徹底し、クヌートとフェリシアはスリープで眠らせ続けてくれたのだろう。


 怪我人はいる。

 けれど、死者はいなかった。


 「二人とも無事だったか!!」


 シグレさんが、息を荒げながらもしっかりとした足取りで近づいてくる。


 フェリシアも、疲れ切った顔でこちらへ歩いてきた。

 額には汗が滲み、指先はまだ小さく震えている。


 「よかった……ユキナさんもミレーヌさんも、戻ってきてくれて……」


 そう言ったフェリシアの声は、今にも泣き出しそうだった。


 ずっと扉を守り、操られた人達を殺さないように魔法を使い続けていたのだ。

 どれほど神経を使ったのか、僕には想像するしかない。


 「フェリシアさんも無事でよかったです。ここを守ってくれてありがとうございました」


 「私は兄様と一緒に、できることをしただけです。でも……誰も死なせずに済んで、本当によかった」


 フェリシアはそう言って、気絶している街の人達を見つめた。


 セシルさんはすぐに僕の左腕に気づいた。

 そして、懐から小さな水薬の瓶を取り出す。


 「ほら、飲みな。ハイポーションだよ」


 「ありがとうございます」


 重傷時にしか使わない高価な水薬だ。

 僕がそれを飲むと、折れていた左腕に熱が戻っていく。


 骨が内側から繋がっていくような、不思議な感覚があった。

 やがて、左腕はゆっくりと動くようになる。


 「無茶させたみたいですまないね」


 「いえ。セシルさん達がここを守ってくれたから、僕達も戻ってこられました」


 そう言うと、セシルさんは少し照れたように笑った。


 「それより、二人ともどんな奇跡を使ったんだ?」


 礼拝堂の椅子にへたり込んだクヌートが、教会の外を指さした。


 外では、さっきまで暴徒だった人達が、散らばったレンガや木片を拾い集めていた。


 虚ろだった瞳に、光が戻っている。

 憑き物が落ちたというのは、こういうことを言うのだろう。


 怒鳴り声も、呪うような呻き声も聞こえない。

 誰もが戸惑いながらも、自分達の手で壊れたものを片付けようとしていた。


 「精霊の流れが、さっきまでと全然違います」


 フェリシアが、外の光景を見ながら小さく呟いた。


 「さっきまでは、怒りや恐怖の精霊がぐちゃぐちゃに絡み合っていました。でも今は……ほどけています。まだ傷は残っていますけど、息ができる場所に戻っていくみたいです」


 その言葉に、クヌートも黙って頷いた。


 「こんな光景は初めて見ます」


 カチュアさんが、驚いたように呟いた。


 「この辺りの住人は、無気力で刹那的な生活をしている者が多かった。自分達の不幸を嘆きながら、それでも何かを変えようとはしなかったのに……」


 その時、外にいた一人の住人がこちらに気づいた。

 汚れた服のまま、こちらへ小さく頭を下げる。


 その顔には、迷いのない笑みが浮かんでいた。


 僕達は教会を出て、貧民街の通りに戻った。


 そこには、さっきまでとはまるで違う光景が広がっていた。


 住人達が、路地に溜まった汚れを集めている。

 悪臭の元になっていたものを一輪車に載せ、下水道へ運んでいく者。

 井戸から水を汲み、石畳に撒いて泥と汚水を洗い流す者。

 壊れた木箱や瓦礫を道の端へ寄せている者。


 まだ悪臭は残っている。

 街が一瞬で綺麗になったわけではない。


 それでも、さっきまで肌にまとわりついていた重い空気が、少しだけ薄くなっていた。

 怒りや諦めのようなものが、街から抜け落ちている。


 住人達は、自分達の心の汚れを落とすように、黙々と街を掃除していた。


 一体、何が起こったのだろう。


 遠くを見ると、陥落しかけていた第三砦の方でも動きがあった。

 兵士達が態勢を立て直し、ゴブリンへ反撃を始めている。


 剣戟の音が、少しずつ変わっていた。


 錆びた剣の鈍い音よりも、鍛えられた兵士達の武器が打ち合う音の方が強く響いている。

 燃えていた区画でも火の手が弱まり、逃げ遅れた住人の保護が始まっているようだった。


 落城寸前だったルクス城が、息を吹き返している。


 「お父さん!! お母さん!!」


 その声に振り向く。


 酒場に隠れていた子供達が、教会の中へ駆け込んでいった。

 連れ去られていた大人達も、ようやく意識を取り戻し始めている。


 女の子が、父親と母親に飛びついた。


 父親は片足を引きずりながら、それでも娘をしっかり抱きとめる。

 母親は泣きながら、何度も何度も娘の髪を撫でていた。


 「よかった……無事で……」


 「ごめんね、怖かったね……」


 親子は、互いを確かめるように抱きしめ合っている。


 その姿を見た時、間に合ってよかったと心から思った。


 フェリシアが、そっと胸元に手を当てた。


 「……よかった。本当に、よかったです」


 その目には涙が浮かんでいた。

 けれど、それは悲しみの涙ではなかった。


 「お姉ちゃんたち、ありがとう!!」


 ミレーヌに泣きながら抱きついていた女の子が、今度は満面の笑顔でミレーヌを見上げていた。


 ミレーヌは屈んで、その子の頭を優しく撫でる。


 「ほらね。ボク達、約束守ったよ」


 「うん!! お父さんとお母さんを助けてくれてありがとう」


 女の子の笑顔を見て、僕は胸の奥が温かくなるのを感じた。


 僕達がしたことは、すべてを救ったわけじゃない。

 この街の貧しさも、積もった恨みも、今日だけで消えるわけではない。


 それでも、この子の笑顔だけでも取り戻せたなら、ここまで来た意味はあった。


 闇に覆われていた街に、ほんの少しだけ光が戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。