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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十章 ルクス城攻防戦

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第七十三話 城壁の上の惨劇

第七十三話 城壁の上の惨劇


 ルクス城の跳ね橋は降りていた。


 城門も、内側から開けられたのだろう。

 遠目には、ただ門が開いているだけに見えた。


 けれど近づくにつれて、血と焦げた肉の臭いが鼻を突いた。


 城門の前には、兵士の死体とゴブリンの死体が折り重なっていた。

 城壁の上にも、戦闘で倒れたであろう兵士の姿が見える。

 要所に作られた防御塔は黒煙を上げ、まだ赤い火を残して燃えていた。


 ルクス城の中は、すでに戦場になっている。


 そう思うだけで、背筋が冷たくなった。


 「シムさん、ありがとうございました」


 「最後までご一緒できず、すみません」


 「いえ。早くこの惨状をホレ村へ伝えて、避難してください」


 ルクス城に近いホレ村にも、いずれ影響が出るだろう。

 今なら、まだ食料や財産を持って逃げられる。


 どこへ逃げるべきかは、僕にもわからない。

 けれど、あのまま村に留まるのは危険だった。


 僕達は城門の前でシムさんと別れ、ルクス城へと入る。


 城門の内側にも、激しい戦闘の跡が残っていた。


 兵士よりも多いゴブリンの死体が、石畳の上に散らばっている。

 折れた槍。砕けた盾。黒く焦げた矢。

 石畳の隙間には、乾ききらない血が黒く溜まっていた。

 ここを守っていた兵士達は、最後まで必死に食い止めようとしたのだろう。


 隣にいたミレーヌが、口元を覆った。


 僕はそっと、ミレーヌの肩を抱き寄せる。


 「ユキナ……ボク怖いよ」


 「僕も怖いよ。でも、絶対に一人にはしない。何があっても、僕がそばにいる」


 ミレーヌは小さく頷いた。

 その指先が、かすかに震えている。


 城門を守る外壁の砦も燃えていた。

 その下に広がる街は、瓦礫と火災で道が塞がれている。

 とても無事に通れるとは思えなかった。


 「少し時間がかかるが、城壁の上を通るのはどうだ?」


 シグレさんが、燃える街を見下ろしながら言った。


 「そうですね。このまま街を通過するのは危険すぎます」


 街中には、まだ侵入したゴブリンがいるはずだ。

 それに煙で視界も悪い。


 幸い、ルクス城は城壁が複雑に入り組んでいる。

 城壁の上を伝えば、空中回廊のように次の砦まで進むことができる。


 僕達は、城壁へ続く階段を上った。


 階段にも、兵士とゴブリンの死体が転がっていた。

 足元の石には血がこびりつき、ところどころ黒く焦げている。


 それでも、通れないほどではない。


 城壁の上へ出ると、熱を含んだ風が吹きつけてきた。

 人の背丈を遥かに超える厚い城壁には、防御塔と胸壁が連なっている。


 弓で応戦していたのだろう。

 兵士達が背負っていた矢筒は、どれも空になっていた。


 おかしい。


 この規模の砦なら、矢は十分に備蓄されていたはずだ。

 それなのに補充が間に合わないほど早く突破されたとは考えにくい。


 その答えは、防御塔の中にあった。


 防御塔の中は、外よりもひどかった。

 狭い石造りの部屋に、血の臭いと煙がこもっている。

 床には矢筒が散らばり、運びかけだったらしい矢束が踏み折られていた。


 壁には剣で刻まれた傷がいくつも残り、その近くで兵士が互いに折り重なるように倒れている。

 倒れているのは、ゴブリンだけではない。


 人間同士が、この狭い場所で殺し合った跡だった。


 よく見ると、兵士達の皮鎧は色が違っていた。

 砦ごとに分けられた色だ。


 矢を運ぼうとした者。

 それを止めようとした者。

 剣を抜いたまま倒れている者。


 誰が味方で、誰が敵だったのか。

 ここにいた兵士達自身にも、最後には分からなくなっていたのかもしれない。


 その光景に、前日のクヌートの言葉が胸の奥で重く響いた。


 人間は、種族が違う、国が違う、属する集団が違う。

 ただそれだけで殺し合う。


 僕はそれを否定したかった。

 でも、目の前には、その言葉を証明するような惨劇が広がっていた。


 「ユキナ、ここで何が起こったの?」


 ミレーヌが、死体から目を背けながら尋ねる。


 「砦の兵士が反乱を起こしたというのは、本当みたいだね」


 声に出しながらも、胸の奥が重くなる。


 僕も目を逸らしたかった。

 けれど、僕まで怖がっていたら、ミレーヌの不安は増すばかりだ。


 「いやあ。こりゃ当分、矢には困らないね」


 そう言って、セシルさんが床に落ちていた矢筒を拾い上げた。


 スカウトの習性だろうか。

 こういう時でも抜かりがない。


 その軽い口調に、張り詰めていた空気がわずかに緩む。

 みんなが小さく笑った。


 わざと道化を演じられるセシルさんが、うちのパーティで一番強いのかもしれない。


 「次の砦へと急ぎましょう」


 僕がそう言って走り出そうとした、その時だった。


 次の砦の方角から、金属が砕けるような音と、誰かの悲鳴が響いた。


 まだ、生きている人がいる。


 そして、そこにも何かがいる。


 僕達は顔を見合わせると、煙の流れる城壁の上を駆け出した。


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