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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十七章 アルスラン帝国

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第百三十九話 拾われた子供たち

第百三十九話 拾われた子供たち


 店主たちの背中を見送ったあと、僕とミレーヌはようやく息を吐いた。


 身体に入っていた力が、少しずつ抜けていく。


 あのまま誰かが一歩でも踏み込んでいたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。


 「ありがとうございます」


 僕は助けてくれた冒険者ギルドマスターに頭を下げた。


 ギルドマスターは、良いのじゃと言うように片手をひらひらと振る。


 そして、石畳の上に座り込んだままの少年たちへ目を向けた。


 「さて、お前たち」


 その声に、少年たちがびくりと肩を震わせる。


 さっきまで店主たちに殺されかけていたのだ。無理もない。


 「仕事をやる。ついてこい」


 「……仕事?」


 リーダー格の少年が、警戒した目でギルドマスターを見上げる。


 ギルドマスターは、ヒヒヒと笑った。


 「今からお前たちは、冒険者ギルド預かりの見習いじゃ。飯と寝床は出す。その代わり、働け。文句はあるか?」


 少年たちは顔を見合わせた。


 戸惑いと警戒と、ほんの少しの期待が混じった顔だった。


 盗みをして逃げ回っていた子供たちにとって、突然差し出された仕事という言葉は、信じていいものなのか分からなかったのだろう。


 けれど、さっきまで向けられていた殺意を思えば、拒む理由もなかった。


 やがて少年たちは、小さく頷いた。


 「よし。なら決まりじゃ」


 ギルドマスターは満足そうに頷く。


 「まず、その汚い恰好をなんとかせんとのう。この冒険者ギルドマスター、オットーの名で預かる者がそんな姿では、儂の顔に泥を塗ることになる」


 そう言って、ギルドマスター――オットーさんは歩き出した。


 僕とミレーヌも、少年たちと一緒にその後をついていく。


 少年たちはまだ不安そうだった。けれど、誰も逃げようとはしない。


 逃げたところで、また同じ路地へ戻るだけだと分かっているのかもしれない。


 白磁の頂き亭へ戻ると、オットーさんはそのまま少年たちを受付へ連れていった。


 エルフの受付嬢、エレナさんが目を丸くする。


 「ギルドマスター? この子たちは……?」


 「拾い物じゃ」


 「拾い物って……」


 エレナさんは呆れたように言いかけたが、少年たちの汚れた服と痩せた頬を見て、表情を変えた。


 「……事情は後で聞きます」


 「うむ。手配を頼む。ギルド預かりの見習いとして登録しておけ。まずは風呂と飯じゃな」


 「分かりました」


 エレナさんはすぐに少年たちへ向き直った。


 「みんな、ついてきなさい。まずお風呂に入ります。その後で食事です」


 少年たちは不安そうに顔を見合わせる。


 風呂。


 食事。


 その二つの言葉が、信じられないもののように聞こえたのかもしれない。


 リーダー格の少年が、恐る恐る尋ねた。


 「……金、取るのか?」


 エレナさんは首を横に振った。


 「取りません。あなたたちは今日からここで働くのでしょう? 働く子に、最初の食事を出さない職場なんてありません」


 少年は、何を言われたのか理解できないような顔をした。


 それから、少しだけ唇を噛む。


 「……分かった」


 そう言って、少年たちはエレナさんについていった。


 僕とミレーヌは、何が起きているのか完全には分からないまま、オットーさんを見つめる。


 「どういうことですか?」


 僕が尋ねると、オットーさんは肩をすくめた。


 「あの場であんた達が剣を抜いたら、取り返しがつかなくなったじゃろう?」


 それは、その通りだった。


 もし僕かミレーヌが剣を抜いていたら、あの場は血で染まっていたかもしれない。


 「儂はな、フミンの子供が路地でどうなろうが、いちいち胸を痛めるほど善人ではない」


 オットーさんは平然と言った。


 その言い方に、僕は少しだけ眉をひそめる。


 けれど、オットーさんは続けた。


 「だが、あんた達を犯罪者にするのは困る。それに、ちょうど人手が足りなくなってきた。使えるなら使う。食わせる分は働かせる。それだけじゃ」


 冷たい言い方だった。


 けれど、先ほどの商店主たちの殺意とは違う。


 少なくとも、少年たちは生きている。


 そして、これから風呂に入り、食事を与えられる。


 「でも……」


 僕は言葉を探した。


 納得できないものが、胸の奥に残っている。


 フミン族というだけで殺されかけた子供たちが、誰かの名の下でなければ守られない。


 それが当然のように語られるこの街の仕組みが、どうしても飲み込めなかった。


 僕の表情を見て、オットーさんはヒヒヒと笑った。


 「気に入らん顔じゃな」


 「……はい」


 「正直でよろしい」


 オットーさんは、少年たちが連れていかれた方をちらりと見る。


 「儂の名で雇った見習いなら、街の者は手を出せん。あやつらを傷つけるということは、冒険者ギルドに喧嘩を売るということじゃからな」


 「つまり……身の安全を保証するために?」


 「それもある。だが勘違いするでないぞ。働けぬなら追い出す。働けるなら残す。それだけじゃ」


 厳しい言葉だった。


 でも、ただの施しではないということでもあった。


 あの子たちは哀れまれて飼われるのではない。


 働くことを求められる。


 そして働けるなら、ここに居場所を得られる。


 それは、路地裏で盗みをして生きるよりは、ずっとましなのかもしれない。


 しばらくして、少年たちは風呂に入れられ、身体を洗われた。


 汚れが落ちると、みんな思っていたよりずっと幼い顔をしていた。


 食事が運ばれてくると、最初は戸惑っていた少年たちも、空腹には勝てなかったのだろう。すぐに皿へ手を伸ばし、がつがつと食べ始める。


 その様子を見て、ミレーヌが小さく息を吐いた。


 「……よかった」


 「うん」


 僕も頷いた。


 完全に納得できたわけではない。


 この街の仕組みも、フミン族への扱いも、オットーさんの言い方も、すべてが正しいとは思えない。


 けれど、少なくとも今、目の前の子供たちは殺されずに済んだ。


 それは確かだった。


 食事のあと、エレナさんが一人一人に合った服を持ってきて、少年たちに着せていく。


 先ほどまで泥と汗にまみれていた子供たちが、少しずつギルドの見習いらしい姿に変わっていく。


 少年たちは自分の袖や裾を何度も見下ろしていた。


 驚きと戸惑いと、隠しきれない喜びが、その顔に浮かんでいる。


 路地裏で盗みをしていた生活よりは、きっとましだ。


 少なくとも、今日の寝床と食事はある。


 そう思うと、僕はようやく少しだけ息をつけた。


 その時、オットーさんがこちらを見た。


 「これで貸しひとつじゃな、勇者ミレーヌ」


 空気が変わった。


 ミレーヌが目を見開く。


 「……なぜ、それを」


 オットーさんは、楽しそうに目を細めた。


 「伊達に長生きはしておらんよ」


 それだけ言うと、彼はヒヒヒと笑った。


 僕とミレーヌは、言葉を失ったまま、その老人を見つめることしかできなかった。


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