↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十七章 アルスラン帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/142

第百三十六話 勇者対勇者?

第百三十六話 勇者対勇者?


 机の上には、本が山積みになっていた。


 アルスラン帝国の歴史書。シリカ国の地理書。ショウ帝国の風俗や宗教を記した本。魔物図鑑や古代伝承をまとめた書物まである。


 知らなければならないことは、あまりにも多かった。


 僕たちは手分けして本を読み、それぞれ気になった内容を話し合う。

 それをロッテが丁寧にまとめてくれた。


 ロッテは翻訳魔法だけでなく、事務仕事も得意らしい。


 「ねえ。この本はどういう内容なの?」


 ミレーヌが僕に一冊の本を見せてきた。


 題名は、【勇者と魔王】。


 表紙には、二人の少女が剣を交えている絵が描かれている。


 「ちょっと読んでみるね」


 僕はその本を開いた。


 内容は、よくある英雄譚のように見えた。


 今から千年ほど前、世界を支配しようとした魔王が人間たちに戦いを仕掛けた。人々が絶望する中、一人の勇者が立ち上がり、仲間たちと共に魔王軍へ挑む。長い旅の末、勇者はついに魔王を倒し、世界に平和をもたらした。


 最後は、勇者の少女と魔王の少女が剣を交え、勇者が魔王を倒したと書かれていた。


 「よくある話だな」


 読み終えると、クヌートが短く言った。


 確かに、筋書きだけなら珍しくない。


 勇者がいて、魔王がいて、世界を救う。


 けれど、ミレーヌは納得していない顔で本を覗き込んでいた。


 「でも、変だよ。魔王軍との戦いの描写がほとんどないんだ」


 言われて、僕はもう一度ページをめくる。


 勇者が苦難を乗り越えたとは書かれている。仲間と共に戦ったとも書かれている。


 けれど、肝心の戦いの中身が薄い。


 どんな魔物と戦ったのか。どの街が襲われ、どの国が滅びたのか。そういう具体的な記述が、不自然なくらい少なかった。


 「それに、この絵もおかしいよ」


 ミレーヌが挿絵を指さす。


 そこには、二人の少女が剣を交えていた。


 一人は勇者。


 一人は魔王。


 けれど、その二人はまったく同じ顔をしていた。


 勇者は鮮やかな緑の髪を揺らし、白を基調とした鎧をまとっている。魔王は黒髪で、闇のような衣をまとっていた。


 服装も髪の色も違う。


 なのに、顔立ちは同じだった。


 何より、その顔はミレーヌによく似ていた。


 ──ミレーヌが二人いる。


 そう思った瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 他の挿絵も同じだった。


 勇者と魔王が向かい合う絵。剣を交える絵。片方が片方へ手を伸ばしている絵。


 どの絵でも、二人は同じ顔をしている。


 姉妹というより、鏡に映った同じ人間のようだった。


 しかも、二人とも悲しそうだった。


 世界の命運を背負った不倶戴天の敵同士には見えない。勝つために剣を振るっているというより、望まないまま向かい合わされているように見えた。


 ミレーヌの指が、挿絵の上で小さく震えた。


 「……これ、ボクに似てる」


 その声は、いつもの明るいものではなかった。


 「うん。僕にも、そう見える」


 将来戦うかもしれない相手が、自分と同じ姿をしている。


 動揺するなという方が無理だった。


 「どういう事なのでしょう? ミレーヌさんに双子の姉妹がいるとか?」


 フェリシアが控えめに言う。


 ミレーヌはすぐに首を振った。


 「ボクに姉妹なんていないよ。それに姉妹が戦うっていうなら、マリータ母さんにも姉妹がいた事になるよ」


 それは確かにそうだった。


 勇者が代々生まれるものだとして、この構図が正しいなら、歴代の勇者にも同じ顔の魔王がいることになる。


 けれど、そんな話は聞いたことがない。


 それに、挿絵の勇者も魔王も、マリータさんには見えなかった。


 明らかにミレーヌに似ている。


 もしこの絵が、単なる昔話の挿絵ではなく、勇者の運命を示しているのだとしたら。


 これは千年前の勇者ではなく、今ここにいるミレーヌの姿を描いていることになる。


 そんなことが、本当にあり得るのだろうか。


 「でも、千年前に魔王を倒したんだよね?」


 ミレーヌが小さく呟く。


 「それなら、今いる魔王は何なの?」


 誰もすぐには答えられなかった。


 千年前に倒されたはずの魔王。


 今、世界を脅かしている魔王。


 それは同じ存在なのか。それとも、魔王というものは何度でも現れるのか。


 「勇者と魔王の戦いは、何度でも繰り返す……?」


 僕が言うと、クヌートが眉をひそめた。


 「そうなると、この本の書き方がおかしい。何度も繰り返しているなら、『世界に平和がもたらされた』という記述は不自然だ」


 ますます訳がわからない。


 この本に書かれていることは、ただの間違いなのだろうか。


 それとも、真実を隠すために、わざとこういう話にしてあるのだろうか。


 「単純に記述が間違っているだけではないか?」


 シグレさんが静かに言った。


 「書物に描かれている事が、すべて正しいとは限らない。挿絵師が後から想像で描いた可能性もある」


 それが一番現実的な考え方だと思う。


 古い本なら、写本の途中で内容が変わった可能性もある。挿絵が本文と関係なく描かれたことだって考えられる。


 そう思おうとした。


 その時だった。


 ぞわりと、冷たいものが背筋を撫でた。


 何かが見ている。


 間違いなく、誰かが“僕”を見ている。


 その視線は、本の中から来ていた。


 慌てて表紙を見る。


 勇者と魔王が剣を交える絵。


 その魔王の背後に、さっきまではなかったはずの禍々しい影が浮かび上がっていた。


 黒い影。


 人の形をしている。


 けれど、その人物がまとっているものを見た瞬間、僕は息を呑んだ。


 この世界にあるはずのない服だった。


 僕が前世で見た、軍隊の服。


 軍服を着たその人物が、僕を見ていた。


 顔ははっきりしない。


 それなのに、笑っていると分かった。


 こちらを見下ろし、何かを知っているように、ほくそ笑んでいる。


 視界が揺れた。


 意識が、そちらへ引きずり込まれそうになる。


 「……ユキナ?」


 ミレーヌの声が聞こえた。


 その声で、僕は息を吹き返したように顔を上げる。


 「ユキナ、大丈夫?」


 ミレーヌが心配そうに覗き込んでいた。


 視界の端がまだ少し暗い。手のひらには嫌な汗が滲んでいた。


 「……うん。大丈夫」


 そう答えたけれど、自分の声が少し掠れているのが分かった。


 「本当に?」


 「大丈夫。ただ……今、変な影が見えたんだ」


 「変な影?」


 「魔王の後ろに、邪悪な人物が見えた。軍服みたいなものを着ていた」


 ミレーヌたちは、すぐに本を覗き込んだ。


 けれど、そこには何もない。


 勇者と魔王が剣を交えているだけだった。


 「そんな奴は描かれてないぞ」


 クヌートが本を確認しながら言う。


 「記述にもない。影も、軍服の人物も、どこにも出てこない」


 僕も見直した。


 ページをめくる。表紙を見る。挿絵を確かめる。


 やはり、そんな人物はどこにもいなかった。


 でも、気のせいじゃない。


 あれは確かにいた。


 そして、あの視線はミレーヌではなく、僕を狙っていた。


 僕の前世を知っている何か。


 この世界にあるはずのない軍服をまとった何者か。


 それが魔王の背後に立っていた。


 結局その日は、僕たちは疑問を抱えたまま、別の本を読み続けた。


 少しでも多くの知識を頭に入れなければならない。そう分かっていたからだ。


 けれど、集中しようとしても、時々ページの文字が上滑りした。


 ミレーヌも同じだったのだろう。


 何度か、あの本の方へ視線を向けていた。


 勇者と魔王。


 倒す者と、倒される者。


 そのはずなのに、あの挿絵の二人は、まるで同じ痛みを抱えているように見えた。


 そして、その背後にいた軍服の影は。


 まるで、その痛みすら利用しようとしているように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。