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君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜  作者: 屠龍
第十六章 フミンの少女

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第百二十三話 フミンの少女

第百二十三話 フミンの少女


 翌日の朝。


 僕はミレーヌと一緒に、ファジア港の街を散策することにした。


 「ユキナ、どこに行こう?」


 「そうだね。まずは食事をしようか。船旅で干し肉と干し魚と干した玉ねぎばかりだったから、果物が食べたい」


 「うん! ボクも果物が食べたい!」


 宿を出ると、朝の市場はすでに大勢の人で賑わっていた。


 白い石壁の建物。青い釉薬のタイルで飾られた店先。強い日差しを避けるために張られた色とりどりの布の日除け。


 露店には、山のように積まれた香辛料、干し果物、ナツメヤシ、羊肉の串焼き、銅の盆や細工された水差しが並んでいる。あちこちから、香草と焼いた肉と、濃い茶の甘い匂いが混ざって漂ってきた。


 フレーベルとは、何もかも違う。


 ここは、東方と南方の品が集まる港なのだと、歩いているだけで分かった。


 僕達は、市場でミカンに似た果物を買うことにした。


 長い船旅で新鮮な果物が不足していたから、身体が自然と求めていたのだと思う。


 ただ、問題があった。


 言葉が通じないのだ。


 クヌートとフェリシアがいれば通訳してもらえたけれど、今はいない。僕は身振り手振りで、他の人が食べている果物を指差し、何とか数個を買った。


 値段は、思っていたより高かった。


 たぶん、少し吹っ掛けられたのだろう。


 「賑やかな街だね」


 「そうだね」


 ミレーヌは楽しそうに周りを見ている。


 露店では、水煙草をくゆらせる老人が半分眠ったような顔で座っていた。けれど、こういう人ほど侮れないのだろう。店先に並ぶ宝石らしき品も、下手に手を出せば高値で買わされそうだった。


 ミレーヌに似合いそうな薄布の服もあったけれど、ここは我慢した。


 値札らしい木札はある。


 けれど、それが本当の値段なのかは分からない。


 よく見ると、あちこちで店主と客が激しく言い合っていた。怒鳴り合いに見えるけれど、周囲の人々はそれを当たり前のように眺めている。


 きっと、値引き交渉なのだろう。


 僕とミレーヌだけで挑むには、少し早そうだった。


 僕達は広場の端にあるテーブルと椅子で休むことにした。


 「凄い街だね。活気があって、ボクこういうところ好き♪」


 「うん。フレーベルとは違う雑然とした街だけど、僕もこういう賑やかなところは好きだよ」


 前世では、僕は身体が弱くて入退院を繰り返していた。


 だから、こういう活気のある場所とは無縁だった。


 人が行き交い、声が飛び交い、匂いと色が溢れている。


 そういう場所に自分の足で立っているだけで、少し嬉しかった。


 ミレーヌは僕の隣で果物を食べている。


 僕も同じ果物を一つ口に入れた。


 瑞々しい甘さが口いっぱいに広がる。前世で食べたミカンより甘みが強く、少しだけ花のような香りがした。


 僕が二つ目の果実に手を伸ばした時だった。


 広場の反対側から、悲鳴が聞こえた。


 「今の……!」


 「行こう!」


 僕とミレーヌはすぐに立ち上がり、悲鳴のした方へ走った。


 そこには、数人の男が一人の少女を取り囲んでいた。


 少女は、僕達と同じくらいの年に見える。


 栗色の髪をしていて、汚れた服を着ていた。足元には倒れた水差しと、転がった果物がある。


 男達は剣を抜き、少女を威嚇していた。


 言葉は分からない。


 けれど、少女が市場の水場に近づいたか、水差しに触れたことで因縁をつけられているのだと、周囲の空気で何となく分かった。


 少女は怯え、助けを求めるように周囲を見回している。


 だが、誰も助けない。


 それどころか、広場の人々は当たり前のようにその光景を見ていた。


 「どうしてみんな助けないんだ!?」


 僕が叫ぶと、少女を囲んでいた男達が一瞬こちらを見た。


 だが、すぐに何事もなかったように剣を構え直す。


 僕が駆け出そうとした瞬間、腕を掴まれた。


 振り返ると、ブレストプレートを身に着けた兵士がいた。


 鎧はよく手入れされていて、下に着ている服の襟元には刺繍がある。顔立ちも整っており、僕達にも分かるフレーベル語で話しかけてきた。


 「やめておけ。あれはフミンの子だ」


 「フミンってなんですか?」


 「このアルスラン帝国の教えを受け入れず、法や秩序を乱し、病を持ち込むと言われている者達だ。可哀想だが、あの子を助ける者はいない」


 兵士は淡々と言った。


 その言葉が事実なのか。


 それとも、この街の人々がそう信じているだけなのか。


 僕には分からなかった。


 ただ、目の前にいるのは怯えた一人の少女だった。


 「じゃあ、このまま見殺しですか!?」


 「そんなの、ボク許せない!」


 ミレーヌの声が震えていた。


 怒りと悲しみが混ざった声だった。


 「待て。ここにはここのやり方がある。下手に関われば、お前達まで――」


 兵士が止めようとする。


 でも、僕達はもう走り出していた。


 言葉も通じない。


 法も分からない。


 ここで割って入れば、僕達の方が罪人になるかもしれない。


 それでも、見捨てることはできなかった。


 僕とミレーヌは、フミンの少女を庇うように男達の前へ立った。


 今の僕達は鎧を身に着けていない。


 腰には護身用の青龍氷牙があるだけだ。男達が本気で斬りかかってきたら、応戦するしかない。


 だが、僕は剣を抜かなかった。


 ここで剣を抜けば、もう戻れない。


 血が流れる。


 そうなれば、少女を助けるどころか、街全体を敵に回すかもしれない。


 「ミレーヌ、その子を」


 「うん」


 ミレーヌは怯える少女を抱き寄せる。


 少女は細い肩を震わせながら、何かを小さく呟いた。


 意味は分からない。


 けれど、たぶん、お礼か助けを求める言葉だった。


 男達が怒鳴る。


 周囲の人々も、よく分からない言葉で騒ぎ始めた。


 その声の中に、僕達への怒りが混じっているのは分かった。


 フミンを庇うのか。


 余所者が口を出すな。


 そんな意味なのだろう。


 男の一人が地面に唾を吐いた。


 そして、剣を振り上げる。


 僕は当身を食らわせるつもりで拳を構えた。


 一触即発。


 そう思った瞬間だった。


 男達の体が、ふらりと揺れた。


 少女を囲んでいた男達と、そのすぐ近くで騒いでいた数人が、次々とその場に崩れ落ちる。


 よく見ると、皆眠っていた。


 「馬鹿、何をやってる!」


 「ユキナ、ミレーヌ、無事ですか!?」


 聞き慣れた声がした。


 クヌートとフェリシアだ。


 二人が、男達に眠りの魔法をかけてくれたのだと分かった。


 僕とミレーヌが声のした方を見ると、路地裏の入口から、クヌートとフェリシアがこちらへ来いという仕草をしている。


 「行こう!」


 僕は少女の手を取り、ミレーヌと一緒に走り出した。


 兵士が何か叫んでいる。


 けれど、もう戻れない。


 僕達はフミンの少女の手を引き、路地裏へ逃げ込んだ。


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