第4話:気勢が削がれる(新堂亜紀)
――ふざけないで。
麻里さんの最後の「直也の自宅での会食要求」を、直也くんがまさか受け入れるなんて。
麻里さんが出ていった後の会議室で、私の胸の奥に、やり場のない怒りが広がっていた。
このプロジェクトはビジネスだ。
DeepFuture AIも含めて、冷静にコントロールしていかなければならない。
なのに――麻里さんの言葉は、もうほとんど「直也個人」への思いそのものじゃない。公私混同も甚だしい。
「玲奈!」
私は思わず声を荒げていた。
「あなた、DeepFuture AIとの窓口を担う立場でしょう?
なんで黙って見ているの!?
あんな無茶苦茶な要求、通るはずがないじゃない!」
玲奈はきっと私を睨み返した。
「私だって怒っています!
でも直也が“保奈美ちゃんの了承次第”なんて言い方したら、表向きは筋が通っちゃうじゃないですか!」
二人で睨み合うような形になり、会議室の空気は張り詰めた。
私はどうしても黙っていられなかった。
結局は直也くんに視線を向ける。
「直也くん……お願いだから、あんな要求を飲まないで。
あなたの家は、あなたと保奈美ちゃんの生活の場なのよ。
そこに“元カノ”が入り込むなんて、どう考えてもおかしい。
対外的にも絶対に良い見え方はしない」
けれど直也くんは、静かに、けれど落ち着いた声で言った。
「亜紀さん。
……仮にそういう場を月に一度設定するなら、保奈美の了解が必要だって言いましたよね。
その上で、亜紀さんと玲奈にも来て頂ければと思っています」
「え?」
思わず声が裏返った。
横にいた玲奈も、驚いたように目を見開いていた。
「……それでいいの?」
「本当に私たちも参加していいの?」
直也くんは、当たり前のように頷いた。
「オレは別に、麻里と “二人きりで会う” なんて一言も言っていませんから。
むしろ麻里を含めて、一個のチームとして、このプロジェクトをどう進めていくべきかを、オフィスとは違った場所でリラックスして、建設的に腹を割って話す場面があってもいいと思っていました」
あまりに平然とした口調に、私は一瞬言葉を失った。
……確かにそう言われれば、そうかもしれない。
でも、それはあまりに “仕事人間” な発想。
私情を挟まずに全部「プロジェクト」として処理しようとする直也くんらしい。
だけど――。
その中に私と玲奈を「当然一緒にいる存在」として含めてくれたこと。
それだけで十分だった。
「……直也くんが、そう言ってくれるなら」
さっきまで胸を焼いていた怒りが、不思議と和らいでいくのを感じた。
彼が私を大切に思ってくれている――その事実が分かっただけで、もう十分だった。
私は小さく息を吐き、直也くんを見つめながら、静かに頷いた。




