エピローグ3:神楽坂梨奈
――秋の風は、少し冷たかった。
弟のお墓に立つたびに思う。
やっぱりここは「神楽坂家」の墓じゃなくて良かったって。
親と一緒なんて、絶対に嫌だった。あの人たちは、弟をちゃんと見てなかったから。
本当に酷い父親だった。
本当に酷い母親だった。
そして……本当に可哀想な弟だった。
だから私は、自分の判断で弟の墓を作った。
誰が何と言おうと、あの子はあの子の人生を歩んだ。
私の大切な弟だった。
私も死んだらこちらのお墓に入るともう決めている。
線香をあげながら、少しだけ横目で見る。
ナオヤさんが、静かに手を合わせている。
その隣には、保奈美ちゃん。
――まるで天使みたいに美しく、そして本当に可愛い子。
保奈美ちゃんはナオヤさんに何より大切にされているのが分かる。
その彼女が真剣な表情で合掌している姿に、胸の奥がちくりと痛む。
あの頃はギャルやってて、チャラついてて、何も考えてなかった私。
でも今は違う。
フェリシテを背負う立場として、ちゃんと経営者の責任を果たさなきゃいけない。
そのきっかけをくれたのは、ナオヤさんだ。
「ちゃんとした大人もいるってことを知ってほしい」って紹介してくれた、
世界最大の戦略コンサルティングファーム――The Firm ストラテジア・グローバル。
そのパートナーの人は、直也さんと東都大学の先輩後輩関係らしい。
その人は女性のバリキャリな人だけど、ウチのオフィスに常駐してもらって、経営体制を根本から見直すことにした。
私ひとりの独断じゃなくて、ちゃんとした合議で物事をきちんと決められる仕組み。
それが、弟のためにも、フェリシテのためにも必要なんだ。
……でもね。
やっぱり本音を言えば――。
「本当はナオヤさんに、ずっとそばにいてほしいんだよね」
そうつぶやいた私に、ナオヤさんは苦笑した。
でも、すぐ茶化す。
「それにしてもさぁ。ナオヤさんの周り、美人多すぎじゃない?
絶対修羅場だよね。マジヤバすぎ。絶対無理。萎える」
そう笑った瞬間だった。
横にいた保奈美ちゃんが、美しい笑顔のままでナオヤさんの手をつねった。
「イテッ……!」と情けない声。
私は吹き出してしまった。
「ほら、もう超美人の義妹ちゃんからまで責められてるし。最悪じゃん!」
笑いながら、なんだか少し安心していた。
この人は、多分どんな修羅場でも、結局は前に進んでいくんだろうなって。
今はもう秋。頬にかかる風は冷たいけれど、私の中には少しだけ温かさがある。
弟はもういない。
でも、私はちゃんと頑張るよ。
イメージアイコンとなったRICOさんの人気は急上昇している。
それに伴ってウチの新商品の売れ行きは順調に伸びている。
そして、ナオヤさんと一緒に進めているGAIALINQのブランドキャンペーンも、いよいよ始動だ。「RICO×NAOYA」の新しい動画も再生数がどんどん伸びている。
――見ててね。
お姉ちゃんも、もう逃げないから。
そう心の中でつぶやき、線香の煙を見送った。




