エピローグ1:谷川莉子
――私の毎日は、大きく変わり始めている。
直也くんが、私のために個人事務所を立ち上げてくれた。
会社名は『株式会社スタジオRICO』ロゴは、イメージ案を私がスケッチして、それを直也くんがプロのイラストレーターに依頼し、複数の案から私が気に入ったものを採用した。
まだ小さな会社だけれど――そこには私の未来が詰まっている。
これまでお世話になってきた師匠が運営しているスタジオとも時間帯で正式に契約を結び、動画制作の環境がぐっと広がった。収録したい時に、比較的自由に使えるようになったのだ。
そして直也くんは、経営管理を会計事務所と連携して仕組み化し、自分は無報酬のまま、営業やマネジメントを任せられる女性を新しく雇ってくれた。大手のレコードレーベルで営業とマネジメントをしていた業界をよく知る経験者だ。
「よろしくお願いします。私は高田真帆。これからは、RICOの営業とマネージャー業務は全部私が対応させてもらいます。だから莉子さんは音楽制作と活動に集中してね」
そう言ってくれた真帆さんは、落ち着いた雰囲気で、それでいてすごく頼れる人だった。
当面はフェリシテやGAIALINQの活動で手一杯。
でもFMラジオ番組から出演依頼がいくつも届いていて、人気インフルエンサーからのコラボ企画も提案されている。
選択肢は一気に広がったけれど、全部を受けられるわけじゃない。
だから私は考える。
迷ったら、直也くんに相談する。
どんなに忙しくても、直也くんはすぐに返答をくれる。
「こっちの方が将来に繋がると思う」とか「これは、今は控えた方がいい」とか、冷静で的確な判断をくれる。
「RICO専用のスペースをGAIALINQのフロアに作ったから」
そう告げられたときは、本当に驚いた。
そこには、私と高田さん用の執務デスクだけでなく、小型だけど防音機能がきちんとついた収録スタジオが設置されていて、自由にライブ配信や収録もできるようになっていた。
私と高田さんはいつでも必要な時に、自由に五井物産のオフィス内に設置された自分たちの専用スペースを使う事ができるのだ。
さらに、バーチャルオフィスとも契約して、電話受付や郵便物の管理を代行してくれる。
自宅を実質的なオフィスにすることで、余計なコストがかからないようにしてくれた。
――ここまで全部、直也くんが考えてくれた。
胸の奥に温かいものが広がる。
「RICO」という存在を、ただの幼馴染ではなく、ひとりのアーティストとして真剣に育てようとしてくれている。
私は、もっと強くならなきゃ。
この環境に恥じないように。
直也くんの隣に立つ資格を持てるように。
画面に表示される視聴者数は、日を追うごとに増えていく。
でも私が本当に大切にしたいのは――たった一人。
直也くんに、胸を張って「ありがとう」と言えるような自分になることだ。




