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第71話:新堂亜紀
いろいろ言いたいことはあった。
喉の奥まで言葉は上がってきていたのに――結局、何も出せなかった。
ただ、ひとつだけはっきり分かった。
莉子があそこまで言葉にして、そして直也くんにキスをした。
その出来事が――結果的に保奈美ちゃんを変えてしまったのだ。
天使のように無邪気で、誰よりも美しい少女。
その彼女が、あっという間に“大人の女性”に脱皮してしまった。
目の前の保奈美ちゃんは、もうただの妹ではなかった。
愕然とした。
莉子と保奈美ちゃん――二人がまるで別次元に上ってしまったようにすら思えた。
これは、マズい。
莉子の存在を軽んじていた。
その不明を、痛烈に反省するしかなかった。
しかも彼女は、アーティストとしての別の軸で、すでに直也くんに対する居場所を確保してしまった。
そのことに、私は恐れを抱いた。
――でも。
逆に言えば、私だってまだまだやりようはある。
私にしか出来ない領域は間違いなくあるはずなのだ。
そこを突き詰めれば、直也くんと“私だけの居場所”を確保できる。
胸の奥で小さく拳を握った。
負けていられない。
私は私のやり方で、戦い、そして必ず勝つ。
直也くんは絶対に私のものだ。




