第36話:一ノ瀬直也
――イベント翌日。
広報スタッフから声をかけられた。
「昨日の画像を一部編集して、Youtubeで公開しようと思います」
……いや、ちょっと待て。
あのカラオケ部分も入れるつもりじゃないだろうな?
「もちろん、複数カメラで撮影していたので。カッコよく編集しますよ」
満面の笑みでそう言われた瞬間、頭を抱えそうになった。
「……いや、顔バレは大丈夫なんですか?」
女子高生たちの姿が映ってしまえば、大問題になる。そこだけは絶対に避けなければならない。
「それは当然です。生徒さんの顔はすべて処理しますし、許可済みの部分だけを映像化します」
自信たっぷりの答え。
……まぁ、そこまで言うなら任せるしかない。
※※※
ただ――正直、困った。
カラオケで歌うオレの姿なんて、公開されたらどうなるか。
現場で泥にまみれながら温泉街を一軒一軒説得しているメンバーから見たら、そりゃあ面白くないに決まっている。
「若き最高執行責任者様はいいご身分ですね」
そう皮肉を言われる光景が、目に浮かぶ。
玲奈からもすでに懸念する声が寄せられている。
「直也、正直これは相当の反発を招くリスクがあると思う」
その通りだ。オレ自身、それは十分に分かっている。
だが――同時に考える。
こういう時、一番まずいのは「無関心」だ。
トップが何をしても、現場が「どうせ自分たちには関係ない」と思ってしまったら、その時点で組織は死ぬ。
だからこそ、あえて反発させてもいい。
「なんで俺たちが必死に動いてるのに、あいつはイベントで歌なんて歌ってるんだ」と思わせてもいい。
反発は熱だ。
熱があるうちは、まだ動かせる。
ある程度、不満や苛立ちを溜めさせて――そして一気に解決する。
その瞬間、むしろ結束は強まる。
もちろん、綱渡りだ。
バランスやタイミングを誤れば、単なる炎上で終わる。
だがオレは、いまそれくらいの覚悟でこのプロジェクトを回している。
広報の意気込みを否定する気はない。
むしろ、彼らが「見せたい」と思うなら、任せてみる価値はある。
オレの中では、もう計算は済んでいる。
――反発も利用する。
それがいま、オレにできる最善の選択だ。




