第31話:宮本玲奈
――イントロが終わり、直也の声が響いた。
落ち着いた低音。
けれど、その声が軽快なリズムに乗って、すっと会場に溶け込んでいく。
「……嘘でしょ」
私は思わず目を見張った。
この人の声が――こんなにも“今どきの歌”に馴染むなんて。
ステージの照明が直也の横顔を照らす。
会議室や資料の山の中にいる時の姿じゃない。
完全に“アーティスト”だった。
※※※
「やば……」
「歌、うますぎじゃない……?」
生徒たちがざわつき出す。
モニターに映る歌詞を追いながら、彼女たちの表情が驚きから憧れに変わっていくのが分かった。
ステージ前に集まった子たちは、リズムに合わせて自然に体を揺らし始めている。
隣に座る亜紀が小声で呟いた。
「……どこまで練習してたの、この人」
その隣で麻里は腕を組んだまま、目を細めて笑っている。
「これじゃ、本物のシンガーね」
※※※
最後のサビ部分に入った瞬間だった。
「あの頃の青を――覚えていようぜ〜♪」
直也の声に合わせるように、生徒たちの声が重なった。
一人、二人……気づけば何十人もの声がステージに向かって響いている。
「苦味が重なっても――光ってる〜♪」
手拍子と歓声が混ざり合い、まるでコンサート会場みたいな熱気。
先生たちまで歌詞を口ずさんでいる。
保奈美は目を輝かせ、真央や美里と一緒に声を張り上げていた。
ステージの直也も、驚いたように一瞬笑みを浮かべ、それから堂々と歌い切っていく。
彼の声と生徒たちの声が重なり、ライブハウス全体がひとつの合唱になった。
「愛せてる〜♪」
最後のフレーズが響き渡り、直也がマイクを下ろす。
一瞬の静寂。
そして――大歓声。
「キャーーー!」
「やばい! 本物すぎる!」
「一ノ瀬さん、かっこよすぎ!」
拍手と声援の渦。
私はその光景を見つめながら、胸の奥で苦笑した。
(……ほんと、この人は全部持っていく)
誇らしい。
でも、少し悔しい。
そして、安心もある。
複雑な気持ちを抱えながら、私は手を叩き続けた。
――やっぱり直也は、どこに立っても光を奪っていく。




