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第13話:神宮寺麻里

 ――これ以上ない成功。

 そう思った。


 NHK、経済報道番組、そして新聞各紙。GAIALINQの名前は、もう一夜にして国内だけでなく先進国のメディアに広がり、SNSでは「次の産業革命」「環境×AIの象徴」なんて言葉が飛び交っていた。

 広報的には完全な勝利だった。


 問題は――その後だ。


 GAIALINQを進めるには、直也の時間を確保することが絶対条件。個別インタビューなんて原則は断るべきだと、私も亜紀、玲奈と確認し合い、広報もその方針に沿っていた。

 そう――そのはずだった。


※※※


 ところが。

 直也の翌週の予定表をチェックしていた私は、目を疑った。


 ――『女性向けファッション誌「VeryVery」取材』。


「は?……誰? 誰がこんな予定を入れたの!?」

 私は資料を握りしめ、そのまま亜紀と玲奈のところへ飛び込んだ。


 二人とも顔を見合わせ、同時に眉をひそめた。

「……は? 私、そんな依頼聞いてない」

「私も。そもそも“VeryVery”って……何をするつもりよ」


 二人の目に、はっきり怒りの色が浮かんだ。

 その様子を見て、私は思わず苦笑してしまった。


「ごめんなさい。……そうよね。あなたたちがこんな馬鹿な予定を通すわけないわよね。

 でも、だとすると――誰が?」


 亜紀と玲奈はすぐさま広報に確認に向かった。

 そして返ってきた答えは、予想外のものだった。


 ――五井物産アパレル部門の本部長からの“無理押し”。


 GAIALINQの顔=直也を、ファッション誌の特集で「次世代リーダー」として売り出したい。そんな理由だった。

 どうも自社が扱うアパレルブランド商材を雑誌でより良く扱ってもらう事と引き換えのバーター的対応をしている可能性が濃厚だ。


「……ふざけないで」

 亜紀の声は低く震え、玲奈の表情も明らかに怒りに染まっていた。

「今、彼を“見せ物”にするつもり? 何を考えているのよ」


 二人が抗議に向かおうと席を立った、その時――直也が静かに手を上げて止めた。


「……亜紀さん、待ってください」


 いつもの落ち着いた声。

 その場の空気が一瞬で変わった。


「今、他部門や他セクターと正面から揉めるのは得策じゃありません。GAIALINQは社内全体の総力を必要とするプロジェクトです。アパレル部門にしてみれば、自分たちも“GAIALINQ”に絡めて、部門業績向上に少しでも繋げたい気持ちがあるんでしょう。――ある程度は要望に応えるべきです」


 私は思わず息を呑んだ。

 正しい。だけど、あまりに寛容すぎる。


 亜紀も玲奈も、渋々ながら席に戻った。

 彼女たちの表情にはまだ怒りが残っていたけれど、直也の一言で方向は決まった。


(……ほんと、この人は甘いんだから)


 心の中で小さくため息をつきながらも、私は理解していた。

 彼は誰も敵にしない。味方を増やすために動く。

 だからこそ、誰もが彼を信じて、そして応援してしまうのだ。


※※※


 ――VeryVery。


 高級ブランドを紹介する女性誌。

 正直、私はその表紙を見た瞬間、思わず眉をひそめてしまった。


「ねぇ……これって、直也を本当に出す意味あるの?」

 私がぽつりと言うと、横の亜紀が即答した。

「ないわね。だって、こんなの……ただの“ハイブランド自慢大会”でしょ」


 玲奈も肩をすくめてページをめくる。

「時計の特集、バッグの特集、靴の特集……。全部、値段のケタ数が実にご立派じゃない。正直、“未来のエネルギーとAIを結ぶ男”直也に、シャネルのバッグとエルメスの靴でポーズ取らせてどうするのよ」


 その言葉に、私は吹き出しそうになった。

「ほんと。『GAIALINQの執行責任者が選ぶ、今年のトレンドカラー』とか言わせるつもり? 笑わせないでほしいわ」


 亜紀も目を細める。

「むしろ『GAIALINQの三兆円投資、バッグ何個買えるでしょう?』って見出しにされた方がまだリアルかも」


 思わず三人同時に「ぷっ」と噴き出した。

 会議室に奇妙な笑い声が響く。


「……ほんと、この雑誌って、ビジネスマン層には何の意味もないわね」

「読者層が違いすぎるんですよ。GAIALINQに“付加価値”をつけるどころか、逆に軽く見せられるリスクの方が高い」


 最後に、私は雑誌を指で弾きながら言った。

「……VeryVery? NoNo、って感じね」


 亜紀と玲奈が同時に噴き出す。

 笑いながらも、私たちは分かっていた。

 ――直也を守るために、これは本来なら絶対に止めなきゃいけない案件だ。


 でもまぁ……たまには三人で笑い合うのも悪くない。


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