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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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8. 望まぬ再会

その後、徒歩旅を1日ぐらい続けたところで、たまたま空いている乗合馬車を見つけ、途中乗車させてもらうことになった。

乗合馬車は歩く速度とほとんど変わらないのだが、やはり自分の足で歩く必要がないというのは身体の疲れが全然違う。

馬車に揺られてゆっくり外を眺めていると、徐々にクォーレ火山の姿形が見えてきた。

それは平地に突然現れる、なだらかの山肌を持った存在感のある巨大な山。

頂上と山腹付近から煙が立ち登っており、まだ活動していることを誇らしげに自慢しているかのよう。


昔はあの火口から大量の火山岩、火山灰が噴き出していて、その影響は遠く離れた魔導王国付近にまで及んだものだと子供の頃よく聞かされていた。

そんな伝説の火山と初めてお見えする。

もちろん、恐ろしさを感じている部分も多々あるのだけど、俺の魔力回路が治るかもしれないという期待の方が大きく、心が少し落ち着かなくなっていたのだった。

ここでこの旅の結果がはっきりする!


馬車は、クォーレ火山の麓町まで残り半日かそこらというところで、馬の休憩を兼ねて近くの村で休むことになった。

村と言っても小さな村なので特に何かがあるわけじゃない。

御者が馬に牧草と水を飲ませている間、乗客の我々は馬車のまわりで、思い思いに時間を潰していた。

俺たちも街についたら何をしたいか、くだらない話をしていた時であった。


ふと遠くの方から、馬の駆ける音が聞こえた気がして、そちらに目を向ける。

我々が来た道から大量の土誇りとともに、騎士の集団が駆け寄ってくるのが見える。


騎士といってもフルアーマーではなくて軽装備。

魔導軍の正式な制服である、黒字に金色の縁取りをした煌びやかなコートを身にまとっている。

腰にぶら下げられているのは、柄に宝石が埋まった煌びやかなショートソードだ。

数は5名、いや騎士ではない者も含めて6名だ。


王国軍がここら辺はうろつくことは滅多にないので、村の人までざわつきはじめていた。


「そこの馬車待て~~い」


やっぱり来たか!

これは間違いようもない。俺の捜索隊だ。

第一王子にとって俺は、外に出ては都合が悪い存在だったし、魔法軍の弱体化は、王国全体の問題。

一応、俺の方でもいざその時に備えて、色々作戦は練っておいたのだが、一点だけ想定外なことがあった。

それは捜索隊の中によく見知った男がいるということ‥‥‥。


そいつの名はリオルディ・シュラッツ、仲間内ではリオと呼ばれている俺の幼馴染だ。

綺麗にウェーブした金髪に、碧色の目をしている。正統派の美形男子だ。

ちょっと女好きで鼻につくところもあるが、魔術の腕もなかなかで、なかなかとっつきやすい良い奴である。

リオとは、魔法学校だけじゃなく、その後の魔法軍に入ったのも一緒なので、腐れ縁に近いものがある。

そもそも近所で親同士が仲がよく、物心ついた時からよく一緒に遊んでいた。

実はもう一名仲の良い女の子がいて、3人で遊んでいたものだが、その女の子はもう居ない。

俺のことを何から何まで知っている、旧知の仲だ。


リオは、慣れない馬の背に長時間揺られたせいなのか、真っ青な顔をして馬にどうにかしがみついているという体たらくであった。

せっかくの美形が台無しだな、と心の中で突っ込んでやる 笑


ただ現実問題、俺が悠々と笑っていていい話ではない。

魔術師相手となると、用意していた魔法が使えない。

というか魔法を使ってしまうと、その魔力波動を察知され、この場に俺がいることを自分でばらしていることになってしまう。


ほとんどの魔術師は馬が得意じゃなく、追手に魔術師が同行してくることは想定していなかった。

出来ることはなにもない‥‥万事休す‥‥‥。


俺はとりあえず、近くにあった汗拭きをターバン状に頭に巻いて、髪色だけは隠すことにする。


「おお!あいつ魔術師じゃん! スゲーなー、初めてみたよ~☆」


びくっ!

見知った声で ”魔術師” というワードを聞いたせいで過敏に反応してしまった。

ゲイルが興奮して話していた。


魔導王国の外では魔術師はかなりのレアキャラだ。

魔術師はおとぎ話に出てくるような、いかにもな豪華なローブ姿をしているのでよく目立つ。


「ぁぁ、ごめん、見つかったらまずいんだ‥‥‥」


俺はこそっと小声で答え、出来るだけ目立たないように後ろの方にこっそり移動した。


「ん?‥‥‥分かった」


ゲイルは一瞬怪訝そうな顔をしたがそのまま何も聞かず、万が一の時に備え、周りの状況を探り始めてくれる。


ゲイルが味方になってくれても正直状況はあんまり変わらない。

力での勝負は個人のスキルより圧倒的に数だ。無理やり逃げ切っても、仲間を連れて追ってくるだろう。

逃げても結局追い込まれるのは目に見えていた。今は様子をみるしかない。


騎士たちはざっと俺らを見渡したうえで、


「我々はルクシオン魔導王国第三騎士団である。人を探している! この似顔絵に見覚えはないかっ!」


と写し絵を皆に見せてきた。


俺は一瞬、心臓が止まりそうになった。その写し絵に描かれていたのは、まさに俺の姿である。

魔法で模写したのかわざわざ色までついていた。

写真の下にはご丁寧に報奨金:金貨50枚とまで書かれてあった。


皆ざわざわざわ騒ぎ始める。そりゃそうだ、金貨50枚は大金である。

普通の庶民であれば家族で一年は暮らしていける。

皆好き勝手なことを話し始めてくる。


「そういや、前の街にいた〇〇って奴が似てないか?」

「いやいや、途中の村で見た男がこれに似ていた気がする」

「ん~どこかで見た気がするんだよな~‥‥‥う~ん‥‥‥」


俺は本当に気が気でなかった。

誰かが発言するたびに心臓がばくっ!ばくっ!って飛び出しそうになる。


だが今回は幸いだった。

写し絵に描かれていたのは、懐かしの事故前の姿。

魔術師のローブを纏った、少し褐色がかった黒髪で、ニカって笑った中々の好青年である。

俺の今の姿とは似つかない‥‥‥。

なんで、こんなことになってしまったんだろう‥‥‥。


一応これでも王国にいるころは、結構モテていた 笑

ちなみに元々の真面目な性格が災いして、ちゃんと女性と付き合ったことは無い。

ほっとけっ!


「もっと有力な情報はないのか! お前らの中にこの男と似た奴はいないか! ナムルの街で似た男が居たという話が寄せられているんだ!」


ナムル発のこの馬車は、最初から目をつけられていている!

俺は最後の抵抗で、必死に目線を下ろして目立たぬようにしていたのだった。

ゲイルには間違いなく、本人であることはバレていたし、リオと目を合わせたらその時点でおしまいだ‥‥‥。


そんな必死な頑張りを運命が認めてくれたのか、今回は運命が見放さなかった。

騎士たちが来た東の方から、一騎、猛スピードで近づいてくる。


「お~い! 見つかったぞ~!」

「本当か~~! どこにいたんだ!!」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


彼らは自分達だけでなにか話し合っている。


「よ~しっ、戻るぞ!」


少しして話がまとまったのか、彼らは我々そっちのけで、元来た道を急ぎ戻り始めた。


上から相当強く命令されているのだろう、その絶対に捕まえるという必死度がこちらにも伝わってくる。

リオも「勘弁してくれ」とでも言いそうな表情のまま、もと来た道へ駆け出していった。


本当に助かった‥‥‥。リオに『マジックスキャン』を使われていたら即座にばれていた。

俺はピンチを脱出できたことにホッとして完全に気を抜いて休んでいた。

汗で手が少し湿っている‥‥‥。今回ばかりはダメかと覚悟を決めたところだった‥‥‥。


「ちょっとこい」


そのときいきなりゲイルに声をかけられる。

何だと思って振り返ったら、すでにゲイルは向こうを向いて歩き始めていた。

有無を言わさぬ勢いがあって、俺は少し、肝が縮み上がる。

な、なにごと!? 一難去ってまた一難?


俺は何も分からないまま、近くの家の裏までゲイルの後ろをついて行く。


「どーゆーことだ。ちゃんと教えろ」


なにか怒っているようだった。

あー嘘をつかれていたのだから、機嫌が悪くなるのは分かる。

でもそうは言っても出会った数日の仲で、そんなお互いのことを、全て分かりあえているわけがない。

ただどちらかという物分かりが良くてあっけらかんとしているゲイルが、このことで気色ばんでくるのは、俺としてはかなり想定外だった。


「えっ‥‥‥、まぁ‥‥‥。」


ゲイルの態度に気後れしたのと、どこからどう話したらいいのか悩んでつい言い淀んでしまった。


『いいから!全部教えろ!!』


かなり強い口調で詰問される。

ヤバい‥‥‥。結構怒っているかも‥‥‥。


「えーっと、あの写し絵の男は昔の俺かな」

「昔って、イミわかんねーよ! 今の方がガキだろ?」

「それを話し始めると本当に長くなるんだけど、魔法事故があって俺は子供に戻ってしまったんだ」

「はぁ!? ってことはイルは魔術師なのか!?」

「まぁーそういうことになる‥‥‥」

「なんだよそれーー!! じゃーお前は俺をからかっていたのかよ!」

「なんでそうなるんだよ。黙っていたのは謝るけどそんなつもりは全くないよ!」

「魔術師なら何でもできるだろ~が! 護衛も不要だろ!?」

「何もできないよ、ほんとに! ゲイルには本当に助けられているんだって」

「なんだよそれ~。ガキンチョだから助けてやらねーと思っていたのによ~」


話の流れが飛び飛びすぎて、俺もついて行くのに必死だったが、何か弁明に失敗したようだった。

ゲイルはなぜか本当にがっかりしている。自分の思い入れをしていたものに裏切られたかのよう。

俺はその後も弁解を続けてみたが、結局その時は聞く耳を持ってくれなかったのだった‥‥‥。


うーん、失敗したかも。こうなる前に自分からちゃんと話しておくべきだった。

俺はゲイルに甘え過ぎていたのかもしれない。

ゲイルは俺にとって少し離れた兄貴のような存在で、何でも分かってくれるような、何でも許してくれるような気がしていた。


ただ俺は本当にガキンチョだった。

誠意を尽くして謝るのは自分であることは重々承知していたが、何で一方的に怒られなきゃいけないんだと反発心を感じていた。

嘘についてもつい言い訳ばかり考えてしまう。

だっていうタイミングなかったし‥‥‥。

ゲイルも聞いてこなかったし‥‥‥。

魔術師じゃないとは言ってないし‥‥‥。


結局このときはそのまま乗合馬車が出発することになって、ぎこちない沈黙だけが俺たちの間に残ったまま、出発することになるのだった。

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