0. 前章までのあらすじ
かつてルクシオン魔導王国の魔法軍で将来を嘱望され、第一王子と並ぶ天才魔術師として名を馳せたアイテール・オルペ(男性名:イル、女性名:イリィ)。
だがある魔法事故によって、彼は地位も名誉も魔術の才能も失い、さらには男の身体さえも少女のものへと変えられてしまう。
すべてを失い、周囲の視線に耐えきれず故郷に引きこもった彼は、もう一度自分を取り戻すため、たったひとりで旅に出る。
しかし、外の世界でイルを待っていたのは、かつて強者だった頃には見えなかった理不尽の連続だった。
動物に襲われ、人の悪意にさらされ、女となったことで弱者として扱われる現実を思い知る。
その中でイルは、以前なら見向きもしなかった心身魔法だけを頼りに生き延びていく。
男として生きてきた自分と、女として見られる今の自分。
その狭間で揺れながらも、彼は少しずつ新しい力と生き方を学んでいった。
やがて傷ついた男名を捨てたイリィを救ったのは、タキオン教の女子修道院と、見習いシスターのフローラだった。
温かな人々との出会いは、絶望の底にいた彼に、もう一度前を向く力を与えてくれる。
さらに負傷兵の治療を通して、神の奇跡と魔術が深く結びついていることを知ったイリィは、
世界が自分の知らない大きな変化の中にあることに気づいていく。
そんな中、故郷ルクソンでは、イリィの一件をきっかけに名門オルペ家が反逆者として粛清されようとしていた。
家族を救うため、イリィは再び故郷へ戻ることを決意する。厳戒態勢の街に潜入し、かつての家族や仲間たちと再会した彼は、地下からの救出作戦に挑む。
多くを逃がすことには成功するが、その代償はあまりにも大きかった。
炎に包まれる屋敷の中で、イリィは自分が失ったものの重さと、それでも守りたいものの尊さを知る。
男でも女でもない、過去の英雄でも今の弱者でもない。
すべてが変わったその先で、イリィは何者として生きるのか。
今イリィは、北のピレオーツ村で骨を埋める覚悟を決め、元執事・現夫のディストルとの子をその身に宿しているのである。
新たなる人生の一幕が幕を開ける。




