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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第二章 土の章
46/122

16. 魔法対戦

最近巷では私とフローラのどっちが魅力的か、喧々諤々の議論が繰り広げられているらしい。


フローラの健気さ、儚さが良いという人もいれば、私のほがらかさ、芯の強さが良いという人もいるとか。

うさぎ顔とねこ顔の対決 ――― らしい。


私は嬉しさより恥ずかしさの方がはるかに大きかった。

どこかで元男なのにというブレーキがかかる。


ほんとうに勘弁してほしい‥‥‥。


その手の話題は、私たちの耳に入らないところでやって欲しい。

興味本位な視線を受けるのは、思った以上に疲れるし、

見知らぬ人に外見含めてあれこれ言われるのは、気持ちいいものじゃない‥‥。


そのせいで最近は、馴染みの酒場にもあまり顔を出さなくなっていた。


お金を稼ぐって、ほんとうになかなか大変だ。


ただ人々の話題にあがることで、嬉しいことに女性のお客さんが増えてきていた。


同性のお客さんの方が、ちゃんと芸や演技を見にきてくれているという安心感が強い。

本当はそんなことないのかもしれないけれど、私の中では「ようやくまともに認められ始めた」という感覚の方が強かった。


その後、領主様のはからいもあって、1週間前からこの街の劇場を時間借りしてショーを披露している。

一人一人から入場料をいただけるというのは大きい。

ようやく家賃代も含めて、黒字化することができるようになった。


気付けば、イリィ一座を立ち上げてから3ヵ月を過ぎようとしている。

固定ファンがついた今なら、前から考えていたあのイベントもできるかもしれない。


それは今までの魔法の特訓成果の確認と、

実戦形式の模擬戦を兼ねて、

集大成となる大きなイベントだ。


その名も ”魔法対戦”。


私とロウ 対 ダビとフローラ。

二対二で、本気の魔法戦をする。


フローラが最初に『神の護り』を施す。

ちなみに『神の護り』というのは宣教師が使っていた魔法を防ぐ障壁のこと。

対象が多いので簡素版になるとのことだったけど、力加減さえ間違えなければどんな魔法も大怪我にならないはずだ。


もちろん ”手加減” は必要。

そう言う意味ではこちらにとってかなりの足枷だった。

私とロウの魔法は火属性しかなく、魔力量で押し切る戦い方が身に染みついている。


それでも、

私は皆の師匠だ。

しかも座長でもある。

当然のことながら、負けられない!


そして、むしろ楽しみだったりする 笑


ダビの四元素魔法がどれだけ磨かれているのか。


フローラがどんな光魔法を見せてくるのか。


自分が育ててきたものが、どんなふうに育ったのか。

それをこの目で確かめられると思うと、胸が熱くなっているのだった。


――――――


イベント会場は砂漠近くの荒れ地。


観戦席も用意して観戦料も徴収しているけど、今日はショーじゃない本気の戦い。

観客にも、「万が一の時は責任取りません」という同意書を書いてもらっている。


「ルールを説明します」


私は皆の前に立ち、なるべく落ち着いた声で、

観客にも聞こえるよう、ゆっくりと話す。


「誰かが参りましたと言ったら試合終了です」


「なのでロウを攻めるのはなしです。守りや反撃のために攻撃するのはありです。」


「魔法は何でも使ってOKです」


「肉体攻撃もありですが、武器は危ないので禁止です。制限時間は設けません」


『はい』


皆の返事は揃う。

皆、顔が緊張で強張っている。


当然だ。

お互い真剣にやらないと死人が出る。


実戦形式とはいえ、私のダガーもダビのレイピアも今日は禁止。

模擬剣にしたとしても、興奮したら加減が雑になるし、急所なんか突いてしまったら大事だ。


「では1分後に試合開始とします。ダビ・フローラチームが仕掛けてきた時点から試合開始です」


私とロウは、二人から距離を取る。


ロウとは予め魔力回路を共有して、常に意思の疎通を図れるようにしている。

最初は彼らのお手並み拝見。可能な限り彼らの手数を受けきるつもりだった。


『師匠!よろしくお願い致します!』


ダビの挨拶と同時に、空気が変わった。


試合開始だ。


『ファイアーアローズ』

『ファイアーアローズ』


初っ端は腕試しか!

二人の炎の矢が多数私たちの元に飛び掛かってくる!


『ファイアーアローズ』


私は敢えてその挑戦を真正面から受け止める!


二人の炎の矢を埋め尽くして見えなくなるぐらいの膨大な炎の矢を作り出し、

二人の作り出した炎の矢にぶつけていく!


「シュンッ、シュンッ、シュッシュッ」


炎が炎を食い合い、相殺され、空中で散っていく。

魔力勝負じゃ負けない!

数に勝る私の炎の矢は、そのままフローラたちに突き刺さろうとする!


『アイスウォール』


ダビの呪文に応えて、二人の前に氷の壁が生まれ、炎の矢を受け止めていく。


「ジュジュジュッ、‥‥‥シューー」


炎の矢はあっさり受け止められてしまった。

‥‥相性が悪い。


『レイン』


次はフローラの魔法だ。


フィールドに雨雲が急速に広がり大雨が降り始める。

火属性魔法しか使えない我々に対してはとても有効な手。

デバフ効果がつく。


でも私は、むしろ嬉しくなっていた。


ちゃんと教えたことをうまく使っている!

さー次はどう来る!

そして何を狙ってる!


『ウォール』


今度はダビ。


私たちの後ろと両脇、三方向から土壁がせり上がってきた!

明らかに我々の動きを封じる目的!


このまま好き勝手にやらせるのは流石にマズイ!

私はロウに2人の牽制をお願いする。


ロウが2人向かって駆け出す。

その魔法回路では『ファイアブレス』の準備を既に始めていた。


ダビの最後の仕上げも ――― 土魔法だった。


『ピッツ』


「ドガッ!」


突然足元の地面が抜けた。


『ピッツ』は穴を掘る魔法。

物が上に載っている状態での発動は結構難しいのに ――― ダビ、やるじゃんっ!


じゃあ、私は!


『フローティング』


「えぇ~っ!? それ私の魔法!!」


宙に浮いている私を見て、フローラから抗議の声が上がる。


あれだけ近くで凄い魔法を見せつけられていたら、

私だって盗み取らないわけにはいかない!

私だって光属性魔法を少しは使えるようになっているんだから!

そして魔法の二重発動はまだ私にしかできない。


『エクスプロージョン』


爆発の魔法を土の壁に叩きつけ、

その反動を利用して穴を飛び越え二人の元に飛び掛かっていく!


一足先に、二人に飛びかかるロウ!

問答無用の『ファイアブレス』!


「ゴオオオオオオオオオオ」


『天にまします我らが神タキオンよ。その万能なるお力を我ら信徒へ示したまわん。主の無慈悲を今この者たちに知らしめんことを』


フローラが『神の無慈悲』を発動する。

ロウのファイアブレスは『神の無慈悲』でつくられた完全魔法遮断壁で全て防がれてしまっている。

でも壁もそんなに大きなものじゃない!


私はロウの炎の吐息の横から二人に飛び掛かっていく!


『アンチマジック』『パラライズ』


アンチマジックで二人の魔力回路の防御壁を無効化して、パラライズで縛りつける作戦!

得意の二重発動。


どうよっ!

心身魔法は想定していなかったでしょ!


だがこちらの魔法が発動しきるより一足先に、ダビの魔法が襲い掛かってきた!


『アーススピア』


地面から生える土の槍で敵を刺し殺す魔法だ!


――― 殺されるっ!!

咄嗟にアンチマジックの対象をダビの魔法に切り替える!


あっぶな~~~~!!

本当に危なかった。


ちょっとダビッ!

ちゃんと手加減しているの!?!?

私、今死んでたよ!ホントっ! 笑


火属性しか使えないのは、やっぱり苦しい!

まず彼らの好きな魔法を唱えられないようにしないと!


『ファイアーサークル』


二人を広めの炎の壁が取り囲む。

視界を奪い、熱をふさぐために『神の無慈悲』に集中するための作戦!

このまま近づいて、次の手を ―――


二人は、私の想定を超えてきた。


真正面から突っ込んでいた私に、炎の壁の向うから彼らの魔法が襲う!


『ブレスト』

『ライトニング』


爆風で炎の壁を吹き飛ばした隙を使い、

同時にフローラの雷光が私の右肩を貫く!


「グアッ!!」


全身が浮く。


スローモーションのように周りの風景がゆっくり流れていく。

‥‥‥そっかこの雨は雷光のため。


私は受け身も取れず、そのまま後ろに転がっていく!

雨でぬかるんだ地面に何度も叩きつけられ、

泥が顔に、服に、髪に張りつく。


止まってもなお、全身の神経を針で刺すような痛みに襲われ、

這いつくばったまま、息を詰まらせている。


「師匠! 負けを認めてくださいっ!」


向こうの方からダビの声が聞こえる。

それは勝ち誇っているというより、本気で心配しての声だった。


‥‥‥正直これで勝負ありにしても良いと思っていた。


二人は本当にちゃんと強くなっていた。

それは十分、分かった。


でも 、

私はまだ何もしかけられていないじゃないっ!


師匠として、何より魔導王国のアイテール・オルペとして、このままじゃ終われない。


立ち上がる拳を強く握り、

頭を持ち上げ、

歯を食いしばり、

前を向く!


『ファイアストーム』


これまでで最大威力の火災旋風が私の周りで巻き起こる!

その旋風は周りの雨雲巻き込みながら、上空へと消えていった。

私の巻き上げられた長い銀髪が、ゆっくり身体に舞い戻ってくる。


これでもう弱体化させる雨は降っていない。


私は動かない右腕をかばいながら立ち上がる。


「フローラ、気合入れなさい!!」


「ひぃっ!」


もう彼女は預言者なんだ。

神に選ばれた者が、この程度で折れるわけがない。


彼女の力を信じて、思いっきり力をぶつける!

火属性高等魔法!


『イラプション』


その詠唱を聞いたダビが慌てて打ち消しに来る。


『アンチマジック』


そう高等魔法はイメージの構築が複雑で、発動まで時間がかかる。

アンチマジックで打ち消すか、

術の発動を妨害するのが常套の対抗手段だ。


あってる!


でも今回は邪魔させない!

ゆっくりイメージの構築に時間をかけ、強度を究極まで高める!

並大抵の打ち消し波では威力を弱めるだけ。


私の方が強い!


地面が小刻みに揺れている。


でも、その揺れはあっという間に大きくなり、観客席から悲鳴が上がる。


私たちも立っていられないほどになってきた!


もう、そこまで来ている!


「いくよ!!」


私の掛け声に呼応するかのように、

二人がいるすぐ近くの地面が裂け、大量のマグマが噴き出した。


火山噴火!


煮えたぎるその高温の流体は、勢いを増し、どんどん空へに吹き上がっていく!


そしてそのマグマは近くにいる二人にも吹きかかろうとしていた!

『神の護り』があろうと触れたらただでは済まない!


『我らが神タキオンよ! 我らを救いたまえ!』


フローラの叫びが青空に響き渡る!


その祈りに呼応するように、


空から、二人の周囲へ光の帯が降りてきた。


これはもう神の奇跡や、魔法とか、そういう範疇の次元でない!

神自身が直接関与しているようにしか見えない!


タキオン神が彼女に何の役割を与えているのか分からないが、

それはよほど重要な役割であることは間違えなかった。


皆が火山噴火と光の帯の行方に気を取られている中、

私とロウはもうすでに次の行動に移っていた。


二人には悪いけど負けるつもりはさらさらない!

このままフィナーレまでもっていく!


『ヘイスン×ターフェン×クリティカル』


ロウがフローラの背後、


私がダビの背後に、


飛び掛かる!


まだ二人とも気付いていない!


「キャアッ!」


隣からフローラの悲鳴が聞こえた!

ロウが体当りでフローラの体勢を崩している!


次は私!


ダビの光る急所ポイントが多数ある中、

比較的加減がしやすい頸動脈を狙う!


頸動脈に伸びる勝ち筋の線を、左の手刀でトレースしていく。


このままこの戦いの決着をつける!


「ハアアアッ!」


あと少しでダビの首に手刀が入る!


と思った、その瞬間だった。


突如、勝ち筋の線がダビの首からはらりと消えていく。


えっ、


なにっ?


――― そこから先の記憶は、ない。



目が覚めたとき、真っ青な空が広がっていた。


雲ひとつない。

春の訪れを感じる暖かな風が頬を撫でていく。


頭の上にダビの顔があった。


えーっと‥‥‥なんでだっけ?


ダビが必死な顔をして呼び掛けている。

んー、音は聞こえているんだけど、

言葉が頭に入って来ない。


なんで私ダビの腕のなかにいるの?


隣にいるフローラからは『神の癒し』を受けていた。

痛いところなんてないんだけどなんで?


頭が大いに混乱している。

何が起きたのか、頭の中が真っ白だった。


えーっと朝起きて、

朝ご飯は食べたはず。

そのあとは ――― なんだっけ?


「イリィ大丈夫っ!?!?」

「!?、大丈夫‥‥‥?」


フローラが、「脳震盪のせいで一時的な症状だから大丈夫」みたいなことをダビと話している。

うーん、なんかとてつもなくダルくてよく分からない‥‥‥。


気付くとまた、意識が途切れていた。


――――――


次に意識が戻ったときは、ダビに抱えられて家まで運ばれている最中だった。


ちょっとだけ重かったんじゃないかなと心配になる。

朝ご飯少な目にすればよかった‥‥‥。


家のドアをフローラがあけて、ダビが私をそのまま家の中に抱え入れる。


「あっ、あっ‥‥‥もう大丈夫だから」


うん、大丈夫。声は出せる。


「師匠、大丈夫ですかっ!!」


眉を寄せて、心配そうに顔をのぞきこむダビ。

ちょ、ちょ、近いし、声が大きい‥‥。


「大丈夫だから‥‥」


私は、廊下の床に降りる。


「うん、ちゃんと立てているし大丈夫そうね。まずはお風呂で身体洗ってね」


私はフローラの言われた通り、泥を落とすためにそのまま風呂場へ行く。

後ろでダビが不安げに見つめているが、さすがに風呂場まではついてこない。


頭がぼーっとして全身がふわふわしている。

服の紐をほどくのすら、一苦労だった。


服を脱ぐとき、みぞおちあたりに、ひときわ大きな泥の塊ついているのが見えた。

ダビの靴跡だ。


‥‥‥ああ。

私、負けたんだ‥‥‥。


ようやく現実が見えてきた。

喪失感みたいな、無力感みたいな、言葉にしづらい重いものが胸の中に流れ込んでくる。


今さらになって、悔しさがこみ上げてきた。

涙が勝手に滲む。


まだほわほわしているし、その瞬間の記憶がまるでない。


でも、この泥の跡が証拠だった。


私はダビに負けた。


それも、完全に。


「あーあ、負けちゃったか~‥‥‥」


自分のつぶやいた言葉が風呂場に反響する。


それが余計に、胸を締め付けられる。


嬉しいはずなのに。

いや、嬉しい部分もある。

でもそれ以上に、寂しくて、悲しくて、悔しい。


私はしばらく、ただ上を向いたままゆっくり涙を流していた。


その時、


「くぅーん」


ロウが風呂場に恐る恐る入ってきた。

かわいい銀色の毛並みが泥でこびりついてかぴかぴだ。

濡れるのもいとわず、私の隣に座ると、私の手を優しく舐めてくれる。


‥‥心配してくれているの?


濡れるのが大っ嫌いなロウが自ら来てくれるなんて‥‥。

胸がいっぱいになった。


私はちょっと大きくなってきたロウを、思いっきり抱きしめた。

その瞬間、堰を切ったみたいに、我慢していた嗚咽がこぼれ出ていくのであった。


「あああああああああああああ‥‥‥」


泣くつもりなんてなかった。

でも止まらない。


悔しい。

寂しい。

情けない。

それでも、誰かが寄り添ってくれている。


全部がごちゃ混ぜになって、私はしばらくロウにしがみついたまま泣き続けるのであった。


――― そのうちロウがもぞもぞし始める。


「きゃぅん!きゃぅんっ!」


‥‥あ。

押しつぶしていた 笑

ロウは私の胸に下でちょっと苦しそうにもがいている。

でもその姿が、なんだか赤ちゃんみたいで、少し可愛くて。


涙の合間に、少しだけ笑ってしまった。



ロウのおかげで、ほんの少しだけ元気を取り戻した気がする。


ありがとう、ロウ。


元気出さなきゃな~、

きっと皆にも心配かけてるし。


その日はロウと身体を綺麗にして、

大事を取ってゆっくり過ごすことになったのだった。

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