表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
21/120

20. 賊の襲撃

決起集会からちょうど四日後の真昼間。

太陽が真上に張りつくような真昼間だった。


午前の訓練が終わって、皆がそれぞれ地面に座り込み、汗を拭き、粗い息を整えている。

鎧の金具がカチャカチャ鳴る。水袋が回る。

笑い声が混じる ―― が、その笑いはどこか乾いている。


四日間。

“来るかもしれない” を抱えたまま、ただ待つだけの四日間。


坑道に入らないということは、稼げないということだ。

生活が削れていく懸念が、日に日に大きくなる。

村長の補償の話があっても、稼ぎは減るし、家族は不安になる。

訓練の掛け声に混じって、不満がすこしずつ濃くなっていくのを、俺は肌で感じていた。


―― だから。


鐘の音が鳴った瞬間、皆の顔が同じ形に固まる!


物見やぐらの自警団が、鐘をカンカン、カンカンと叩き鳴らしている。


『奴らが来たーーーーー!!!!!』


喜びのよう雄叫びのような叫びが、村の空気を裂く。


‥‥‥ようやく来た。

そう思ったのは、きっと俺だけじゃない。


恐怖よりも先に、安堵に似た感情が走る。

待つだけの地獄はようやく終わりを迎える。

“いつ来るかわからない” のままより、やるしかないの方がよっぽど楽なのだ!


でも同時に、次の瞬間、遅れて追いかけてきた恐怖が、胃をひゅっと握りつぶしていくのだった。


ゲイルは急いで物見やぐらに登り、状況を確認してくる。


「北から50~70騎!そのまま突っ込んでくる!」


数が俺たちに、現実を露わにする。

馬をその数、準備するのは山賊風情にできることではない。

そもそもたかが村一つ潰すのに、こんな人数は異常だ。

他国が後ろ盾についているか、それともそもそも偽装した他国の軍ということだ。


俺たちは昼飯をそのまま放り出して、急いで当初の予定通りの配置につく!

足もとで皿がひっくり返り、パンが転がっている。


弓隊は各々洞窟式住居の中から。

槍盾隊は崖の下、住居の入り口近く。


戦闘に参加できない妊婦や子供たちは急いで坑道に身を隠す。

槍盾隊で坑道や住居を守りつつ、上から弓隊が矢を浴びせる計画だ。

そしてこの数日麓の街で人を雇って増強した自警団は、土手の上で身を隠して奇襲を狙う。


計画は完璧だ。敵もたかが村一つにこんな準備ができているとは思わないだろう。

勝負はどちらが先にビビるか、そこに尽きる‥‥‥。


皆の顔が真い。唇が渇いてせわしなく震えている。


俺は、魔導王国でよくやる初陣の兵に施す “気合入れ” を思い出した。

効果のほどは、正直わからない。

でも、儀式には意味がある。人は、儀式で自分を支える。


『インスパイア×ディフュージョン』


そして先に示し合わせていた通り、村長が鬨の声をあげる。


「練習した通りで大丈夫だ、何も心配するなっ! この戦いは絶対に勝てるっ!」

「皆!気合を入れろぉーーー!!! えい、えい、おー!」

『おーー!!』


それぞれの配置場所から男女問わず勇ましい声が聞こえてくる。


「やってやるぞー!」

「下は俺たちに任せろーー」


集団での戦いは個の強さより統率力。

バラバラだと10の力が7か8にしかならない。

逆に一体感のある集団は10が11にも12にもなりうる。

統率力に必要なのは、仲間のために戦うという共同意識だ。


――そして今、この村は揃っている!


俺はほどほどのところで魔法を切り上げ、自分の持ち場である、入り口の柵の真後ろにあるあばら家の屋根の上に急いだ。

持ち場に着くと目立たぬよう全身を伏せる。


俺だけこんなところにいるのは理由がある。


その理由の一つである村の入り口の柵は、――― ”全開” になっていた。


「柵まで1km!残り3分!」


ゲイルが物見やぐらから、村中に聞こえる大声で敵の状況を伝えてくれる。

まだ、ここからでは巨大な砂埃が上がっていることしか見えない。


俺は敵がツッコんでくる真正面に居座ることになる。

そしてこの場所は俺ひとりだ。


もし敵が誤って家に突っ込んできたら、

もし敵の目と合ったら、

もし外から弓で射られたら、

もし、もし、もし ――。


考えれば考えるほど、身体の震えが増す。

指を握りしめすぎて、白くなる。手のひらが汗で滑る。


魔法軍の時は、遠くから攻撃するばかりだった。

“死” を、こんな距離で嗅ぐのは初めてだ。


怖い。

怖いのに ―― 逃げられない。


でもこれは俺にしかできない仕事なんだ。

自分で提案して、志願して、ここにいる。


キュリアさんが「こんなの、子供にやらせる仕事じゃない!」と反対してくれたのは知っている。

でも全てのパーツを揃えたとして、それでも勝てるかどうかの瀬戸際であることは、誰より俺が分かっていた。


俺がやるしかないっ。


砂埃の向こうから、形が浮かびあがってくる。

軽装の騎馬兵が、横に広がって村の前の平原を走ってくる。

賊たちは柵が開いているのを見て一瞬ひるんだ。

先頭が少しスピードを落としかける。


どうするっ? どっちだっ!?


そのままスピードを落として止まるのように思われた先頭集団は、何かの号令が飛んだのだろう。

賊たちは速度を上げ、二列縦隊へ移行しながら、そのまま駆け込んできた。


やっぱり来るのか‥‥という思いと、来るなら来い!と思いが混ぜこぜになり、胸の中濁らせていく。


「ドドッドドッドドッドドッ」


地面を揺らす凄い音が、土埃と急速に近付く!

地面が家ごと細かく揺らしているのだ! 屋根の上にも砂ぼこりがたつ。


敵が何倍にも大きく見えて、俺はたまらず顔を屋根に押し付けたのだった。


心臓が胸を叩く。

地面の揺れが、心臓の鼓動を外側から増幅してくる。

これだけ鼓動が高まっているのに、目の前の自分の指は震えて白いままだった。


そして数秒後 ―――


敵の通り過ぎていく音が風と共に自分の背中を一気に駆け抜けていく!

心臓だけでなく身体全体を、地面の振動が激しく揺らす!


『ドドドドドドドド』


馬は一緒に駆けて2列、馬の全長は2mぐらいだがそんなに集まって通り抜けていかない。

間を2頭分ぐらいあけて駆け抜けていくとすると、20秒前後待てば20騎ぐらいが中に入ってくるはずだ。

俺は伏せたまま、ただ数だけを必死に数えていた。1,2,3,4‥‥‥‥。


後ろの方からワ―という叫び声と同時に剣と盾がぶつかる音、矢が風を切る音が聞こえてくる。

敵の先頭集団はあっという間に崖の下まで到達した。

もう戦は始まったのだっ!


入口から入ってくる馬の勢いは止まらない。

永遠に続くような錯覚が、胃の奥を掴む。


それでも俺は、自分の仕事を全うする! その一心だけだった。

数を数えることだけは止めない。


‥‥‥18,19,20!


二十を数え終えた瞬間、俺は頭を上げた。

身体が勝手に動く。魔石の魔力をシルクさんの手順に従って解放する!


懐かしい火属性の魔力波動が、身体中を走った。

“戻ってきた” 感覚。

消えたはずの自分の一部が、今だけは繋がる。


そのオレンジ色の魔力波動がガーネットに刻んだファイアブレスの魔力回路に流れ込む!

魔力回路が流れ込んだ魔力によって活性化する ――― その瞬間。


『ゴオオオオオオオオオオオオオッ』


突然炎の息が現れ、目の前から柵の方にその長い舌を伸ばしていった。

直径2メートルほどの灼熱が、堀に挟まれた狭い道を十数メートル走るっ。


ちょうど駆け込んでいた人馬が、あっという間にその高熱の舌で絡め取られていく!


「ぎゃああああああ」

「ひひぃ~~ん」


いくつもの悲鳴が、目の前で火だるまになって転がっている人馬や、門の向こうから聞こえていつまでも止まらない。


皆が肺を焼かれ、息をしたくてもできず、苦しげな断末魔をあげている。

‥‥‥くっ! 背けたくなる顔、塞ぎたくなる鼻で、必死に目の前の現実を受け止める。

これは俺がやっていることだ!


『ファイアブレス』は30秒ほど続いた。

その炎の中に突っ込んできた運の悪い賊達を、ことごとく焼き払う。


炎を避けようと空堀に落ちた騎馬も何騎かいるようだ。

敵の後続が入口の向こうで止まり始める。


「閉めろっ!」


俺は大きな掛け声をかけると同時に、ファイアブレスを終わらせる。

柵の裏側に隠れていた自警団が、俺の掛け声に従って急ぎ柵を閉じる。

これは “見えなくする” ためだ。

不意打ちを食らった敵は、中で何が待っているかわからない。

だから、躊躇する。


柵が閉まった瞬間――


「ウオオオオオオオオオッ!!」


自警団の歓声が爆発した。


俺の胸の中に、熱いものが一気に溢れる。怖さが、苦さが、達成感に変わる。

足元が震えているのか、世界が揺れているのかわからない。


‥‥‥やった、俺はやったんだ!

俺は、皆のために役目を果たせた。


今までみたいに、守られるだけのガキじゃない。

俺は ――


俺は魔術師アイテール・オルペだ。


自分で、自分の人生を切り開けるんだ。


俺は屋根の上で立ち上がり、見せつけるように拳を突き上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ