19. 村人と戦闘訓練
それから村の皆と戦闘訓練を始める。
弓隊と槍盾隊それぞれに分かれての訓練だ。
ゲイルが弓隊の、自警団のガルが槍盾隊の教官を務める。
俺は最初、弓を使えるようになったら格好いいんじゃないかと思って弓隊の訓練に参加していた。
崖下に設けた10m先に離れた的に矢をあてる訓練。
‥‥単純なはずだった。弦を引く、それだけだ。
それだけなのに、腕がぷるぷる震え、指が痺れて、狙うなんてとてもだった。
女性向け短弓ですらまともに引けないには自分自身が一番ショックを受けている‥‥‥。
子供の身体がこんな弱いものだなんて、そしてなんで俺は子供のままなんだと。
魔法を使わない俺は、こんなにも役にも立たない木偶の棒なのかと。
なんやかんやで、最初の一時間で音を上げてしまう。
俺はガルの手伝いとして槍盾隊の訓練に参加することになった。
槍盾隊の戦術は簡単だ。
大型盾で敵の攻撃を防ぐ、余裕があるときだけ槍で突く。
敵の勢いを真っ正面から受け止め防衛線を守り、仲間を生かすのが一番の役目だ。
そのため訓練は、ひたすら耐えることを叩きこまれる。
参加者のやる気を保つ体裁上、隊の名前に槍をつけたが実質的には大盾隊だ。
つまり動く盾の壁だった。
この隊には村の中でも比較的大柄の猛者たちが集められていた。
俺はゲイルの推薦を受けて、自警団の他の皆と共に敵役をやることになっていた。
これなら魔法を使おうと何も悪びることはない。逆に強い方がいい訓練にもなる。
「おいおい 笑 俺らの相手は子供かよ!」
「いくらなんでもなめすぎじゃね~か? 笑」
はぁ!?
村人たちは完全にバカにしていて、これで俺の心に火が付いた。
昨日からずっと燃えくすぶっていたものが、そこで一気に燃え上がった。
子供扱い。役立たず扱い。そして、身体のせいでそう見える自分。
あー、やってやろーじゃねーか!
手加減は一切無しだ!
胸の奥の悔しさが、怒りに形を変える。
手始めに村人たちに盾を構えさせて、こちらの突進を受け止められるか試すことにする。
「いいか、お前ら! 俺を弾き返せなかったら腕立て50回だぞ!」
骨の髄まで叩き込んでやる! 俺は村人たちに宣戦布告をした!
彼らは子供がなんか言ってらーとでもいいたげに薄ら笑いを浮かべている。
「盾を構えろー! いくぞ!!」
ガルが戦闘開始を合図した!
『ターフェン』
そのまま馬に見立てた盾を前に掲げて一人突撃する!
実際の馬はこんなに小さくないので少し卑怯だったかもしれない。
でも戦場に“公平”なんてない。
地面を蹴った瞬間、身体が軽い。
怒りが背中を押す。
「ドガッ、ドガドガッ、ドガガガッ!!」
誰もが、魔法で力を強化した俺の突撃を止められず、ことごとく吹き飛ばされていく。
吹き飛ばされた男どもは皆一様に、「マジかよ!?」って驚きの表情を浮かべていた。
俺は何度も突撃を繰り返し、半分以上の男ども弾き飛ばすか転がし倒してやった 笑
そして俺は、まだ残っている男をさらに焚き付けてやる。
「我こそはって奴はかかってこい!」
さすが選抜された猛者どもだ。これぐらいの脅しにはこたえない。
「てめーら、ガキにバカにされたままじゃ坑夫の名折れだ! 死ぬ気で囲んで取り押さえろー」
ドタドタドタッ
一気に俺を取り囲もうとする!
でも奴らは周りがあまりに見えていない。
敵は俺一人じゃない! 自警団の仲間達が一人一人後ろから引き剥がすように木剣で叩きつけていく。
「うわぁー」
「どわっ!」
コントのように次々と転がされ、しまいには全員地面に転がされている状態になってしまった。
いくら防御に徹しろと言われているとはいえ弱すぎる‥‥‥。
これは相当鍛えないと実戦では役に立たないな‥‥‥。
屈辱を返せたスッキリ感はあっという間に消え去り、焦りにも似た切迫感に襲われていた。
「よーし、一回戦はおしまいだ! 皆、立てー」
ガルが大声で指示を出す。
俺はガルのことを天然だと決めつけていたが、見くびっていたようだ。
みな鎧の重さに苦労しながらどうにかこうにか、膝に手をつき立ち上がってくる。
「はーはーはー、これ重いし、きっついぞ‥‥‥」
立ち上がるだけで汗をかいて、疲れた顔になっていた。
ガルはそんな猛者どもに地獄のような指示を続ける。
「よーし、そのまま腕立て伏せ50回!!」
「!?」
「うげ~、マジかよ‥‥‥」
「着たままかよ‥‥‥マジありえね~」
「腕立て準備ー」
ガルは鬼教官になれる!
天然キャラどころじゃない! コイツはマジもんだ 笑
「鬼かー」「ガル、覚えてろよー」
皆、非難の声を上げながら、腕立ての体勢になる。
「いーっちっ!」
「にぃーー!」
そこから地獄の50カウントが始まった。
カウントが20を超えた頃から、脱落者がどんどん地面に転がっていく。
皆ぜぇぜぇ荒い息をしながら死人のような顔になっていた。
30kg近くの重りをつけての腕立て伏せなんて、普通やらないよな 笑
でも、戦場はこんなもんじゃない。
――――――
「ごぉーじゅー!!」
結局最後までついてこれたのは5人もいなかった。
終わった後は全員芋虫のように地面に転がりまくっている。
それは訓練と言うより、戦場で見る死体の山のようだった。
皆、座る体力も残ってないようだった。ぜーぜー言ってひっくり返ったままで空を仰いでいる。
「じゃー、二回戦いくぞー!」
ガルは本気で鬼畜だ。サイコパスかもしれない。
さっき煽られた俺でも言わないようなことを、平気で言いやがる‥‥‥。
「‥‥‥」
もー誰も発言できない。そりゃそーだろう‥‥‥。
可哀想に思った俺は、助け船を出す。
『ヒール×ディフュージョン』
皆の顔色に血の色がもどってくる。
「おぉー‥‥‥」
皆、自分の身体が軽くなったことに、どよめきのような感動の声を上げている。
俺はちょっとだけ良いことした気分になって悦に浸っていたら、ガルが悪魔のようなことを言い出しやがった。
「疲れきった奴は放っておいてやろうと思ったのに、全員叩き起こして、また打ちのめすなんて、悪魔の所業だな‥‥‥」
「なっ!?」
‥‥‥。
結局この日は5回戦までやった。
ヒールを使えば訓練はいつまでもできる。筋肉痛で動けないということもない。
地獄以上の悪夢‥‥‥。
村人たちはそう思っていたに違いない 笑
その日以来、俺は槍盾隊の連中に綺麗な顔した悪魔、「堕天使イル」と呼ばれるようになった。
ちなみにガルは「サタン・ガル様」である‥‥‥、まーそれよりはましだけど。
悪魔や神の使いに例えられるなんて、魔術師にとって本当は禁忌に近い侮辱だ。
でも彼らの目には、親愛が混ざっていた。
だから俺は、その呼び名を受け入れた。
それが、ちょっと嬉しかったのも事実だ。
次の日以降も、突撃を止める訓練、槍で一斉に飛びかかる訓練を続けた。
この一連の訓練のおかげで村の連中とは相当仲良くなった。最近は昼食も彼らととることが多い。
久しぶりに大勢の仲間達に囲まれて、魔法軍にいた頃を思い出していた。
なんやかんやありながら、あの頃も楽しかった気がしている‥‥‥。
俺はもう、あの場所には戻れないかもしれない。
身体も、立場も、罪も。
それでも――
今、ここで笑っている自分がいる。
村人たちはこの数日で急激に強くなって、あとは敵が来るのを待つばかりになったのであった。




