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性別が変わっても俺は私  作者: 蘭熊才王
第一章 火の章
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17. あたたかな夕食

防御設備を見て回った結果、設備自体はかなりしっかりしているというのが、ゲイルの感想だった。

空堀はまあまあ深く、堀から土手への角度もついているので正面の柵以外からの侵入はかなりてこずるだろうと。


問題は、戦う人間が足りていないこと。


中の住人を合わせれば、女子も含めて50人ぐらいは居そうだが、素人の寄せ集めにしかならない。最低でも訓練した兵が30人位いないと戦いにもならない。


唯一の朗報は、武器・武具ならいくらでもあるということだ。

村長がこういう時に備えて買い集めておいたものらしい。

人と違って維持費がかからないからだそうだが‥‥。

武具は腐らない。壊れにくい。置いておけばいい。

‥‥‥じゃあ人間は?

人間は、疲れる。怯える。そして死ぬ。

人は数じゃない。でも今は、数を集めるしかないのだ。


俺達は村長と相談して次の日全村民を集めて話し合いをすることにした。

皆がやる気にならなければその時点でゲームオーバー確定である。そしてそれが何を意味しているかはあえて考えないことにする。



朝から歩きっぱなしで足も棒になっていた。

俺はゲイルを残して、一足先に村長が用意してくれた民宿に戻ることにした。

えっ、ここって ―――


「あらっ! いらっしゃーい!! 」


そう、あの肝っ玉母さんのキュリアさんのお宅だった!

偶然にキュリアさんも目を丸くしたが、次の瞬間には大歓迎の笑顔に変わっていた。

歓迎されると、さっきまで張り詰めていたものが、音もなくほどける。


部屋の案内もしてもらって、荷物を下ろし「さー、ゆっくりするか」と部屋でくつろぐ気満々でベットに飛び込んだタイミングで ―――


「どうせ暇でしょ! ちょっと来てー」


台所にいるキュリアさんから大きな声で呼びかけられる。


その後、なぜか晩御飯づくりを手伝わされている‥‥‥。

村長の計らいで無償だったのでは?と思わないでもなかったが、キュリアさんの勢いに勝てなかったのと、確かに暇だった 笑


キュリオさんの指示に従って、野菜や肉を次々に切っていく。

なんかこうして料理を手伝っていると子供の頃を思い出す。

王国では男子厨房に入るべからずがどこの家庭でも多かったが、うちは違い、「食事は生きるための基本。食事を作れて損はなし!」が乳母の口癖で良く手伝わされていたものだ。


あの頃は面倒だったのに。今は、その記憶がやけに温かくて、ちょっと痛い。

もう、帰れないんだな‥‥。


キュリアさんの味付けは素朴で、家庭料理そのものだった。

ほんの少し入った辛味とか香りつけが良いアクセントになっている。

家の中が美味しそうな香りで満たされていく。


「おっ、お客か?!」


食卓に料理を配膳していたら、旦那さんのボレルさんが坑道から帰ってきた。

ちなみに本日の料理はラム肉の香味付きソテーに薬草入りサラダとパンである。


「お邪魔してます」

「おぅ! ‥‥‥おぉ? ガキ一人か?!」

「もう一人、ゲイルという旅仲間もお世話になります。今自警団の方と話しています」

「おぅおぅ! それはそれはいらっしゃい!!」


なかなか豪快な人っぽかった。夫婦そろって、雰囲気が似ていて、裏表がない。

貴族社会では、まっすぐな言葉ほど危ない。裏を読む癖が小さい頃から骨に染みつく。

だからこういう人たちの前にいると、自然と身体の力が抜けるのであった。

俺はこっちの方が好きだなーとしみじみ感じているのだった。


「お帰り~☆」


台所から出てきたキュリアさんはそのままボレルさんに抱きつき ――― 濃厚なキスをする!

俺は固まり、一瞬、目を離せなくなる。


いや、子供は見ちゃだめだ!


我に返って、顔を真っ赤にしながら視線を必死になってさまよわせる。

もう、なんか動揺しているこっちの方が恥ずかしい 笑

それに俺は子供だったっけ? もう自分がなに者なのかわからなくなっている。


そのあと、料理を並び終えても、ゲイルが帰っても来なかったので、先に3人で食事を始めることになった。


「明日は早いの?」

「いや、明日の朝、村長から話があるから、皆うちの家の前に集まってくれだって」

「めずらしいわね~」

「女連中もって言われてたぞ」

「なんだろうね~」


ちゃんと村長に頼んでおいたことは伝わっているみたいだ。明日の話し合いはこの戦の最大の山場だ。

数が圧倒的に足りない今、自警団だけじゃなく村民の皆にも戦ってもらわないと勝てない。


料理は美味しかったが、明日のことが気になって俺は気もそぞろになっていた。


そんなこんなしているうちにゲイルも戻ってくる。


「おっじゃましまーっす!」


ゲイルは相変わらずのあっけらかんとした態度。

こっちは「礼儀がなってない!」って機嫌を損ねたりしないか、一瞬冷や冷やする。


ただボレルさんは、さすが坑夫、そんなのを気にせず、酒を飲み交わすなかですぐに仲良くなる。

ほんとゲイルのこのコミュニケーションスキルは羨ましくてしょうがない‥‥‥。

ゲイルのこういうところが、羨ましい。俺はいつも、相手の顔色を読んでしまう‥‥。


「ガハハハッ、なんじゃーそりゃ!」


今はゲイルの旅話で盛り上がっているところ。

ゲイルの旅話はかなり面白い。

色んな国で色んな事を経験しているおかげでネタの宝庫だった。

そこにゲイルの素朴な言い回しが加わると、飄々としているゲイルの姿が容易に想像できて、ネタとのギャップに突っ込まざるを得ない気持ちになるのだ。

ゲイルはちょっと粗暴なところもあるが、本当に面白くていい奴だ。


ちょっとだけ優越感に浸って二人の話を聞いていたが、食事を終えてほっと一息ついたせいでとてつもなく眠くなってきた。

今日は本当に登山から村の防衛準備まで盛り沢山だった。ついつい舟をこぎ始めてしまう。


今はボレルさん達のこの村を立ち上げる苦労話をしている。話し半分にしか聞けていないけど、何度も村を壊され大変な思いをしたらしかった。


あまりに眠そうにしていたせいか、キュリアさんが見かねて、声をかけてくる。


「ほら~、寝るよ~☆」


俺は、いつものようにカッカッすることもなく、素直に立ち上がる。

子供の頃に戻ったかのような、少し甘えたくなるような温かい気持ちに包まれてしまっていた。


こんな家庭っていいなぁ~、こんな家に生まれたかったな~、その願いが浮かんだ瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。温かいほど、欠けているものが際立つ。


俺はごまかすようの布団の中に潜り込む。


そんなぬくもりに包まれた一晩であった。

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