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師団長との再会

 異常なほどに敵意を剥き出し、その目を血走らせて自分を睨みつけてくる近衛兵たちの形相を見ても、スタークは別に恐怖する事も焦燥する事もなかったが。


(このままだと目的が……ったくよぉ)


 それはそれとして、この切迫した空気を何とかしなければ、『ノエルに昨夜の話を聞く』という当初の目的どころか接触も叶わないと判断し、いかにも面倒臭げな表情とともに誤解を解くべく口を開かんとする。



(……まぁ、別に誤解が解けなかろうと──)



 最悪、蹴散らしてでも道は開けてもらうが──。



 と、いかにも彼女らしい物騒な事を考えていた時。



「……朝も早くから何ですか、この騒ぎは」



 決して低身長ではない十人弱の近衛兵たちの後ろからでも、おそらく低血圧か何かなのか眠たげな顔が見えるほどに背が高く体格も良い空色の短髪と金色の瞳が特徴的な男性──“ノエル=クォーツ”が姿を現す。


 低血圧──というよりは、ただ単に必要充分な睡眠が取れていないだけかもしれず、その証拠に彼の大きく切れ長な瞳の下には濃い隈ができてしまっていた。


「っ、師団長! 怪しい少女がリスタル様を……!」


「スタークは怪しくなんてないもん!」


「し、しかし……!」


 唐突な師団長の出現に、リスタルを護らんと彼女を取り囲んでいた近衛兵たちが一斉に彼の方へと振り返って、スタークを指差しながら『捕縛命令を』と言わんばかりに声を荒げるも、リスタルは可愛らしく頬を膨らませつつ、スタークの潔白を証明しようとする。


(怪しいってのは否定できねぇけどな)

 

 とはいえ結局、年齢以外の殆どを隠すか偽るかしている為、怪しいというのも間違ってはいないのだが。


「……よく見てください、その少女の事は知っている筈です。 もう先日の謁見の内容を忘れたのですか?」


 翻って、スタークと並び至って冷静な様子のノエルが溜息をこぼしてから、つい先日の国王陛下との謁見の際に居合わせた筈の彼らに思い出させるように言い諭した事で、ようやく気持ちを落ち着かせた彼らは。


「え──あっ!? そ、そういえば……っ!!」


「そ、そうだ、騎士団の恩人だとかいう……」


「双子の、口の悪い方だ……!」


 ここで初めて、まともに王女とともに訪ねてきた少女の顔や姿を視認した事により、あの謁見で国王陛下に対して不遜な物言いをした双子の片割れの存在を思い出していたが、よく考えれば『礼儀も知らない不躾な少女』という評価が彼らの中で再認識されただけ。



 結局、彼らから敵意がなくなる事はなかった。



 ちなみに、これといって気が動転しているわけでもない筈のスタークは、やはり自分たちに食ってかかってきた近衛兵たちの顔など忘れているようだった。



「スタークは優しいもん! 口だって悪くないよ!」


 そんな中、未だに近衛兵たちに囲まれたままのリスタルは、つい先程のやりとりを思い返しているのか極端なほどにスタークを信頼し、そして擁護する旨の発言をするも、『優しい』だの『口が悪くない』だのという評価こそ間違いだという自覚はあるようで──。


「いや、それは……どう、だろうな……」


 妙な板挟みに遭い段々と気まずさや申し訳なさが勝ってきたスタークは、フェアトとの会話でさえ滅多にない歯切れの悪さを前面に押し出し、そっぽを向く。


「……そもそも、もし本当に彼女がリスタル様を連れ去る事を目的に我々と対立せんとしたところで──」


 全く収拾がつきそうにない──そう悟りでもしたのか、ノエルが軽く溜息をこぼしてから言葉を紡ぎ始めた事で、それを耳にした近衛兵たちやリスタルが神妙な表情で師団長の二の句を待ち、スタークが『師団長も敵に回る』最悪に面倒なケースを考えていた中で。


「──我々では、ほんの数秒でさえも持たずに敗れ去り、リスタル様は連れ去られてしまうでしょうしね」


「なっ!?」


「そ、そんな馬鹿な事が──」


 当のノエルは自分たちとスタークの間にある戦力差を正確に理解しているとでも言うように、どうやっても勝利は不可能だろうと真剣な面持ちで告げたはいいものの、とてもではないが信じられないと近衛兵たちが表情を驚愕の色に染めつつ反論しようとする一方。


「……おい、あたしは別に──」


 例え話だとは分かっていても、『王女の誘拐犯』に仕立てられて良い気はしないスタークが、あの謁見の時から全く学習せず敬語もなしに口を挟もうとする。


「えぇ、もちろん貴女にそんなつもりはないと理解しています。 ただ、クラリア殿やハキム殿も認める貴女の力を単に言って聞かせるだけでは難しいですから」


「……そうかよ」


 しかし、ノエルは見ただけで直感的にスタークの強さを理解できたが、それを近衛兵全てに理解せよというのが無理強いだというのは承知していたゆえ、あえて『実際に悪だった場合』に例えたのだと語った。


 何となくではあるものの、スタークにも彼の話は大雑把に理解できた為、溜息混じりに話を終わらせる。


「クラリア様や、ハキム殿が……!?」


「それほどの猛者だと……?」


「ん?」


 そんな折、十人かそこらの近衛兵たちは先程の師団長の言葉を反復しつつ怪訝な表情を浮かべていた。


 おそらく、とても強者に見えない自分を疑っているのだろう事は分かったが、その基準がクラリアやハキムにあるらしい事にスタークは首をかしげてしまう。


(……あの二人、近衛師団こいつらにも慕われてんのか?)


 その疑問を、いつの間にか困惑する近衛兵たちの間を器用にすり抜けていたリスタルに投げかけると、リスタルは再びスタークの腕に自分の腕を絡めてから。


(うん。 たまに稽古もつけてあげてるみたいだよ)


(へぇ……)


 騎士団長であるクラリアや一番隊隊長であるハキムが日常的に──とまではいかずとも、かの通り魔の被害が発生する前は週に一度ほどの頻度で剣術や魔法の稽古をつけていたからこそ、あそこまで驚き困惑しているのだと語り、スタークも納得したように頷いた。


「これだけリスタル様も信頼しているのです、もしもの時の責任は全て私が取りますから──いいですね」


「「「……はっ」」」


 その後、ややあって完全に落ち着きを取り戻したらしい部下たちに対し、ノエルが至って丁寧な言葉に上に立つ者のみが持つ覇気を纏わせて諭した事で、それを受けた近衛兵たちは若干の萎縮とともに了承する。


 それからは、もう道を阻まれる事も武器を向けられる事もなく無事に詰所へ入る事ができ、その中に並べられている手入れの行き届いた武具の数々や、いかにも強そうな魔物の素材や魔石などを、これでもかというほどスタークが物珍しげな好奇の視線で見回す中。


「お二人は、どのような御用件でこちらに?」


 二人が何故ここを訪れたのかを聞いていなかったノエルが、ふと足を止めて振り返りつつ護るべき対象たる王女リスタルと、スタークとを交互に見ながら問いかけた。


「あぁ、あんたと話がしたいんだ──ちと内密にな」


「……そう、でしたか。 では、こちらへ」


 すると、スタークはリスタルや近衛兵たちが驚くほどに声音を低くさせる事で真剣味を醸し出しつつ『他のやつらには聞かせられない』と暗に告げ、それを瞬時に察したノエルは詰所の奥、明かりも少なく暗い廊下を指差してから、ゆっくりとそちらへ歩き始める。


「さて、あたしはノエルと話がある。 お前はここで待っててくれるか? そんなに時間は取らねぇからさ」


 そして、『他のやつら』には当然ながらリスタルも含まれているゆえに、スタークはちゃんと理由を述べたうえで『また後でな』と口にしようとしたのだが。


「……私がいると、できない話なの?」


「あ? あー……んーっと」


 正直、今はスタークと離れたくない気持ちでいっぱいのリスタルが、ほんの少しの我儘とともに目の前の背の高い少女を見上げるも、これからする話を最も聞かれてはいけない相手が目の前の背の低い少女である為、『何と言って聞かせるべきか』と頭を悩ませる。


「ちっと込み入った話なんだよ──あぁ、そんな顔すんなって。 これが終わったら一緒にいてやるから」


「……本当?」


「あぁ、本当だ」


 自分には聞かせられない話だから──そう言っているのは分かっているのだろうが、それでも哀しげな表情を浮かべているリスタルに対して、スタークは何とか彼女を元気づけようと話が終わった後の事について言及し、それを受けて潤んだ上目遣いとなっていたリスタルの質問を、スタークは笑顔で首肯してみせた。


「……分かった。 ここで待ってるね」


「おう。 偉いな、お前は」


「あっ……えへへ」


 少しの逡巡こそあれど、リスタルは素直にスタークの言葉を受け入れて待機する事を了承し、そんなリスタルを褒める為にスタークが桃色の髪を撫でると、それはそれは嬉しそうに心からの笑顔を浮かべていた。


 その後、『また後でね』と可愛らしく手を振るリスタルに対し同じく手を振り返す、そんな二人の少女を少し離れて微笑ましげに見ていたノエルはというと。


「あそこまで誰かを信頼するリスタル様を見るのは初めてですよ。 これも貴女の力ですかね、スターク殿」


「……さぁな」


 あの痛ましい事件が発生して以来、笑みを見せるどころか口数も少なくなってしまっていたリスタルに笑顔が戻った事が喜ばしいらしかったが、スタークとしては特に何かを成し遂げたという感じでもなかった為に、これといって表情も変えずに彼についていく。


 少し歩いた先にあったのは、すぐ隣に堅牢かつ世辞にも清潔とは言えない鉄製の牢屋がある部屋だった。


 その部屋は、ノエルの自室や師団長の執務室というわけではないようで、あからさまな手枷や足枷などが置かれている──いわゆる拷問、或いは尋問部屋。



 何故、近衛師団の詰所にこんな場所が?



 そう思っても不思議ではないが、この場所は主に王族を狙った不届き者や政敵などを拘束し、その目的を聞き出したうえで処刑か隷属かを決定する為に必要であったらしく、かつては年に数回ほどの頻度で見るも凄惨な『取り調べ』が行われていた事もあったとか。


 確かに、スタークの言う『内密な話』をするのには適しているのだろうし、そこまで空間に気を遣わないスタークは興味なさげに置いてある椅子に腰掛けて。


「で、あたしの話ってのは──」


 ここを訪れた当初の目的を果たすべく、まずは『昨夜は何をしていたのか』と聞こうとした──その時。



「昨夜──謁見の間での事について、ですね?」


「!」



 最終的に自分が聞き出そうとしていた事を先手を打って言われた事に、スタークは思わず目を見開いた。


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