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喧嘩は売るもの

 転生した序列一位との出会いをフルールが話し終えた頃、何とか話を呑み込もうとするスタークが腕組みしながら椅子にもたれかかり、『んー』と唸る中で。


「──と、まぁそんなところです。 理解してもらえましたか? 元魔族の彼女がここにいる理由を」


 すっかり冷めていた紅茶に火蜂ひばちの熱された蜂蜜を投入する事で、温かさを取り戻した紅茶を嗜みながらフルールは双子に対して苦笑しながら声をかける。


 かたや長々とした自分の説明を理解するのに精一杯なのか眉を顰めて唸り、かたや話自体は理解できても納得はしていないと言いたげに目を細める、そんな対照的にも思える二人の表情が──瓜二つだったから。


「……理解はしました」


 一方で、フルールの予想通りの感情を抱いて不機嫌になっていたフェアトは、渋々といった態度で頷く。


(……相変わらず変なところで強情なんですから。 一体、誰に似たんでしょうね。 レイティア)


 そんな風に拗ねてしまった教え子に対してフルールは、母親譲りの頑なさを持つフェアトを見て『そこが可愛いんですけど』と脳内で独り言ちていたのだが。


「──で? 結局お前は何がしてぇんだ」


 その時、割と和やかな雰囲気になりかけていた空気を壊したのは、ようやく話を噛み砕けたらしいスタークであり、完全に据わった真紅の瞳で少女を睨む。


 一方、身体は幼い少女だからか食べるのも呑むのも遅いアストリットは、サクサクと小気味良い音を立てつつ焼き菓子を頬張りながら首をかしげており。


「何って……だから、ボクは彼女を隠れ蓑に──」


「そっちじゃねぇよ」


 フルールの話にもあった『六花の魔女(じぶん)を隠れ蓑にする為に』という彼女の憶測を肯定しつつ、その羅針盤のような模様の入った瞳で見つめ返すも、スタークは表情を崩さぬままに『別件だ馬鹿』と否定する。


「お前さっき、勇者と聖女の娘(あたしら)に会う為に急いで戻ってきたとか言ってたが──どう考えてもそれだけとは思えねぇ。 まだ何かあるんじゃねぇのか?」


 要は──スタークたちの目的が並び立つ者たち(シークエンス)の殲滅である事を分かっていながら、わざわざ急いで戻ってきた理由が『一目会いたかったから』など、そんな仕様もないものである筈がないと考えての事だった。


「……ふふ、さしずめ野生の勘ってところかな」


「あ?」


 すると、何が可笑しいのかアストリットが喉を鳴らして笑いながら、『侮れないね』と呟いたのを聞き逃さなかったスタークだったが、それが何を意味するのかは分からなかった為に語気を強めて聞き返す。


「あぁ、ごめんごめん。 君の読み通りだって事さ。 実はね、いくつか君たちに伝えたい事があるんだ」


「伝えたい事……?」


 それを察したアストリットは心にもない謝罪を口にしたうえで、急いで戻ってきたのには確かに別の理由もあったと明かし、ニコニコとした笑みを湛えてそう言うも、フェアトは要領を得ず首をかしげてしまう。


「そうそう。 まずは──これを」


 そんなフェアトを尻目にアストリットが指をパチンと鳴らすと同時に、その手元に淡い緑色の魔方陣が展開され、そこから一枚の折り畳まれた紙が出てくる。


 それは──【ストレージ】という属性に応じた様々な方法で非生物を収納する事ができる支援魔法であり、たった今アストリットが行使したのは風の【ストレージ】。


 空気が存在する場所であればどこでも行使でき、また取り出す事ができるという支援に長けた風属性魔法の中でも優れた使い手でなければ習得できない魔法。


 これが、例えば【火納ストレージ】などになると──暖炉や焚火、或いは自分や他人が行使した火属性魔法といった火の中にしか収納できないばかりか、収納できるものもある程度の高温に耐えられるものでなければならない、と不便極まりない性能になってしまうのである。



 それも結局──術者の技量次第ではあるのだが。



「……何ですか、これは──え」


 それを充分に分かっているからこそ、『序列一位というのは間違いなさそう』と考えて若干の戦慄を覚えつつも、その紙を受け取り中身を見たフェアトは。



 ──しばし、思考を止めてしまう。



「何だよ、何か書いてあんのか?」


 一方、何が何だか分からないうちに固まってしまった妹に痺れを切らしたスタークが手元を覗き込もうとした時、我に返った妹が口にしたのは──。



「残った並び立つ者たち(シークエンス)の所在と名前、称号も……」


「はぁ……?」



 すでに、この世を去っているジェイデンとイザイアス、そしてセリシアとアストリットを除いた二十三体の並び立つ者たち(シークエンス)の所在はおろか、それらの名前や与えられた称号までもが詳細に記されているという事実であり、スタークは思わずきょとんとしてしまう。


 ジェイデンが死んだ事実も把握していた事に関しては、本当に全てを知っているのなら別におかしくないだろうと踏んでいた為、フェアトはこれをスルー。


「ボクは全てを知ってる。 ボクのお仲間たちが今どこにいるのかも、ね。 せいぜい有効活用するといいよ」


「……嘘に決まってんだろ、こんなの」


 そんな折、仲間を売っているも同然の行為をしたというのに、アストリットは少女然としたあどけない笑みを浮かべ、『それはあげるよ』と口にするも簡単に信じられる筈はなくスタークは疑ってかかっていた。


「そう思うのは君の自由。 けれど、それは間違いなく正確な情報さ。 で、その代わりといっては何だけど」


「……見返りでも?」


 その一方、どうやら猫舌であるようで冷めるまで待っていたらしいアストリットが紅茶を嗜みつつ、『どう使うのも君たちの自由だよ』と語ったうえで、それとは別にお願いがあるのだと明かし、『やっぱりタダじゃないんだ』と察したフェアトが声音を低くする。


 すると、アストリットはゆっくり首を縦に振り。


「ボクやセリシアを含めた敵意の無い並び立つ者たち(シークエンス)は──できれば、そっとしておいてあげてほしい」


「!」


 暗に、『争う気は無い』という旨の発言とともに他の並び立つ者たち(シークエンス)の中に同じ意思を持つ者がいたら見逃してやってほしい、と少女の姿に似合わない真剣な声音で頼み込むと、ちょうど並び立つ者たち(シークエンス)に限ってだけ言えば全員が全員悪ではないのでは、と考えていたフェアトは『やっぱり』と半ば確信する。


「カタストロは死の間際、『好きに生きろ』と命令を下した。 もちろん、イザイアスのように根っからの悪もいるけど……ボクみたいな平和主義者だって──」


 そんなフェアトをよそに、アストリットは自分たちが魔王の【闇蘇リザレクション】によって復活した時の事を脳裏に浮かべつつ、イザイアスのような者は構わないが、その中には自分と同じく戦いを好いていない者もいるのだと──語ろうとしたのはいいものの。


「──お前らが現れなきゃ世界が混沌に陥れられる事もなかった筈だろうが。 そんな悪の筆頭とも呼べるお前が平和主義だと? ふざけんのも大概にしやがれ」


「ちょ、ちょっと姉さん? 落ち着いて……」


 それを聞いていたスタークは、あまりにも堂々と自分たち魔族の蛮行をなかった事にしてほしいとも聞こえるその願いに苛立ちを覚えており、そんな姉の怒気を察したフェアトは何とか宥めようと声をかける。


 尤も、それはアストリットを気遣っているわけではなく、ここが紛れもなくフルールの家であり、『暴れるんなら外で』と考えての事だったのだが──。


「そうは言ってもボクたちが現れなければ君たちの両親は勇者や聖女に選定される事はなく、ましてや出逢う事もなく──君たちが産まれてくる事もなかった」


 一方、何やらアストリットにも彼女なりの言い分があるらしく、そもそも魔族の出現というこの世界においての最大にして最悪の転換期がなければ、わざわざ神々が勇者や聖女の選定を行う事も、レイティアとディーリヒトが出会う事も──そして何より、スタークとフェアトが産まれる事もなかったと口にする。



 聞く者が違えば、一見すると正論だとしか思えないかもしれないが──残念ながら相手は頑固者スターク



「……だから何だ? 感謝しろとでも言いてぇのかよ」


「そうじゃないけど……うーん、弱ったなぁ」


 一向に考えを曲げようとせず怒気と覇気に満ちた鬼神のような表情を見せるスタークに、アストリットは本当に困っているかの如く眉を八の字にして苦笑し。


「……まぁいい。 おい、表出ろ。 あたしと戦え」


「……そうなるよね、君なら」


 ガタン──という音とともに椅子から立ち上がったスタークの二の句さえ読めていたらしく諦めの表情を浮かべながら、ズカズカと外に出ていくスタークの後をスタスタとついていきつつ溜息をこぼしていた。


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