それは、あまりに呆気なく
やれやれ──といった具合に溜息をこぼすアストリットを引き連れて外に出たスタークは、『よーし、頑張るぞー!』という風にやる気に満ち溢れていたパイクとシルドに『引っ込んでろ』との指示を出した。
スタークは確かに抜けているところもあるが、こと戦いに関してだけ言えば妹よりも遥かに頭が回る。
ゆえに、アストリットとの戦いにおいてパイクたちの力を借りたところで焼け石に水だという事が明白であると理解し、助力を拒否していたのである。
無論、単に十位と一位の間にどれほど力の差があるのかどうかを試したかったのもあるのだろうが、それに妹やパイクたちを巻き込む事はない──というスタークにしては珍しい気遣いからの行動だった。
しばらく不満そうに鳴いていたパイクたちではあったものの、どうやらスタークに譲るつもりがない事を察したのか渋々とフェアトのところへ飛んでいく。
その後、フルールが行使した【土創】で創り出された花畑仕様の椅子にフェアトとフルールが腰を落ち着かせる一方で、いよいよとばかりに相対した二人は。
「外面が餓鬼だからって、あたしは加減しねぇぞ」
「もちろん。 それでもボクが勝っちゃうけどね」
「……上等だ」
バキバキと両手で鈍い音を立てつつ、ジェイデンが言っていたものと同じような口上を述べたスタークに対し、アストリットは相も変わらず幼げな笑みには似つかわしくない自信たっぷりの返しをしてくる。
当然、妹に比べて挑発にも弱いスタークは真紅の瞳をギラギラと輝かせながら足にも力を込め、その影響で彼女の足下には小規模の地割れが発生していた。
ゴゴゴゴ──という音が聞こえてきそうなほどの覇気を纏ったスタークが、今にもアストリットに飛びかからんとしそうな緊迫しきった空気の中において。
「……先生、正直に言ってほしいんですけど……」
「うん? 何です?」
ほどよい潮風と陽光に曝されたまま、フェアトは隣に座るフルールに対して何やら聞きたい事があるらしく何故か抑えめに声をかけ、それを受けたフルールはきょとんとした表情を浮かべながら首をかしげる。
すると、フェアトは一瞬だけ姉に目線をやってから密談でもするかのような小声を持って──。
「姉さんの勝率は──どの程度だと思いますか」
これから起こる姉と並び立つ者たちの序列一位の戦いにおいて、姉に希望はあるのだろうかと問う。
何せ、パイクの力があっても序列十位との戦いでさえ死にかけていたというのに、たった一人で序列一位を相手にしようなど──と考えての質問だった。
──それなら、フェアトも参戦すればいい。
そう思われても仕方ないかもしれない。
しかし、フェアトとしては敵意も悪意も無いのなら戦う意味が無いのではという考えを抱いており、とはいえ母親の頼みを無下にするのもという想いもある為に、今回は傍観者になる事を決めていたのである。
「そう、ですねぇ……まぁ控えめに言って」
一方、何となくではあるものの、そんな教え子の機微を悟っていたフルールは『うーん』と唸りつつ、スタークとアストリットを交互に見遣った後で──。
「……限りなく、ゼロですね」
「!」
教え子の姉を気遣っているからか、『限りなく』という言葉とともに可能性はなくはないと告げるも、それを察してしまったフェアトが姉の方を向いた瞬間。
周囲の空気が歪んで見えるほどの熱量を持って、ミシミシと音を鳴るほどに右腕と両足に力を込めていたスタークが、その右腕を振りかぶったかと思えば。
「いくぜ、序列一位……! 受けてみろ──」
至って普通の動体視力しか持ち合わせていないフェアトの肉眼では捉えられない、それほどの速度でありながら花畑は荒さぬままアストリットに接近し。
その振りかぶった右の剛腕──さほどフェアトと変わらない細さだが──を随分と低い位置にあるアストリットの白い首を目掛けて薙ぎ払うように振るう。
その技の名は──。
「【大鎌──」
「──縄打ち】!!!」
かつて、レイティアが辺境の地に連行してきた人間や獣人といった種族を問わない咎人たちに対し、『木人だと思っていいからね』と言われた事で、スタークが身体を壊さない程度に力を込めて一振りすると。
【光縛】という──相対的に弱点となる闇の魔法でなければ解けない光の縄に拘束された咎人たちは皆。
一瞬にして、首無しの死体へと成り果てていた。
この時にはすでに──スタークは百人単位で人間や獣人を殺めており、だからこそ相対しているのが人間の少女の姿をしていても躊躇などないのだろう。
そして今回、彼女は身体が壊れるのも厭わないほどの力を込めて技を放っている為、右腕と両足に浮き出た血管からは少なくない量の血液が噴き出ており、それは紛れもなく全力で技を放っている事の証だった。
それも全て、序列一位が相手であればこそ。
無論、これだけの覚悟を持って放ったとしてもフェアトには傷ひとつ残す事はできないのだが、それでもアストリットがフェアトより頑丈という事はないだろうと考え、この一撃で終わらせてしまおうと──。
──そんな風に考えていたスタークの視界には。
「!? ま、マジかよ……!!」
自身の首を狩ろうとするスタークの腕が触れたままの状態で、さも何事もなかったかのような涼しい顔をするアストリットが、一歩も動かず──そこにいた。
「ん〜……まぁ、ボクじゃなければ死んでたかもね」
アストリットは子供特有の僅かに赤らむ頬を掻きつつ、『悪くはないけど』とスタークの体術を評価したうえで、彼女の右腕にもう片方の手をそっと掴み。
「一度、味わってみるといい──序列一位の力を」
「な、何を──っ!?」
その羅針盤のような模様の入った瞳でスタークを射抜き、まるで死刑宣告であるかの如く呟きをすると同時にアストリットを中心とした二人の足下に紫色の魔方陣が展開され、それを垣間見たスタークが飛び退こうとするも──少女に掴まれている右腕が離れない。
何らかの魔法?
それとも称号の力?
否──そのどちらでもない。
強いて言うなら──かつての種族と、経験の差。
力の申し子と称してもいい【破壊分子】さえ退けたスタークの攻撃力も──【全知全能】には通用せず。
「しばらく眠っているといいよ──無敵の【矛】」
「……こ、の──」
魔方陣から放出された菫色の閃光が次第に弱まるのと、アストリットがそう言い終わったのは殆ど同時であり──スタークが音もなく倒れ伏したのもまた。
──殆ど、同時であった。
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