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魔女の前に現れたもの

 並び立つ者たち(シークエンス)に関してだけ言えば、自分も妹も有している知識や情報は似たようなものである筈だというのに、ある程度の確信を持って目の前にいる少女の姿をした元魔族の序列を口にした妹に対し──。


「……は!? こいつがか!?」


 スタークは心からの驚愕と同時に、『こんな状況で無意味な嘘や憶測を口にするやつじゃない』と分かっているからこそ、アストリットを指差して叫ぶ。


「……驚いた。 もしかして、序列の法則性を?」


 すると、どうやらアストリットとしてもそれは想定外だったようで、自分を指差すスタークには目も暮れずにフェアトを興味深そうに見つめて問い返す。



 暗に、序列一位であるという事を肯定したうえで。



「……“字母配列アルファベット”かな、と。 そして、もし私の推測が正しかったとするのなら……あのセリシアとかいう処刑人の女性は──序列三位の筈なんですが」


 そんなアストリットの呟きに、フェアトはゆっくりと首を縦に振りつつ自分なりに見つけた序列の法則性を基に、イザイアスを処刑してみせたセリシアという女性は序列三位ではないかと更に尋ね返した。



 字母配列アルファベット──それは、現在この世界で使われている言語の元になったと云われている、とある一定の順序に並べられた二十六の記号からなる表音文字。



 かつては当たり前に知られていた文字ではあるのだが、今の言語は字母配列アルファベットを限りなく最適化したものである為、字母配列アルファベットはすでに必要とされておらず国や街によっては教育に組み込まない場合もあるのだとか。


「ご明察。 並び立つ者たち(シークエンス)の序列は字母配列アルファベットによって決まっているし、セリシアは間違いなく序列三位だよ。 魔王より授かった称号は──【一騎当千キャバルリー】だね」


 翻って、アストリットは『流石は勇者と聖女の娘だね』と満足そうに頷き字母配列アルファベットに則っているのだと明かしつつ、序列だけには留まらずセリシアの称号までもを本人の許可も取らずにあっさりと暴露する。


 【一騎当千キャバルリー】──その称号を魔王カタストロより賜る以前は、セリシアも単なる剣術に特化した魔族というだけであり、その力も特筆したものではなかった。


 それでも、その他の有象無象とは一線を画していたというのは間違いなく、それを見抜いたカタストロは彼女に並び立つ者たち(シークエンス)の序列三位を任せる事に。


 そして、カタストロから【一騎当千キャバルリー】を授かった瞬間、それまで扱っていた諸刃の剣が消滅してしまったが、当のセリシアは全く動揺していなかったらしい。



 『斬る』──そう頭で思っただけで、『柄に手をかけ』『刀身を抜き』『斬り払う』という過程を全て飛ばし、ただ『斬った』という結果だけを残す。



 たとえ──相手が勇者や聖女、魔王であっても。



 そんな【一騎当千キャバルリー】という称号の力を、セリシアは授かった瞬間に本能で理解していたからである。


 セリシアは、その力を持って自らの意志や正義に基づき悪人に限り殺戮して回りながら、カタストロの命令たる各地の制圧を単身でこなしていた──との事。


「やっぱり──っ、それより先生! どうして元魔族を弟子になんてしてるんですか!? 私がいるのに!!」


 セリシアについての情報をペラペラと語ったアストリットに対し、フェアトは納得しつつもハッと顔を上げ、自分という教え子がいながらにして元魔族を弟子にするなんて、と弱い力で机を叩いて叫び放つ。


「……ズレてんぞ、論点が」


 その時、迫真の表情を見せる妹と対照的にスタークは菓子を食べつつ、『私がいるのに』という部分にやたら力が入っていた事に呆れて溜息をこぼしていた。


「……アストリットは、弟子じゃありませんよ。 どちらかといえば居候です。 もちろん並び立つ者たち(シークエンス)の頂点だという事も分かったうえで住まわせてます」


「……何のつもりだ」


 翻って、フルールは落ち着いた表情で紅茶を嗜んだ後、首を横に振ってアストリットが並び立つ者たち(シークエンス)であると把握したうえで、勝手に転がり込んできた居候のようなものだと口にするも、それで全てを納得できよう筈もないスタークが低い声音で真意を問う。


「……少し長くなりますが」


「全部、話してください」


 そんな脅迫にも似たスタークの言葉に対しても、フルールは特に表情を崩す事もなく語るにしても長くなると告げたが、姉と同じく全てを知りたいフェアトは腰を落ち着かせてから空色の瞳で彼女を射抜く。


 そして、フルールはアストリットが空いていた席に座るのを確認してから彼女との出会いを語り出す。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 それは──ちょうど半年ほど前。



 港町ヒュティカで何者かによる悪事が横行し、この状況を解決してほしいと町の人々がフルールの下を訪ねてきたり、それを了承した彼女が尽力していた時。



 丘の上の家を、一人の少女が訪ねてきた。



 今の状況を何とかしてほしいという旨の相談は町の代表たちから受けたばかりだし、それとは別件だとしてもこんな幼い子が一人で来れる場所ではない。


「……貴女、一人で来たんですか? 何か私に──」


 そう考えた彼女は、いつものように広げていた六属性の【サーチ】をその少女に集中させて、体温や血液の流れ、生体電気や魔力といった様々な要素から少女が何者なのかを探ろうと──した、その瞬間。



「──流石は六花の魔女。 六属性の【サーチ】の同時行使なんて、人間じゃあ中々できないんじゃないかな」


「……っ!?」



 これから自分が行使しようと思っていた魔法を行使する前に見抜かれただけでなく、まるで自分は人間ではないとでも言いたげなその発言にフルールは目を見開いて驚愕するも──もう、【サーチ】は止められない。


 そして、いざ六つの【サーチ】で少女を視たフルールの目には──予想だにしない結果が映っていた。


 その身体は間違いなく人間の少女のものであり、成人より少し高めの体温も、サラサラと澱みなく血管を流れる血液も、少し遅めの電気信号も──何もかもが少女を人間だと断定できる要素ばかりだったのだが。



 ただ一つ──その魔力だけは、異質だった。



 人間や獣人、霊人や魔物といった魔法を扱う事のできる生物は、産まれ落ちたその瞬間に内在する魔力の絶対量が決定し、それは俗に“うつわ”と呼ばれる。


 器は努力で大きくなる事はなく、また努力を怠ったからと小さくなる事もない不変の摂理であり、子供なのに大きいとか大人なのに小さいとか、そういった差別や偏見が起こる事も──殆どの場合はない。


 だが、そんな常識を踏まえても少女の器は異常なほどの大きさと禍々しさを誇り、存在そのものが器だと言っても過言ではないのではと戦慄して後ずさる。


「そんなに怯えなくても何もしないよ。 ボクの名前はアストリット──並び立つ者たち(シークエンス)と言えば分かる?」


 それを悟った少女は自らをアストリットと名乗りつつ、並び立つ者たち(シークエンス)の存在をフルールが知っている事を前提として、あっさりとその正体を明かした。


並び立つ者たち(シークエンス)……!? そんな筈はないです! 魔王を始めとした魔族はレイティアや勇者たちが──」


 無論、少女の読み通りフルールはイザイアスを含めた並び立つ者たち(シークエンス)に何度か遭遇しており、そこにアストリットに対する知識はなかったものの、魔王との戦いの唯一の生き残りであるレイティアから間違いなく魔族は殲滅したと聞いていた為、そう叫ぼうとする。


「そう、殲滅したんだけどね。 実は、カタストロが命を落とす時にボクたち二十六体を復活させちゃったんだ。 今あの町で悪事を働いてるのも元魔族だよ」


 しかし、そんなフルールの叫びさえも読めていたアストリットは、一体どういう立場にいたのか魔王を呼び捨てにしつつ自分を含めた二十六体の厄介な魔族が復活した事実と、ヒュティカを騒がせているのも元魔族だという衝撃的な事実を簡単に口にしてみせた。


 実を言うと、この時にはすでにレイティアは地母神ウムアルマからの天啓で並び立つ者たち(シークエンス)の復活を知っていたのだが、それをフルールは知らないばかりに。


「え……!? そ、そんな……! それじゃあ、普通の人間じゃどうしようも……レイティアに──あっ!」


 決して他言してはいけない──そう言われていた聖女の生存を明かすかのような発言をしてしまい、フルールは慌てて口を隠すべく手で覆ったものの。


「大丈夫だよ、聖女レイティアの生存はボクも把握してるから。 何せ、ボクに与えられた称号は──」


 アストリットは特に驚いたりはせず、レイティアが生きている事はおろかその現在位置まで把握し、それは自らの称号が関係していると得意げに語り──。



「──【全知全能オール】。 全てを知り、全てをあたう事のできる序列一位のボクに相応しい最高の称号さ」


「序列、一位……!?」



 この世界に存在する全てをこの場にいながらにして知る事ができ、その知識を持ってあらゆる魔法や技術を誰に教わる事なく扱う事ができる称号だと明かす。


 パイクやシルドが放つ魔法を消滅させたのも、その術式の崩し方を完璧に把握しているからこそだった。


「勇者やカタストロが消えた今、世界で最も優れた魔法使いは聖女レイティア。 そして、二番目は──」


 その後、アストリットは唐突に今の自分を含めても最高の魔法使いはレイティアだと口にしてから、では次に優秀なのは誰かと明かす前に一拍置き──。



「──君だよ、六花の魔女フルール」


「……っ、だから何だと言うんですか」



 スッと小さな指を前に差し、六つの属性に適性を持ちつつ、その全てを使いこなすフルールこそが世界で二番目に優れていると見上げながら告げるも、フルールは少女の言いたい事が分からず強めの語気で返す。



 すると、アストリットは『実はね』と前置きし。



「ボクを、ここに住まわせてほしいんだ」


「……はっ?」



 あまりにも何でもない事であるかのように同居させてほしいと言ってきた為、フルールは思わずきょとんとしてしまい息が混ざったような声を出してしまう。


 どうやら、どこぞの貴族の家の令嬢として転生したはいいものの、その化け物じみた──じみたというより元化け物なのだが──器と魔力を知られた事で、その家を着の身着のまま追放されてしまったらしい。


 尤も、【全知全能オール】を引き継いだまま転生したのだから、そんな事どうにでもできただろうと思うかもしれないが、できれば今世は普通に人間として生きようと考えていたからこそ甘んじて受け入れたとの事。


 要は、優れた魔法使いであると踏んだ六花の魔女(じぶん)を隠れ蓑にする事で目立たないように生きていこうという腹積もりなのだろう事は、フルールにも分かった。



 ──ゆえに。



「……分かりました。 ここで貴女を逃して他の人に迷惑をかけるのもあれですから。 私が見張ります」


「ふふ、ありがとう。 これからよろしくね」


 そんな少女の事情を聞き、同情とまではいかずとも思うところはあったようで、フルールは監視という名目で少女を住まわせる事にした──という話だった。



 それが──六花の魔女と元魔族の出会いである。


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