少女の正体
聖女レイティアの生存すら知り得ない情報である筈だというのに、その少女があまりにもあっさりと自分たちを勇者と聖女の娘だと言い当てた事に二人は驚愕し、ほんの一瞬だが沈黙してしまっていたのだが。
「……何でそれを──あんたか?」
黙っていても状況は変わらない──それくらいは流石に理解できていたスタークが、他でもないフルールへ懐疑的な視線を向けて低い声音で問いかける。
「……いいえ、違いますよ。 そもそも私は貴女たちやレイティアの事は誰にも話していませんから」
「じゃあ、何でこいつは──」
だが、当のフルールは首を横に振ってスタークの言葉を否定しつつ、レイティアから『他言はしないように』と言われていた事を明かすも、それで納得がいく筈もないスタークが更に追求しようと──した時。
「簡単だよ。 それはボクが──いや、ボクも、かな」
その少女が、いかにも人当たりのよさそうな笑みを湛えて羅針盤のような模様の瞳を細めながら、何やら意味深な言い回しとともに片手を薄い胸に当てて。
「──並び立つ者たちだからさ」
「「!?」」
とんでもない事を言い出した為に、スタークとフェアトは今日何度目かも分からない驚愕を露わにする。
「お前が……!? っ、そういやこいつら──」
そんな折、ふとスタークはパイクやシルドが目の前の少女に強い反応を見せていた事を思い出した。
その時は、唐突に現れた事で自分たちのように驚いていたのかと思っていたのだが──もし、この少女が本当に並び立つ者たちだとしたら話は変わってくる。
パイクたちは間違いなく並び立つ者たちを見分ける事ができており、この少女の正体は本当に──。
──と、スタークが珍しく思考を巡らせる中で。
『『──りゅあっ!!』』
「!? ぅあ"っつ!!」
パイクとシルドは止める間もない程に一瞬で自分たちの前に魔方陣を構築し、そこから火と土を合成させた溶岩石の如き【砲】を少女に向けて放ってしまう。
パイクたちとスタークの間には割と距離があったにも関わらず、どうしようもなく魔法に弱いスタークは超高温の熱気により負傷してしまっていたが。
……まぁ、それはそれとして。
ジェイデンの時も向こうが仕掛けてくるまでは威嚇するだけに留まっていたし、イザイアスの時も剣や指輪と化したまま身体を震わせて反応するだけだった。
だというのに、この少女に対しては何故かスタークたちに許可も取らずに全力で魔法を行使している。
つまりは──あれだけ強かったジェイデンや、奇妙な力を持っていたイザイアスをも上回る何かを感じ取り、『先手必勝だ』と判断したからに他ならない。
「なっ、何を──」
そんなあまりに突然の事態に驚いたフェアトが、ここがフルールの家だという事実も相まって何とか二体を制止しようと叫ぶも──時すでに遅しである。
尤も、この家の主は六花の魔女であり──どうやら見た目以上に頑丈な造りであるうえに、それを魔法で補強しているからか炎上してしまう事はないようだ。
それでも──その溶岩を放っているのは疑いようもなく世界最強の魔物だった神晶竜の幼体たち。
まともに受ければ火や土に耐性のある防具を身に纏ったとしても、苦痛ある死は免れないだろう。
「仔竜とは思えない威力──流石は神晶竜だね」
しかし、その事すらも知っていたらしい少女は、とても目の前に赤熱した溶岩が迫っているとは思えないほどの余裕そうな笑みを浮かべて感心しており──。
(こいつ、パイクたちの事まで……!)
人並外れた聴力で、その小さな呟きを聞き逃さなかったスタークが、すでに絶滅したと云われている筈の神晶竜の事まで把握している事実に舌を打つ一方。
「けど──ボクには通用しない」
『『りゅ……!?』』
「あ"っ──つ、くねぇ……? 何だ……?」
少女がパチンと指を鳴らした瞬間、先程まで確かにそこにあった筈の【砲】も、その影響で辺りに飛び散っていた溶岩も、そしてスタークの大火傷さえも消滅し、それを見たパイクたちは驚き、スタークは痛みや熱さが突然なくなった事に困惑してしまっていた。
(【解】──じゃない、あれも称号とやらの……?)
そんな中──同じ属性、或いは弱点となる属性の魔法を打ち消す為の魔法である【解】を少女が行使したのかと考えたフェアトだったが、どう見ても魔法を行使したようには思えず、やはりあの少女はかつて称号を授かった元魔族なのだろうと確信せざるを得ない。
その時、自分の家でこれだけの騒動が巻き起こる中にあっても、ここまで沈黙を貫いていたフルールが。
「……そこまでです、“アストリット”。 これ以上、私の教え子とその姉を困らせないでもらえませんか」
どうやら、その少女のものであるらしいアストリットという名を口にしつつ、さも呆れ果てたような深い溜息とともに少女を諫める旨の声をかけてきた。
「アストリット……? まさか、こいつが今の弟子か」
一方、火傷はおろか燃えていた服や髪まで元通りになっていたスタークは木製の床に胡座をかいたままの姿勢で、トリィテが話していた『お弟子さん』というのがこの少女の事なのではと眉を顰めて問いかける。
彼女自身、別にフルールがどうなろうが知った事ではないものの、妹の先生である以上は死なれたり酷な目に遭われたりするのも寝覚めが悪いからだ。
だが、そんなスタークの心情を知ってか知らずかフルールは微動だにせず否定も肯定もしようとしない。
何故かハッキリとしないフルールの態度に、スタークが俄かに苛立ってしまっていた──そんな中。
(【破壊分子】の ジェイデンが十位、【金城鉄壁】のイザイアスが九位。 そして、アストリット──)
これまでに遭遇した元魔族──ジェイデン、イザイアス、アストリット……そして、それらに与えられていた称号と照らし合わせた際の法則性に気がついたフェアトは、それを確信に変える為に問いかけようと。
──した、その時。
「名前を先に言われてしまったけど……改めて。 ボクの名前はアストリット。 並び立つ者たちの──」
アストリットはスカートの両端を小さな手で軽くつまみながら、まるで貴族であるかのような一礼を見せつつ、フルールが言った自身の名を改めて自分の口から話し、そのまま序列さえも告げようとしたのだが。
そんな彼女の声は──先程、並び立つ者たちの序列の法則性に気がついたフェアトによって遮られる。
……結論から言ってしまえば、それは明察であり。
「──序列、一位ですか?」
「……!」
だからこそ、あまりにも荒唐無稽だと言わざるを得ないフェアトの言葉を聞いたアストリットは──。
──感心したような表情を浮かべているのだろう。
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